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米軍基地から流出の有機フッ素化合物汚染「PFAS」 血中濃度全国平均の14倍も 市民団体が調査発表 

 米軍基地から流出した有機フッ素化合物による河川や土壌の汚染問題をめぐり、沖縄県内の市民団体「有機フッ素化合物汚染から市民の生命を守る連絡会」は10月15日、米軍基地がある沖縄県内6市町村7地域を対象におこなった血中濃度調査の結果、発がん性も指摘される有機フッ素化合物の血中濃度が最大で全国平均の14倍に達したと発表した。行政には早急に抜本的な原因調査と住民の健康を守る施策の実施が求められる。

 

PFASの血中濃度調査の結果を発表する市民たち(10月15日、沖縄県庁)

 調査は6~7月、京都大学の原田浩二准教授(環境衛生学)の協力を得て実施されたもので、沖縄県内の米軍基地を抱える5市町(沖縄市、宜野湾市、嘉手納町、金武町、北谷町)と比較のため基地がない県北部の大宜味村で、18歳以上の387人から血液を採取。5000種あるPFASのうち3種の血中濃度を京都大学が分析した。

 

 分析の結果、環境省が2021年度に実施したモニタリング調査(対象119人)の全国平均値と比べて、有機フッ素化合物の一種である「PFOS(ピーフォス)」は1・5~3・1倍、「PFOA(ピーフォア)」は0・8~3・0倍、「PFHxS(ピーエフヘクスエス)」は1・7~14・3倍と、いずれも高い数値が出た。

 

 血中1㍉㍑当りの平均値では、PFOSは嘉手納基地がある北谷町で最も高い12・2㌨㌘(最大値は32・6㌨㌘)が検出され、次いで普天間基地がある宜野湾市喜友名(平均11㌨㌘、最大42・6㌨㌘)、嘉手納基地と隣接する沖縄市(平均8・7㌨㌘、最大26・3㌨㌘)と基地周辺の地域ほど高い値となった。基地が所在しない大宜味村(平均5・8㌨㌘、最大15・3㌨㌘)と比べても大きな差があるが、いずれも全国平均3・9㌨㌘を上回った。

 

 PFOAで平均値がもっとも高かったのは金武町(6・7㌨㌘、最大17・5㌨㌘)で、北谷町、大宜味村、嘉手納町を含む4町村が全国平均2・2㌨㌘以上だった。

 

 PFHxSは、全地域が全国平均1㌨㌘を上回り、もっとも高かったのは米軍キャンプ・ハンセンがある金武町(平均14・3㌨㌘、最大36・2㌨㌘)で、さらに北谷町(平均11・6㌨㌘、最大27・7㌨㌘)、宜野湾市喜友名(平均11・7㌨㌘、最大65・7㌨㌘)と基地周辺地域の高さが目立っている。大宜味村は平均1・7㌨㌘だった。

 

 調査地域は、大宜味村を除き、米軍基地に隣接する地域や北谷浄水場から給水を受ける地域であり、これまで沖縄県や民間団体による調査で土壌や水道水の汚染が確認されている。

 

 連絡会は「水道水をそのまま飲んでいる人はPFAS濃度が高い傾向が見られる」とし、年齢では年配者、男女別では男性ほど濃度が濃いという特徴を報告。「PFASを含む泡消火剤などが使用された米軍基地が汚染源になっている蓋然性が限りなく高まった」とのべ、「今回の調査結果をエビデンスとして、行政による広域の疫学調査、環境調査を継続的にとりくむように求める。根本的解決は、基地内をはじめとした汚染源を解明する調査と汚染浄化。この問題は胎児や幼児期から影響が大きい、沖縄の生存権の問題。地位協定による米軍のダブルスタンダードは許されない」と厳しく指摘している。

 

 日本国内にはこれら有機フッ素化合物の血中濃度に関する基準値はない。だがドイツが定める管理目標値では、血中1㍉㍑当り、PFOSは20㌨㌘、PFASは10㌨㌘(妊娠適齢期女性はそれぞれ半量)とされ、この値をこえると健康被害があると考えられるレベルとされ、行政に早急な低減策が求められる。今回の調査では計27人(全体の14・3%)がこの値を上回った。

 

 沖縄県内ではこの間、基地周辺の河川や湧き水から日常的に高濃度の有機フッ素化合物が検出されてきた。とくに米軍嘉手納基地が垂れ流す泡消火剤によって汚染が生じた北谷浄水場の水源である比謝川流域では、生息する魚からも、環境省が2015年に全国17都道府県でおこなった魚類の含有量中央値の約710倍にのぼるPFOSが検出されている。北谷浄水場からは7市町村、45万人に給水されており、健康への影響が心配されている。そのため宜野湾市では、多くの子どもたちがミネラルウォーターを持参して登校するなど、経済的負担も大きい。

 

 この汚染問題をめぐり沖縄県は米軍に基地への立ち入り調査を求めているが、米軍側は日米地位協定(基地管理権)を盾に応じていない。防衛省も「因果関係は不明」として放置している。

 

米軍普天間飛行場から付近の河川に流出したPFOS含有の泡消火剤(2020年4月、宜野湾市)

全国の米軍基地で同様被害 国の対策急務

 

 全国的にも米軍基地から流出した有機フッ素化合物による水汚染があいついでいる。

 

 東京都では横田基地周辺の地下水から厚労省基準値の27倍となるPFOSが検出された。
 神奈川県では5月、横須賀基地東側の排水処理場で泡消火剤とみられる「特異な泡」が確認され、8月のサンプル調査で検出されたPFOSとPFOAの合算値は、生活排水の出口で国の暫定目標値の222倍、産業排水の出口では109倍にのぼった。処理水は東京湾に排水されているが、横須賀市の排水停止の要求に米海軍側は「基地住民の移転が必要になるので不可能」と拒否している。

 

 有機フッ素化合物PFASは、水や油をはじき、熱に強い性質があるため、撥水剤や消火剤などに用いられてきたが、半永久的に分解されず、人体にも蓄積されやすい性質が明らかになり、国内では化学物質審査規制法で21年までに製造・輸入が原則禁止された。米国内でも使用が制限される一方、過去に製造されたPFOSを含んだ泡消火剤の使用は禁止されておらず、日本で野放しになっている現状がある。
 広範な人々の生存権にかかわる問題であり、国としての早急な対応が求められている。

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