いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

愚劣極まりない米国とイスラエルのイラン先制攻撃 現代イスラム研究センター理事長・宮田律

(2026年3月2日付掲載)

米国とイスラエルによる空爆を受けて黒煙を上げるテヘラン市街地(2月28日、イラン)

 米国とイスラエルは2月28日、イランに大規模軍事攻撃を開始した。両国がイランを直接攻撃するのは昨年六月の核関連施設を狙った攻撃以来で、「イラン政権による差し迫った脅威を排除して米国民を守る」「核武装を阻止する」(トランプ)、「テロ政権がもたらす存在の脅威を取り除く」「イランのすべての人々が圧政のくびきを脱ぎ、自由で平和を求めるイランを実現する時が来た」(ネタニヤフ)などと放言しているが、国際法上の正当性を示す明確な根拠はなく、イランの体制転換を意図した「力による現状変更」にほかならない。両国はイラン最高指導者ハメネイ師を暗殺し、軍事施設にとどまらず民間居住区にもミサイルや空爆を浴びせ、すでに200人以上の犠牲者が出ている。イラン側も「圧倒的かつ決定的な報復」を宣言してアラブ地域に駐留する米軍施設やイスラエルに対する報復攻撃を開始し、事態は中東全域を巻き込んだ大規模戦争へと発展する趨勢にある。この日本を含む国際社会に重大な影響をおよぼすイラン情勢の行方について、イラン研究者で現代イスラム研究センター理事長の宮田律氏が発信している解説を以下紹介する(文末の日付は記事執筆日)。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

・イスラエルと米国のまったく容認できない戦争――目的はイランを政治的に破壊してパレスチナ人を「終わり」にすることか?

 

宮田律氏

 イスラエルと米国がイランを先制攻撃した。第2次世界大戦以降でこれほど理不尽な戦争を知らない。攻撃前にイランはオマーンの外相を通じて、濃縮ウランの貯蔵を放棄する意思を米国に明らかにし、核兵器開発の疑念を交渉によって払拭する姿勢を見せていた。にもかかわらず米国とイスラエルは攻撃に踏み切った。

 

 1967年の第3次中東戦争でイスラエルはエジプト、シリア、ヨルダンなどアラブ諸国に先制攻撃を仕掛けたが、そのさい、エジプトのナセル大統領はイスラエルがインド洋に抜ける航路の途中にあるチラン海峡の封鎖を宣言したため、イスラエルにとって死活的な意味があると解釈され、イスラエルは先制攻撃に踏み切った。今回、イランはイスラエルや米国になんら差し迫った脅威を与えていない。

 

 トランプ大統領はSNSで「イランは世界最大のテロ支援国家だ。イランが核兵器をもつことは許されない」「われわれの目的は、イラン政権による差し迫った脅威を排除し米国民を守ることだ」「イラン政権は殺りくを望んでいる」などとのべた。まったくの言いがかりや思い込みだけで戦争をされたら、世界は大混乱に陥るが、このような戦争を防止するために、米国などが中心になって成立したのが国連だったのではないか。トランプ大統領やイスラエルのネタニヤフ首相の行動は、武力による威嚇や行使を原則として禁止した国連憲章2条4項にも違反する。

 

 イランは2015年のイラン核合意で核兵器をもたない意思を明らかにしたが、そのイラン核合意から離脱したのはトランプ大統領の米国である。その後、イランはウラン濃縮度を高めはしたが、核兵器製造とは遠いところにあり続けた。

 

 イスラエルと米国の攻撃を受けて日本の高市首相は、情報を分析し関係閣僚間で議論を行う国家安全保障会議を開催するとのべたが、イラク戦争の際の小泉首相のように、無条件にアメリカの戦争を支持するようなことがあってはならない。

 

 イランは数分以内に目標に到達できるドローン群、20隻以上の小型潜水艦艦隊、そして推定6000個の機雷をホルムズ海峡周辺に配備している。近隣で活動する中国の監視船はリアルタイムの目標データをイランに提供している。中国は昨年6月にイスラエル・米国のイラン攻撃があってからイランにいわゆるカミカゼ・ドローンの供与を行った。

 

 中国は世界のドローン部品の約80%を供給しており、完成したカミカゼ・ドローンを迅速にイランに提供できると見られている。イランの原油およびコンデンセート(凝縮油)輸出の90%が中国向けと考えられ、昨年12月、イラン原油の輸出は7年ぶりに高水準に達したことが伝えられたが、価格が安いイラン原油は主に中国などに輸出されている。王制時代、イラン原油の日本の石油輸入に占める割合は1位だったが、日本は米国のイラン制裁に影響されてイランからの原油輸入を行っていない。

 

 イランは2020年1月に革命防衛隊のソレイマニ司令官がトランプ政権によって殺害された時も、イラクの米軍に攻撃の事前通告を行い、実質的に米兵を避難させた。イランが即座にバーレーンやカタールの米軍基地を攻撃したところを見ると、今回はそのようなイランの配慮はないだろう。

 

 米国は戦闘に勝っても、イランによるホルムズ海峡封鎖という重要な戦争には負ける可能性がある。海峡を通過する石油および液化天然ガス(LNG)の約84%は中国や韓国、日本などアジア市場向けだ。中国だけでも、総エネルギー供給の約4分の1をこの通過に依存している。

 

 中国の駆逐艦がイラン軍と並んで哨戒活動を行うのは、国益に関わる行為であり、中国が失うことができない補給線を守ると同時に、米国の軍事的・外交的コストを増加させることにもなる。高市首相は中国との緊張関係をもたらしているが、日本にとっても死活的なホルムズ海峡の原油の通行を実質的に保障しているのは中国だ。

 

 ホルムズ海峡は最も狭いところはイランとオマーンの海域となっている。イランは、1993年5月に「ペルシア湾及びオマーン海におけるイラン・イスラム共和国の海域に関する法律」を制定したが、その第六条で「有害」とされるのは、「武力による威嚇又は武力の行使であって、イラン・イスラム共和国の主権、領土保全若しくは政治的独立に反するもの又は国際法の諸原則に違反する他のあらゆる方法によるもの」とある。かりに米国の要請によって高市政権が自衛隊をペルシア湾岸地域に派遣したら、イランが設定した海域に関する要件に抵触し、イランの対日感情がいっきに曇る可能性がある。

 

 イラク戦争について、パレスチナ系アメリカ人の思想家エドワード・サイードは、「イラクの体制を覆そうとする最大の理由はイスラエルに絡むものだろう。イラクに民主主義をとか、イラクの民衆を救おうとかではない。シャロン(当時のイスラエル首相)とすればサウジアラビア、エジプト、ヨルダンを無力化しイラク攻撃を進めれば、アラブ世界を政治的に破壊してパレスチナ人を『終わり』にできる。ヨルダン川西岸、ガザ両地区にも入植し、パレスチナ人を追い出すかも知れない」と語っている(『朝日新聞』2002年9月17日)。この表現を借りれば、今回のイラン攻撃は、イランを政治的に破壊して、パレスチナ人を「終わり」にし、パレスチナ人を追い出すことか。決して容認できるものではない。(3月1日)

 

・ハメネイ師を殺害してもイラン体制転換は不可能【補足・談】

 

新兵を謁見するハメネイ師(2022年)

 米国は1日、米国とイスラエルの共同作戦でイラン最高指導者のハメネイ師をその親族もろとも殺害したと発表した。

 

 1979年に米国傀儡(かいらい)の王政を打倒して成立したイラン・イスラム共和国は、イスラム教法学者(聖職者)が行政から軍隊まで国家運営の最終決定権を握る。ハメネイ師亡き後の実務は当面大統領が担うことになるだろうが、イスラム共和国というからには、イスラム教の学識を持つ人物をトップに据えなければ体制を維持できない。

 

 宗教指導者が国家運営をすることに問題がないわけではない。アメリカとイスラエルは、外からの圧力でイラン国民の不満を煽り、イラン・イスラム共和国体制を打倒して、イランをかつての王制時代のように親米・親イスラエルの国に転換したいという思惑があるのだろう。しかし、イランの体制のあり方はあくまでイランの内政問題であり、イランの国民の意思によって決まるものであることはいうまでもない。

 

 米国とイスラエルは、ハメネイ師殺害によってイランの体制転換が進むと考えたのかもしれないが、ことはそれほど簡単ではない。日本や欧米のメディアが取材対象にするイランの反政府勢力は都市部の富裕層ばかりだが、テヘランにあるホメイニ廟(イラン革命の指導者の墓)を訪れる多くは地方の保守(貧困)層の人々であり、イスラム体制の下で貧困救済や慈善活動が広がった地方では現体制支持派が圧倒的に多い。また、現体制の改革を求める都市部の反政府的な人々も米国やイスラエルが目論むような体制への転換を望んでいるわけではない。今回の攻撃を歓迎する人は極めて少数だろう。

 

 体制転換のカギを握るのは権力の主体である軍隊の動静だが、ハメネイ師に忠実な革命防衛隊(国軍とは別の精鋭部隊)は「ハメネイ師の殺害者に対して圧倒的かつ決定的な報復を行う」と宣言し、徹底抗戦の構えを強めている。15万の地上兵力、2万人の海軍要員、1万5000人の空軍、そして大規模なバシジ民兵組織を擁する革命防衛隊は、米軍の攻撃に備えて弾道ミサイル、ロケット弾、無人機、機雷等を多く保有しており、ホルムズ海峡は事実上封鎖(タンカー等の船主が攻撃の激化を恐れて通過を忌避)された状況だ。

 

 ハメネイ師暗殺は、彼らに「聖戦」を誓わせてしまった可能性がある。イラン人は熱情的で、イスラム教シーア派には殉教精神が根付いており、結束力も強い。彼らは自爆攻撃をくり返してでも米国とイスラエルの侵略に抵抗するだろう。

 

 イラン全土を掌握するためには地上軍の派遣が必須だが、イスラエルも米国もイランに地上軍を送る用意はない。2003年のイラク戦争で米国は10~20万人以上の地上部隊をイラクに展開し、4000~5000人の兵士が死亡した。現在、中東全域に駐留する米軍は6~7万人程度。イランの国土はイラクの4倍広く、体制もイラクよりも強固だ。空爆だけで体制は打倒できない。

 

 イスラエルは人口900万人のうち2割はアラブ人であり、レバノンのヒズボラやイエメンとも対峙するなかでイランに地上軍を送るだけの人的資源はない。地理的に1000㌔以上離れたイランに地上軍を送るには、中東全域に基地や輸送路を張り巡らす必要があり、地上作戦は不可能と思われる。

 

 現時点でハメネイ師にかわる新たな国家リーダーを誰が担うのかはまったく不透明であり、体制転換を叫ぶ米国・イスラエルにも新たな国家構想などなにもない。米国内で追及が強まる「エプスタイン・ファイル」疑惑を払拭したいトランプ、戦争継続で自身の延命を図りたいネタニヤフの個人的な目先の政治目標のために、とにかく「ぶっ壊せ!」ということで開始した戦争だ。その意味ではイラク戦争と同じだが、フセイン政権打倒後のイラクではイスラム国(ISIS)のようなテロ集団が生まれた。先の見通しもなく武力によってイラン現体制を崩壊させれば、近隣国も巻き込んだ長期にわたる大規模戦争に発展しかねず、より教条的な武装集団が生まれる可能性もある。

 

 日本の茂木外相は今回のイラン攻撃を受けて「イランによる核兵器開発は決して許されない」と、トランプと同じフレーズを発した。これはイランだけでなく中東全域の人々の対日感情を曇らせ、もともと親日的だった中東・アラブにおける日本の立場を危うくするものだ。安倍元首相は「ホルムズ海峡の封鎖」を例に日本の「存立危機事態」を説明して安保法制の成立を強行したが、日本政府は米国やイスラエルの要請に従ってこの戦争の手助けをするようなことは絶対にすべきではない。(3月1日・談)

 

㊤㊦米国とイスラエルの先制攻撃で殺害された最高指導者ハメネイ師を悼んでテヘラン中心部に集まった人々(1日)

・イラク戦争と同様の嘘をくり返す愚劣な米国の「イラン攻撃」――日本は集団的自衛権を行使すべきではない

 

 「最近はテロリストという言葉の響きが変わってきまして、政治目的を達成するためには罪もない人を巻き添えにするということがテロリズムの定義とするならば、欧米諸国の軍以上のテロリズムはないんじゃないかと私は思います。」(中村哲医師)

 

 米国のトランプ大統領は昨年6月のイラン攻撃で、イランの濃縮計画を「完全に破壊した」とのべていた。

 

 ところが2月24日の一般教書演説では「イランは開発を再開していていまだその悪の野心を捨てていない。我々と交渉して取引を望んでいるが、『もう核兵器を作らない』という大事な言葉が出てこない。外交で解決したいが、世界最悪のテロ支援国家に核兵器を持たせるわけにはいかない」と語った。

 

 イランは2015年7月に成立したイラン核合意で「もう核兵器を作らない」と世界に向けて公約したが、その核合意から一方的に離脱したのはトランプ大統領で、彼の理屈はたとえて言えばヤクザの言いがかりのようなもので、暴力でイランを脅しているとしか見えない。

 

 バンス副大統領は「イランは核兵器を保有してはならない。核開発をすれば問題であり、実際その証拠がある」と語った。いったい何の証拠があるというのか。イランが核兵器開発しているとは到底思えない。米国がイランの核を問題にしたかったら、国連安保理に諮るのが筋だ。米国にはイスラエルの核兵器保有については一向に問題にする姿勢がなく、「世界最悪のテロ支援国家」とは七万人以上のガザの人々を殺害したイスラエルの大規模テロに武器・弾薬を供給し続ける米国のように思える。

 

 イランは2015年の核合意で核兵器開発からはるかに遠のいた。その核合意は国連安保理決議2231号でも追認されたが、米国がイランの核エネルギー開発を問題にする背景には1990年代から「イランが核兵器開発をしている」と訴え続けるイスラエルのネタニヤフ政権の意向がある。

 

 イラク戦争直前、2002年暮れにネタニヤフ首相は『ウォールストリート・ジャーナル』に寄稿し、「イスラエルの政治指導部はサダム・フセイン政権が核兵器を数カ月以内に保有するだろうという認識で一致している」と虚偽の主張を行った。ネタニヤフ首相は、昨年六月に「ガザでは飢餓などまったくない」と平気でウソをつく人物で、彼の言うことを鵜呑みにすることはとてもできない。

 

 「イラン核合意」の内容は、「イランは、兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産せず(ウランの濃縮度は15年間にわたって平和利用に限られる3・67%までに抑えることが義務づけられた)、10㌧あった貯蔵濃縮ウランを300㌔㌘に削減する。また1万9000基あった遠心分離機を10年間は6104基に限定する。かりにイランが核開発を再開しても、核爆弾1発分の原料の生産に最低1年はかかるレベルに能力を制限する」というものだった。

 

 これでイランは核兵器製造からはるかに遠のいたが、トランプ大統領はこの合意を台無しにして、イランに核兵器製造の意図があると言い張り続けている。

 

 このイラン核合意ではイランに対する経済制裁が解かれるはずだったが、トランプ政権はイランへの制裁をかえって強化し、現在イランでは主にドルの外貨不足に陥り、物資の輸入が困難な「経済・金融危機」に直面し、インフレが昂進するようになった。経済制裁はイラン政府よりもイラン国民に重大な困難を与えている。

 

 ルビオ国務長官は「イランには核兵器以外にアメリカ国民を攻撃するためにだけ開発された通常兵器も保有している。アメリカ本土に届く兵器の開発を進めていてヨーロッパの大部分を射程にした兵器をすでに保有している」と語った。アメリカ国民に届く兵器をもっているのは米国と敵対したり、軍事力で競合したりするロシアや北朝鮮、中国などだ。ルビオ国務長官には、なぜイランだけが危険なのかその説明がないし、イランはアメリカ本土に届くミサイルを保有しそうにない。米議会図書館(Library of Congress)の情報でもイランの中距離弾道ミサイルの射程距離は1000~3000㌔㍍で到底アメリカ本土を射程に置くものではない。

 

 スイス・ジュネーブで2月26日に行われるイランと米国の協議でイランはウラン濃縮度を3・6%程度にまで落とす譲歩を行うとも見られているが、この濃縮度は2015年の核合意に戻ることを意味し、トランプ政権によるイラン核合意離脱は何のためだったかとあらためて問わざるを得ないことになる。

 

 米国には地上兵力を派遣する意図が見られないが、トランプ政権は2020年に中東地域に護衛艦の派遣を要請したことがあった。集団的自衛権ともなれば、今回のイラン攻撃の姿勢に見られるような米国の不合理な戦争に際限なく付き合わされることになる。米国がイランを攻撃すれば、イランも中東における米軍基地を報復することになり、イランと同盟関係にある中東の武装集団も米国やイスラエルを攻撃し、中東全体の不安定化にもなりかねない。日本にはイランの親日感情や日米同盟を背景にイラン・米国間の緊張についてできることがあるはずで、米国の戦争に協力するよりは、平和のための仲介を行ったほうが、中東、あるいは国際社会の日本に対する評価も上がることは言うまでもない。

 

 平和こそが 戦争犯罪人を膝まずかせ
 自白するように 余儀なくさせる
 そして犠牲者たちとともに 叫ぶのだ
 戦争をやめろ
     ―ルイ・アラゴン(2月27日)

 

イスラエルの攻撃を受けたイラン南部ミナブ市の女子小学校では子どもなど100人以上の死傷者が出た(2月28日)

・イラン戦争は国際法違反の「予防戦争」――中東戦争でアラブと米国の仲介をおこなった鳩山一郎政権

 

 トランプ政権による関税措置について米連邦最高裁判所は相互関税などの関税を課す権限は大統領に与えられていないとする判断を下したが、これに対してトランプ大統領は日本を含む幅広い国を対象に10%の新たな関税を課す文書に署名し、関税措置を続ける方針を明らかにした。この尋常ではない大統領は国内での求心力を維持するために、イランを攻撃する可能性がある。

 

 イランを攻撃すれば、それは「予防戦争」という国際法に違反する行為だ。「予防戦争」とは「侵略してくる可能性のある潜在敵国に対し、その戦争遂行能力が自国にとって危険となる前に、機先を制して攻撃し、その侵略の企図を未然に阻止するために、進んで行う戦争。」と『ブリタニカ国際大百科事典』にある。つまり、潜在的敵が軍事的に強大になる前に戦争でその能力を奪う、「戦争するならいまでしょ」ということになる。

 

 言語学者のノーム・チョムスキーはブッシュ政権によるイラク戦争を指して「予防戦争とは、ニュールンベルク戦争裁判で『最悪の犯罪』と断罪されたものにほかならない」と主張した。予防戦争(将来の脅威を避けるための先制攻撃)は、基本的に国連憲章第2条4項の「武力行使禁止原則」に違反し、国際法上違法と見なされる。

 

 米国の同盟国の日本は、イランとも良好な関係を築いてきたが、欧州諸国などとともに、米国のイラン攻撃を思いとどまらせるような仲介努力をいま、すべきだと思うが、高市政権にはそのような姿勢は微塵も見られない。

 

 日本は1956年の第2次中東戦争(=スエズ危機)の際に鳩山一郎(首相在任1954年12月~56年12月)政権の重光葵外相が米国とアラブの交渉の仲裁努力を払おうとしたことがあった。日本は自主外交の気概を示そうとしたのだが、鳩山一郎首相は第1次内閣における施政方針演説で、次のようにのべている。

 

 「外交においては、世界平和の確保と各国との共存共栄を目標とし、広く国民の理解と支持とによる積極的な自主平和外交を展開しようとするものであります。(中略)防衛問題に関する政府の基本方針は、国力相応の自衛力を充実整備して、すみやかに自主防衛態勢を確立することによって駐留軍の早期撤退を期するにあります。」(1955年1月22日「施政方針演説」)

 

 単に米国だけに依存しない外交を目指すという点では田中角栄首相も同様だった。1973年8月、ワシントン・ナショナル・プレス・クラブにおいて「単に、二国間の関係という問題意識にとどまらず、『世界的視野に立つ日米関係』という新しい視角を加えて、日米の協力関係を見直す必要があるのであります」と語った。

 

 米国一辺倒となり、その軍事力に依存する姿勢を露骨にしてきた小泉、安倍、高市政権など21世紀に入っての日本政府のスタンスとは明確に異なる見解や姿勢を自民党の先人たちは明らかにしている。

 

 2020年1月のイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官の殺害、昨年6月のイラン攻撃に対してイランは米軍に報復攻撃を事前に通告し、米兵に実質的に避難を促すなど抑制された報復を米軍に行ったが、トランプ政権が再びイランを攻撃すれば、従来とは異なった厳しい対応をとる可能性がある。

 

 イランは昨年6月に米軍がイランを空爆すると、米軍が駐留するカタールのアル・ウデイド空軍基地に報復攻撃したが、これが将来の米軍のイランに対する攻撃に抑止的効果をもたなかったことは、トランプ政権が再びイランを攻撃しようとしていることで明らかになった。

 

 そのため、イランはトランプ政権がイランを攻撃すれば、地域に駐留する米軍に対してより致命的で、破壊的な報復措置で対抗すると示唆している。テヘラン大学のファワード・イザーディ准教授は、イランの指導者たちは現在、米国の将来の攻撃を抑止するには少なくとも500人の米国人に死傷者を出す必要があると考えていると報告している。かりにこのような規模の犠牲が米軍に出た場合、トランプ大統領の政治生命にとって重大な打撃になるに違いない。

 

 イランは長年にわたって米軍による攻撃に備えてきた。イランは、最新の防空システムと、弾道ミサイルやドローンを保有しており、それらを使って、カタール、サウジアラビア、クウェート、バーレーン、UAEの米軍基地、そしてイラン近海に派遣された米軍艦船などを標的に報復できる。

 

 中東での戦闘で米海軍が無傷でいられないのは、米空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」が2025年1月にイエメンのフーシ派に対する攻撃など中東での9カ月間の作戦を終えて以来、ノーフォークで1年以上ドックに入っていることからも明らかだ。米軍はフーシ派の攻撃による「アイゼンハワー」の損傷を否定しているが、アイゼンハワーは長期間、作戦に参加できていない。米軍やイギリス、イスラエルによるフーシ派空爆が成功していないことは、その後も大型船舶はイエメン沖を回避し、また保険料も高額なままであることからもうかがえる。

 

 いずれにせよ、トランプ政権がイランを攻撃すれば、中東地域はより不安定になることは間違いなく、日本など米国の同盟国がすべきことは米国とイランを仲裁する努力だ。特にイランと長年良好な関係を保ってきた日本にはそれが可能な立場にあり、重光葵氏のような気概や努力が今の高市政権には求められるが、高市氏にはトランプ大統領の政策に異を唱える姿勢はまったく見られない。(2月22日)

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。