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広島農業ジーンバンクの存続求めオンライン署名 地域の伝統野菜の伝承支える重要な基盤 廃止方針の広島県

 広島県が「農業ジーンバンク」を2023年3月をもって廃止する方向を決定したことをうけ、「広島県農業ジーンバンクを守る会」は、「1988年から広島県の固定種の種子を守り、その採種方法を伝授している広島県農業ジーンバンクの存続を求めます!」とするオンライン署名をとりくんでいる。種子法の廃止や種苗法の改定によって大企業による種子の占有が懸念されるなか、地域の在来種の種子を保存し活用していくことがこれまで以上に重要性を増すなかでの廃止だ。収集してきた遺伝資源の多くは、広島県から遠く離れた茨城県つくば市の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)に移譲されることになっており、存続に向け署名への協力を呼びかけている。

 

広島県の伝統野菜の一つである「広島菜」

 広島県農業ジーンバンクは、失われつつある農産物種子の保存とその再活用を目的として1988年に設立された。1970年代にバイオテクノロジーの技術が開発され、それ以降、世界の遺伝資源保有国での資源囲い込みが顕著となり、新しい品種をつくり出す元となる遺伝資源の確保を海外に求めることがほとんど不可能になっていた時期だった。

 

 長くこの事業を支えてきた船越建明氏(元農業ジーンバンク現場補助員)は2019年に日本の種子(たね)を守る会の集会で、「アメリカは早くから世界の遺伝資源を集め、約55万点を保存している。日本の動きは遅れ現在でも20万点ほどしか持っていない。一方、1950年代からとくに野菜や花などの作物でF1化が進み、自家採種の技術が急速に失われ、在来種が失われていくなかでの設立だった」と話している。広島県内に現存する作物の種子を中心とした遺伝資源の探索収集をおこなったほか、九州大学や京都大学、鳥取大学などさまざまな大学が保存している遺伝資源も分離を依頼するなどして収集し、その数はイネ類約8000、麦類約3000、豆類約1600、雑穀・特作約1000など、合計で1万8600点にのぼる。

 

 一般的にジーンバンクは研究者や育種の専門家にしか種子を提供しない。だが、広島の場合、借りた農家が翌年、栽培の結果報告とともに配布を受けた種子と同量以上の種子を返却することを条件に、一般農家にも種子を貸し出し、地域の農家、農業とともに歩んできた。

 

運営基金の残高減少が原因 納得いく説明なく

 

 広島県が廃止を検討していることは、2017年に報道で明らかになった。ジーンバンクの運営は2013年度に県森林整備・農業振興財団に移管しており、バンク設立時に約3億円あった運営基金の残高がその当時で約5000万円まで減少していること、当初は利息分を運営にあてていたが、金利の低下などで近年は取り崩しが続き、基金残高が底をつけば運営費を捻出することができないという財政上の問題が理由だ。

 

 これを知った園芸グループ「くちた園芸サロン」が現状のままの存続を求める署名活動をとりくみ、2019年12月に「広島県農業ジーンバンクを守る会」を結成。署名は総計で2684筆にのぼった。これまでに何度も県との折衝を重ねてきたが、県農林水産局は「なにも決まっていない」という説明に終始してきたという。

 

 だが、昨年4月から「県ジーンバンク運営にかかる検討会」が開催され、わずか4回の会合をへて廃止が決定された。検討会メンバーは農林水産局職員、総務局とジーンバンクを運営する広島県森林整備・農業振興財団理事長で構成されており、農業者やJA、「守る会」などのメンバーは含まれていない。検討会開催の知らせもなく、昨年7月、廃止の動きを知った同会が説明会の開催を要望し、同10月に説明会が開催された。だが、説明会の参加者によると廃止ありきで、農研機構のジーンバンクがいかに立派かという説明がなされるばかりで、納得のいく説明はなかったという。

 

地域に根ざし地場農業支援 貴重な遺伝資源守る

 

 同会は署名の呼びかけのなかで、広島県農業ジーンバンクが世界に誇る三つの特色をあげている。

 

 ①広島県という地方自治体の主体性を持った関与
 ②種子の収集に農業改良普及員OBが深く関わったこと
 ③集められた種子を県内の農家に無償で貸し出してきていたこと

 

 2009年から実施された「広島お宝野菜」プロジェクトでは、青大きゅうり、観音ねぎ、矢賀ちしゃ、川内ほうれんそう、笹木三月子大根などが県内の農業生産法人などに有望な品種として提供され、地域活性化につながった。福山が原産地の青大きゅうりは、地元でも種子の入手が難しくなり、栽培者も消滅しかけていたが、ジーンバンクが種子を提供し、採種・栽培の支援をおこなうことで、旧世羅町で栽培が復活したという。

 

 こうしたジーンバンクが果たしてきた役割を踏まえて「全国的に伝統野菜が人気を集めているなか、広島の農業ジーンバンクは伝統野菜復活を支える重要な基盤として機能してきた。このような特徴を持ったジーンバンクはとても希少だ」とし、「遺伝資源が貴重になり、食料自給率の低い日本で食糧危機の不安も増加している昨今、国の機関に同じ遺伝資源があってもリスク分散のために広島を含む各地域にジーンバンクの仕組みがあることが重要と考えます。広島県の固定種は広島での育成に適しています。その面からも広島県に今在るジーンバンクの存続を求めます」と訴えている。

 

 署名を立ち上げた東広島市在住の女性は、東日本大震災当時、東京に居住しており、福島原発事故の影響で水が飲めなくなった経験を持つ。ちょうど妊娠中だった。その経験から、いかに農研機構の冷蔵庫が立派であっても、停電や災害などでダメージを受ける可能性があり、「リスク分散のうえでも、広島県で保存することは大切だ」と指摘する。以前、署名活動がおこなわれていたことを知らず、「急にジーンバンクの廃止が決まったという感じがあったが、経緯がはっきりせず、とにかくできることをやろうと署名を立ち上げた」という。「食べ物を食べないで生きている人はいない」。署名には、ジーンバンクの存在を多くの人に知らせ、種子の問題に関心を持ってもらいたいという願いも込めている。署名は2月中旬に締め切り、県知事・県議会に提出する予定だ。

 

署名はこちらのサイトから

広島県農業ジーンバンクを守る会サイト

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