いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

“生存権を脅かす種子法廃止” 種子法廃止違憲訴訟の最終弁論論旨 注目される来年3月の判決 

TPP交渉差止・違憲訴訟の会が発行した違憲訴訟証言集

 「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」(代表・池住義憲、弁護団共同代表幹事長・山田正彦)が呼びかけ、全国の農家や消費者1533人が原告となって2019年後月に提訴した「種子法廃止等に関する違憲確認訴訟」の最終弁論が今月7日におこなわれた。この日、原告と代理人5人が意見陳述に立ち、多角的に種子法廃止の問題点を訴えた。雨の降るなか、門前集会に多くの人が集まり、終了後に衆議院第一議員会館大会議室でおこなわれた報告会には300人近い人々が集まるなど、関心の高まりを示した。

 

 この裁判では、一つ目に食料への権利が憲法25条(生存権)により認められる基本的人権であることを明らかにすること、二つ目に種子法廃止が食料への権利を保障する憲法に違反するものを明らかにすることを目指している。憲法25条で定める「健康で文化的な最低限度の生活」に食料は必須だが、これまで食料への権利と憲法25条との関係についての議論は、裁判でも憲法学の分野でもほとんどなされてこなかったという。その意味で、今回の裁判は食料への権利に関する憲法判断を問う初めてのケースになるという。

 

 7 日の最終弁論では、原告代表で池住義憲氏が意見陳述をおこなったほか、田井勝弁護士(食料への権利について)、岩月浩二弁護士(種子法廃止による被害)、平岡秀夫弁護士(種子法廃止に伴う財政上の問題)、古川健三弁護士(種子法廃止の違憲性について)の4人の弁護士が意見陳述をおこなった。

 

 池住氏は、1996年11月にイタリア・ローマで開催された世界食糧サミットで採択された「ローマ宣言」にふれ、参加185カ国の代表が、十分な食糧に対する権利と飢餓からの解放は基本的権利であること、安全で栄養ある食糧を入手する権利はすべての人々が有していることなどを再確認したとのべた。この宣言は、「衣食住の権利」を基本的人権として認めている世界人権宣言と同じであり、日本も批准している国連社会権規約「十分な食料への権利」と同一だと指摘。種子法廃止法が国際的流れに逆行していること、「コロナ禍」「中国による大量の食糧輸入」「異常気象」「ウクライナ戦争」の四つが重なって起きている今日の世界的食料危機に追い打ちをかけていることを指摘した。

 

 田井弁護士は、憲法に食料について明言する規定はないものの、「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を確認」するとした憲法前文や、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(憲法25条1項)などから、食料は生存権、幸福追求権に包含されているものであると指摘。種子法は「食料増産という国家的要請」や「食糧安全保障の重要性」という観点から、食料の質、量を確保するために生産者を支援する法制度であって、憲法上の生存権や幸福追求権の基盤である食料への権利を保障する法律であると理解すべきであることなど、憲法や食料・農業・農村基本法など法律に沿って種子法廃止法の違憲性を指摘した。

 

 岩月氏は、日本の食料自給率が37%(2020年)と最低水準にまで低下しており、穀物自給率は28%と、人口1億人をこえる11カ国のなかで圧倒的に低い(日本に次いで低いメキシコは69%)ことを指摘した。さらに野菜の種子は9割が海外で生産されており、実質自給率はわずか8%に過ぎない現状から、穀物についても種子法を廃止し、種子事業を民間にゆだねれば、2035年にコメの実質自給率は11%まで低下すると予測されている(鈴木宣弘氏による予測)ことなどをのべ、種子生産の公的責任を解除した種子法廃止法が食料自給に壊滅的な影響を与えることを指摘した。

 

 平岡氏は、種子法廃止が財政的に与える影響についてのべた。国は「種子法廃止後も、都道府県は、必要な種子の供給事務を継続している」「種苗法及び農業競争力強化支援法に基づき、引き続き地方交付税による措置がされている」と主張しているが、実際には必要かつ十分な財政措置がなされているか何ら実証されていないこと、詳細を明らかにしようとしない国の態度から、今後予算が徐々に減少し、ゼロになることの危険性は極めて高いことなどを、すでに栃木県で原種の値段が3倍に上がったという実例も示しながら話した。

 

 古川氏は、経済規制立法および規制緩和・撤廃立法の分野では、その審議と決定のプロセスが重要であり、司法には審議過程に対して審査をおこなうべき役割ないし機能があるとした、土屋仁美氏(憲法学者)の証言を引用。この観点から見ると「審議において十分な情報が議員に提供されないという救いがたい瑕疵があり、立法を正当化できるプロセスはまったく存在しなかった」と指摘した。

 

 また、社会権利保障の「制度後退禁止原則」に照らしても「種子法廃止には致命的な憲法上の問題がある」と指摘。「食料への権利は具体的な権利として憲法に保障されていない、などと寝言をいって食料の生産と安全性確保を自由競争に委ねていては、狭い国土の日本に住む私たちには、60年、70年前のように、満足にものも食べられない時代が再び来る。それは決して遠い未来の話ではない」とのべた。生存権についての判例として朝日訴訟第一審(昭和35年10月19日東京地方裁判所判決)の浅沼茂裁判長の「憲法は絵に描いた餅ではない」という言葉を引用し、「どれだけ立派な憲法をいただこうとも、安心して食べられるものがなければ国は滅びる」と訴えた。

 

 この裁判の判決言い渡しは来年3月24日におこなわれる。

 

証言収録した冊子を発行

 

 今年6月3日にあった第7回口頭弁論では、原告の菊地富夫氏(採種農家)、舘野廣幸氏(有機農家)、野々山理恵子氏(消費者)、証人として山口正篤氏(元農業試験場職員)、鈴木宣弘氏(農業経済学者)、土屋仁美氏(憲法学者)の計6人が証言をおこなった。「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」「TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団」は、今年9月、その証言を収録した冊子『私たちに「食料への権利」を! 種子法廃止・違憲確認訴訟 証言集2022』(A4判、68ページ、定価・税込700円、送料別)を発行しており、本裁判の経緯や種子法廃止の問題点について詳しく伝えている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。