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地震の活動期に入る日本列島 熊本地震巡る学者の発言

 4月14日に熊本でM6・5の地震が起き、これが本震かと思っていると実は前震であり、16日にはM7・3の地震が起きた。気象庁は「過去の経験則にない地震」といったが、気象庁が地震観測を始めてからわずか90年である一方、地震や火山活動は数千年、数万年という人間から見れば気の遠くなるような周期で起きている。東日本大震災以降、日本列島が地震の活動期に入ったといわれるなか、今日本列島で何が起ころうとしているのか、科学者たちが発信する科学的知見を学び将来のために備えることは不可欠になっている。


 武蔵野学院大の島村英紀特任教授(地球物理学)は、今回の地震について次のように発信している。


 
為政者は願望で自然を侮るな 危険な伊方・川内原発



 熊本で始まった地震は、その後、北東の方向と、南西の方向に延びている。北東方向では阿蘇山の近くで大きな地震が起き、その後県境をこえて大分県でも大きな地震が起きた。南西方向では宇土市や八代市でも地震が起きた。これは、起きている地震が、日本最長の活断層群である「中央構造線」で起きていることと関係している。中央構造線は長野県から名古屋の南を通り、紀伊半島を横断して、四国の北部を通り、大分から九州に入って、熊本・鹿児島にまで至る1000㌔をこえる活断層である。


 日本にはわかっているだけで2000もの活断層があり、わかっていないものも含めると6000あるといわれるが、そのなかでこの中央構造線は、地質学的な証拠から、過去数千回以上にわたって地震をくり返し起こしてきたことが分かっている。今回地震を起こした布田川(ふたがわ)断層と日奈久(ひなぐ)断層のように、場所ごとに別の名前がついているが、全体としては中央構造線という活断層の一部である。阿蘇山も中央構造線上に位置している。


 今回の熊本地震は、この中央構造線の上で起こり日本人が被害を被った地震としては最初のものだった。というのも、日本人が日本列島に住みついたのは約1万年前で、記録を残しているのはせいぜい1000~2000年ほどなので、過去数千回以上にわたって地震を起こしてきたとはいっても、それを日本人が史実として書き留めた例はなかった。この活断層群が地震をくり返してきた時間のスケールに比べて、人間の時間のスケールはあまりに短いのだ。


 ところで、このような長大な活断層群のうちのある部分で地震が起きたことは、同じようにエネルギーが溜まっているその隣の部分にとって「留め金が外れた」ことを意味する。つまり、地震が起きた部分の隣で地震が起きやすくなる。世界的にも、この種の「地震の連鎖」は今までに何カ所かで経験されている。一番有名な例はトルコの北部を走っている北アナトリア断層で、1000㌔の長さにわたってM7クラスの大地震が次次に起きたことがある。1939年に東端で地震が起こり、西端に到達するまでに約60年ほどかかったが、1942、1943、1944年と短期間に連続して起きた時期があり、十数年起きなかった時期もある。


 島村氏はこのようにのべた後、今回の地震は熊本から阿蘇、大分へ連鎖が起きていったが、心配なのはその次は愛媛(伊方原発の近く)であること、また逆に南西方面に行くと鹿児島(川内原発の近く)に至ることだと警鐘を鳴らしている。


 とくに、活断層が起こす内陸直下型地震の特徴の一つとして、地面にかかる加速度が大きいことを指摘している。加速度が大きいほど、建物や橋などの物体に大きな力がかかって、場合によっては倒壊したり破損したりする。今回、益城町では加速度1580ガルを記録した。かつては「重力の加速度」である980ガルを超える地震動はあるわけがない、と思われていたが、岩手宮城内陸地震(2008年、M7・2)や新潟県中越地震(2004年、M6・8)をはじめ、各地で起きた内陸直下型地震は軒並み980ガルを超え、大きいものは4000ガルを超えたものもある。一方、各地の原子力発電所は、ここまでの加速度を想定していない。今までの設計基準ではせいぜい500~700ガルなので、それを超える地震の加速度に襲われたときに、いったい何が起きてしまうのかが心配だとのべている。


 また、川内原発の再稼働時、九州電力は「カルデラ噴火のような巨大噴火の可能性は十分に小さい」と評価し、原子力規制委員会もそれを認めた。しかし、研究者からすれば、そんなことを断言できるなどあり得ないことで、日本火山学会も「疑問がある」と声明を出した。カルデラ噴火とは、東京ドーム10万杯分以上もの火山灰や噴石が出る、破局的噴火のこと。阿蘇山だけで過去に4回、カルデラ噴火を起こし、火砕流が瀬戸内海を超えて中国地方にまで流れて行ったことも分かっている。日本で最後にカルデラ噴火を起こしたのは鹿児島県の鬼界カルデラで、約7300年前のことである。日本では過去10万年間に12回、カルデラ噴火が起きた。単純に計算すると約8000年に1回程度は起こることになるが、そんな単純な周期ではないにしろ、起きうるという事実は厳粛に受け止めるべきだと島村氏はのべている。


 さらに、通常の噴火なら山体膨張などの前兆現象が起こることが多いが、カルデラ噴火は古文書も残っていないはるか昔の出来事なので、どんな前兆があるのかもまったく分からない。もし噴火した場合、火山灰はわずか数㍉積もっただけで停電を引き起こし、空港の滑走路も使用不能になり、道路の白線も見えなくなって、避難に役立つとは思えない。火山灰が電力供給システムに甚大な被害を出し、原子炉を冷やすのに支障が出る可能性もある。津波が来なくても福島の原発事故の二の舞いが起こりうる。


 では、地震予知は可能なのか? それに関しては次のようにのべている。「前震」は地震予知の手法のなかでもっとも有力なものとして研究されてきた。前震が認識できれば「これからもっと大きな地震が来る」ことを予知できるからだ。しかし今回、結局分からなかった。天気予報は当たらないこともあるが、観測値を入れれば明日の天気が計算できるような方程式がすでに分かっている。これに、日本の陸上だけで1300地点もあるアメダスの観測データや気象ゾンデでの上空まで入れた三次元的なデータを入れれば、計算が可能である。しかし、この種の「方程式」は地震については見つかっていない。科学的に地震を予知する根拠はまだないのだ。たとえば中央構造線のどこかで、いずれ地震が起きることは分かるが、いつ、どこで起きるのかは分からない。それが現在の地球物理学の限界なのだ。


 そして島村氏は、最後に次のようにのべている。

 

 日本が世界有数の地震・火山国であるからといって、一般市民が過度に心配する必要はない。こうした活動の周期は人間の寿命よりもずっと長いからだ。できる備えはするべきだが、それ以上の心配をしたら心穏やかでは暮らせない。ただし、原発などは話が別だ。高レベル核廃棄物は放射能レベルが下がるまで10万年もの間、隔離しなければならない。そんな長い期間、安全だといい切れる場所などない。このことをしっかりと認識すべきだ。



 南海トラフ地震に影響



 今回の熊本地震をめぐって、他の研究者もこの「中央構造線」の問題を重要なポイントとして発信している。


 阪神大震災後に熊本県活断層調査委員会の委員を務めた、高知大学防災推進センター特任教授の岡村真氏(地震地質学)は、今回の熊本地震は「中央構造線断層帯」の延長で起きたと指摘し、「同じような地震は大分、愛媛などでも起きる可能性がある」として、日頃からの備えが大事だと呼び掛けている。


 岡村氏は、中央構造線では過去約7300年の間に少なくとも五回、大地震が起きていると指摘する。最も新しいのが、別府湾の海底を震源とした1596年の「慶長豊後地震」で、大分では島が沈んだ瓜生島伝説もある。また、中央構造線近くの伊予(現在の愛媛県)、伏見(同京都府)でも5日間のうちに大地震が発生し、その9年後に南海トラフ巨大地震が起こった。今後、中央構造線が広範囲に連動し、大地震を起こす可能性はあるのかについて、岡村氏は「どこにどのくらいの力がたまっているか、今の科学では分からない」とのべている。


 将来発生が想定されている南海トラフ地震との関連性を指摘する声も上がっている。地震予知連絡会会長で京都大学教授の平原和朗氏(地震学)は、「大分の地震は震源地から100㌔近く離れており、余震とは考えにくい。大分県の別府―万年山(はねやま)断層帯が誘発されて動いた可能性もある。今後、何が起こるかはわからない。仮に中央構造線断層帯がどこかで動けば、長期的には南海トラフ巨大地震に影響を与える可能性があるかもしれない」とのべている。


 京都大学名誉教授の梅田康弘氏(地震学)も「過去の事例でも、南海トラフ地震の前には、前兆のように内陸地震が活発化している」と指摘している。今月1日には三重県南東沖地震が起きており、「昭和の東南海、南海地震と同じメカニズムと見られ、南海トラフでの巨大地震を誘発した可能性もあった」とのべている。


 日本列島では過去にも、内陸地震の後に、西日本の沖合を震源とする南海トラフ巨大地震が100~200年周期で発生し、大津波によって大勢の死者を出すという歴史をくり返してきた。南海トラフ地震となった1944(昭和19)年の東南海地震、1946(昭和21)年の南海地震の前には、鳥取地震(1943年)、三河地震(1945年)など、1000~3000人が犠牲となる内陸地震が発生している。研究者は「今回の地震を一過性のものと考えるべきではなく、警戒が必要だ」と呼びかけている。


 南海トラフは、静岡の駿河湾から九州の宮崎沖まで続く海底の溝(トラフ)で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込む場所である。プレートが関連する海溝型地震と、熊本地震のような活断層が起こす内陸直下型地震は、地震発生のメカニズムが違うが、南海トラフでの動きが九州の活断層に影響を与え、その結果熊本地震が起きた可能性はあると研究者はのべている。



 関東の断層帯にも注目



 関連して日本列島を縦に貫く大断層「糸魚川―静岡構造線断層帯」についても指摘されている。


 2014年11月22日、長野北部地震が起き、25日にも長野県小谷村で地震があった。最大震度六弱(M6・7)、余震90回というこのときの地震は、神城断層が動いて発生したと見られている。神城断層は糸魚川―静岡構造線断層帯の一部である。同年9月には御嶽山(おんたけさん)が噴火したが、御嶽山もこの断層帯の上にある。


 東北大学災害科学国際研究所教授の遠田晋次氏は、「1000~2000年かけて地表がズレた“ひずみ”が今度の地震で解放されたことになる。となると、阪神大震災クラスの地震(M7・2)が起きても不思議ではなかったが、今回動いたのは神城断層のごく一部。震源の深さは約10㌔だった。糸魚川―静岡構造線断層帯は全長150㌔といわれている。松本―甲府にかけては、一度にズレたら最悪M8クラスの揺れが起きるとされている。今度の地震が今後、どう影響するかは分からない状況で、調査を進める必要がある」とのべている。


 この地震直後には、震度五弱を記録した長野県小谷村で、南北に流れる姫川の水位が一時40㌢も低下した。糸静線の西に位置する岐阜県飛騨市神岡町の地下水観測所では、一時毎分130㍑だった流量が25㍑に激減した。9月には富士山の北麓に位置する山梨県笛吹市石和町の道路が、縦7㍍、横4㍍、深さ3㍍にわたって陥没した。琉球大学名誉教授の木村政昭氏(地震学)は「河川の水位低下、地下水量の減少、道路の陥没は、地盤沈下で説明がつく。活断層・糸静線や富士山周辺の地殻が少しずつ下がっているのだ。火山のマグマだまりはスポイトのつまむ部分みたいな構造で、断続的に刺激を受けていると、富士山のマグマだまりが刺激され、噴火に結びつく恐れは十分ある」とのべている。


 糸魚川―静岡構造線断層帯は、リニア新幹線(全線の八六%がトンネル)の建設ルートである南アルプス地域に重なっており、運行中の地震に対する備えがまったく不十分と指摘する専門家は多い。この断層帯の上に浜岡原発がある。


 研究者たちは、地震・火山列島日本のあるがままの姿を科学的にとらえ、将来に必要な備えをすべきことを力を込めて訴えている。「何千年、何万年に一度のリスクなど考える必要はない」「大地震や火山噴火になればどうせみんな死ぬんだから原発事故対策をしても意味がない」という論理がいかに反社会的で破滅的であるかはいうまでもない。目先の金儲けにうつつを抜かす為政者たちが自然を侮り、願望でしか物事を判断することができない日本社会の姿を浮き彫りにしている。


 科学者たちの積極的な発言が求められている。

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