いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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豊かな漁場を次世代に残したい 安岡洋上風力に反対する漁師たちが語る

 東京の準ゼネコン・前田建設工業が下関市安岡沖に持ち込んだ洋上風力発電計画が明るみに出てから5年たち、住民の反対運動は全市的な大きなものに発展してきた。そのなかで建設予定海域に漁業権を持つ安岡の漁師たちが反対を貫いていることが、計画を立ち往生させている。来年に入ると、環境調査を妨害したといって前田建設工業が住民に1000万円の損害賠償を求めた裁判も、下関ひびき支店(旧安岡漁協)の漁師たちが前田建設工業に工事差し止めを求めた裁判も、そして下関外海漁業共励会会長の廣田弘光氏が本紙を名誉毀損で訴えた裁判も、それぞれ証人尋問が始まり山場を迎える。そこで本紙は下関ひびき支店運営委員長の問山清春氏と、松谷繁己、松谷一喜、梅野晋也の3人の運営委員に集まってもらい、どういう経過で風力発電に反対するようになったか、そこにある漁師の思いや訴えたいことを出し合ってもらった。

 

 司会 まず、反対に立ち上がった経過から…。

 

 問山 もともとひびき支店が最初に風力発電に同意したのは、前田建設からちゃんとした説明がないうえに、当時の支店長が人工島2期工事の補償金をちらつかせて、同意しなければ補償金はもらえないといって組合員の3分の2同意をとったのが事の発端だ。4年前の平成25(2013)年7月の支店総会のときのことだ。自分たちは風車がどういうものかわからない状況で、とりあえずみんな生活が苦しいなかで賛成が多かったことから、同意したという形になった。

 

 しかしだんだん調べていくと、風力発電には低周波による健康被害とかいろんな問題があることがわかった。それと、総会のときに示された地図は数センチの小さいもので、自分たちの操業する近くだとわからなかった。大きい図面をもらったら自分たちが潜るところで、漁に差し支えることがわかった。そこで反対しようということになり、すぐに支店長の所に「決議をやり直せ」と何人もがいいに行ったが、聞く耳を持たなかった。

 

 梅野 最初の地図では全然わからなかった。それで同意するかどうかと迫ってきた。8億円の迷惑料で20年間海を貸与するというようなことだった。その場では印鑑もなしで、僕らは名前を書いただけ。その後、支店長が組合にあるみんなの印鑑を使って押した。

 

 司会 翌年(2014年)9月には、ひびき支店は正組合員48人中42人の署名・捺印を持って、中尾市長(当時)のところに風力反対の陳情に行った。

 

 梅野 その前に漁協幹部が組合員の知らないうちに前田建設から1000万円の手付け金をもらっていることがわかった。これはその後、支店長がみんなの前で謝っている。組合員に知らせず、勝手にもらってすみませんでしたと。ということは組合員の同意なしに勝手に手付け金をもらっていたということだ。それで陳情に行った。

 

 松谷(繁) その前に共励会会長の廣田氏が安岡に来た。陳情に行くのはやめてくれといって…。

 

 問山 アセスをチェックする経済産業省の環境調査も抗議して中止になった。この頃からだいぶ盛り上がってきた。

 

 梅野 次の年(2015年)がアマ漁禁止だ。安岡では先祖代代何十年と潜っていたのに、廣田氏が突然文書を送ってきて違法操業だといった。

 

 問山 あのときはもう組合員がみんな反対した。そしてその年の7月の総会で、出席した正組合員36人全員の書面同意で、前の風力同意決議を撤回し、改めて風力反対と調査反対の決議をあげた。

 

下関ひびき支店に来て「海の調査を妨害しなければ1人100万円出す」という廣田氏(左、2015年7月)

 松谷(繁) 問題だと思うのは、平成25年に同意決議をとる1年も前に基本合意書を交わしていることだ。総会で三分の二同意をとらなければ漁業権の変更はできないのに、その前に県漁協の森友組合長、廣田共励会会長、当時のひびき支店の運営委員長が前田建設と契約を結んでいる。

 

 問山 そして契約した後になって組合員の同意をとりつけた。その契約が有効なのか、有効でないのか。これは裁判でも大きな争点になる。

 

安岡沖全体が岩場の好漁場

 

 司会 前田建設工業は安岡沖に4000㌔㍗の風車を15基建てるという。そうなると海はどうなるか?

 

 問山 安岡沖の海域は遠浅で、そこに漁場が広がっている。山陰の海が沖に出たらすぐに深くなっているのとは違う。浅瀬に海藻が立ち、そこでアワビやサザエが育つし、そこに魚が卵を産みに来て、小魚を他の魚が食べに来る。食物連鎖だ。だからここでいろんな漁業ができる。そうしたいい漁場をつぶせば、結局他の支店の組合員も漁業ができなくなる。冬場に安岡沖にやってくる豊北や長門のイワシ棒受け網漁にも影響する。

 

 松谷(繁) おまけに安岡沖は普通の瀬ではなくて、全体が岩場で、数センチの小さい石から2~3㍍の大きい石まで、大小の石ばっかりでできたところだ。そこに藻場ができ、サザエやアワビ、ウニがつく。ぐるり一周、遠浅で…。

 

 問山 日本でも有数のいい漁場といわれている。そこがちょうど風車が建つ予定地にあたる。前田建設がいうには、深いところは建てる技術がないそうだ。浅いところでないと採算がとれない。浅いところで風がよく吹くところということで安岡沖に目をつけたようだ。そこが共同漁業権の海域になる。

 

 司会 安岡はアマ漁が中心だが、年間で見たらその時期時期に漁がある。

 

 問山 冬はナマコ。

ウニ漁をする漁師

 松谷(繁) 2月になればイカをとる建網も出てくるし、タコツボ漁もイカカゴ漁もサワラ釣りも出る。よそからは冬から春にかけて棒受け網漁が来る。

 

 問山 棒受けはイワシが秋に産卵して子どもが大きくなる過程で来る。その産卵するいい場所をつぶせばいろんな漁に影響してくる。安岡にとってはそこでとれるバフンウニ、アカウニなどをとるアマ漁が一番主力の漁業だ。

 

 松谷(繁) 5月にはサザエ、アワビが解禁になり、ウニは6月から9月まで。サザエは夏も冬もとるが、今はナマコの方が単価がいい。夏とる場所は冬は休ませる。

 

 問山 海を大事にしている。それだけいい海だから、保護しながら長い目で見て漁業ができるようにしている。

 

 松谷(繁) 稚魚、稚貝も母藻も毎年放流している。母藻というのは海藻の菌を植えること。温暖化でカジメとか海藻が大部死んだから。

 

 問山 それも県から補助金をもらってやっている。それなのに片や風車を持ってきてつぶそうというのだから矛盾している。

 

 司会 アマ漁はこんな冬の寒い時期でも潜っている。

 

 問山 人間でいったらウエットスーツの厚着をするわけだ。夏は薄いスーツ。厚い方が保温効果がある。

 

 松谷(繁) それプラス我慢大会(笑い)。

 

 問山 潜る深さはピンキリだが、ナマコをとるときは深いところで17~18㍍潜る。1分ちょっとは息を止めているだろう。ウニは深いところで12~13㍍ぐらい。蓋井島は素潜りで20~30㍍潜る者もいる。息が長い。山陰の方は分銅潜りといって、船の上から鉛を下ろす。鉛を持って海にスーッと一気に入る。船の上に鉛係がいて、鉛を上げたり下げたりする。そういう人が30㍍ぐらい潜る。

 

 司会 ウニの居場所はどうやって探るのか?

 

 松谷(一) 長年潜ってきてのカンだ。それとその日の潮の流れや天候を考える。潮が速いところは避け、速くないところに船を持っていったり。ウニをとったら浜に集まって、殻を割り身をとり出す作業をみんなでする。

 


 梅野 安岡のウニは純度100%、高級品で安くておいしいというので昔からのお客さんが付いている。塩漬けウニはうまいが3日しかもたないので、アルコール漬けウニが主流だ。

 

 問山 日本のアルコール・ウニの発祥の地は、下関の六連島といわれている。そこから学んだのだろう。

 

獲ってきたウニを手作業で掻き出し、瓶詰めする

人工物が与える影響 石一個で変化する環境

 

 司会 風力発電に反対するうえで、1995年から始まった下関沖合人工島の建設で被害を被った経験も大きかったと思うが…。

 

 問山 ああいう人工物ができれば、どうしても潮の流れが変わり、内側は砂が堆積する。現に人工島の内側はヘドロみたいになっている。ヘドロが何十センチとたまって、瀬があったのが、その上に全部ヘドロがかぶって海が死んでいる。

 

 松谷(繁) 2㍍近くヘドロで埋まっているところがある。

 

 梅野 もともと良い漁場だったが、コンクリのアクが出てアワビが全滅したと父親がいっていた。人工島の二の舞いはさせないというのがみんなの思いだ。

 

 問山 安岡沖の風車も着床式なのでコンクリの基礎をこしらえる。そのために1基当たり50㍍以上も掘るという。すると絶対砂がたまってくるようになる。前田建設は「潮は夏場は南から北にしか流れないから来留見ノ瀬には影響はない」と説明したが、潮は満ち引きで往復する。「潮の流れは緩やかだから大丈夫」というが、大潮もあれば小潮もある。北風の強いときもあれば、西風の強いときもあり、それによって潮の流れは全然変わってくる。そういう説明はしないで、自分たちの都合のいいようにいって、漁師は関係ないという態度をとっているから自分たちは頭にきている。技術者は実際を知らないのではないかと。僕たちは潜っているのでわかる。

 

 松谷(繁) 石1個さわってもその周りの環境というか、潮の流れは変わる。

 

 問山 アワビをとろうと思って大きい石を1つ動かすと、そこが真っ白になり、アワビがつかなくなったりする。たった石1個でだ。だからなるべく石をひっくり返すなよとみんなにいってきている。石1個さわるだけで、元に戻るまでには何年もかかる。石に海藻の菌が付着して伸びるまでに2~3年は必要だ。そこに巨大なものを建てればどういう影響が出るかわからない。とくに潜りの者はそれを日頃、この目で見て知っているから不安になっている。だから断固として反対している。

 

 梅野 それとアワビやサザエ、ウニは繊細な生き物で、人が近づく気配がしただけで奥に入っていく。すごく敏感だ。工事の振動で逃げ出してしまう恐れもある。

 

漁師あっての県漁協 首絞めるなら本末転倒

 

 司会 最後に来年に向けての決意や市民に訴えたいことがあればお願いします。

 

 問山 はっきりいって前田建設がどう動くか不安な部分はあるが、そこは漁師が一丸となって反対していこうという心意気は持っている。また漁業者だけでなく、安岡の住民と一緒に足並みそろえてやっていかないといけないと思っている。どっちが欠けても反対運動は成立しない。そして、安岡の漁師は補償金目当てでやっているのではないということを知ってほしい。われわれは漁をやって生活したいといっており、漁業をつぶすのがいけないといっているのだ。

 

 松谷(一) 僕も風力発電ができて漁ができなくなるのが一番の不安だ。生活がかかっているから…。

 

 梅野 昔は親の跡を継いで漁師になれば生計を立てることができた。今はそれが難しくなっているが、でも僕は漁師になってよかったと思う。次の世代に豊かな漁場を引き継いでいかないといけないし、それが僕らの使命だ。先祖代代ずっとそうやってきた。今の日本は大量生産・大量消費の見直しが始まり、匠の世界が注目されている。

 

 問山 今第1次産業が廃れてきて、国内で自給ができなくなってきている。そして豚肉の輸入がものすごく増えるという。第1次産業を興して魅力のある街にしていかないといけない。若い者が跡を継げるように。そのために働かなければいけない県漁協が漁師の首を絞めているのだから、まったく反対のことをしている。国と県とかがニューフィッシャーを増やしていこうとしているときに、その海をつぶしてどうやって生活するのか。漁師はいらない、補償金で穴埋めすればいいというのでは話にならない。

 

 松谷(繁) 安岡の首を絞めれば、結局県漁協も成り立っていかなくなる。

 

 問山 漁師あっての組合なのだから。風力発電は、低周波の健康被害が起これば住民は生活できない。世界中であれだけ騒がれ、よその国では反対して中止になっている。それでオランダやドイツは風車が余ってしまって、それを日本に売りつけようとしている。勉強すればするほど、なおさら反対していかないといけないということがわかってくる。

 

 司会 新潟は洋上風力が中止になったそうだ。

 

 問山 そういうことは自分たちの力になる。気がついたところはどこでも反対運動を起こして、今度は日本発で広げればいい。住民に迷惑にならないところに建てろと。大企業がもうけるだけで住民にはいいことは何もない。

 

 司会 きょうはこのへんで。来年も頑張りましょう。

 

国道沿いで風力反対を訴える横野の住民たち

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