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「自給率向上、国消国産、米価の安定を!」 島根県吉賀町で2回目の農家トラクターデモ 子どもらも沿道から声援

(2025年11月24日付掲載)

農家のトラクターデモに手作りの旗を振って声援を送る子どもたち(11月21日、島根県吉賀町)

 農業をとりまく厳しい環境が続くなか、米価の安定や国消国産による自給率アップ、高騰する資材費等の農畜産物価格への転嫁など、農業者に寄り添った農政の実現を求めて、島根県吉賀町の吉賀町農政会議(齋藤一栄会長)が11月21日、町内をトラクターでパレードした。昨年12月に続き第2回目だ。令和の百姓一揆の先駆けとなった吉賀町のトラクターパレードには県内の津和野町や益田市、隣県の広島県や山口県からも農業者が駆けつけ、沿道からは住民や子どもたちが声援を送った。

 

 集まったのはトラクター23台と軽トラック、地域の農業者など約40人。「米価の安定を!」「国消国産 自給率UP」「地域の文化を守ろう」などの訴えを掲げ、JAしまね六日市支店の農産物出荷場から吉賀町役場まで約4・5㌔を走行した。

 

 出発式で齋藤一栄会長は、「昨年12月18日に開催したときは、みぞれが降るような荒天の日だった。そののち令和の百姓一揆ということで全国に広がり、すでにかなりの場所でトラクター行進がおこなわれるなかで第2回目を迎えた」と行動の広がりに手応えを語り、「私たち農民は消費者を向こうに回すのではなく、その間をとり持つのが国の役割であることを行動のなかで呼びかけていきたい」と挨拶。

 

 JAしまね西いわみ地区本部長の竹長隆氏も、「農業者と消費者が一体となってつながっていけば日本の自給率は上がるのではないか。継続は力なり。私たちの思いが多くのみなさんにつながっていき、日本の農業を守っていこうという流れができていけば」と意気込みを語った。

 

 益田市から駆けつけた同市農政会議会長の岩本和雄氏は、「令和六年産の単価が60㌔1万8000円だったが、思い返すと平成8年の米価がだいたい同じ60㌔1万8000円だった。それから30年のあいだ米価は低迷し、農家は苦労したところだが、やっと一息ついたのかなというところにやってきた。米価の安定を目指して行動を起こし、行政とも一緒になって実現していきたい。楽しく、勢いのあるパレードをしたい」と挨拶した。

 

 山口県から駆けつけた農業者は、今年3月に東京での令和の百姓一揆と同時に山口県庁前で約100人でパレードしたことを報告。「これもひとえに最初の戸を開いてくれた吉賀町のみなさんのおかげだと思っている」と話した。そして、「山口県も高齢化が進み、農地が太陽光に転用されたり、関東の方から大きな株式会社が入ってきたりして地元はボロボロになっている。そして、会社ごと外国資本に買われたり、無秩序に太陽光に転用されていく。こうした流れをなんとか止めたい。農家で力を合わせて頑張るしかないと思っている」とのべ、農地の国有化や公有化、農家の公務員並みの所得補償まで考えなければ農業は持たないことを訴えた。

 

 広島県からは7月に北広島町で「令和の百姓一揆」をとりくんだ女性2人が応援に駆けつけた。酪農家の女性は「いつも笑っているが、笑い事ではなく、本当に真剣なことだと日々思っている。精一杯応援させていただきたい」と挨拶。安芸高田市のコメ農家で、1年前に市議会議員に立候補した女性も、「吉賀町でこうした活動が始まったというニュースを見て勇気をいただいた。日本の農業の夜明けと思えるような場所に一緒に立たせていただけることを光栄に思う」と挨拶した。

 

 幟を立てた軽トラックを先頭に、トラクターは続々と農産物出荷場を出発。国道をへて商店街や住宅地のなかを意気高く行進し、町民に農家の思いを訴えた。商店街では店から手を振る人たちや、沿道に駆けつけてトラクターを見守る人など、住民から温かい声援が送られた。パレード終盤の六日市小学校近くでは児童クラブの子どもたちが「おいしいお米をありがとう!!」「がんばれ2025」など、それぞれ手作りの手旗を持って大きな声援で出迎えた。子どもたちの前でトラクターのロータリーが上がると、「動いた!」と大きな歓声が上がった。続く六日市保育所の前では保育園児たちが沿道に出て手を振って見送った。

 

学校給食は全量が地元有機米に

 

パレードをおこなうトラクターに保育所の園児たちも声援

 吉賀町では2015年度から学校給食の完全無償化を実施しており、コメは全量有機米を利用している。旧柿木村は1992年から、旧六日市町は98年から全量有機米に切り替えたというから歴史は長い。有機野菜も一部取り入れているほか、可能な限り地元産の野菜を学校給食で使っているという。そうした農家とのかかわりもあり、児童クラブでトラクターパレードを応援しに行くことになったという。「おじいちゃん、おばあちゃんが農業をしていたけどやめてしまった」という子もいれば、「トラクターを見るのは初めて」という子もいる。パレードの応援を終えた子どもたちは、「いろんなトラクターが見れてすごかった」「みんな大変なのに畑とかおコメとかつくって分けてくれて優しいと思った」「自分のうちでもおコメをつくっているけど、給食で他のおコメも食べられて嬉しい」などと感想を話していた。

 

 吉賀町役場に到着し、齋藤会長が「持続可能な農業、農村に向けた声明」を読み上げて岩本一巳町長に手渡した。声明は、「農業者は、日々国民の食料を生産しているという自覚と誇りのなかで生きていますが、昨年の夏から続く令和の米騒動は、米の小売価格は例年の2倍以上となる等、国産米の安定供給と価格形成の根幹を揺るがしており、国による不十分な農業政策も絡み、消費者の米離れ、国産離れが進む事態となっています」とのべ、長く続いた減反政策によるコメの生産不足に加え、国の需給見通しの誤り、南海トラフ地震臨時情報などによってスーパーなどからコメが一時的に消えたことから、令和六年産米が投機対象になったことが混乱をもたらした主な原因だと指摘。「この状況が続けば国産米の安定供給は望めず、日本の主食が守れるかどうかの岐路になっている」と訴えている。

 

 そして政府に対し、「中山間地域の生産者側へしっかり目を向けた農業政策の実行」を求めた。なぜなら、大規模化やスマート農業によって企業的経営が成り立ったとしても、コミュニティ機能が維持できなくなればだれも地域に住むことはできず、培ってきた心豊かな暮らしや伝統文化、食料供給力が崩壊するからだ。「今こそ、国消国産・知食による自給率UP、耕作放棄地の解消、少子高齢化対策、農地の多面的機能の回復、農畜産物価格の補償など、これらの実現に向けた『本気の農政再構築』が求められている」とし、政府に対し、生産者と消費者が互いに納得のできる農畜産物価格の調整機能を果たすことを求めた。

 

 声明文を受けとった岩本一巳町長は、吉賀町の農業者が端緒を開いた「令和の百姓一揆」が島根県内はもとより、瞬く間に全国へ広がったことに敬意を表した。「農業、即ち食料を守れない国に未来はない」というのが自身の持論だと話し、「農業や食料だけでなく、経済そのものもそうだ。地方出身者が首都圏に集まり、国の経済を支えている。この国を支えているのは地方であることは明らかであり、『地方無くして日本は無し』ということではないだろうか」とのべた。そして「地方における厳しい農業の実態を反映し、常に農家に寄り添った農政の実現はもちろん、自給率の大幅なアップにつながる国消国産やコメをはじめとした農畜産物の安定した価格維持などが今ほど求められているときはない」とのべ、地域の切実な声を国に対して届けていきたいと応えた。

 

消費者と生産者双方を守る

 

コメ増産のための国家支援を求めるトラクターデモ(11月21日、島根県吉賀町)

 吉賀町は1000㍍級の峰からなる西中国山地に囲まれた中山間地域だ。町の面積のおよそ97%を森林が占めているという。高津川とその支流あわせて約300㌔にダムはなく、水質では日本一といわれる豊かな清流で農業を営んでおり、かつてはわさびの生産も盛んだったという。だが、他の中山間地域と同じく農業の主力は70代で、年々耕作放棄地が増加している。

 

 この状況を変えるためには町や村でみんなが立ち上がり、消費者や国民に訴える必要があるという思いから、昨年初めてトラクターパレードを計画。「趣意書」を持って一軒一軒訪ねて実現した。今年は島根県全体で統一行動を呼びかけており、11月中に各地域で行動が予定されているという。

 

 「食料を市場原理に任せれば戦争が起きる」と話す齋藤会長は、「一番の思いは、食管法のような形で消費者と生産者の双方を守るようなことが必要だということだ。消費者の意見を聞くと生産者は守れない。生産者の意見を聞くと消費者は守れない。双方を守り、必要な経費をちゃんと補償するのが国の役割だ。コメだけでなく、最低限日本の食文化が守られていくような前提で考えなければいけない」と思いを語った。

 

 今、町内でも耕作放棄地が増加の一途をたどっているという。「農家が嫌でつくらないのではなく、年をとったり資材が高くてつくれない状況になっているからだ。言葉遊びみたいに“増産だ”“減産だ”というのではなく、食べる者もつくる者も安心できる仕組みをつくるのが国の仕事ではないか」と投げかけた。

 

 また、今回初めて「国消国産・知食」を掲げた。金さえ出せば食料が買える時代が終わりを迎えるなかで、「まずは国民が国産の物を不満なく食べられるようにすること」だと話し、可能な限り地域にある物は地域で、あるいは自国のなかで循環させる方向へ向かうことが必要だと強調。「やはり国会議事堂をむしろ旗で囲みたい」と話した。

 

 島根県内で18㌶で稲作をしている農家は、「今年、一等米が30㌔で約1万5000円の概算金だった。消費者から高いという声が出ているが、仮に来年、30㌔1万2000円になれば、農家は反収(10㌃当り、収穫量はおおよそ7~8俵)が約5万円減ることになる。1町歩で50万円、10町歩で500万円収入が下がるということだ。もし従業員がいる農家なら、“来年はボーナスがないよ”という話になる」と語った。

 

 来年の米価が見通せない状態で、農機具の更新も簡単に決断することはできない。米価高騰ばかりが報道されるが、再生産可能な価格について言及しないことを指摘した。「来年コメが余ったからといって30㌔9000円みたいなことになれば大変なことになる。だれかの力が必要だというなら、それは政治の力だ。今の私たちがいるのは先輩たちが頑張ってくれてきたから。だが、今の状況では次の世代にバトンを渡せない」と話し、大規模化できない地域も含めて、それぞれの地域にあった支援が必要だと話していた。

 

 11月24日に広島市内でおこなわれる「令和の百姓一揆」にも吉賀町から応援に行く予定だ。広島県の参加者は、こうした連携が深まることが「小さなことのように見えるが、本当に大きな励ましになっている」と話していた。

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