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役に立たず健康被害だけ生む風力発電 ー武田恵世氏の講演会ー


安岡沖洋上風力反対の会が主催 400人が聴講

 

 下関市の安岡沖洋上風力発電建設に反対する会と安岡自治連合会は12日、三重県の歯科医師で歯学博士の武田恵世氏を講師に招き、「下関風車問題講演会―風力発電を知って考えよう」をJR下関駅前のシーモール下関・シーモールホールでおこなった。安岡沖に全国最大規模の洋上風力発電を計画している前田建設工業(東京)の環境アセス準備書に経産大臣が勧告を出し、前田建設工業が工事着工に進むための評価書を準備しているなか、全市的に問題意識を喚起しようと開催されたもので、安岡・横野地区にとどまらず、彦島、竹崎、新地、長府、勝山、川中、唐戸など市内各地から約400人が参加した。

 

 はじめに反対する会会長の新井萬氏が挨拶に立ち、「最初は、風力発電はクリーンエネルギーだからいいのではと思っていたが、勉強してみると低周波の健康被害を出し、漁場も荒らすということがわかった。欧米では住宅地より10㌔以上離すことが常識となっている。10㌔というと、北は梅ヶ峠、東は長府の大部分、南は彦島の半分が入り、下関の大部分がゴーストタウンになる可能性もある。そこで私たちは、この素晴らしい下関を子や孫に引き継ぐために反対運動を開始した。今後、毎月1回の街頭活動に加え、今月より奇数月には唐戸地区でも行動を起こすことを決めている。下関で1人の健康被害も出さず、前田建設が計画を中止するまで頑張っていきたい」と発言した。

 


 続いて武田氏が紹介された。登壇した武田氏は、要旨以下のような講演をおこなった。

 

先進地の北欧で被害増大

 

 私の住んでいる三重県の青山高原には、1999年に最初の2基の風力発電ができ、今では日本最大の91基の風力発電所がある。当時の三重大学のある教授は「世界的にも模範的な成功例である」といった。しかし津市所有の4基はシーテックという中部電力の子会社に譲渡した。なぜかというと修繕費と維持費がかさみすぎたからだ。建設費の半分は国の補助金だったが、それでもダメだった。13年たって補助金の返還義務期間が過ぎたのでやめておこうということになった。ところがシーテックは風力発電を増設している。

 

 青山高原の発電実績だが、発電予測値では建設費をまかなうために約11年といわれた。ただし1年間1度も止まらなければだが…。しかし現実には1カ月に1回は止まっており、実際の発電実績で割ると約21年かかる。だが風力発電機の寿命は13~15年である。だから元がとれないので譲渡、というか売ってしまった。あるときシーテックの役員は「発電しなくていいんです。建設さえすればいいんです」といった。当時は風力発電をつくるだけで補助金がもらえ、建てるだけでもうかっていた。

 

 全国的な状況を見ると、民間の風力発電所で実績を公開しているところはゼロ。自治体経営では80%が赤字(NHKの調査)で、残りの20%について聞くと、多くが修理費を会計に入れていないだけで実際には赤字だった。「風力発電の成功例を挙げてくれ」と専門家に聞いたところ、6年になるがまだ返事がない。どうもないようだ。

 

 私ははじめは風力発電はいいもので、投資しようかと考えていた。そこで「CO2排出は削減できるのか?」「原発の代わりになるか?」「自然環境に優しいか?」「人間生活に悪影響はないか?」「利益は得られるか?」「将来性はあるか?」「成功例はあるか?」を検討した。

 

 まず、風力発電で原発を減らせるか? NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の発表で、風力発電は2017年3月時点で3356メガワットに増えたという。だいたい原発3基分だ。では原発3基を減らせたのか?

 

 風力発電の場合、定格出力とは最大出力とほぼ同じ意味だが、定格出力になるのは風速12~25㍍/秒のときだけだ。それは傘が差しにくく、歩きづらいような強風だが、そんな風はめったに吹かない。「めったに吹かない強い風が吹いたときだけ」、その一瞬だけ原発の代わりになるということだ。風が弱いときや吹かないときはどうするのか、という基本的な問題がある。設備容量の数値だけでだまされてはいけない。風力と太陽光では地球温暖化防止は無理だ。地熱や中小水力を増やせば原発の代わりになる。

 

 では、風力発電は地球温暖化の防止になるのか? そのためにはCO2を排出する石油や石炭による発電を減らす必要がある。風力発電が稼働している時間帯に火力発電を減らせばそうなる。だが、実際にはそうしていない。

 

 なぜかというと、風力発電からの発電量は電力系統全体の1~2%以下の誤差の範囲だからだ。だから火力発電は減らさない。風力が相当増えた場合はどうするか? 北海道電力や東北電力では風の強い日は火力の出力を下げるのではなく、風力からの送電を停止(解列)して対応している。私が「風力を止めずに火力を止めたらいいじゃないか」と北海道電力に聞くと、「とてもそんなことはできない。風力は頻繁に変動するので、それにあわせて火力の出力を上げ下げするとよけい燃料を食う」といわれた。

 

 それは、電力系統は同時同量(発電量=使用量)でなければ大停電を起こすからだ。だから電力会社が年間計画、時間計画にもとづいて数分単位で調整している。朝われわれが出勤する時間帯には増やし、昼休みには少し減らし、午後にはまた増やし、夕方以降は減らす。ところが風はそのようには吹いてくれない。

 

 そもそも電気は不足していない。私の住んでいるところの中部電力の数値だが、37基ある火力発電所のうち11基が休止中である。発電所をつくればつくるだけ電気料金にそのコストを上乗せするという総括原価方式で発電所をつくり続けてきたからだ。だから原発がほぼ止まっていても、なお火力発電は休止中で、電気はあまりまくっている。結局、風力発電によって原発や火力発電の出力を下げたという事実はない。

 

 ヨーロッパでは実際どうなったか? ドイツは風力発電が電力全体の4・4%を占めているが、投入予算に比べて電力生産は非常に少ない。CO2の排出量は減少せず、逆に増えた。スペインもフランスもそうだ。唯一デンマークだけがCO2排出量の削減に成功したといわれている。しかし、輸入電力量は2000年に比べて倍増した。ヨーロッパでは送電線が国境をこえてつながっている。だからドイツにいわせれば「おたくはうちの国のCO2排出を増やしただけ」、スウェーデンにいわせれば「うちの水力発電の電気を使っているだけでしょ」、フランスにいわせれば「うちの原発の安定した電気があるからやっていけるんでしょ」ということになる。つまりデンマークは、自分のところの風力発電の電気は送電線に雲散霧消させて、ドイツやフランス、スウェーデンの電気を使っている。

 

 そして、風力発電の先進地といわれたデンマークが、今では「風力発電に反対する最初の国になろうとしている」。デンマークでは、風力発電のそばのミンクの養殖農園の女性従業員の体調が悪化し、ミンク胎児の奇形や死産が頻発した。農園は廃止になった。現在、風力会社と自治体に損害賠償請求をしている。国会でも問題になっている。専門家は「1000㌔㍗以上の風力発電は10㌔以上離す必要がある。そうでないと子宮の共鳴振動が起こる疑いがある」といっている。安岡沖の風力はこの4倍だ。

 

 現在、デンマークでは環境規制の強化で実質的に風力発電は建設できなくなった。洋上風力も頭打ちだ。ベスタスなどの有名企業が経営難に陥っている。ところが日本には売れるというので色めき立っている。在庫のあまりが大部あるそうだ。日本の商社がそれを買い叩いている。

 

 ヨーロッパ全体を見ても、「役に立たず単なる破壊行為である風力計画を中止せよ」という運動が盛んになっている。風力発電に反対するヨーロッパ・プラットフォームには25カ国812団体が参加しているが、そこがEU議会に公開書簡を出した。「不安定でコントロール不能な風力発電からの電気は環境問題を解決できない」「風力発電は地域住民、経済、国家財政、環境に対する大害悪となるだけだ」という内容だ。実はここで問題にしている風力発電は750㌔㍗である。安岡沖の4000㌔㍗よりはるかに小さい風力でこのような運動が起きている。

 

 米国議会では2013年から風力発電への補助金延長をめぐって論争が起こっている。「風力のコストは天然ガスの3倍で、不安定さを補うために火力が待機しなければならない。今年は風力に85億㌦(8075億円)もよけいに税金を使った」と議会で問題になり、風力業界の補助金園長要求に対しても、「今後6年間、さらに500億㌦(5兆円)もの税金を使うのは、白昼堂堂目抜き通りで銀行強盗をするくらい厚顔無恥な提案だ」(ラマール・アレクサンダー上院議員)という発言がされた。

 

 欧米では現在、政府が風力や太陽光の補助金を削減し、固定買取価格を値下げする動きが盛んになっており、ブームは去ったとわれている。そこで風力発電や太陽光の資材があまりにあまって、有名企業が倒産や経営難に陥っている。あまった資材を買い叩いて日本に売ろうと商社が動いている。

 

障害生む複合的な要因

 

 風力発電による健康被害については、和歌山県由良町の故・谷口愛子氏の証言がある。1990㌔㍗の風車から1・3㌔のところに彼女の自宅がある。彼女は「辛いときは夜中に車に乗って遠く離れたコンビニの駐車場まで行って寝る」「按摩さんを呼んだら、“ここに来ると何か恐ろしい妙な感じがする(視聴覚障害者は低周波音に敏感)”といっていた」という。

 

 青山高原でも稼働当初から被害が発生した。2000㌔㍗の風車の近くに住む被害者からの証言がある。「私は生まれたときから渓流の横に住んでいて、渓流の音や滝の音は気にならないが、風車の音はたまらない」(1・2㌔)、「年をとって耳は聞こえなくなってきたが、風車の音だけはこたえる」(1・2㌔)、「国道と線路の横に家があってその音は気にならないし、一時的だが、風車の音はずっとでつらい」(1㌔、1・2㌔)、「恐ろしい音が地面から柱を伝って入ってくる」(2㌔)。

 

 青山高原のウインドパーク笠取(2000㌔㍗×10基、2010年2月稼働)は、稼働当初から谷にこだまして騒音が増幅し、約2㌔の集落で被害があらわれた。しかし事業者シーテックは数カ月放置し、当初の約束と違ってすぐに対処しなかった。

 

 世界中で風力発電機から同じような距離にいる人たちが、ほぼ同じような症状を訴えている。日本を含む27カ国、つまり風力発電のある国ほぼすべてだが、睡眠障害、頭痛、耳鳴り、めまい、吐き気、かすみ目…早い話が不眠と船酔いに似た症状が出る。高血圧が悪化したり、心臓血管の病気が悪化したりする場合もある。

 

 非常に複合的な要因が重なって発祥するし、症状を起こす部位も人によって様様だが、原因は風力発電が出す、耳には聞こえない低周波音、超低周波音だ。人間の内耳器官や頭蓋骨関節軟骨、内臓、子宮などが共鳴振動を起こし、それによってさまざまな症状を引き起こす。低周波音は騒音と違って二重サッシでも壁でも防げない。雨戸とか襖、部屋全体が共鳴する場合もある。「私が辛いとき、金魚が斜めになって泳いでいた」という人もいる。六畳間が共鳴して辛いという人が多い。

 

 そのほか風力発電のストロボ効果を怖がって鶏が圧死したり、牛が暴れて死んだ例がある。また停電などで電源喪失すると自動停止装置が作動せず、強風で羽が飛び散り胴体にぶつかって崩壊した事故もある。ナセルの機械油が燃えて火災になるが、高すぎて消防車の水が届かないという事故も、最近よく起こっている。

 

 世界中の被害者が「いくら“被害が出れば補償する”と事前にいわれても、建ってしまったらお終いだ。事業者も業者も因果関係を認めようとしない」といっている。青山高原では事業者が環境アセスに対する知事意見を無視している。環境アセスは事業者が無視すればまったく機能しないということが明らかになった。

 

 最後に洋上風力の問題点について。安岡沖の風車の配置だと、海流に大きな変化が起きると思う。流れが速くなったところは礫化し、遅くなったところは泥化する。沿岸流も妨げる。また、海底の地形も大きく変わる。支柱を建てるために直径40㍍の範囲を掘削し、コンクリの岩礁を埋める。しかもこの影響は長期にわたる。

 

 事業者は「風車の音は水中には入らない」という。実際には水中の音は空気中と比べて減衰しにくく、速く遠くまで伝わる。「風車は魚礁効果がある」というが、これも世界中で成功例は見当たらない。掘削による騒音で、魚の出血や浮き袋破裂による死亡が確認されている。魚卵は自然環境下で発生する音よりわずかに大きな騒音にさらされただけで孵化率が低下する。

 

 ヨーロッパの研究では、風車の騒音、潮流の変化、送電ケーブルによる電磁場の変化、ストロボ効果、乱気流の影響が魚に大きな影響を及ぼすことが明らかになっている。大型魚類や底生魚類は減る。イカ、タコ、スズキ、タイなどは減る可能性が指摘されている。したがってヨーロッパでは岸から40㌔以上離しており、ベルギーでは22㌔以上離さないと許可しないことになっている。この場合の風車の大きさは2000㌔㍗であり、安岡沖では10㌔離すぐらいではダメだと思う。

 

 まとめると、事業者はCO2を減らすためではなく高い買取価格に吊られてもうけのために進めているのであり、CO2は減らない、自然環境への影響は大きすぎる、人体への悪影響はひどすぎるので、風力発電は出資どころか決して進めてはならないというのが結論だ。

 

山場迎える安岡沖風力

 

 最後に反対する会のメンバーが、足かけ5年目を迎える反対運動の経過を報告した。平成25(2013)年の前田建設工業による住民説明会を契機に反対する会が発足し、この間反対署名は10万2204筆(9月14日)となり、4度にわたるデモ行進で市民に広く訴えてきたこと、自治会など各団体が市長や県知事に対して反対陳情をおこなってきたこと、横野の会の毎月1回の街頭活動も77回継続し、参加人数はのべ8940人になっていることを報告した。

 

 また、前田建設の環境調査を認めないと住民が抗議したところ、前田建設は反対運動を潰すためのスラップ訴訟を起こしてきたが、住民が測定機器を壊した証拠も出せず、最近ではわざと住民を罠にはめるためにダミーの機器を置いていたことが発覚したとのべた。さらに山口県漁協下関ひびき支店の漁師たちは、工事差し止めの訴訟を起こすなど風力反対を貫いており、県漁協幹部の嫌がらせにも負けず頑張っているとのべた。そして裁判闘争は、来年はじめには証人尋問という山場に入ると報告した。最後まで運動を続ける決意とともに、全市民の結束と資金カンパの協力を訴えた。

 

 市内各地からやってきた参加者は、講演にうなずきながら終始熱心に聞き入った。終了後、「下関市民はこの講演を聞くべきだ」などと記されたたくさんのアンケートとともに、反対する会の活動にカンパを寄せた。

 

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