(2026年6月5日付掲載)

イラン攻撃作戦に加わって撃墜された米軍戦闘機(4月)
・米国はイラン戦争に敗れた――フランシス・フクヤマは米国こそが「ならず者国家」と見なされるべきだと主張する

宮田律氏
米国とイスラエルがイラン戦争を始めてから3カ月を迎える。5月27日には拙著『イラン戦争アメリカ・イスラエルの策略』(平凡社新書)が発売された。不当な戦争による外部からの圧力によってイランの体制転換などできないことを拙著では強調したが、そればかりかトランプはイランとの苦しい交渉に追い込まれ、交渉が終わるたびにネタニヤフに電話を入れるようになった。
イランは、停戦の条件にレバノンへの攻撃停止が含まれること、またイラン資産の凍結解除を要求している。だが米国とイランの停戦中にも、イスラエルはレバノンでの攻撃を継続した。米国は21世紀に入ってイラク、そしてアフガニスタンから事実上の敗北で撤退したが、イランでも同様の道を歩もうとしている。
イランはホルムズ海峡を交渉の手段とし、また世界の主要な産油国である湾岸諸国に対してもドローンやミサイルで攻撃できるところを見せている。トランプとネタニヤフは、イランのドローン、ミサイル、小型船、機雷による航空・海軍力を壊滅することができず、他方イランはホルムズ海峡を蛇口のように開け閉めできることを証明した。
米国はイラク戦争開戦時と同様に、ネタニヤフとイスラエルのモサド(諜報特務庁)の偽情報に踊らされた。ネタニヤフとモサドのデイビッド・バルネア長官は、1月にイラン国内で反政府デモが高揚すると「イラン・イスラム共和国体制は非常に弱体化しており、最高指導者を暗殺したらせいぜい数日しかもたない」とトランプにイランへの攻撃を説得した。
イラン・レバノン戦争を継続したいネタニヤフは、トランプ大統領がイランと覚書を締結するのを阻止しようと必死でいる。イスラエルはイラン戦争に勝利し、湾岸アラブ諸国との同盟関係を築き、イスラエルがそのリーダーとなることを目指してきた。この同盟にはUAEの大統領ムハンマド・イブン・ザイード(MBZ)だけが同調しており、UAEがOPECから脱退したのもその表れだった。イスラエルは地域覇権国として武器、ハイテク、データ、貿易の中心となるという構想を持っている。(東アジアでその構想に乗っているのは日本だが…)
イランが戦争に敗れ、弱体化すれば、トランプがこの地域の覇権を掌握し、イスラエルを通じて地域を支配するという構想だった。しかし、戦争が進行するうちに、湾岸の主要国であるサウジアラビア、カタール、クウェートは米国がこれらの国を守ることができないことが判明したために、トルコとパキスタンに注目するようになった。
パキスタンは中国製PL-15ミサイルを保有し、インドの最新鋭フランス製ラファール戦闘機を撃墜することができることを見せつけた。パキスタンが交渉役として重要な役割を担うようになると、UAEのMBZは、パキスタンに借款の返済を迫り、圧力をかけるようになったが、サウジアラビアがパキスタンに資金を提供し、UAEへの返済を可能にした。
湾岸諸国で起きる変化

イラン戦争が進行するにつれて、サウジアラビア、パキスタン、トルコ、カタール、オマーン、クウェートの同盟関係ができ上がった。これらの国の多くはトランプが主導する国際組織「平和評議会」のメンバーだったが、イスラエルがイラン戦争を始めると、イスラエルによるガザの半分の地域、レバノン南部、ヨルダン川西岸の3分の2の恒久的支配に反発の声を上げるようになった。
この同盟は、まさにイスラエルとUAEが望まなかったものだ。これらの国はイスラエルがソマリランド(アフリカ東部ソマリアから分離した未承認国家)に大使館を開設することに反対する声明を出したが、UAEはこれに署名しなかった。
トランプ大統領はサウジアラビアにイスラエルとの国交正常化を目的とする「アブラハム合意」に調印するよう圧力をかけるかもしれないが、冷めた反応しか得られないだろう。実際、トランプは25日、サウジアラビア、カタール、パキスタン、トルコ、エジプト、ヨルダンに対し「アブラハム合意」に一斉に参加するよう要請したことを明らかにしたが、パキスタンは直ちにそれを拒否した。イスラム系諸国には、多数のムスリム同胞であるガザやレバノンの市民を殺害するイスラエルと国交正常化することなど不可能なのだ。
UAEはサウジアラビアをイランとの軍事衝突に巻き込もうとしたが、成功しなかった。サウジアラビアはイランと戦うことなく、またイエメンのフーシ派との停戦を維持した。
この戦争によって、イランが湾岸地域のもう一つの主要なプレーヤーとして位置づけられることになった。イランが湾岸地域のすべての石油・ガス生産の鍵を握っていることは、日本に湾岸諸国の原油が届かないことからも明らかだ。また、イランはオマーンと協力してホルムズ海峡の事実上の支配権を二度と手放すことはないだろう。
政治学者のフランシス・フクヤマは5月に発表した論考で、今こそ米国が「ならず者国家」と見なされるべきだと主張し、中国は世界の安定の声となり、将来の国際合意の中心、あるいは中心となるべきだと指摘するようになった。日本の高市首相にはこの国際政治の構造変化をまったく意識する様子がない。(5月27日)
・トランプの精神状態を問題視する米国の精神科医たち――「凶人」に核のボタンを持たせることは全世界に危険を及ぼす

トランプ大統領とマルコ・ルビオ国防長官
イランに対して過激な言葉を使って非難を続けるトランプ米大統領について、精神の健康状態を確認すべきだとの声が高まっている。
トランプは4月5日、自身のSNSで「クソッタレ、海峡を開けろ。この狂った野郎ども。さもないと地獄に落ちるぞ!(Open the Fuckin’ Strait, you crazy bastards, or you’ll be living in Hell – JUST WATCH!)」などと投稿した。米国の30人の精神科医とメンタルヘルス専門家が、トランプ大統領が精神的に公務に不適格であると宣言する声明に署名し、米国の核兵器に対する彼の単独権限が全世界に危険を及ぼすと警告した。医師らによるとトランプ大統領の過去1年の行動には次の「客観的に観察可能な深刻な医学的懸念の兆候」が見られるという。
・認知機能の著しい低下
・重要な公の場での明らかな眠気の発作
・著しく損なわれた判断力と衝動制御
・自制心の喪失
(川平幸三郎氏のフェイスブックより)
トランプ大統領は核兵器の発射ボタンを持つ人物だが、「狂人」が核兵器を使用する事態となったらどうなるかという恐怖をブラックユーモアで描いたのが、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1963年制作)だ。
2016年の大統領選挙の際にトランプ候補は、核兵器を保有している米国がなぜそれを使用することができないのかとのべ、また共和党候補者指名を争ったテッド・クルーズも「イスラム国(IS)」の拠点であるラッカに核兵器を使用することを口にした。このように、米国では影響力がある政治家たちが核兵器を攻撃用に使用することをためらわずに主張するようになっている。
1982年に米国の作家で、天文学者、コーネル大学教授であったカール・セーガンは、全面的な核戦争が起これば、20億人の人々が亡くなると見積もり、人類が死滅することを説いた。
ランディー・ジョージ米陸軍参謀総長は4月4日に辞任を発表したおよそ1時間後に「狂人が偉大な米軍を破滅に導くだろう」とのべた。米軍内にはトランプ大統領のイランへの地上侵攻に対する反発が強くある。イランに地上侵攻すれば、米軍はイランの革命防衛隊、民兵組織バシジなどの人海戦術には到底かなわないだろう。
トランプ大統領は、自身が予告したイランの発電所への攻撃期限が日本時間4月8日午前9時に迫る中で、「ひとつの文明全体が死に絶えようとしている。二度とたて直せないほどに。私はそれを望まないが、おそらくそうなるだろう(A whole civilization will die tonight, never to be brought back again. I don’t want it to happen, but it will)」などとのべた。核兵器の発射ボタンを持つ大統領の発言としては無責任で、健全な精神を持っているとはまったく言い難い。
また、イスラエルのテレビ番組で、ジャーナリストのシモン・リクリンは、イスラエル極右のイタマル・ベングビール国家治安相に向かって「イスラエルがイランで原子爆弾を使用する時が来たのではないか」と発言すると、ベングビール国家治安相は「彼に話を続けさせましょう」とその発言にうなずいて見せた。
長崎大学核兵器廃絶研究センターによれば、2017年4月現在でイスラエルが保有する核弾頭数は90発と推定されている。次に核兵器を使用する可能性がある国としてネタニヤフ政権のイスラエルが指摘されている。イスラエルが保有する核兵器がイランやトルコ、アラブ諸国などの地域にとって重大な脅威となっていることは言うまでもないが、欧米諸国にはイスラエルの核兵器を問題視する動きがない。
トランプ政権は「核体制の見直し(NPR)」という新しい核戦略指針を公表し、米国や同盟国が核兵器以外の通常兵器による攻撃、あるいはサイバー攻撃を受けた場合にも、核兵器による報復攻撃を排除しないとし、「低爆発力」の小型核兵器の開発をおこなっていくことも明らかにしている。小型などといっているが『USA TODAY』によれば、広島に投下された原爆の規模も「低爆発力」のカテゴリーに入るそうだ。
「スウェーデン国際平和研究所(SIPRI)」によれば、米国が保有する核弾頭は7000発で、北朝鮮は10発。現状でも米国の核兵器は米国を挑発する北朝鮮については十分すぎるほど抑止能力を保有する。高市首相は「狂人」のようなトランプ大統領を忖度してイランと直接交渉する姿勢すらなく、米国に核軍縮を呼びかけることなど毛頭期待できないだろう。(5月16日)
・日本の原油輸入が5割減――米国・イスラエルの不法な戦争を止めるため国際的協力が始まっている
イラン戦争は2月28日に始まったが、今年3~5月の日本の原油輸入量は47%、ナフサ(粗製ガソリン)は58%減る見込みで、世界主要国で日本の原油輸入の減少は最大なのだという(『日経新聞』5月29日付)。
日本は、高市首相が好んで使いそうな表現「存立危機事態」に陥っているといえるが、トランプ大統領にイランとの停戦、あるいは終戦を求めるような気配はまったく感じられない。トランプ大統領が同盟国・日本に経済的苦境をもたらしたわけだが、3月19日にトランプ大統領とハグを交わし、「世界に平和と繁栄をもたらすのはドナルドだけ」といった後、高市首相が米国に対して何らかの働きかけをおこなった様子はない。
イラン戦争は、米国・イスラエルが理不尽にも国際法に違反し、国連決議も経ずに始めた戦争であるにもかかわらず、高市首相はトランプ大統領に配慮して、イランの米国・イスラエルへの反撃だけを非難している。ホルムズ海峡に関する国際会議にも出席することなく、イラン戦争が始まってからの外遊といえば、ホルムズ海峡の船舶通過とはまるで関係のないベトナム、オーストラリア、韓国だけだ。茂木外相もホルムズ海峡の通過について、日本だけが抜け駆けすることはできないといった後、世界の船舶がホルムズ海峡を通過するために何らかの貢献をおこなった様子がない。
イランは、米国が求めるウラン濃縮活動の放棄を決して受け入れようとせず、ホルムズ海峡に対する主権の主張も放棄しようとしない。米国との戦闘終結に向けた覚書では、イランが1カ月以内にホルムズ海峡の商船通航を紛争前の水準に戻し、イランとオマーンが海峡の船舶通航を共同管理するという非公式の草案が作成されたが、トランプ大統領は、オマーンが共同管理を主張するならば、オマーンも吹き飛ばさなければならないと語った。
欧州でも武器禁輸措置
米国は、極めて高価で、高度な技術を持つ兵器システムで戦争に臨んだ。対照的にイランは1機当り約2万~5万㌦(約300万~750万円)という低価格なドローンを数千機単位で運用し、1発数億円の米軍の迎撃ミサイルを消耗させる「非対称戦」をおこなっている。米国の高度な精密機器による兵器は迅速な補充が困難だが、イランは自爆ドローンや海洋ドローン(自爆ボート)を量産できる。イランの海洋ドローンは、船舶に対する攻撃に使用される無人艇で、これも迅速かつ安価に製造できるため、ホルムズ海峡などの戦略的拠点で多用されている。
結局、米国は勝てない戦争を始めてしまったわけだが、上院軍事委員会のメンバーであるバージニア州選出のティム・ケイン上院議員(民主党)は、今回の紛争の遂行を「軍事力を行使してはならない事例研究だ」と評した。ケンタッキー州選出のトーマス・マッシー下院議員(共和党)は中間選挙の党内予備選挙で敗北する前、「われわれは宣戦布告も、明確な目的も、撤退戦略もないまま介入し、ミサイルの半分を使い果たしたにもかかわらずイランがまだそこにいるのに、祝杯を挙げるべきだといわれているのだ」とトランプ大統領の姿勢を批判した。
サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国は、自国の脆弱性を痛切に認識するようになった。イランによる石油施設や海水淡水化プラントへの大規模攻撃は、GCC(湾岸協力評議会)諸国政府の経済能力を著しく阻害する可能性がある。GCC諸国は、自国の重要な水インフラが破壊されるような事態を望んでいない。イランは、米国・イスラエルの攻撃開始後、周辺GCC諸国の米軍関連施設や石油インフラを攻撃したが、それはイランによるGCC諸国への警告ともいえる攻撃であり、これら諸国は戦争の拡大を望まなくなっている。
フランスの作家アルベール・カミュは「平和こそが、戦うに値する唯一の戦いだ」という言葉を残した。カミュは国連安保理の拒否権は、制度を腐敗させる毒薬のようなものだと形容したが、国連は拒否権によって安全保障理事会が解決できない場合に、国際的な平和と安全を目的として24時間以内に国連総会を招集できる「緊急特別会合(ESS)」の仕組みをもっている。
パレスチナに関する緊急特別会合(総会)の要請に応じて、国際司法裁判所はイスラエルのパレスチナ占領は違法であり、遅滞なく終わらせなければならないと判断を下した。そのため総会はイスラエルに対し「遅くとも2025年9月までに不法な駐留を遅滞なく終わらせなければならない」と要求する決議を可決した。イスラエルがこれに応じなかったため、総会は武器禁輸や経済制裁などのさらなる措置を講じることが考えられた。

パレスチナを国家承認し、イスラエルへの制裁を宣言したスペインのサンチェス首相
スペインは2025年秋に、対イスラエル武器禁輸措置を本格施行し、武器・防衛装備品の輸出入や通過を全面禁止した。また、スペイン領を経由する軍事利用可能な燃料輸送や、イスラエル行きの船舶・航空機の寄港・領空通過も禁止した。イギリスも2024年9月、国際人道法に違反して使用される「明らかなリスク」があるとして、ヘリコプターやドローン関連部品などを含む約30品目の武器輸出許可を一部停止した。フランスもガザ紛争に関してイスラエルへの武器輸出をおこなわない方針を強調し、緊急特別会合の決議に沿う行動を採るようになった。世界の国々が政治的意志を結集すれば、イスラエルや米国の国際法違反の行為も変える可能性がある。
世界は米国やイスラエルの市民の良識的な力とともに国連総会や国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)などを通して犯罪的な戦争を拒否し、平和のために協力できることを近年の国連総会などをめぐる動きが教えている。(5月30日)
・食料品価格も軒並み高騰――それでもイスラエルの兵器や軍事能力を称賛しイランと交渉しない高市首相
6月に値上げされる食品が1000品目余りにのぼる。背景にはやはり中東情勢の影響によるトレーやフィルムの値上がりがある。ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員によれば、ナフサ不足による包装資材の値上がりに加え、食品の製造、運搬に関わるエネルギーコストが幅広く値上がりし、中東情勢を受けた本格的な価格転嫁が広がるのはこれからで、値上がり品目数は夏から秋にかけてさらに増えていくのだそうだ(NHKニュースによる)。高市政権は「2年間限定」で、食料品の消費税率をゼロ(または1%)にする政策を掲げているが、このままでは減税どころか食品価格は大幅に上がってしまう。
高市首相はナフサの国内供給は問題ないと一貫して語っているが、世論を気にする高市首相はナフサ不足から政府に対する批判や不満が国民の間に広がることを怖れ、事実とは異なることをのべている。ナフサ不足は目詰まりなどではなく、原油が日本に届かないことによって生じていることは明らかだ。
経歴詐称をするような人物は政治家としても信頼できないが、国民の死活問題に関して平気で嘘をつく政治家は失格と言わざるを得ない。
高市経済安保担当相(当時)は、23年3月3日の参院予算委員会で自身が「テレビ朝日に公平な番組なんてある?」などと語ったことが記されているとされる総務省文書が問題にされると、「悪意を持って捏造されたものだ」と主張し、小西洋之参院議員(立憲民主党)から「もし捏造でなければ議員辞職するのか」と迫られると「結構ですよ」と答え、自身に関する記述が事実なら議員辞職するつもりであるとのべた。行政文書を捏造などとする感覚自体が病的といわざるを得ないが、高市氏が潔い人物であるならば、とっくに議員辞職していただろう。
日本が深刻なナフサ不足に陥っているならば、ずっといわれてきたように、日本関連の船舶がホルムズ海峡を通過できるようにイランと交渉すればよいのだが、高市氏にはイランと向き合う姿勢がまるで見られない。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、高市首相を同盟勢力と考えている。2月の総選挙で自民党が圧勝すると、ネタニヤフ首相は「日本イスラエル間にある強力な関係を一層強固にするために協力していくことを楽しみにしている」とXに書き込んだ。日本はいつの間にかイスラエルの同盟勢力(あるいは自民党政権が好んで使う「同志国」)にされてしまっている。イスラエルのニュースサイト「Ynet Global」は、高市氏はイスラエルのあからさまな支持者であり、これまでもイスラエルの自衛権を支持し、サイバーおよびミサイル防衛能力を称賛していると書いている。
なるほど、高市氏はイスラエルの支持者ならば、その敵であるイランとは交渉できないのだろうと妙な納得をしてしまう。日本の未曾有の危機のタイミングで最も適当ではない人物が首相になったものである。
国民は心中を望まない

イランの報復攻撃で黒煙をあげる湾岸国UAE・ドバイの港湾施設(3月)
1973年10月に始まる第一次石油危機の際、トイレットペーパーや洗剤が店頭から消えると、その翌月には田中角栄政権はアラブ寄りに政策転換し、イスラエル軍の占領地からの撤退を求めるなどパレスチナに寄り添う姿勢を見せた。日本はアラブ世界に理解を示し、パレスチナの民族自決権も認めたが、高市氏は田中角栄や三木武夫、福田赳夫氏などの自民党の大先輩たちと異なる立場をとっているようだ。日本に大使として駐在経験があるイランのアラグチ外相が「日本と個別に交渉をおこなう用意がある」と呼びかけても、高市政権にはそれに応じる姿勢はまるで見られない。
高市氏のパレスチナ問題などに関する発言は聞いたことがないが、イスラエルで同盟勢力と受け止められるということは、タカ派の高市氏は駐日イスラエル大使などにイスラエルの兵器や軍事技術を称賛する発言をしている可能性がある。
高市首相を同盟勢力と考えるネタニヤフ首相だが、イラン戦争によってその国内的立場は弱まった。イランと米国の停戦協議はパキスタンなどを通じておこなわれるようになったが、この停戦協議からイスラエルはまったくの蚊帳の外だ。
米国・イスラエルは、イランの最高指導者など政府指導者を殺害することによってイラン・イスラム共和国体制を打倒するはずだったが、イランでは体制打倒の気配はまったくない。イランはミサイルやドローンによる攻撃能力を保持し、その製造能力も低下していない。また、イランはホルムズ海峡の支配も維持し、他方イスラエルはガザのハマスも武装解除できず、レバノンのヒズボラもイスラエルにロケット弾で反撃を続けている。4月中旬にヘブライ大学のラボがおこなった世論調査では、今回の戦争を成功と見なすイスラエル国民はわずか10%で、ネタニヤフの支持率は攻撃開始時の40%から34%に下落した。
イランは米国との紛争に耐えられることを悟り、湾岸諸国のインフラを攻撃してホルムズ海峡を支配すれば重大な交渉材料を得ることを確信した。イランは以前よりも多くのことを停戦交渉で要求するようになった。
日本政府とすれば、元駐イラン・日本大使などイランから信頼される人物を交渉役として、ホルムズ海峡通過のための交渉を迅速におこなうべきだろう。高市政権の決断力、行動力はともに鈍いが、それと「心中」することを望む国民はもちろんいない。(6月1日)
・ネタニヤフを恫喝したトランプ――民族浄化を考えるイスラエルはエルサレムのイスラム聖地のユダヤ化を進める

『イラン戦争』(宮田律著、平凡社新書)
米メディア『Axios』によれば、6月1日の電話会談で米国のトランプ大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相に「お前は本当にイカれている。俺がいなければ、お前はとっくに刑務所だろう。てめえのケツを拭いてやってんだぞ。みんな今はお前のこと嫌っているぞ。みんなてめえのせいでイスラエルを嫌ってるんだ(“You’re fucking crazy. You’d be in prison if it weren’t for me. I’m saving your ass. Everybody hates you now. Everybody hates Israel because of this.”)」と恫喝したという。
米国・イスラエル同盟は揺るぎ難いと思われているので、トランプの発言は多くの人に意外に思われたことだろう。米国の福音派や親イスラエル・ロビーにそそのかされて戦争を始めてみたものの、ガソリン高騰をはじめインフレの進行、支持率の低下、同盟国の離反などで、中間選挙を意識するトランプもさすがにまずいと思っているのだろうか。
それでも米国とイスラエルは、エルサレムのイスラムの聖地「ハラム・アッシャリーフ」(現在はヨルダン政府が任命する「ワクフ(イスラム教宗教財産管理局)」が管理)の管理権を奪い、エルサレムからイスラム的性格を剥奪するためにお互いに協力している。
ハラム・アッシャリーフを管理する新しい組織は「多宗教センター」と名乗り、ユダヤ人に「(ムスリムと)平等なアクセス」を与えることになる。また、イスラエルがイスラムの礼拝指導者であるイマームや管理する役人を任命する。イスラエル当局は金曜日の説教の内容に承認を与えるなど、イスラムの聖地の管理を狙うようになった。
イスラエルの極右勢力は、ハラム・アッシャリーフがあるところにユダヤの第三神殿を建てることを主張しており、ユダヤの休日などの機会にハラム・アッシャリーフに入って宗教活動や暴力的襲撃をおこなうユダヤ人は増えているが、暴力的襲撃があるたびにイスラエル警察がそこに介入するようになった。
ハラム・アッシャリーフでの金曜礼拝にはかつて数万人のムスリムが集まっていたが、現在ではイスラエルの規制のために数千人、あるいは数百人しか集まらない。
イスラエルの国会議員たちは先月、ハラム・アッシャリーフの敷地に入り込み、7世紀末に建てられた岩のドームや、8世紀初に建立されたアル・アクサー・モスクの取り壊しを訴え、イスラエル国旗を掲げた。イスラエルはハラム・アッシャリーフに至るチェーン・ゲイト通り周辺の買収とパレスチナ人財産の没収を進め、パレスチナ人たちが礼拝しにくくなるように進めている。イスラエルはエルサレムのユダヤ化を進め、エルサレムをユダヤ教だけの聖地にしようとしているのだ。
国際法違反の阻止を

イスラエルが違法に占領しているエルサレム旧市街地と岩のドーム
エルサレムは、メッカ、メディナに次ぐイスラム第三の聖域であり、最初のキブラ(礼拝の方向)であったが、その後メッカに変更された。イスラムの預言者ムハンマドが「夜の旅(イスラー)」の末に「昇天(ミウラージュ)」したところだと信じられている。
638年に第2代カリフのウマル・イブン・ハッターブがエルサレムに入城すると、ユダヤ教の聖地であった「神殿の丘」は完全に破壊され、荒廃している姿を目の当たりにした。705年から709年にかけてウマイヤ朝第6代カリフのワリード一世(在位705~715年)はムスリムたちが集えるアル・アクサー・モスクを建立し、ウマイヤ朝第5代カリフのアブドゥル・マリク(在位685~705年)は、688年から91年にかけて預言者ムハンマドが昇天したところに「岩のドーム」を建てた。
エルサレムには聖墳墓教会などキリスト教の聖地も数多くあり、またローマ帝国によって135年に追放されたユダヤ人たちもムスリムによってエルサレムへの帰還が認められた。1099年7月に十字軍がエルサレムを占領すると、岩のドームはキリスト教会に、またアル・アクサー・モスクは、テンプル騎士団の本部とされ、ムスリムとユダヤ人はエルサレムから追放された。しかし、1187年にサラディン(サラーフッディーン1138~93年)がエルサレムを奪還すると、これらの施設をイスラムの宗教施設に戻し、あらゆる宗教活動を許容し、またユダヤ人の帰還を認めた。
エルサレムはムスリム支配の下で1200年余りにわたって三大一神教共存の聖地であったが、イスラエルはそのナショナリズム思想であるシオニズムによってムスリムやクリスチャンをエルサレムから排除しようとしている。
エルサレム旧市街はイスラエルが1967年の第三次中東戦争で占領したところで、イスラエルの治安部隊は国際法に反して占領地で活動している。国連安保理決議476号(1980年6月)は「聖地エルサレムの性格と地位を変更しようとする占領国イスラエルによる全ての立法上および行政上の措置と行動は、法的効力を持たず、ジュネーブ第4条約の明白な違反である」としている。
国際社会には民族浄化の一環としてエルサレムをユダヤの街にしようとしているイスラエルの国際法違反の行為を断固阻止するよう一致した行動が必要であることは言うまでもない。アメリカもイスラエルの「ケツ」を拭うようなことなどすべきではない。(6月3日)





















