いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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“定数削減”という目くらまし

 政治とカネについて追及された高市早苗が「そんなことよりも」と話を逸らし、まるで問題をすり替えるようにして衆議院の議員定数削減をうち出している。参議院はどうなるの? なぜ衆議院限定なの? という疑問は置いておいて、維新と自民の合意によると現行の465議席から小選挙区25、比例区20のおよそ1割を削減するというものだ。法施行から1年以内に結論が出なくても自動的に1割削減を実施するというめちゃくちゃな内容でもあるが、日頃から国会で居眠りばかりしている議員、裏金作りに勤しんでいる議員、統一教会とベタベタな関係になっている議員、なんの役にも立っていない議員など、「国会議員なんてろくなのがいない」という世間の風当たりも強いなかで、「定数削減」がこうした議員たちの生息域を狭め、正義であるかのような装いで国会のスリム化を実行するというのである。


 地方自治体でもよく議員定数削減は有権者ウケの良い政策として選挙で公約に掲げられ、「財源の無駄を省く」という理由で実行されることがままある。「なんの役にも立っていない議員が何人いようと同じこと」「バッチつけたくらいで威張るなよ」という世間の冷ややかな視線があり、政治でメシを食う政治屋など一掃してしまえ! という空気が後押しする格好だ。それはある意味、日頃からの政治不信の賜であり、信頼の乏しい議員たちを制裁するという大衆の気分感情をかき立てて、勢いを増すことがある。悪役たる議員を叩く「正義」の定数削減というわけで、ある種のポピュリズムである。

 

 ただ、「言論の府」といわれる議会において議員数が減らされ少数化するとは、多様性を排除することにほかならない。必然的に少数派を排斥した議会ができあがることになる。地方議会で定数削減したところがそうであるように、特定の企業や団体によって支えられた自民党、宗教票によって支えられた公明党といった組織力のある政治勢力ばかりがうまいこと票を分散させて議席を占め、一方で個人が単独で挑んで当選できるほど甘いものではないのだ。「自分は地域でも顔が広くてPTA会長もやったし、2000票くらい楽勝でしょ!」とたかをくくって結果は数百票だったとか、「青年会議所(JC)で活躍したし、地域の経営者の諸先輩にも可愛がってもらってるし、いけるでしょ!」と挑んで落選したとか、勘違いした挙げ句に涙を呑んだ者がなんと多いことか。丹念に有権者のなかを歩いて1票1票積み上げていく営みは相当な努力を要するし、地方議会ですら多様な価値観を議会に届ける、すなわち当選するとは至難の業なのである。

 

 今回の衆議院の定数削減によって優位な立場になるのは大政党、中規模政党であり、小規模な政党ほどもろに影響を被ることになる。つまり野党殲滅を意図した定数削減であり、日頃から居眠りばかりしている自民党議員とか、裏金作りばかりしていた自民党議員とか、統一教会とベッタリだった自民党議員とか、何の役にも立たないが頭数だけは多い政党の議員はそのまま温存され、むしろ野党及び小規模政党を整頓するものにほかならない。ギリギリ比例区で議席を確保してきた政党などは排除される形となり、それこそれいわ新選組のような新興政党の台頭が我慢ならないという側の動きである。とはいえ、あくまで現行の低投票率を前提としたものでもあり、寝た子を起こさない選挙であれば大政党が議席の大半を占める形は維持できるが、投票率が70~80%に跳ね上がるなど有権者が雪崩を打つような選挙になった場合はその限りではない――という側面もある。

 

 自民党が衆院選で大敗して、維新も凋落して苦肉の策で出来上がったのが自民・維新連立政権である。メディアが下駄を履かせて高支持率などと持て囃すものの、自民党は維新を引き込んでギリギリで過半数をクリアしているに過ぎない少数与党であり、政権基盤はかつてなく脆いのが実態だ。それがなにを思ったか、一強時代の自民党のような振る舞いで、トランプと腕を組んではしゃいでみたり、中国に噛みついて取り返しのつかない両国関係に誘ったり、この1カ月の顛末といったらむちゃくちゃである。そこで出てきた「定数削減」というポピュリズムなわけで、目くらましにしても底の浅さを感じさせるのである。 

武蔵坊五郎            

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