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『消された水汚染――「永遠の化学物質」PFOS・PFOAの死角』 著・諸永裕司

 この本は冒頭、本紙でも紹介した映画『ダーク・ウォーターズ』から始まる。米オハイオ州のデュポンの工場で、テフロンの名前で知られるフライパンの焦げ付き防止加工に有機フッ素化合物が使われ、工場で働く労働者やその子どもに異変が起きるとともに、その廃液で土壌や近くの川が汚染され、牛たちの狂い死にがあいついだ。オハイオ川周辺の7万人を調査したところ、腎臓がんや精巣がん、潰瘍性大腸炎など6つの疾患に3000人以上がかかっていた。

 

 原因となる化学物質は、有機フッ素化合物の代表的な一つ、PFOAだった。有機フッ素化合物は分解されにくく蓄積されやすいことから、環境中に出ると土の中にいつまでもとどまり、地下水を汚染し続けるため、「永遠の化学物質」と呼ばれる。沖縄では、同じ有機フッ素化合物のPFOSが、那覇市などで飲まれる水道水の水源の川から高濃度で検出され、排出源は米軍嘉手納基地であることがわかって大きな問題になっている。

 

 実は、同じPFOSが首都・東京の多摩地区でも半世紀以上にわたって垂れ流され、都民の飲み水を汚染し続けてきた。原因は、在日米軍司令部がある米軍横田基地だ。しかもそれは、役所によってもみ消されて、ないことにされていた。長年にわたって取材してきたジャーナリストが報告している。

 

隣接地では規制値の27倍 米軍が事故を隠蔽

 

 東京の西部にある多摩地区は30市町村からなり、約1400万人といわれる東京都の人口のうちの約420万人が住んでいる。この地域は「水盆」として知られる武蔵野台地の一端にあり、「東京の名水57選」のうち38カ所が集中している。

 

 この多摩地区できわめて高い濃度のPFOSが出ていることを、東京都環境科学研究所(都環研)が発見した。都環研が初めて有機フッ素化合物について調査したのは2003年で、多摩地区の下水処理場に高濃度のPFOSが集まっていることがわかり、2010年から四年間、調査の対象を地下水に広げて都内の井戸237カ所を調べた。

 

 すると多摩地区で、国際的な規制基準を最大で5倍以上上回るPFOSとPFOAが検出された。当時の基準はEPA(米環境保護庁)が決めたもので、水1㍑に含まれるPFOSとPFOAの合計値を70㌘(1㌘の10億分の1)とした。現在の厚労省の暫定目標値は50㌘で、国連はその毒性の強さから製造・使用を原則禁止している。このとき都環研は「さらに詳細な汚染実態解明が必要」と結論づけた。

 

 ところが2015年以降、この事実は東京都のウェブ上から消えた。そのことを都環研にただしても、都の関係部局に聞いても答えない。厚労省、環境省、防衛省に聞いても要領を得ない。そのあたりの経過は本書を見てほしいが、取材の結果次のことがわかった。

 

 その一、都環研は2007年度、米軍横田基地から出る排水から高濃度のPFOSを検出した。

 

 その二、都環研は横田基地から1・5㌔のところにある立川市西砂町の井戸Aから、2010年度以降連続して高濃度のPFOSを検出した。最大値は2015年度の569㌘だった。

 

 その三、横田基地では2012年に推定800㌎(約3000㍑)の泡消火剤が漏れ出していたことが発覚した。泡消火剤は航空機事故などの大規模火災のさいに使われるもので、沖縄ではこれが消火訓練で使われ、PFOS・PFOA値急上昇の犯人だったことがわかっている。ところが米軍はこの事故を防衛省に報告しなかった。この事実をつかんだ東京都福祉保健局が調べたところ、横田基地に隣接する立川市西砂町の井戸Bから1340㌘、厚労省の規制値の約27倍のPFOSが検出された。

 

 この異常に高い値は、2018年に調べてもほとんど変わらなかった。川と違って地下水はほとんど動かず、ひとたび汚染されると簡単には消えないからだ。そして井戸Aも井戸Bも、横田基地内の消火訓練場の下を流れる地下水脈の近くにある。

 

 その四、東京都は2019年、多摩地区にある三つの浄水所で、地下水源からの取水をストップさせた。最大で525㌘が検出されたからだ。そのうち府中武蔵台浄水所は、浄水(家庭に送る飲み水)に占める地下水の割合が60%、東恋ヶ窪浄水所は100%だった。ちなみに23区内は地下水を使っていないが、多摩地区は使っている。

 

 その五、この水を飲んできた住民たちの血液から有機フッ素化合物が検出された。

 

 実はPFOS・PFOAとも、東京では半世紀にわたって垂れ流されていた。多摩川の河口沖の海底の土壌から1955年に初めて検出され、1970年頃から急激に増え、その後も右肩上がりで、1990年代に最大値を記録している。

 

米国内では規制し汚染除去 隷属が命脅かす

 

 問題は次の点にある。米国防総省は自国内では、米軍基地による有機フッ素化合物の汚染を認め、それが発がん性を持ち胎児・子どもの成長に影響があることも認め、実態調査と汚染除去を進めるタスクフォースをもうけている。ところが日本では、まるでなにも起きていないかのように振る舞い、沖縄では基地への立ち入り調査を拒否している。日本政府や東京都もこれに唯々諾々と従い、米軍にPFOSについて問いただすことすらしていないし、「日米合同委員会では米軍側から通報があったときにのみ調べることになっている」といってもみ消しに加担してきた。

 

 ここに日米安保条約にもとづく隷属状態がはっきりとあらわれている。米軍は日本人を守るどころか、属国である日本国民の生命を脅かしてはばからない。かつてベトナム戦争では、米軍がばらまいた枯れ葉剤が重大な健康被害をもたらし、下半身がくっついた双生児ベトちゃん、ドクちゃんを生んだ。毒性の程度が違うとはいえ、やっていることは同じだといわれても仕方ないものだ。早急に全容解明と汚染除去、健康被害への対策をとることが求められている。

 

 (平凡社新書、327ページ、定価980円+税)

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