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種子法廃止違憲訴訟 第1回口頭弁論終える 農家・消費者1300人が東京地裁に訴え

 主要農作物種子法(種子法)の廃止(2018年4月1日)は生存権を保障する憲法25条などに抵触するとして違憲確認などを求め、全国の農家・消費者など約1300人(提訴当時)が東京地裁に起こした裁判で、21日に第1回口頭弁論がおこなわれた。昨年5月24日の提訴からコロナの影響などで日程が延期になっていたものだ。猛暑のなか、100人近い支持者などが裁判所前に集まった。原告団の弁護士など3人が意見陳述し、国側は反論を書類で提出したのみで、口頭で意見はのべなかった。原告は、山田正彦元農林水産大臣が幹事長を務める「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」が募っており、現在も人数が増えているという。


 種子法は1952年、戦後の食料増産のために主要農作物の優良な種子の生産・普及、国内の自給率を上げることが課題となるなかで制定され、都道府県の管理のもとで地域に合った優良品種、奨励品種を指定するための試験などのほか、ほ場を指定して優良品種の原種・原原種の生産をおこなうことを都道府県に義務づけてきた。このもとで、採種農家は安心して種子を生産することができ、一般の農家は優良な種子を安い値段で購入することができ、消費者は安全な主要農作物を安く購入することができた。だが、2018年4月、廃止法案が提出され、まともな審議もないまま廃止された。


 訴状では、突如提出された種子法廃止法案が衆参両院合わせてわずか10時間程度の審議で成立したこと、これがTPP協定妥結に合わせて検討され、実行されたものであることを明らかにしたうえで、憲法で保障される「生存権」には、安心安全な食料の安定供給を受ける権利=食料主権が含まれているとの見解を前面に押し出し、種子法の廃止は、国民の権利である食料主権を侵害するものだと訴え、


・種子法廃止法が違憲であることを確認する
・原告1(一般農家)が種子法に定められた諸々の措置を経て生産された種子を用いて主要農産物を栽培できる地位にあることを確認する
・原告2(一般消費者)がその農産物の供給を受ける地位にあることを確認する
・原告3(採種農家)はみずからの所有するほ場が種子法に定められた「種子生産ほ場」として都道府県によって指定される地位にあることを確認する
・被告の国は原告らに対して各1万円を支払え

 

の5点を求めている。

 

遺伝子組み換え種子の蔓延危惧

 

 訴状では種子法制定の経緯からその役割、廃止に至る過程や影響について詳細に分析し、問題点を指摘している。


 農家や種子農家の経営が成り立たなくなることに加え、都道府県が厳格な管理のもとに安全な種子を生産しなくなり、奨励品種の指定をおこなわなくなった場合、これまでの水準を満たさない品種が出回る可能性もあり、将来的には遺伝子組み換え作物の種子が日本の種子市場を席巻し、安全性が確認された種子が駆逐される危険性もあるなど、消費者の食の安全を脅かし、農作物の高騰につながる可能性も指摘。「農業者が自由に天然資源である種子を使って安全安心な農作物を栽培することやその農作物を消費者が購入して消費することは『食料への権利』として当然に憲法25条の生存権規定が保障していると解釈されなければならない」「種子法廃止によって農業者が種子法によって供給されてきた安価でありながら優良かつ安全・安心な種子によって農産物を生産し消費者がその農産物を購入して消費する機会を奪い、農業者や消費者の『食料への権利』を積極的に侵害したことは、明らかに憲法25条に違反するものである」と訴えている。


 山田正彦弁護士は、「これまで生存権をめぐる訴訟は生活保護をめぐるものが多く、イラク派兵の違憲訴訟のなかで平和的生存権が認められたが、安全で安心な食料の提供を受ける国民としての権利について争われた事例はない。今回の訴訟が初めてとなる」と話す。


 世界的にみると、1948(昭和23)年に第3回国連総会の決議として採択された「世界人権宣言」は第25条1項で「すべて人は、衣食住、…により自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利…を有する」と明記されている。また1966(昭和41)年の第21回国連総会で採択された国際人権規約のうち「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」の第11条では、「食料への権利」がより具体的に規定されており、これはだれでも、いつでも、どこに住んでいても、人が生まれながらに持っているもっとも基本的な権利であり、この規約を締結した政府(日本政府も締結)は、国内で暮らすすべての人々がその権利を行使する手段を保障する責任を負うことを明確にしている。


 今回、原告団はこの点を明確に押し出して違憲訴訟をたたかっており、世界的に認められている基本的人権である食料への権利を日本の裁判所が認めるかどうかが注目されている。


 種子法廃止、農業競争力強化支援法、種苗法改定の三つはTPP協定のもとでセットで動いており、今回の訴訟はその流れに楔を打ちたいという思いでおこなわれている。


 第2回口頭弁論は12月11日(金)、第3回は来年3月22日(金)におこなわれる。

 

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