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綻びはじめたコンビニの24時間営業 ドミナント戦略でオーナー追い詰め

株主利益最優先で暴利

 

 大阪のセブン・イレブン店長が、人手不足から家族を総動員したり過労死を招く長時間労働にならざるをえない現状を訴え、24時間営業の短縮を求めたが、セブン・イレブン・ジャパンは逆に違約金を払えと脅した。この問題で全国のフランチャイズのコンビニ・オーナーらが同社に団体交渉を申し入れたが、同社は「労使関係はない」といって拒否した。そして今月に入り、親会社のセブン&アイ・ホールディングスが責任をとらせる形で同社の古屋一樹社長を退任させたが、問題は解決したわけではない。流通経済の専門家やジャーナリストが著した書籍をもとに、今回の問題の背景を探ってみた。

 

 全国に1万9000店あるセブン・イレブンのうち、本部とフランチャイズ契約を結んでいる店が9割以上を占める。漆原直行著『なぜ毎日コンビニで買ってしまうのか?』(マイコミ新書)は、そのシステムを明らかにしている。

 

 フランチャイズ(許可・特定営業権などの意味)チェーンとは、本部と加盟店がそれぞれ「独立した事業体」として契約をかわし、本部がロゴマークやPOSレジ、陳列ワゴン、調理什器などを提供し、商品を供給するかわりに、加盟店はフランチャイズ加盟料とロイヤリティ(権利料)を払うというものだ。ロイヤリティは粗利に4~6割程度の料率をかけた金額で、毎月それを加盟店から徴収する。一方加盟店は、残った利益から人件費や光熱費などを払わなければならない。こうしたシステムによって、本部は直営方式で多店舗展開するより低いコストで全国展開でき、収益も大きいが、加盟店は人材確保に苦しむことになる。

 

 POSシステムとは、どれぐらいの年齢の男女がいつ、どこで、どんな商品を購入したかのデータをレジでリアルタイムで収集し、それを商品開発やキャンペーンに利用するというものだ。また、弁当やおにぎり、サンドイッチといったFF(ファストフード)はコンビニの主力商品だが、加盟店舗が本部に発注してから工場→配送センターをへてその店舗に納品されるまで、最短5~6時間だという。これを毎日朝・昼・夕方の3便体制でくり返しており、1日3回設定された締め切りに対応するため、工場は24時間体制で製造を続けなければならない。電気代が跳ね上がるばかりでなく、工場で働く外国人留学生はじめバイトの人たちにも、配送センターのドライバーにも大きな負担がかかる。

 

 社会的問題になっているのが、ドミナント戦略(高密度多店舗出店方式)と呼ばれるコンビニの出店方式だ。一つの地域に同一チェーンが集中して出店する戦略のことで、面でそのエリアを押さえて競合チェーンの進出を食い止め、その地域の顧客を一網打尽にとり込んで多大な利益を上げる米国流のビジネスモデルである。

 

 たとえば北側、東側、西側それぞれ数百㍍先に競合チェーンAの店舗が営業している場所に、チェーンBの店舗が単独出店したら、直後にBの南側数百㍍のところにチェーンAが新規出店し、Bを四方向からとり囲んで閉店させたという例は、全国でよく見られると漆原氏はいう。競合チェーンの店が立ち退いた後、別の競合チェーンが出てくるくらいなら自分たちが出店してしまえ、という例も多い。そうしたなかで同一チェーンの2店舗が同時期に共倒れするように閉店してしまった例もあり、ドミナント戦略そのものがオーナーを追い詰めている。

 

米投資家が経営陣揺さぶり

 

 毎日新聞経済部編『カリスマ鈴木敏文、突然の落日』(毎日新聞出版)は、セブン&アイHDの人事抗争と会長兼CEO鈴木敏文の退任(2016年)の過程を描いたものだが、そのなかから別の問題が見えてくる。

 

 セブン&アイHDの大株主である米投資ファンドのサード・ポイントは2016年はじめ、同社の取締役会に送った書簡を公表した。書簡は、鈴木敏文が自身の次男をセブン・イレブン・ジャパンの次期社長にしようとして、当時の社長・井阪隆一を解任しようとしていると暴露し、「好業績を上げている井阪を解任するなら株主総会で行動に出ざるを得ない」と人事介入の脅しをおこなった。書簡はまた、イトーヨーカ堂を切り捨て、そごう・西武からの投資から撤退するよう要求した。書簡はさらに「セブン・イレブンの収益性を伸ばし、株主利益を改善すること」を訴え、「それは安倍首相のアベノミクス第三の矢が示す、株主利益とリターンに十分に合致する」と強調した。

 

 結果、取締役会で鈴木は多数をとれず、鈴木は退任を表明。かわって井阪がセブン&アイHDの社長に昇格した。イトーヨーカ堂は約20店舗、そごうと西武が2店舗閉鎖となった。

 

 サード・ポイントのCEOダニエル・ローブは「取締役会が株主の最善の利益にもとづいて決定したことをうれしく思う」とのコメントを発表した。サード・ポイントは「ものいう株主」として知られ、株価が割安な企業に投資して経営改革を迫り、株価が上がった時点で売り抜けて利益を手にすることを常とする。アベノミクスで株価が上昇し始めると、日本への投資に力を入れるようになった。セブン&アイHDの株式の三割は、サード・ポイントをはじめとする外国人株主が握っている。

 

 以上のことを総合すれば、外国人投資家がアベノミクスをチャンスと見て、8期連続で過去最高の営業利益と純利益を上げているセブン&アイHDに投資して暴利をむさぼってきたこと、そしてそれはコンビニ店長の長時間労働や留学生たちの深夜労働のうえに成り立ってきたものであり、それは同時に恵方巻きに象徴される食品の大量廃棄をもたらしていることが明らかになってくる。この構図の見直しが避けられないところにきているとともに、アベノミクスがいったい誰に奉仕したのかが改めて浮き彫りになっている。

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