いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『過疎ビジネス』 著・横山勲

 少子高齢化、人口減少が進む地方。自主財源の乏しい「過疎自治体」は、国からの補助金や交付金に頼らざるをえない。そこに目をつけた都会のコンサル企業が、「総務省認定の地域力創造アドバイザー」など国のお墨付きを武器にその自治体に入り込み、行政機能をぶんどって、「官民連携」「財政効率化」の名の下に施策のアウトソーシング(外部委託)を巧みに持ちかけ、公金を我が物にする。こうした過疎ビジネスが全国各地に蔓延している。

 

 著者は『河北新報』(本社・宮城県仙台市)の記者で、福島県国見町の官民連携事業を取材することを通じて、以上の問題点を浮き彫りにしている。

 

 国見町は人口約8000人で、65歳以上の人口は4割をこえる。そして、国見町に乗り込んだコンサルは、2010年度に総務省所管の「地域力創造アドバイザー」に登録された島田昌幸で、東日本大震災の被災地発の防災ベンチャー・ワンテーブルの社長である。

 

国見町の救急車リース事業問題

 

 ワンテーブルが仕掛けたスキームはこうだ。まず、2022年1月、国見町の官民共創コンソーシアム創出事業の事務局をワンテーブルが受託する。同コンソーシアムは、学校教育、脱炭素、行政のデジタル化、スマート農業、町内の公立病院の経営改善の5分野で、行政の仕事を民間委譲する仕組みだった。

 

 そのなかでワンテーブルは、救急車のリース事業を提案する。それは、企業版ふるさと納税で寄せられた4億3200万円(寄付した企業名は非公開)を財源に高規格救急車を12台購入し、自分たちで使わずに(国見町は伊達市広域消防組合の管轄地域で、自前の消防署がない)、福島県内外の自治体や消防組合に貸し出すという不可思議な「地方創生事業」だった。同年12月、国見町は事業の委託先をワンテーブルに決定した。

 

 ところがこの事業は、あらかじめワンテーブルが救急車ベンチャーのベルリングと共謀し、ベルリングの親会社であるDMM.comに企業版ふるさと納税制度を使って事業の原資を国見町に寄付させたものであることがわかった。つまり、企業版ふるさと納税は寄付額の最大九割が税額控除されるから、DMMは寄付額の大部分を回収できるし、車輌製造を担うベルリングは販売実績が上がるし、ワンテーブルはコンサル料を得たうえ、リース事業でさらに利益を得るという仕組みだ。

 

 しかもこの事業の委託先を決める公募型プロポーザルにおいて、国見町が提出した仕様書には、ベルリング製の車両と一致する特徴が多数盛り込まれていた。あらかじめ国見町役場の職員とワンテーブルが、競合他社を排除しようと入念に打ち合わせをしていたことも明らかになった。応募したのはワンテーブル1社のみで、出来レースだったのだ。明らかな官製談合である。

 

 そして、ワンテーブルの本命は、国見町の小中学校や幼稚園、保育園を一体化する、総額50億円の事業だったことも暴露されている。元利償還の七割を国が措置する過疎債を利用し、関連会社を使って建設も請け負い、さらに建物の運用益でもうけることを狙っていた。

 

 島田が「地方議会なんて雑魚だから。俺らの方が勉強してるし」「無視されるちっちゃい自治体がいい」「うちは役場機能そのものをぶんどっている」「アドバイザーとして関与した自治体に2年程度の仕込みをして、提案した事業を具体化させ、予算化のときに総務省派遣のアドバイザーである島田先生が、ワンテーブルの島田になる」と豪語した録音の文字起こしも、この本のなかに収録されている。

 

国の責務丸投げが依存助長

 

 しかし、問題はコンサル企業だけにあるのではない、と著者はいう。

 

 地方創生事業のそもそもをたどると、2014年の日本創成会議による「消滅可能性都市」の発表と、同年の「まち・ひと・しごと創生法」の成立に行き着く。政府は人口減少に歯止めをかけようと、すべての自治体に地方版総合戦略の早期策定を求めた。そして、総合戦略の策定を進める市町村に1000万円の交付金をあらかじめ予算措置した。それが自治体のコンサル依存を助長したという。人口減少、少子高齢化といった、個別の自治体の努力だけでは解決できない国家的な課題を、地方に丸投げしたわけだ。

 

 このような補助金や交付金を通じて国が地方自治体を政策誘導する手法は、再エネなど他にも多く見られる。

 

 また、コンサル企業と癒着して恥じない自治体首長も、チェック機能を果たさない議会も、それを監視する役割を果たさない全国紙・地方紙などのメディアも、その責任を問われなければならない。

 

 さて、この本の特徴は、コンサル企業によって食い物にされる自治体の問題点を提起するだけに終わらず、その後の百条委員会設置とそこでの議論から、百条委員会が「入札に見せかけた随意契約であり、公平公正な入札ではない」「町長は出処進退を自ら決断する以外にない」との結論を出したこと、続く町長選で勝利した新人が町長に引導を渡すまでを追っていることだ。国見町の議員たちは、「雑魚」どころか、二元代表制などクソ食らえの全国各地の地方議会に対して重要な教訓を残したといえる。

 

 (集英社新書、274ページ、定価1000円+税)

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