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有明の海とともに生きる 佐賀・川副町ノリ養殖漁民の50年の経験 

佐賀空港のオスプレイ配備に反対する住民の会・古賀初次氏の講演より

 

 佐賀空港へのオスプレイ等配備反対地域住民の会が4月27日、「佐賀空港の発展を考える」連続講座の第4回目を佐賀市内で開催し、約70人の市民が参加した。最終回となる今回は、地域住民の会会長でもあり50年間有明海でノリ養殖をおこなっている漁師の古賀初次氏が「有明の海とともに生きる」と題して講演をおこなった。

 

 初めに副会長の原口氏が挨拶した。原口氏は「この反対運動を始めてもう5年目になる。そのなかで昨年山口県知事が突如としてオスプレイの受け入れを表明した。しかし、県が空港建設時に漁協と結んでいる公害防止協定のなかには、はっきりと自衛隊との共用はしないと書いている。また事前協議をおこなうことも明記されているにもかかわらず、その事前協議もない。佐賀県民84万人のトップである県知事が、公文書を無視するということは許されるものではない。県知事は自分のことを権力者だと思っているのだろうか」と批判した。そして「私たちはこれからもオスプレイ反対の運動を続けていく。そのためにはみなさんの力が必要だ。これからもご協力をお願いしたい」とのべた。

 

◇-◇ 古賀初次氏の講演 ◇-◇

 

有明海の幸奪った国策

 

 私は50年間、有明海で漁師をしてきた。70歳になって一つの区切りとして、みなさんの前でこうして話ができることを嬉しく思っている。

 

 最初に有明海というものを紹介したい。有明海は佐賀県と福岡県、長崎県、熊本県と4つの県に囲まれた、とても静かで穏やかな内海だ。有明海には筑後川、嘉瀬川、塩田川、六角川など、たくさんの川から水が流れ込んでいる。いろんな大小の河川が有明海に流れ込んできて、栄養豊かな有明の海となっており、私はここに生まれてきて本当に良かったと思っている。

 

 ここでとれる魚介類は、有名なムツゴロウをはじめ、ワラスボ、アゲマキ、メカジャ、アサリガイ、タイラギ、アカガイ、ウミタケ、私が一番好きなハシクイ(ハゼ)などなんでもとれていた。

 

 佐賀空港の辺りは魚の稚魚、貝など何でもとれる宝庫だった。今の諫早干拓の諫早湾もそうだった。だからうちの祖父母がそこでハゼ縄(ハシクイ縄と呼んでいた)をしていた。祖父がとってきたハゼを祖母や母が売りに行っていた。売れるときは飛ぶように売れるが、売れなかったときは母がしょんぼりして家に帰ってきていたのを覚えている。

 

 春から夏、秋から冬、有明海では1年中いろんな美味しい物がとれていた。春になってノリが終わり杭を抜いて網も揚げてしまう。私が一番楽しみにしていたのが、その後の潮干狩りだ。子どもから若者、年寄りまでみんなが船に乗って潮干狩りに行く。お弁当を持って大人はみんな船の上でお酒を飲んで、陸に上がったときはふらふらになっていた。それが本当に楽しかった。

 

 そして帰ってきてからみんなで「誰がなにをとった」「こんな大物をとった」と自慢しあう。なかにはとても大きなアシナガダコをとって帰ってくる人もいた。この思い出を孫に話すと「じいちゃん、今もそんなにおる?」と聞かれるが、今はなにもいなくなってしまった。それが私は一番悲しい。

 

 夏になればムツゴロウが出てくる。ムツゴロウは竹竿の先に針金を付けたものでとる。ウミタケは、海水と一緒に入れて踏んでもみほぐすと白くなる。それを水洗いしたものがさらしウミタケといってごま醤油をかけたり、そのままでも食べられる。また粕漬けにすると長持ちして美味しい。

 

 タイラギは刺身でも良し、焼いても良しで本当に美味しい。私は冬場のタイラギが本当に好きだ。冬の一週間だけ大潮のときにとれる。ノリもやっている時期だから忙しいが、その時期をめがけてみんなでとりに行く。とれたてのタイラギは醤油もなにもいらない。そのまま食べられる。貝柱も美味しいがビラも海水でギュッギュッともみ洗いして食べる。それが本当に美味しい。私が高校を卒業したその年は、ノリが全然とれなかった。だから叔父と一緒にタイラギをとりに行ったことを覚えている。そのときは1日で100㌔くらいとれていた。それくらい大牟田のところにはタイラギがいた。

 

タイラギ

アゲマキ

ウミタケ

ハシクイ

ムツゴロウ

ワラスボ

 タイラギをとっていた漁師はいい生活をしていたが、諫早干拓以来まったくとれなくなってしまった。元の有明海に戻してほしい。有明海中にタイラギはいた。私が聞いた話では、諫早干拓をつくるときに一番いい砂地の砂を全部コンクリなどに使っているという。国策というのは漁業者が知らないうちにろくでもないことをする。大失敗の事業だ。だから私は今でも国のいうことはまったく信用できないと思っている。影響ないというがそんなのは口ばかりだ。

 

 今話したように昔の漁師はみんな、春夏秋冬といろんな漁業をしてきた。

 

 それが「とる漁業から育てる漁業」へと転換していったのがノリの養殖だと私は祖父から聞かされている。

 

 昭和27年に私の母方の祖父がノリの養殖を始めた。本当に私の自慢だ。それまで熊本ではノリの養殖がされていたが、佐賀ではまだノリ養殖はしていなかった。周りからいろいろいわれながらも東京に行ったり千葉に行ったりして、失敗をくり返しながらノリ養殖の研究をした。借金もたくさんあったと母からは聞いている。祖父は膝の上に私を乗せ「初次、次は成功するけんね」と話してくれた。これが私がノリ養殖を継いだ原点だ。

 

 大人になっていろんな人から「じいちゃんのお陰で今がある」といわれた。本当に祖父のお陰で今の私たちの生活がある。たくさんの苦労を乗りこえて、今はほとんどの作業が機械化されてだいぶ楽になった。昔は機械がなく、ノリ養殖は力仕事だったから家族だけでなく人夫さんも雇って大人数でやっていた。それもいい思い出だ。

 

 この前、昔雇っていた人夫さんから「古賀さんがオスプレイ反対で頑張っているのをテレビで見たよ」と連絡があった。本当に50年間頑張ってきてよかったと思う。いいことばかりではないし、苦しいこともあった。昔はノリだけでなくたくさん貝類もとれていたから「ノリが駄目なら他ので稼ぐからいいさ」といっていたが、今はそうもいかない。ノリ養殖は博打みたいなもので、いいときはいいが駄目なときはすってんてんになってしまう。

 

 私たちの仕事場は板一枚下は海で、私も何度か死にそうな目にあったこともある。それでも海のおかげで私たちが生きている。だから海の神様や自然を大切にして生きてきた。われわれに与えられたノリの仕事で飯が食える、生活ができる。これを後世の子や孫に残していくのが私たちの責任だと思っている。

 

 だからオスプレイ問題も絶対に反対だ。国の防衛のためだというが、そこで生活を営んでいるわれわれのことはなにも考えていない。国の防衛ではなく軍備の拡大だ。これからもこの佐賀空港の問題をみなさんと勉強をしながら一緒に考えていきたい。(おわり)

 

加工したノリの最終チェック(佐賀市川副町)

伝馬船に乗ってノリの養殖作業をおこなう

 活発な意見交流 26日には決起集会開催

 

 今回初めて参加した佐賀市内の男性は「初めて参加してとてもいいとりくみだと感じた。もっと若い人たちにも参加してほしいと思う。佐賀空港は九州のへその位置にある。だからこれをもっと商業的に活用すればいいと思う。例えば佐賀のノリも空港から全世界に輸出して世界の佐賀ノリにすればいい。佐賀だけでなく九州にはすぐれたものがたくさんある。このオスプレイの反対運動が反対のための反対にならないように、みんなで考えていきたい。このような活動を地道でも続けていくことが大切だ」とのべた。

 

 2回目の参加だという女性は「このような活動を地道に続けられていることに感謝している。古賀さんのお話を聞いて、こうやって命が繋がってきているんだなと感じた。有明海とともに生きてきた古賀さんが、自分の言葉として語ってくれたのが本当に嬉しかった。川副町の人たちは、当事者だからこそ口に出せない部分もたくさんあると思う。だからこそ、私たちが声を上げていかなければいけないと思った。このままの状況を孫たちに残すわけにはいかない」と語った。

 

 初めて参加した神埼市の女性は「古賀さんの話を聞いていて胸が熱くなった。ここでしっかり生きてきた人なのだということを感じた。この地を愛してこれからもこの地で生きていこうとしているところに、突然オスプレイ問題が湧いてきた。そのことに怒りを感じる。オスプレイは軍事基地以外の何物でもない」と話した。

 

 別の女性は「2回目の参加だが、古賀さんの話を聞いていて涙が出た。貝からノリにかわる過程など、本当に今日来てよかったと思う。私も子どもがノリにかかわる仕事をしているため他人事ではない。福島原発事故が起きてから、知らないというのは本当に恐ろしいことだと思うようになった。福島の人たちもまさかあんなことになるとは思っていなかったと思うが、一歩間違えるとオスプレイも大変なことになる。今日この連続講座に参加する前に友人たちに“オスプレイの勉強会に行ってくる”というと、みんな“オスプレイは反対よね”といっていた。見えない場所でみんな応援している。頑張って下さい」と熱い思いを語った。

 

 なお、今後は5月26日(日)に佐賀市川副町のスポーツパーク川副体育センターで午後1時30分から「オスプレイ反対5・26決起集会」が開催される。

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