いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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キューバは今、どういう状況にあるのか――米国による経済封鎖と燃料遮断のなかで ヒセラ・ガルシア駐日キューバ大使が講演

(2026年5月25日付掲載)

米国による軍事恫喝に抗議し、燃料封鎖解除を求めたキューバの首都ハバナでのメーデー集会(1日)

 トランプ米政府は、1月にベネズエラに侵攻して同国のマドゥロ大統領を拉致し、2月にはイランに対する大規模攻撃を仕掛け、その旗色が悪くなると今度は中米カリブの社会主義国キューバの体制転覆を公言して経済封鎖と軍事恫喝を強めている。米国による60年以上にわたる経済制裁が段階的に強化され、燃料供給が完全に遮断されたキューバ国内では今、食料、エネルギー、医療にいたる全分野で市民生活はかつてない苦境に陥っている。東京都の全国教育文化会館で5月21日、駐日キューバ特命全権大使のヒセラ・ガルシア氏が「キューバは今、どういう状況にあるのか」と題して講演し、キューバの窮状とその要因について報告した(主催/東京都アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会)。大使の講演と参加者との質疑応答の内容を紹介する。(文責・編集部)

 

◇◇      ◇◇

 

ヒセラ・ガルシア駐日キューバ大使(21日、東京)

 わが国キューバは今、たいへん困難な状況にある。米国による経済封鎖が最近大きく強化され、それをもとに一連の不利な状況が積み重なった結果だ。

 

 とくにトランプ大統領が登場した2019年以降、対キューバ制裁には243件もの追加措置が導入され、経済封鎖は段階を画して強化された。それは燃料の遮断をはじめ、キューバへの物資供給の一切を完全に断ち切ることを狙ったものだ。

 

 キューバに対する封鎖措置は容赦ない。その攻撃対象は医療や医薬品の分野にもおよんでいる。思い出されるのは新型コロナの流行時、キューバには医療物資や人工呼吸器の輸入さえも許されなかったことだ。もちろん酸素ボンベも手に入らない。世界的パンデミックという最も厳しい災難が襲ったさいも、米国は封鎖を弱めるどころか、むしろそれに乗じて制裁を強化したのだ。

 

 そして、今年1月29日、米国は新たな大統領令を発令した。その内容は、米海軍が力ずくで燃料タンカーを止めるだけでなく、キューバに燃料を輸出する第三国(その領土、企業、ビジネス組織からキューバに燃料を輸出するすべての国)に「特別関税」による報復措置を課すという史上類を見ないものだ。この措置が、60年以上にわたって強化され続けてきた経済封鎖と、その影響の蓄積のうえに加えられたことにより、キューバに対する完全なエネルギー封鎖となった。

 

 これは純然たる戦争行為であることを強調したい。この米国の行為は平時において国連憲章によって禁じられた「海上封鎖」に相当し、国際法上、戦争行為と規定されるものだ。これはわが国の国民、キューバのすべての家庭に甚大な被害をもたらし、わが国の経済にもきわめて深刻な影響を及ぼしている。

 

 昨年末、カリブ海やその周辺海域に展開した米軍部隊が、同海域を航行する外国の石油タンカーを追跡、拿捕、押収し始めたときから、すでにキューバでは影響があらわれ始めていた。この作戦がキューバに石油を届けさせないことを目的におこなわれたものだからだ。

 

 これにより過去4カ月間でキューバに到着した燃料の輸送船は1隻のみ。エネルギーの安定供給を維持するためには、キューバでは少なくとも毎月8隻分の燃料が必要とされている。

 

 これにともない日常生活のあらゆる分野で困難が生じている。毎日長時間にわたる停電、給水ポンプの電力不足による水道の停止、燃料がないためゴミ収集車が動かないなど、あらゆる公共サービスに支障が出ている。食料や医薬品が確保できた場合でも、燃料不足でそれらを必要な場所へ迅速に輸送することができない事態も起きている。

 

 医療も深刻な打撃を受けている。注射器、抗生物質、麻酔薬などの基本医療物資の輸入がストップし、燃料不足で自家発電設備が稼働しないため病院の医療活動も制約を受け、手術待ちの患者が9万6000人以上にのぼっている。そのなかには1万1000人以上の子どもが含まれる。

 

 それでも米国は、また新たな大統領令を発令し、制裁をさらに強化している。もはや何が最新なのかもわからなくなるほどだが、直近の5月1日に発効された大統領令では、キューバへの経済封鎖を「米国との直接取引禁止」という従来の枠組みから、世界のあらゆる企業、団体、個人を巻き込む「二次的制裁」へと大幅に拡大させた。

 

 それらの個人や機関が米国内でおこなう経済活動の利害が、わが国とは何の関係もないにもかかわらず「キューバに関係する行為」をおこなったというだけの理由で、米国内の資産が没収・凍結される恐れが生まれた。

 

 また、第三国の金融機関に対しても、キューバの機関と取引した場合、米国の金融システムへのアクセスを遮断すると脅している。これはわが国に対する経済封鎖の域外(第三国)適用において、極めて攻撃的であり前例のない措置だ。

 

 なんらの正当な理由がないにもかかわらず、米国政府はキューバ国民に対する容赦ない経済戦争を仕掛け、将来起こりうるかも知れない軍事侵略を正当化するために虚偽の証拠を日々でっちあげている。軍事侵略という卑劣な目的のためにさまざまな嘘の報道がおこなわれており、それは最近ますます荒唐無稽なものになっている。

 

侵略の為の口実づくりか

 

 昨日、キューバに対して、もう一つの不当な非難が加わった。米国司法省は、すでに現役を退いているキューバ革命の指導者であるラウル・カストロ元革命軍将軍に対して、1996年2月にキューバ領空で起きた米機撃墜事件への関与を理由に提訴することを発表した。この事件は、1994年から1996年にかけて2年以上にわたり、米国フロリダ州マイアミに拠点を置く亡命者支援の民間テロ組織「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー(救援の兄弟)」の飛行機がキューバ領空を頻繁に侵犯していたことから起きたものだ。

 

 キューバ政府は領空侵犯(25回以上)のたびに正式に抗議を申し立て、公的に警告してきた。当時の米国大統領にも直接「キューバ領空を侵犯する挑発行為だ」と警告のメッセージを送った。そして、国際民間航空機関(ICAO)に提訴し、この行為を容認すればキューバ国民の安全を脅かし、紛争を誘発するものになるとの警告を米国に送り続けた。しかし、米国政府はそれを無視し、領空侵犯は続けられた。

 

 そして、ついにわが国は正当防衛措置として、領空侵犯した小型機を撃墜した。このキューバの対応は、国連憲章、1944年のシカゴ国際民間航空条約、および領空主権と相応性の原則に裏打ちされた正当防衛にほかならない。

 

 それでも米国は今回、30年前のこの事件の首謀者としてラウル・カストロを提訴した。ラウル・カストロは、キューバ革命に多大な貢献をした指導者であり、コロンビアでも政府と武装ゲリラとの歴史的な和平協定締結に仲介役として尽力し、ラテンアメリカ「平和地帯宣言」(議長国キューバ)の制定にも力を尽くした人物だ。また、宗教対立の面でも、ラウル・カストロは2016年にローマ教皇がキューバを訪問したさい、カトリックと対立関係にあったロシア正教総主教との1000年ぶりの歴史的会談を実現させて両者の和解に繋げるなど、わが国にとっても世界にとっても重大な貢献をした人物だ。

 

 ラウル・カストロ訴追のニュースが伝わったのが昨日だが、このような扇動的なニュースの流布は、キューバへの軍事侵略を正当化する口実の積み上げではないかということを非常に心配している。

 

 石油を断たれたキューバは今、緊急事態にある。そのためエネルギーにかかわるさまざまな部門を再編し、少ない石油で国を動かせるよう最大限の努力と工夫を強いられている。労働部門では在宅勤務を増やしたり、一般教育も大学教育も対面授業の割合を減らし、遠隔教育の技術をとり入れている。対策を講じるうえでは、もっとも燃料不足の影響を受けやすい脆弱な人々を守ることを最優先課題としている。

 

 そのようなわが国の社会体制は世界でも類を見ないものだ。それは、これほどの厳しい経済包囲網、エネルギー包囲網に対しても工夫しながら国として立ち向かうことを可能にしている。非常に困難な状況ではあるが、わが国では人々は働き、暮らし、秩序を維持し、自分たちの努力によってこの状況に対処する道を模索し続けている。

 

キューバは抵抗する

 

米国に訴追されたラウル・カストロ元将軍への支持を表明するキューバ市民(22日)

 現在、国内でとれる石油(日量3万~5万バレル)によって火力発電のタービンを回し、電力供給をおこなっている。国内各地にある小規模の分散型発電設備で1000㍗をこえる発電をおこなっていたが、これは燃料不足のため4カ月間稼働できずにいる。

 

 そのため国のエネルギー構成を、太陽光発電を中心にした再生可能エネルギーへ転換する努力を急ピッチで進めている。再生可能エネルギーの普及率は、わずか1年間で3%から10%にまで飛躍的に拡大している。

 

 この困難な数カ月間、キューバ国民は革命と社会主義体制への支持を力強く示してきた。ベネズエラへの軍事侵攻がおこなわれた直後に実施された「たたかう人民の行進」、米国のベネズエラ侵攻で犠牲になったキューバ人死者32人の遺体を迎えるときの大追悼集会、プラヤ・ヒロン(1961年に米CIA支援部隊が上陸した激戦地)での勝利を記念する行事、そして全国各地でおこなわれたメーデー集会でも、人々は確固たる意志を表明した。これらは米国による多面的な侵略に対するキューバ国民の抵抗精神と封鎖解除を要求する意志の表明だ。

 

 5月1日のメーデーでは、首都ハバナでは50万人以上の市民が、そして全国津々浦々の500万人以上の国民が、団結と抵抗、革命への献身、そして必要なときには武器を持って戦う決意を力強く示した。それは歴史的かつ活気に満ちた1日であり、アメリカ帝国主義にそのことをしっかりと認識させたと私たちは期待している。

 

 そして、封鎖と戦争に反対する国民的キャンペーン「祖国のための署名」には、全人口の半分以上に相当する623万人以上のキューバ人が署名した。続いて、国際連帯キャンペーン「キューバのための署名」がキューバ労働者連盟(CTC)の呼びかけで始まり、世界のすべての人たちにオンラインでの署名を呼びかけている。

 

 ここに断言することができる。私たちは社会主義建設へのプロセスを絶えず改善するという決意のもと、夢を描き続けていく。可能な限り最大の社会正義を実現し、それを守り、その持続可能性を確保する道をこれからも歩み続けていく。

 

敵対姿勢を強める米国

 

 私たちは米国と互いに尊重し合う関係を築きたい。キューバと米国の間には、社会の各分野や家族間でも歴史的に広範なつながりが存在している。キューバはそれを促進したいと考えている。それを妨げたり、禁止したりするのではなく、培われてきた両国の絆をおおいに強めていきたいと強く望んでいる。

 

 それを妨害し、障害を作りだしているのが米国政府だ。米国の市民は政府からの許可がなければ、キューバへの輸出も、キューバからの輸入も、キューバへの訪問もできない。キューバへの留学も禁止されている。

 

 最近、キューバ政府の高官が米国政府代表と会談し、対話を通じて2国間にある問題の解決策を模索したが、こうした意見交換は、平等、主権尊重、互恵の原則にもとづいておこなわれている。

 

 キューバはずっと以前から、敬意と責任をもって米国と対話する用意があるという立場を貫いてきた。今、米国側が敵対的姿勢を強めたことで、その条件は厳しさを増しているが、私たちは引き続きこの立場を貫く。

 

 しかし、私たちは、キューバの政治体制は交渉の対象にはなり得ないことを断固として確認する。当然ながら、大統領をはじめキューバのいかなる指導者の地位も、米国をはじめ他のどんな国との交渉でもその交渉の対象にはなり得ない。これはキューバ人自身の尊厳にかかわる問題だからだ。

 

 だが現在、米国政府の最高指導者たちによる絶え間ない攻撃や脅威が続くなかで、交渉が前向きな成果をもたらすとは期待できない。「次はキューバだ」という絶え間ない脅迫は両国の交渉に暗い影を落とし、その進展を妨げる要因になっている。

 

 さらにこの攻撃は、キューバ国民に対する「認知戦争」を展開するための数億㌦規模の資金を注いだ政府プログラムをともなっている。認知戦争は、誤情報を大量に流して人々の判断を混乱させ、結束力を弱め、愛国心を破壊し、キューバ人を傷つけ、尊厳を損なう目的がある。そのような反キューバ・プロパガンダが日常的におこなわれている。

 

 だが、それにもかかわらず米国民の大多数は、米国のキューバへの攻撃に反対している。キューバは彼らにとってなんらの脅威にもなっていないことをよく理解している。

 

今こそ国際的な連帯を

 

全国500万人が参加して米国の封鎖に抗議したメーデー集会(1日、ハバナ)

 こうした困難な状況下において、私たちは改めてキューバは孤立していないことを認識している。私たちは世界各地の多くの友人から連帯のメッセージを受けとっている。各国政府から友好団体に至るまで、米国の犯罪的な政策を糾弾し、それぞれの可能性に応じてキューバを支援してくれている。これは、たとえ各国政府が米国による報復や制裁を恐れて身動きがとれない状況にあっても、キューバが数十年にわたり示してきた連帯と協力が世界中に深い足跡を残していることの証であると思う。

 

 ここ数カ月間、世界中の多くの支援者や友人たちがなんらかの形でキューバ国民を支援するためにわが国を訪れてくれた。彼らの貢献は物質的な面だけでなく、米国が押しつける激しいメディア包囲網を打ち破るうえでも非常に重要なものだ。

 

 日本の友人の皆様からも貴重な支援をいただいている。キューバへの連帯支援カンパも実施していただき、友好団体、企業、個人の皆様が大使館に援助を申し入れて下さったり、カンパに協力してくださり、封鎖に反対する声明や談話を出してくれている。心より御礼を申し上げたい。

 

 そして、日本政府からも最近、キューバの拠点病院10カ所にソーラーシステム(10億円相当)を提供するという発表があった。

 

結びに

 

 キューバは責任ある行動をとっており、今後もそれを貫く覚悟だ。私たちは直接的な軍事攻撃を含むあらゆる事態に備えているが、そのような危険な冒険主義に乗り出す前に理性と良識が勝つことを信じている。しかし、キューバはこれからも責任ある行動をとり続ける。

 

 わが国に対する攻撃を正当化できる理由は何ひとつない。キューバ国民に対する集団懲罰、すなわち「飢えと絶望によって滅亡させる」という醜悪な行為を正当化することはできない。キューバは誰に対しても脅威を与えていない。友好的な団体や個人の皆様が支えてくださっているおかげで、孤立せずに抵抗を続けることができている。

 

 キューバはみずからを守る。思想を持って守り、必要なときには武器を手に持って守る。

 

■質疑応答より

 

1959年1月、米軍の侵攻を撃退して勝利したキューバ革命(ハバナ)

 質問 なぜ米国はキューバの政権転覆にこれほど執着するのか?

 

 ガルシア大使 米国がキューバに執着する理由は、長い歴史を持つ根深い問題だ。とても一言で説明することはできない。250年前に米国が国として成り立ち始めたころから、米国の歴代指導者は「キューバは自分たちのものだ」という認識を持ち、たびたび領有を試みてきた。それはスペインの支配からの解放を目指したキューバ独立戦争が始まる前からだ。

 

 キューバの独立戦争が最終段階にあった1898年、キューバがスペインに勝利する局面に入ったとき、米国はこの戦争に介入(米西戦争)してそれに勝利し、スペインに替わって今度は米国がキューバを占領統治した。米国資本がキューバを牛耳り、その富を独占した時代だ。

 

 1959年のキューバ革命は、米国に奪われ続けていた真の独立をとり戻した戦いだった。だから米国はこれが憎くて仕方がない。社会主義という政治体制の違いは口実に過ぎず、この革命を許せない、絶対にキューバの主権を認めないというのが歴代米国政府の本音だ。現政権の動きはそれが極まったものだ。米本土からわずか90㍄(約150㌔)という目と鼻の先で、キューバが民族自決権(主権)を行使していることが米国政府には許せないのだ。

 

 また、キューバの存在が他国の模範になるようなことがあれば、同じように大国の周辺にある小さな国々の間で大国から主権をとり戻そうとする動きが広がる可能性がある。米国はそれも恐れていると思う。

 

 質問 キューバは中国が進める「一帯一路」構想にも参加しているが、現在、中国との関係はどうなっているのか?

 

 ガルシア大使 中国との関係は非常に良好だ。キューバは、1949年の中華人民共和国の建国直後から国交を持つ国(西半球の国としては初)だ。中国は現在、困難に陥ったキューバにさまざまな援助の手を差し伸べてくれている。とくに食料支援やソーラーシステムの大規模輸出をはじめ、国としての人道的な支援に私たちは感謝している。

 

 米国が1月29日に発した大統領令では、キューバが米国の国家安全保障にとって「並外れた重大な脅威」であるとして国家緊急事態まで宣言したが、その理由はキューバが、中国、ロシア、イランなど米国の「敵対国」「危険な国」と関係しているから、というものだった。だがキューバには、中国の基地もロシアの基地もない。ただ一つの例外は、米国が米西戦争以来、不法に占拠しているグアンタナモ海軍基地だけだ。

 

 米国はキューバが悪い国と関係を持っているというが、米国自身は先日も中国と首脳会談をやり、両国は非常に濃密な経済関係で結ばれている。だが、キューバがそれらの国とお互いに大使館を置き、外交関係を持つことは許さないのだ。

 

 このような荒唐無稽な非難の発案は、いずれ米国が起こす軍事侵略のための既成事実づくりではないかと危惧を抱かざるを得ない。

 

医療支援外交も標的に

 

新型コロナ・パンデミック期に欧州やアフリカなど21カ国に2000人以上が派遣されたキューバの医療支援団(2020年3月)

 質問 キューバが世界各地に派遣してきた医療支援団などの活動は維持されているのか?

 

 ガルシア大使 キューバがおこなっている対外医療援助プログラム(世界約60カ国に約2万人以上の医療団派遣)も米国の攻撃対象になっている。第1期トランプ政権時から、彼らはキューバがおこなう医療支援活動に対してさまざまなプロパガンダを流してきた。

 

 トランプ政権は第1期目から、キューバの収入源を一つずつ根絶やしにする方針をとってきた。その一つが、世界中から年間400万人をこえる人々が訪れていた観光分野への締め付けだ。米国はクルーザーなどの旅客船がキューバに寄港することを厳しく制限し、一度キューバに入った船は米国の港に入れないようにした。五月の大統領令では、その対象を欧州など第三国の旅客船にも拡大したため、多くの船がキューバへの寄港をためらう事態になった。

 

 さらに、渡米に必要なオンライン申請の「ESTA」(ビザなし渡航に必要な電子渡航認証)が、通常は即日発行されるところ、キューバ渡航歴があると自動的に拒否されるようになった。キューバに一度入ると米国に入りにくくなるため観光客は大きく減り、キューバ観光にとって大きな打撃となっている。

 

 その圧力は、同じくキューバの主要な収入源である医療援助活動にもかけられている。キューバは国連などの国際機関や受け入れ国と協力し、世界中の大規模災害、感染症のアウトブレイク、最貧国の医療過疎地に対して、人道主義の観点から完全無償(あるいはキューバ側が全額負担)で医療団を派遣してきた長い歴史がある。世界160カ国以上に派遣された医療従事者はのべ数十万人にのぼり、世界保健機関(WHO)職員数をはるかに上回る。

 

 ラテンアメリカやアフリカの貧困層を対象にした白内障などの無料治療プロジェクト「オペラシオン・ミラグロ(奇跡の作戦)」では、世界30カ国で400万人以上の貧しい人々に失明予防や視力回復の手術を提供してきた。高額な医療費を払えずに失明の危機にあった人々がこれによって救済されている。

 

 また、西アフリカのエボラ出血熱(2014年)では、シエラレオネやリベリア、ギニアに単一国家としては世界最多の165人の医師・看護師を派遣し、最前線で無償援助をおこなった。ハイチ大地震(2010年)、パキスタン大地震(2005年)でも数千人の医療団が無償で数万人の人々の治療にあたった。

 

飢餓が深刻化したハイチでコレラに感染した子どもに点滴治療をおこなうキューバの医師(2010年)

 新型コロナ流行時も、世界各国からの要請を受けて緊急医療団を派遣したが、これも無償支援だ。キューバは相手国と協定を結び、貧しい国からは対価を受けとらないが、経済力を持つ国からは一定の報酬を受けとる場合がある。

 

 医療団を構成する医師や看護師は、受けとった報酬の一部をキューバの医療制度拡充のために国に納める。それは医師とキューバ政府との合意、相手国政府との同意のもとでおこなわれていることだが、この人道主義に貫かれた行為に対して、米国は「人身売買だ」と滑稽な難癖を付けている。

 

 キューバ医療団は、インフラのない農村や山間部、スラム街など過酷な環境での医療訓練を徹底的に受けており、派遣先では誰も行きたがらない過酷な現場に進んで赴く。また、キューバの医師は「病気になる前に防ぐ」地域密着型の予防医療(ファミリードクター制)を得意としており、医師が不足している国の乳幼児死亡率を劇的に下げるなどの実積をあげている。それがグローバル・サウスをはじめとする世界各国からの支援依頼が絶えない理由だ。医師たちは個人の利益のためではなく、みずからの力で社会に貢献する気高い精神で活動しているが、不思議なことに米国政府にはそれが「人身売買」と映るようだ。

 

 政府高官へのビザ発給拒否などの脅しとともに「キューバから医療支援を受けるな」という米国からの強い圧力を受け、数カ国が仕方なくキューバとの医療支援協定を解消してしまった。

 

 これらの事例を見ると、今の世界で起きていることは「自分は世界の主人公である」と信じる人物が、あらゆる国の政治体制や人事、外交関係まで勝手気ままに指図できると思い上がっているようだ。一部の国々は、それをおかしいと思いながらも報復を恐れて沈黙を守っている。その沈黙の下、ガザでもイランでも一方的なジェノサイドが続いている。

 

 キューバのディアスカネル大統領は最近の演説で、米国の一方的な他国への不法行為や侵略に対して国際社会が沈黙していることを批判し、「世界がこれに屈服し続けるなら、今、キューバ、パレスチナ、イランに対しておこなわれていることが、やがて誰に対してもおこなわれることになるだろう」と警告し、この無秩序の拡大を食い止めるための国際的連帯を呼びかけている。

 

世界的な抗議の声を!

 

 質問 産油国ロシアからの支援はないのだろうか? 米国からの軍事攻撃の可能性はどれくらいあり、キューバはそれにどのように備えているのか?

 

 ガルシア大使 3月、ロシアからキューバへ石油タンカー一隻の搬入が「人道支援」の名目で例外的におこなわれた。

 

 私たちは日々さまざまなニュースを目にするが、米国は大統領令でキューバへ石油を輸出した国に特別関税をかけると脅しながら、一方でマルコ・ルビオ国務長官は「キューバは封鎖など受けてない」などという。だが実際には脅しが効力を持ち、その後は誰も、どこの国もキューバに石油を供給することができないままでいる。次にいつキューバに燃料が入ってくるのか、今はまったく見通しが立たない。

 

 国連のグテーレス事務総長は「このままエネルギー需要が満たされなければ、キューバの人道状況はさらに悪化し、崩壊に至る」と懸念する声明を出している。また、国連の専門家委員会も、燃料封鎖措置は「明白な人権侵害(集団懲罰)」と告発する声明を出している。それは多くの国が米国のキューバへの圧力に反対する立場であることを示しているが、私個人としては、もっと多くの国が大々的に、統一的な声を上げてほしいと切実に願っている。

 

 米国政府は、燃料封鎖でキューバ社会や国民を窒息させ、国内で反体制派の内乱を作り出して政権転覆に繋げることを狙っていたようだが、今のところまったく成功していない。その見通しが立たないために、彼らは他の手段の準備をしているようだ。それが実際に起きないことを願うばかりだ。だが、私たちは「そんなことはないだろう」と楽観するほど世間知らずではない。備えるべき準備は整えている。キューバは平和な国であり、戦争を望まないが、正当防衛の権利を有している。キューバのドクトリンは「全人民戦争」だ。国民の最後の一人までこれに抵抗するだろう。そのような事態にならないことを切に願っている。

 

 質問 キューバの人々の生活は非常に厳しいと聞く。長年にわたって米国からの攻撃や封鎖を受けながらも、キューバが体制を維持しながら耐えてこられた要因はどこにあるのか?

 

 ガルシア大使 キューバの経済事情は今、すべてにおいて非常に厳しい状況だ。最近はインフレが激化して生活苦がさらに増している。経済政策がうまくいってない問題もあるが、それもすべて60年以上におよぶ長期の経済封鎖に起因するものだ。米国がキューバ国民の苦境を懸念するというのであれば、即座に封鎖を解除すべきだ。

 

 キューバの歴史を顧みると、スペインの植民地になる前にそこには先住民が住んでいたが、植民地化の過程で土地は奪われ、先住民は全滅させられた歴史がある。スペインの植民地支配から解放を勝ちとる段階になってからは米国に狙われ、米国との複雑な関係が続いて今に至っている。

 

 だからキューバ人は、いろいろなルーツが混ざり合った国民として独自のアイデンティティを大切にしている。1959年に勝利したキューバ革命によって、キューバ人は勇敢で誇り高い尊厳を手にした。長きにわたる攻撃を受け続けながらも、自分たちの国を維持してきた秘訣は、国民の団結にあると思う。国民が心を一つにしてきたからこそ、あらゆる困難を乗り越えてきた。そして、人道主義にもとづく国際連帯の精神が、世界的な利己主義に対する最も強力な武器であり、希望であることを国内外に示してきた。

 

 いかに厳しい状況下にあっても経済改革を成し遂げなければならない。より効率性の高い経済を確立するための不断の努力を進めていく。しかし、自分たちの資源は自分たちの判断と決定に基づいて使うのが原則だ。どこの社会であっても、よりよい社会を作るための改革を進めていくことは必要だ。国内生産を強化し、主権を守り、自分たち自身の力で社会主義建設を進めていく。平和的にそれをやらせてほしいというのが私たちの願いだ。

 

キューバ大使の緊急講演会には100人以上の人々が参加した(21日、東京)

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