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洋上風力は故郷を元気にするか? 三重県歯科医師・武田恵世氏の講演要旨

 下関市の安岡沖洋上風力発電の環境アセス準備書に対する県知事意見の期限が8日に迫り、注目が集まっている。三重県の歯科医師で歯学博士の武田恵世氏は昨年7月、大規模洋上風力発電が計画されている新潟県村上市で「洋上風力は村上市を元気にするか? 風力発電の実際」と題する講演をおこない、その内容を岩船沖洋上風力発電を考える連絡会(会長・村山輝穂氏)がDVDにして紹介している。

 

 講演内容は村上市の実際を踏まえて多岐にわたるが、風力発電の低周波音がもたらす健康被害や漁業への影響について最新の知見を踏まえたもので、全国的にも関心の高い内容であるため、本紙でその要旨を紹介することにした。なお村上市岩船沖では、日立造船を代表会社とし第四銀行、三菱東京UFJ銀行など10社が5000㌔㍗×37基の洋上風力発電計画をうち出したが、住民が署名運動を開始し反対の意志を表明したため、昨年11月に「事業評価決定の1年延期と事業規模の縮小」を決めている。

 

     ◇       ◇


 私の住んでいる三重県の青山高原(津市と伊賀市の境界)には、全国有数の風力発電所がある。自治体がつくるものとしては全国初だった。既設69基(750㌔㍗×24基、2000㌔㍗×18基)で、さらに22基が建設中だ。従来、そこは国定公園なのでつくってはいけないことになっていたが、地球温暖化のためならいいだろうということで許可された。ところが1999年にできた風力発電を2012年に津市はシーテックに譲渡した。なぜかというと修理費や維持費がかさんだからだ。建設費の半分は国の特別会計による補助金だったが、補助金の返還義務期間が過ぎたという事情もあるようだ。


 風力発電のメリットとして「固定資産税、法人税が入る」といわれる。ただしそれは3年間免除だ。入りだしてもその分の地方交付税交付金が減額される。また「電力がまかなえる」というが風力だけでは夏はほぼ無理、冬は強風時のみ可能だがきわめて不安定だ。「雇用、仕事が増える」というので青山高原でも期待したが、特殊な技術が必要ということで、工事車両はほとんど愛知ナンバーか岐阜ナンバーだった。ほとんど仕事はこなかった。


 青山高原の発電実績だが、発電予測値では建設費をまかなうのに約11年といわれた。ただし11年間1度も止まらなければだが…。それを発電実測値で割り算すると約21年、しかし風力発電機の寿命は13~15年といわれる。実際には青山高原では1年に1度は故障しており、もはや元はとれない状況となって譲渡してしまった。


 全国的な状況はどうか。民間の風力発電所で実績を公開しているところはゼロだ。自治体経営ではNHKの調査で80%が赤字だった。残りの20%について聞いたところ、多くが修理費を会計に入れていないだけで、実際には赤字だった。風力発電所の成功例を専門家に聞いたところ、6年たつがまだ返事がない。非常に少ないのは間違いない。


 風力発電などの再生可能エネルギーを増やす理由は地球温暖化防止だ。しかし実は風力発電所が増えてもCO2削減には貢献していない。風力発電で発電された電気の分、原子力や火力の出力を下げたデータはあるかと各電力会社に聞くと「ありません」という。なぜかと聞くと「風力発電からの電気は電力系統全体の1~2%以下の誤差の範囲だから、調整は必要ありません。今後相当増えたら調整が必要です」という。


 実際、風力が相当増えた北海道電力や東北電力は、風の強い日は火力の出力を下げるのではなく、風力からの送電を停止(解列)して対応している。北海道電力になぜ火力の出力を下げないのかと聞くと、「とてもそんなことはできない。風はしょっちゅう変動するので、それにあわせて火力の出力を上げ下げするとよけい燃料を食う」といわれた。原発並みに太陽光発電が増えた九州電力でも解列している。


 なぜそうなるのかというと、電力系統は同時同量(発電量=使用量)でなければ大停電を起こすからで、電力会社が年間計画、時間計画にもとづいて数分単位で調整している。朝われわれが通勤する時間帯には増やし、昼休みには少し減らし、午後はまた増やし、夕方以降は減らす。ところが風はそのようには吹いてくれない。

 欧米で風力ブーム去る 尻拭いする日本企業

 アメリカのコロラド州では風力発電の変動にあわせて火力の出力調整をやっていた。すると風の弱い火力だけの日より、風の強い風力+火力の日の方がCO2をはじめとする排気ガスは増えた。それは車の燃費が急停止・急加速をくり返すと悪くなるのと同じ道理だ。


 ヨーロッパはどうか。フランスの持続可能な環境連盟の調査(2007年12月)だが、ドイツの風力発電は電力全体の4・4%を占めている。投入予算に比べて電力生産は非常に少ない。CO2排出量は減らず、逆に2000年に比べて1・2%増加した。


 デンマークはEUのなかで唯一CO2を削減できた国といわれる。しかしその分、電力輸入は2000年に比べて倍増した。数字の上では風力発電が電力の3分の1をまかなっていることになっているが、ほぼ同量を送電線がつながっている周辺の国から輸入している。ドイツにいわせれば「うちの国のCO2排出を増やしただけ」であり、フランスにいわせれば「うちの原発の安定した電気があるからやっていけるのだ」である。


 デンマークは長年、クリーンエネルギーのモデルだったが、「今風力発電に反対する最初の国になろうとしている」との報道があったのが3年前だ。2014年7月に報告されたデンマークの被害例だが、風力発電そばにあるミンク養殖農園の女性従業員の体調が悪化し、ミンク胎児の奇形や死産が頻発した。そして農園は廃止になった。現在、風力会社と自治体に損害賠償請求をしている。国会で問題になり、専門家は1000㌔㍗以上の風力発電は10㌔以上離すべきだといっている。子宮の共鳴振動の疑いが出されている。デンマークは現在、環境規制の強化で陸上では実質的に建設できなくなった。洋上風力も頭打ちだ。ベスタスなどの有名企業が経営難に陥っている。


 風力発電に反対するヨーロッパ・プラットフォームができ、25カ国・812の団体が参加してEU議会などへ公開書簡を送った。「不安定でコントロール不能な風力発電からの電気は環境問題を解決できない」「風力発電は地域住民、経済、国家財政、環境に対する大害悪となるだけだ」という内容だ。


 アメリカ議会では2013年から風力発電への補助金延長をめぐって論争が起こっている。「風力発電のコストは天然ガスの3倍で、不安定さを補うために火力発電所が待機しなければならない。今年は風力に85億㌦(8075億円)も余計に税金を使った」と議会で問題になると、風力業界は「補助金を延長してくれ。今後6年で徐除に廃止できるようにする」といった。これに対してラマール・アレクサンダー上院議員は「今後6年間、さらに500億㌦(5兆円)もの税金を使うのは、白昼堂堂目抜き通りで銀行強盗をするくらい厚顔無恥な提案だ」という発言をおこなった。10年以上かけても独り立ちできない風力発電に血税を投じることを正当化することは困難だ。


 欧米政府は現在、風力や太陽光の補助金を削減し、固定買取価格を値下げする方向に動いており、ブームは去ったといわれている。そして風力や太陽光の資材が余り、余った資材を買いたたいて日本に売ろうという動き(商社)になっている。有名企業が経営難に陥り、日本企業と合併したところもある。日本の業界紙はヨーロッパの風力企業と日本企業の合併をいいことのように書いているが、経営難のつけをかぶっただけだ。

 不眠やめまい、 吐き気 世界共通の健康被害

 風力発電の健康被害の特徴についてだが、青山高原でも稼働当初から被害が発生した。ウインドパーク笠取(2000㌔㍗×10基)では谷にこだまして騒音が増幅した。被害が発生したのは2㌔の集落だった。ところが事業者は当初の約束と違い、「失う電力は膨大」といってすぐに止めなかった。健康被害が出ても事業者は因果関係を認めず、「それは気のせいです」「環境基準以下だから被害が出るはずがない」といった。


 ここの被害者からの注目する証言がある。「私は生まれたときから渓流の横に住んでいて、渓流の音や滝の音は気にならないが、風車の音はたまらない」(1・2㌔)、「年をとって耳は聞こえなくなってきたが、風車の音だけはこたえる」(1・2㌔)、「国道と線路の横に家があってその音は気にならないし、一時的だが、風車の音はずっとでつらい」(1㌔、1・2㌔)、「恐ろしい音が地面から柱を伝って入ってくる」(2㌔)。


 実は世界中で風力発電機から同じような距離にいる人たちにほぼ同じ症状があらわれている。日本を含め、ヨーロッパを中心に27カ国(風力発電がある国ほぼすべて)で、睡眠障害、頭痛、耳鳴り、めまい、吐き気、集中力や記憶力の異常、種種の胃障害、高血圧症、心臓血管の病気、覚醒時もしくは睡眠時に生じる体内部の振動感覚、動揺感覚にともなうパニック発作などがあらわれている。早い話が不眠と船酔いに似た症状が主だ。たいていの病気は眠ることでよくなったり治ったりするが、それができないのはかなりつらい。


 しかもインフルエンザのようにウイルスを吸い込めば誰でも同じ症状になるのではなく、気温、湿度、体調や他の病気の有無など多くの複合的な要因が重なって発症するし、症状を起こす部位も人によってかなり違い、症状もさまざまだ。


 原因は風力発電機が出す、耳に聞こえない低周波音、超低周波音で、それが人の内耳器官や頭蓋骨関節軟骨、内臓、子宮などと共鳴振動を起こし、それによって平衡感覚受容器のバランスを乱すなどしてさまざまな症状を引き起こす。海外では「振動音響病」「慢性騒音外傷」「風力発電機症候群」といった病名がつけられている。なかには「てんかんとガンをもたらす」という医者もおり、「内耳に影響を与えて聴覚障害を起こす可能性が高い」という研究結果も発表された。


 こうした風力発電の低周波音から生じる不快感をアノイアンスといい、事業者はそれを「気のせいだ」というが、医学的には治療の対象だ。これも被害者の証言だが、「いつまでたっても着陸しないセスナ機、止まらない夜行列車に乗っているようだ」という。われわれが普通セスナ機や夜行列車に乗れるのは、それがいつか止まるのがわかっているからだ。ところが風力発電機はいつ始まるか、いつ終わるかわからない、しかも音の大きさはしょっちゅう変化する。それを我慢せよというのは過酷すぎる要求だ。


 世界の被害者の一致した話として、「いくら“被害が出れば補償する、きちんと対処する”と事前にいわれていても、建ってしまったらお終いだ。事業者も行政も因果関係を認めようとしない」という。なぜなら騒音は環境基準ギリギリか少し上、低周波音は参照値以下のことが多いから。しかし、因果関係は明らかだ。なぜなら被害者宅に泊まった人の多くが同じ症状になり、風力発電機から十分に離れると治るからだ。


 では日本でこれに対してどういう対策が実際にとられているか。東伊豆町や豊橋市、伊賀市、伊方町などでは、風力発電機を夜間に停止している。また、東伊豆町、田原市、伊方町では「夜間避難」をおこなっている。どういうことかというと、市や町が別の場所にアパートを用意し、毎晩寝る時間になるとマイクロバスに住民を乗せてそこへ連れて行き、朝になると送り帰している。また全国で引っ越した例がかなりある。オーストラリアでは街ごと引っ越してゴーストタウンになった。

 羽の回転で逃げる魚類 漁業への影響も甚大

 洋上風力発電の問題点について。「洋上風力発電は有望、なぜかというと洋上は年中風が強く安定しているから」という。しかし気象観測船のデータで、2013年6月から2014年6月までの南鳥島の例だが、変動が激しい。実は「年中風が強く安定している」というデータはない。平均値では確かに陸上より高いが、安定していない。


 ではなぜつくるのか。固定買取価格が非常に高いからだ(グラフ参照)。そして補助金、優遇税制、低利融資がつくからだ。実は環境アセスメントは全額税金でできる。事業者の自己負担はゼロだ。


 漁業にはどういう被害が出ているのか。イギリスやスウェーデンなどでの調査結果(図参照)だが、風車の騒音による魚の出血、浮き袋の破裂、音声コミュニケーションの阻害などが起こっている。海流も変化し、流れが速くなったところは礫化し、遅くなったところは泥化している。工事にともなって出る濁りや電磁波による影響もある。また風車のストロボ効果(羽の回転にともなって、羽の大きな影が高速で次次に通過していく現象)によって、魚はイルカが来たとかタカが襲ってきたとみなして逃げるという結果が報告されている。幼生も甲殻類も逃げる。乱気流によって波とか気温、水温の変化もある。


 まとめると洋上風力の海生生物への影響として、大型魚類、底生魚類、ボラ、キス、クジラ類やアシカ類は減った。イカ、タコ、スズキ、タイ、サメ、エイなどは減る可能性が指摘されている。


 事業者は、「洋上風力発電は魚礁効果がある」「養魚場になる」と宣伝している。しかし世界中で成功例は見当たらない。養魚場はそもそも設置されていない。「わざわざリスクのある場所につくる必要がない」からだ。北海道のせたな町は風車の回りに網とロープを張ったが、町は成果を確認していないそうだ。付近の釣り人は「大物が減った」といっている。五島列島は「成功」といっているが、定量的調査はしていなかった。名古屋大学にある「洋上風力事業と地域の共発展寄付講座」の安田教授に成功した実例を問い合わせたが、返事がこなかった。


 結局、風力発電はCO2を削減できず、自然環境に優しいどころか自然破壊が酷であり、人間生活への悪影響もひどく、出資どころか決して進めてはならない事業である。風力発電建設の真の目的は、電気をつくるためではなく、固定買取価格、低利融資、優遇税制、そしてイメージを獲得するためだ。だから風の弱い山陰にもつくるし故障した後も長期間放置するし、発電実績が悪くてもさらに増設しようとする。税金や電気料金(再エネ賦課金)の無駄遣いにすぎない。この後始末がこれから大変だろうと思う。

 魚の出血や浮袋破裂も 一回の杭打ちで

 (漁業への影響についての質問に答えて)
 まず、洋上に風車を建てることで潮の流れが変わり、それが漁業に影響を与える。岩船や瀬波の海流について海上保安庁のデータから見てみた。沿岸流が南から北に流れている。岩船港付近は北から南に流れている。つまり砂浜の砂は主に沖から供給されている。そして砂浜は砂の供給と流出のバランスで成立している。供給が絶たれると削られる一方になる。これが漁業に影響する。沿岸の向岸流も離岸流も風車によって遮断されてしまうので、砂の供給のバランスが崩れる。
 事業者の多くは「漁業への影響は小さい」「風力発電機の音は水中に入らない」という。実際には水中の音は空気中と比べて弱まりにくく、速く、遠くまで伝わることは、理科の教科書にも書いてある。しかも低音ほど弱まりにくい。一方、魚は音に敏感で、金槌で岩をたたいて魚を気絶させる漁があるほどだ。


 米パシフィック・ノースウエスト国立研究所では、洋上での大規模構造物の建設時に海床へ打ち込まれる鋼鉄製パイルの杭打ち音が魚に及ぼす影響について詳細な調査をおこなった。そこでは一回の杭打ちであっても魚に大きなダメージを与えることが明らかになった。掘削による大きな騒音(100㍍離れた地点で最大200デシベル)で、魚の出血や浮き袋破裂、死亡が確認された。魚卵は自然環境下で発生するよりもわずかに大きな騒音にさらされただけで孵化率が低下するという研究結果もある。


 そのほか飼育実験により、送電ケーブルによる電磁場の変化は、魚類の筋肉の収縮運動、定位、およびエサ探索に影響することがわかっており、その影響は板鰓(ばんさん)魚類(サメ・エイ類)でとくに顕著だが硬骨魚類(サメ・エイ類を除く魚類のほとんど)においても認められる。
 『洋上風力発電―次世代エネルギーの切り札』という本がある。著者の立場は風力推進だがヨーロッパでは洋上風力は陸地から40㌔離して建設していること、ベルギーでは22㌔離さないと許可しないという決まりがあることを紹介している。そうでなければ漁業者がそもそも同意しないのだ。この洋上風力の大きさは2000㌔㍗機がほとんどである。このように漁業への影響はものすごく大きい。

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