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迫る!食料・農業危機 私たちは何をすべきか―ミサイルでは守れない命と生活、地域の未来 東京大学大学院教授・鈴木宣弘 

廃業し、牛がいなくなった牛舎を見つめる酪農家(3月、山口県)

れいわ新選組・政策勉強会in熊本

 

 れいわ新選組は1日、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏を講師に招き、政策勉強会「迫る! 日本の食料・農業危機~食と命を守るために私たちができること~」を熊本市で開催した。全国10カ所で予定されている勉強会の初日となった熊本会場には約100人の聴衆が来場し、鈴木氏は日本の食料をめぐる問題を歴史的・構造的に紐解き、食料自給と国内農業を守るため地域から新しいうねりを作っていく必要性を訴えた。れいわ新選組は、勉強会を通じて全国各地の食料生産地が抱える問題を踏まえながら政策に練り上げていくことにしている。鈴木氏の講演の要旨を紹介する(文責・編集部)。

 

◇       ◇

 

鈴木宣弘氏

 私は三重県の志摩半島出身で、半農半漁を営む両親の一人息子として生まれ、田植え、稲刈り、野菜栽培、メインの真珠養殖、うなぎ、牡蠣、ノリの養殖などもやってきた。現在も伊勢農協の正組合員であり、農家そのものの立場で現在の状況を危惧している。

 

 日本の食料自給率は現在、種や肥料の自給率の低さも考慮すると38%どころか10%あるかないかだ。海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が出る国となっている。国内生産を増強しなければならないが、国内農業は生産コストが倍増しているのに農産物価格は上がらず、廃業が激増しかねない状況にある。なぜこんなことになっているのか?

 

 遡ると終戦直後、アメリカは日本を余剰農産物の在庫処分場として位置づけ、徹底的な貿易自由化(関税撤廃)を迫り、日本人をアメリカの農産物に依存させた。しかもアメリカの小麦を食べさせるために、学者を使って「コメ食低脳論」まで流布して洗脳し、「食生活の改善」という名目で食文化を改変するという政策までおこなった。

 

 これを活用したのが経済産業省で、アメリカを喜ばせるために食料(農産物)を生贄として市場開放(関税撤廃)し、「自動車などの輸出でもうけて食料は海外から買えばいい」という考え方を定着させた。

 

 もう一つは財務省、つまり財政政策だ。1970年には農水予算は約1兆円あった。防衛予算の2倍だ。ところが、50年以上たって一般会計予算は14・4倍に増えているのに、農水予算は約2・3倍の2兆円。一方、防衛予算は18倍にまで膨らんで年間10兆円をこえている【表参照】。

 

 さらにいえば、再生可能エネルギー(太陽光発電)からの電力買いとりで事業者に払われている金額だけで4・2兆円だ。それだけで農水予算の2倍だ。

 

 軍事・食料・エネルギーが国家存立の三本柱といわれるが、そのなかでも食料は最も命にかかわる源だ。にもかかわらず歴史的に予算が削られてきた。それはアメリカの思惑に合致しており、これによって国内農業は苦しくなり、輸入は増えて自給率は下がる。こういう流れをわれわれはみずからも作ってきた。当然にも食料危機が悪化し、今どうするのか? という騒ぎになっている。

 

危機に脆弱な輸入依存 自由貿易論は破たん

 

 日本の食料危機は今、クワトロ(4つの)ショックといわれる状況にある。

 

 コロナ禍で物流途絶が現実味を帯び、中国の「爆買い」が勢いを増した。ほとんどのものが日本が買い付けに行っても残っていない。中国が高値で買い占め、日本の商社が主導権を握っていた時代は終わったといわれる。

 

 世界的需要が増すなかで、異常気象は通常気象(例年の現象)になり、干ばつや洪水が頻発して農産物の不作が続いている。これほどの需給のひっ迫状況で紛争などが起きたら大変なことになる。昨年、実際にロシアとウクライナの戦争が勃発し、小麦をはじめとする穀物、原油、化学肥料の価格が高騰した。

 

 ロシアとウクライナは世界の小麦輸出の3割を占める。制裁を受けたロシアとベラルーシは、日本を敵国とみなして戦略的に輸出しない。アメリカが「ロシアが食料を武器にしている」と非難するが、それをずっとやってきたのがアメリカだ。

 

 世界の穀倉であるウクライナは、ロシアに海上封鎖されて物理的に輸出再開のメドが立たない。

 

 そこで一番心配なのは、インドのように生産力が大きな国が「外に売っている場合ではない」と自国民の食料確保のために防衛的に輸出規制をする動きだ。そのような国がどんどん増えて今や30カ国に広がった。インドは7月にコメを禁輸し、穀物の国際価格はさらに上昇している。

 

 この状況下で、まず深刻なのは酪農・畜産のエサ(飼料)だ。穀物が入らないので、飼料価格は2倍近くに上昇した。もう一つが化学肥料だ。日本はこの原料(リン、カリウム、尿素など)をほぼ100%輸入に依存している。

 

 調達先として最も大きい中国は、以前から国内向け確保で輸出を抑制し、中国と並ぶ大生産国のロシアとベラルーシも輸出してくれなくなったので、化学肥料の値段は2020年に比べて1・7倍になった【グラフ参照】。私たちは今後、化学肥料を使った慣行農業がいつまで続けられるかということまで視野に入れなければならなくなった。

 

 中国の「爆買い」については、トウモロコシの輸入量だけ見ても2016年(246万4000㌧)に比べて、22年は1800万㌧と桁違いだ。大豆はもともと多いが、今や1億㌧輸入している。日本も大豆の消費量の94%を輸入しているが、総量300万㌧で中国の端数にもならない。「買い負け」というより、最初から勝負になっていない。

 

 最近、大手商社の方のセミナーを聞いて驚いたが、中国は今アメリカとの関係悪化による紛争に備えて備蓄を増やしている。中国の人口14億人が1年半食べられるだけの穀物を買い占めているという。だから値段が下がらない。一方、日本の穀物備蓄能力は1・5~2カ月だ。この点でもまったく相手にならない。

 

 コンテナ船も大型化し、中国大連のようなハブ港には着けられるが、日本の港は小さくて着けられない。だから日本に荷を下ろさず、まず中国に運び、そこで小分けして日本に持ってくるような情けない状態だ。

 

 それでも日本政府は能天気で、この期に及んで「もっと貿易自由化を進め、調達先を増やせばよい」「日本の農家がどんなに頑張ってもアメリカ産に比べたらコストが高いのだから輸入が基本だ」という認識から抜けきれない。まさにその貿易が止まり、コスト高で生産する農家が倒れてしまえば、台湾有事が起きてシーレーンを封鎖されたら国内で食べる物はなくなるのだ。

 

 国内の食料生産を維持し、支えることこそが安全保障だ。短期的には輸入農産物より高コストでも、飢餓を招きかねない不測の事態で命を守るコストを考慮すれば、国内産のコストの方がはるかに低いのは当然だ。

 

食料自給率は実質9% 崩れる食料安全保障

 

 食料自給率をめぐっては、野菜の自給率は8割というが、その種は9割が海外の圃場で種取りしたものだ。コロナ危機でも大騒ぎになったが、物流が停止すれば野菜も8%しか自給できない。

 

 さらに肥料が止まれば4%。たとえ種を自家採種してもF1(一代限りの雑種)だから、採取した種から同じ作物は作れない。だから、できるだけ地域のよい在来種、固定種を守り、地域内で循環する仕組みを作っておかなければいけない。

 

 そのような種、肥料、飼料などの自給状況を考慮して、直近の農水省統計データから実質的自給率を試算した【表参照】。2022(令和4)年度の日本の食料自給率(カロリーベース)は37・6%。だが、これに肥料の輸入が止まることを想定して計算すると収量が半分になり、22%まで落ちる。同じく種の輸入が止まると想定すると9・2%だ。

 

 われわれの実質的な食料自給率は、1割あるかないかだ。この試算は、コメの種も海外企業に握られてしまうという極端な想定ではある。だが、それはもう進んでいる。

 

 モンサント・バイエルなどの世界のグローバル種子農薬企業が、世界中の種を自分のものにし、そこから買わなければ生産できないようにしようとしたが、世界中の農家市民の猛反発を受けて苦しくなった。苦しくなると必ず「何でもいうことを聞く日本でもうけよう」となる。そこで、まず種子法廃止でコメ・麦・大豆の公共の種(都道府県の農業試験場で採種し保存)をやめさせ、その知見を海外を含む民間企業へ譲渡せよという法律(農業競争力強化支援法8条4項)まで作った。そのうえで種苗法改定で、農家の自家採種まで制限した。

 

 「シャインマスカットの種が中国・韓国にとられたから、日本の種を守れ」ということで一連の種の法律改定をしたが、結局のところ日本の種を巨大企業に渡すような流れを要請されてやってしまった。こういうことも考慮すると、自給率は実質9%ということになる。日本人は、いざというときに命を守るという点で、どれだけ脆弱な「砂上の楼閣」に生きているのかを自覚しなければいけない。

 

 そのタイミングで米ラトガース大学の研究グループが衝撃的な試算を出した。局地的な核戦争が起きた場合、物流停止によって世界で3億人近くの餓死者が出るが、その3割が日本人(人口の6割、7200万人)というものだ。米ロの核戦争になれば、日本人はすべて餓死するという内容だが、これまで話した状況からみると当然の帰結といえる。不測の事態に国民の命を守れない――日本は果たして独立国といえるのかということが問われている。

 

セルフ兵糧攻めの日本 「コメ作るな、牛殺せ」

 

 今こそ国内の農業生産を強化し、みんなで支えることが急務であるはずだ。だが、コメの価格は「在庫が多い」という理由で1俵9000円にまで下がり、生産コストは1俵1万5000円かかるため大赤字だ。今年少し持ち直しても、肥料価格は2倍、燃料5割高が続いて赤字は膨らんでいる。こういうときに国が「余っているからコメを作るな」「酪農も脱脂粉乳の在庫が余っているから、牛乳を搾るな。牛を殺せ」というのでは、まさに「セルフ兵糧攻め」だ。生産を立て直して自給率を上げなければならないときに、みずからそれをそぎ落とすような政策をやっている。

 

 他の国は逆だ。コロナ危機で在庫が増えたのは、買いたくても買えない人が増えたからであって、実際には足りていない。だから農家には頑張って増産してもらい、それを政府の責任で子ども食堂やフードバンクに届け、国内外に人道援助物資として届ける。そのように出口(需要)を政府が創出し、消費者も農家もともに助ける政策への財政出動を各国はやっている。米国・カナダ・EUでは、設定された最低限価格で政府が穀物・乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持している。

 

 日本だけは、酪農では「需要が減り、脱脂粉乳在庫が余っている」「ホルスタイン1頭処分すれば15万円払うから、4万頭殺せ」だ。そんなことをやれば、そのうち需給がひっ迫して足りなくなるのは当然で、そのときになって慌てても牛の種付けをして牛乳が搾れるようになるまで少なくとも3年はかかる。すでにバターが足りないといい始めている。

 

 2014年のバター不足で、国は増産を促し、農家は借金して増産に応じたのに、今度は「余ったから作るな」と2階に上げてハシゴを外すようなことをやる。そのたびに農家は右往左往させられ、疲弊して潰れていく。反省もせず、いつまでこんなことをくり返すのか。

 

 日本が国内在庫を援助物資に使わないのはなぜか? かつて国士といわれた農水大臣が周囲の反対を押し切って脱脂粉乳の在庫を途上国の援助物資として出したが、彼はもうこの世にいない。つまり、日本が援助物資をやるとアメリカの逆鱗に触れることがわかっているから、政治行政の側は恐れ、国民の心配よりも自分の地位や保身の心配ばかりしている状況がある。アメリカの市場を奪うことになるからだ。

 

9割の農家が赤字経営 他国では政府が買取

 

 日本にあれこれと制限するアメリカだが、自国では「食料は武器」とみなし、重要な国家戦略として農業を保護している。たとえば農家がコメを1俵4000円で売っても、1万2000円との差額の100%を政府が補填する。農家への補填額は穀物3品目の輸出向け分だけでも1兆円規模になる年もある。そのように農家を保護しながら増産を促し、その作物を日本に安く売ることで日本人の胃袋をコントロールすれば、軍事的な武器よりも安い武器になると考えている。

 

 さらにアメリカは農業予算の64%を消費者支援に使っている。低所得者向けのSNAP(定額の食料購入支援カード)を支給するために年間10兆円を使う。そのようにして消費者の購買力を高めることによって需要(農産物の出口)を創出し、農家の販売価格も維持するというやり方だ。これによって結果的に農家も助かるから農業予算としている。

 

 こんなシステムは日本にはない。それどころか財務省は、コメを作るなというだけでなく、その代わりに小麦、大豆、野菜、そば、エサ米、牧草などを作る支援として支出していた水田活用交付金の条件を厳しくし、事実上カットした。輸入依存をやめて国産を増産しなければいけないときに、何も作れないような状況にして「また一つ農業予算を減らせた」と喜んでいる。大局的見地などどこにもない。

 

 さらに政府は今、コメ農家にコメが余っているから「水田を畑にしろ」といっている。田んぼを田んぼとして維持することによって、食料危機から国民を守り、治山治水で災害を防ぎ、さまざまな文化も守られるのに、「手切金」を渡すから「畑にしてしまえ」というのは短絡的な発想だ。

 

 現在、肥料も2倍、飼料も2倍、燃料も5割高というコスト高で農家は歯を食いしばって頑張っているのに、米価も乳価も野菜の価格もコスト高に応じて上昇しない。輸入小麦の値段が上がって、パンの値段は上がっているのにもかかわらず。これは消費者としても考えるべきことだ。農家が潰れたら、自分たちが食べるものがなくなるのだから。

 

 先日、NHKの『クローズアップ現代』に出演した。そこでも農家の5割が赤字、価格転嫁できない農家が5割といわれたが、調査対象は平均売上額が3・8億円のごく一部の大規模法人の数字だ【円グラフ参照】。中小零細農家が多い日本全体を考えれば、赤字でも価格転嫁できない農家がほとんどであることがわかる。北海道・千葉の酪農家による調査では、98%が赤字経営だった。

 

 さらに今夏は猛暑が襲い、乳牛が暑さにバテて乳量が2割前後も減っている。他の作物も同様に減産が追い打ちをかけている。供給量が減って価格が上がっても、それ以上に赤字が多いから農家は生産を増やせない。そのうえ乳牛を処分したため、学校給食が本格的に始まると牛乳不足が出てくるだろうし、12月には間違いなくバター不足になるのは目に見えている。

 

自給率向上を捨てる国 農業基本法の見直し

 

 国は今、20年ぶりに農業の憲法である農業基本法を見直すといっている。ようやく国も世界的な食料需給情勢の悪化を踏まえ、不測の事態にも国民の命を守れるように国内生産への支援を強化し、食料自給率を高める抜本策をうち出すのだろうと誰もが思ったが、まったく逆だった。

 

 驚くべきことに、基本法の「中間とりまとめ」では、食料自給率という言葉すら出てこない。「食料安全保障を自給率という一つの指標で議論するのは、守るべき国益に対して十分な目配りがますますできなくなる可能性がある」などとして、5年ごとの目標を決める「基本計画」の項目で「指標の一つ」に格下げした。

 

 そのかわりに有事立法を作り、食料安保政策を「平時」と「有事」に分け、「平時」には農家が潰れても、輸入すればいいから何もしない。「有事」には花卉農家や漁業者にもサツマイモを植えさせ、国の命令によって強制増産するというのだ。バカげた机上の空論であり、今農家を支えることなしに、有事になってから命令したところでできるわけがない。

 

 2020年の「基本計画」では、産地と食料供給を守るためには巨大な1戸の経営が残るだけではなく、“半農半X”(兼業農家)含む「多様な農業経営体」が互いに支え合うことが必要であることを確認したはずなのに、今回はそれが消え、再び巨大な企業経営だけを施策の対象とした。それ以外の小規模な経営はいらないということだ。こうなると農村は消滅し、東京一極集中が加速し、疫病禍などの災害に見舞われれば物流停止と食料危機に陥る。コロナで学んだはずの教訓を早くも否定している。

 

 戦後の米国の占領政策により米国の余剰農産物の処分場として食料自給率を下げていくことを宿命づけられた我が国は、これまでも「基本計画」に基づき自給率目標を5年ごとに定めても、一度もその実現のための行程表も予算も付いたことがない。今回の基本法の見直しでは、自給率低下を容認することを、今まで以上に明確にしたとも言える。

 

 世界では農家が怒って暴動を起こし、欧州ではスーパーから食料品が消える事態にもなった。なかでも農業国オランダでは、伝統的な農業モデルが崩れ、農家と市民が怒って「農民市民党」を立ち上げて総選挙に打って出、連立与党の自由民主党を打ち負かして第一党となり、政権交代を果たした。これくらい日本でもやらなければいけない。農家だけでなく、国民全体でもっと怒り、与党にも緊張感を与えるべきだ。

 

有事に想定すべき餓死 ミサイルをかじるのか?

 

パーラーで搾乳の準備をする酪農家(熊本県)

 酪農家は、牛乳を1㌔搾るたびに平均30円赤字だという。飲用乳価は去年の11月に10円、8月に10円上がったが、それでもまだ10円足りない。だからローンが返せなくなって、みずから命を絶たれる農家も出てきている。もう限界をこえている。

 

 稲作も同じで、数年前と比べて米価は下がっているのに肥料などのコストは上がり、10㌃当りの収支で手元に1銭も残らない。タダ働きだ。農水省の統計でも、農業経営体の94%以上が赤字となっている。

 

 そんなときに国が力を入れているのが、昆虫食(コオロギ)とミサイルだ。コオロギは日本人は昔から食べてこなかったし、中国でも食べない。避妊薬にもなるため妊婦は食べてはいけないものだ。それを河野太郎大臣がテレビで試食してみせ、学校給食に出したり、パウダー状にして食品に混ぜたりしている。

 

 また、食料自給率の向上の論議を脇に置き、中ロなどへの経済制裁の強化、敵基地攻撃能力の強化の議論が過熱している。こちらから攻めていくような勢いだ。5年間で増税してでも43兆円の防衛予算を確保し、米国からトマホークを買うというが、西側ブロックの先進国で食料もエネルギーも自給できていないのは日本だけだ。少なくとも他の国はそれを自給して備えている。

 

 いくら日本がアメリカに金魚のフンみたく付いていって勇ましいことをいっても、戦ってはいけないのだが、戦うことすらできない。逆に日本自身が経済封鎖され、かつての戦争のような飢餓地獄に晒されるリスクが高い。欧米も自国優先で助けてはくれない。アメリカから40年前のトマホーク、墜落するオスプレイを押し付けられ、戦う前から食料もなく、ミサイルとコオロギをかじって何日生き延びれるのかという話だ。

 

 それでも「自給率はゼロでも、いざというときの“自給力”さえあればいい」という論議になっている。有事になれば、校庭やゴルフ場にイモを植え、道路にも盛土をしてサツマイモを植えて、三食イモで凌ぐというまさに戦時中の発想だ。

 

 さすがに『日経新聞』も怒って「食料安保の頼みの綱がイモでいいのか?」という記事を出した。要するに自由貿易論は、輸入が止められたときに命を守る安全保障のコストを考えてない破綻した論理なのだ。

 

義務でもない輸入継続 国内で減産促しながら

 

 そして農産物輸入の問題がある。コメ77万㌧、乳製品14万㌧という世界が驚くような日本の輸入枠について、政府は「国際約束による最低輸入義務だから、やめられない」という。これをやめたら需給バランスが改善し、価格が維持できるのだ。

 

 調べてみると「最低輸入義務」などどこにも書いていない。あくまで「低関税を適用しなさい」という枠であり、日本以外で全量輸入している国はどこにもない。

 

 日本だけが「義務だ」という理由は、アメリカとのあいだで「コメ36万㌧は必ずアメリカから買うこと」という密約があるからだ。乳製品にもアメリカ枠があるから、怖くて止められないのだ。ところがアメリカから無理矢理買っている36万㌧のコメの値段は、現在なんと1俵3万円だ。日本の農家が作ったコメ(1万円前後)の3倍の値段でまずいコメを買って入札にかけても誰も買わない。だから仕方なく家畜のエサに回し、そこでまた差額補填のために500億円の税金を使っている。

 

 酪農でいえば、脱脂粉乳の在庫がダブついているといって、北海道だけで14万㌧の生産調整(減産)を強いる一方で、同じ14万㌧の乳製品を政府が海外から輸入している。北海道では牛乳を廃棄しているにもかかわらずだ。NHK『クローズアップ現代』でも大問題になったため、さすがに国は釈明会見をした。

 

 ところが「乳牛の淘汰は後ろ向きの政策ではないか?」という問いに、野村農水大臣は「乳牛淘汰は農家の選択であり、国はそれを助けているだけだ」といい放ち、「なぜ義務でない輸入を続けるのか?」の問いには、「輸入に頼っている日本が輸入を止めると信頼を失い、今後輸入できなくなると困るからだ」と意味不明の回答をした。現場が歯を食いしばって耐えているときに、国が責任転嫁だけしている場合なのか。

 

 野村大臣は鹿児島の農業系の代議士で、私もよくお話してきたが、以前は「鈴木さんの言う通りだ」といっていたのに、大臣になったとたんにわけが分からなくなった。皆さんもいってあげてほしい。野村大臣も80歳をこえて何が起きてもおかしくない歳になったのだから、残された人生の最期はアメリカと差し違えても日本の国民を守ってこそ有終の美を飾ることができるのではないか。このままでは死んでも死にきれませんよ、と。私も皆さんも、一定の年齢が来たと思った人は、若い世代のために自分が盾になるくらいの覚悟をもってやらないといけないときだと思う。

 

 かつて吉田松陰は「外に媚び、内を脅かす者は、天下の賊である」といったが、まさに今の政治に通じている。そんな政治をやってはいけない。

 

重要な地域循環型農業 鍵となる学校給食

 

 昨年11月、農水省前で千葉県の若い酪農家は、「酪農が壊滅すれば、牧場の従業員も、獣医さん、エサ屋さん、機械屋さん、ヘルパーさん、農協、県酪連、指定団体、クーラーステーション職員、集乳ドライバー、牛の薬屋さん、牛の種屋さん、削蹄師さん、検査員、乳業メーカー、みんな仕事を失います。みなさんにお詫びします」と涙ながらに訴えた。

 

 これは重要なことだ。農漁業消滅=食料消滅=農漁協消滅=関連産業の消滅=地域消滅であり、みな「運命共同体」と認識して支え合わなくては活路はないのだ。

 

 食料自給率の低下は、アメリカが戦後、日本の食生活を改変させ、貿易自由化で輸入農作物に依存するように誘導し、日本の国内農業を弱体化させた「政策の結果」だ。単に食文化が多様化したからだけではない。

 

 極端にいえば、江戸時代は鎖国によって自給率は100%だった。国内にある地域の資源を徹底的に循環させ、独自の循環型社会を築き上げ、欧米列強国が腰を抜かしたほどだ。江戸時代に戻れということはできないが、少なくともその実績を思い起こし、物流が途絶えたとしても、地域の資源を循環させられるかということが今問われている。

 

 農業を弱体化させるために、メディアや学者によって「日本の農業は過保護、欧米は競争原理で発展した」「世界で最も高関税で守られた閉鎖市場」「農業所得が補助金漬け」という嘘が振りまかれてきた。欧米では何兆円も使って国内農業を守っており、フランスの例を見ても、補助金割合が農業所得を上回っている。命と環境、国土・国境を守っている産業を国民みんなで守るのが世界の常識だ。日本だけがその常識を捨て、低関税で海外産との低価格競争を強いて国内農業を潰している。自滅の道だ。

 

 米国の穀物メジャー、グローバル種子企業は、日本を「ラスト・リゾート」として標的にし、種だけでなく、「遺伝子組み換えでない」表示の実質禁止、遺伝子組み換え作物とセットの除草剤の輸入穀物残留基準値の大幅緩和、ゲノム編集食品の完全な野放しを実行させている。これらのことは私たちがTPP交渉のときからアメリカに要求されてきたことだ。

 

 日本でも問題になっている除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)は、アメリカではトウモロコシ、大豆、小麦などの作物に直接かける。この物質の発がん性が明らかになり、欧米では企業側への賠償判決とともに使用規制が強まっている。だが日本人はアメリカ産小麦に世界で最も依存しているので、遺伝子組み換え食品とグリホサートの残留に世界で最もさらされている。

 

 世界で規制が厳しくなると同時に、日本ではグリホサートの残留基準値を小麦は6倍、そばは150倍に緩和した。日本人の命の基準はアメリカの使用量で決まる。アメリカは、自国民が食べる小麦だけは遺伝子組み換えを避け、トウモロコシや大豆で先行させたが、それは「家畜が食べるものだから」だそうだ。日本人は家畜と見なされているのかということだ。

 

 ゲノム編集食品も、アメリカからの要請で、日本では審査も表示もせずに流通を開始した。手始めにGABA含有量を高めたゲノム編集トマトの苗を小学校に無償配布して広めてしまうということをビジネスモデルとして国際セミナーでも発表している。ゲノム食品の安全性は誰もわからないが、流通してもうかるのは特許を持つアメリカのグローバル種子農薬企業だ。日本が実験台にされている。このように量の面だけでなく、質の面からも崩されてきた食料安全保障をどこから立て直していくか。国が動かないなら、地域から変えていくしかない。

 

 戦後の食生活形成は、学校給食でのパン食や脱脂粉乳から始まった。それが逆に示唆することは、米国の思惑から子どもを守り、国民の未来を守る鍵は、地元の安全・安心な農産物を学校給食を通じてしっかり提供する活動・政策を強化することにあるということだ。それは有機農業などで頑張る生産者にも大きな需要確保(出口対策)になる。

 

 先進地として知られる千葉県いすみ市では、地域で作る有機米を1俵2万4000円で買いとっている。最初は有機米を作る農家はおらず、やっても草が生い茂ってどうにもならないといわれていたが、良い技術を持っている農家の研修を受けると草も生えなくなり、収量が上がり、市内の学校給食はすべて有機米となり、野菜も半分は有機作物になっている。

 

 すると京都府亀岡市でも、市長が1俵4万8000円で買いとるといい始めた。こうなると農家のやる気も出てくる。地域からうねりをつくることで行政も動き出す。

 

 兵庫県明石市では泉前市長時代、財政赤字でありながら、給食無償化をはじめとする子どもの予算を2倍に増やした。はじめは無謀にも見えたが、子どもが元気になり、出生率も上がり、商店街も活性化し、人口が増え始めて税収がどんどん増えた。税金を上げなくても、子どもや命を守る政策をやれば何倍にもなって戻ってくることを実証した。地域の農業を守るうえでも参考になる事例だ。

 

 大手の流通は、大手スーパーから「いくらで売る」といわれれば、そこから逆算して生産者に払う金額を決めるというほど、小売大手の買い叩きの力が強い。農家の生産コストなど最初から計算に入っていない。全品目で農家が買い叩かれている。

 

 それでも協同組合の共販の力で、コメでは1俵3000円程度は押し返している。だから協同組合への結集は重要だが、それでも大手の圧力がまだ強い。農家のコストを反映した適正な価格で買えるような地域内の流通ルートを構築していくことが重要だ。学校給食での公共調達はその突破口になると思う。

 

生産者と消費者の結束を 強欲な資本参入を排して

 

 政府のいう「民間活力の最大限活用」は一般論としては正しいが、現在の規制改革でその旨みを独占しているのは、「TMNコンビ」など一握りに限定されている。

 

 兵庫県養父市の農地を買収したのも、森林の2法で民有林・国有林を盗伐(植林義務なし、国の税金で植林)してバイオマス発電をやって利益をすべて企業のものにしたり、世界遺産の山を崩して風力発電を建てようとしたのも、漁業法改悪で人の漁業権(財産権)を強制的に無償で没収して洋上風力発電に参入しようとしたのも、浜松市や宮城県の水道事業を「食い逃げ」する企業グループに入っているのもすべて同一企業だ。

 

 日米の政権と結びついた、ごく一部の「今だけ、金だけ、自分だけ」の企業利益のために、規制改革推進会議が強権発動し、出来レースでの決定が一番上位にあるというのは異常な事態だ。

 

 兵庫県養父市を国家戦略特区に指定し、農地を特定企業が取得できる特例を認めるとき、私は国会で「これはカムフラージュであり、彼らは今後必ず全国の農地を企業が勝手に買えるようにしてくれと言い始めるに違いない」と証言した。まさに、それが1カ月前くらいに国会で決まった。

 

 なんとその1カ月前、ここまでして手に入れた農業事業を大手O社は他者に転売してもうけた。だから、彼らは最初から農業をやるつもりはない。全国の農業委員会が任命制になったのをいいことに、優良な農地を物色し、自分たちが農業委員になり、取得した農地を転用申請して売ってもうけるという腹づもりなのではないか。

 

 世界的に有機食料に対する需要と関心が高まるなかで、ついに農水省は「みどりの食料システム戦略」をうち出したが、その中身を見るとスマート農業を志向している。


 これはグローバル種子農薬企業やGAFAなどのIT大手もビジネス展開を構想しており、広大な農地を金網で囲み、ドローンとセンサーで管理・制御するというデジタル農業だ。効率的なビジネスモデルを作って投資家に売ってもうけるというもので、そこに農家は必要ない。そして化学農薬・肥料を使わないかわりに、遺伝子操作農薬やゲノム編集種子が使われることになれば、有機農業の中身は大きく変わってしまう。

 

 私たちが目指すべきは、農家を排除するスマート農業ではなく、生産者と消費者が支え合う「強い農業」だ。こういう流れに絶対に負けるわけにはいかない。

 

 なによりも巨大な力に種を握られると命を握られる。地域で育んできた在来の種を守り、育て、その生産物を活用し、地域の安全・安心な食と食文化の維持、食料の安全保障につなげるために、シードバンク、直売所、産直、学校給食(公共調達)、マルシェなどの仕組みで出口をつくることで“ホンモノ”をつくる農家を支えることが必要だ。地域の種からつくる循環型食料自給――ローカル自給権をベースにして広げていく流れをみんなで作りたい。

 

 いまや生産者と消費者の区別はない。誰もが地域の農家と一体化し、市民全体で、耕作放棄地も分担して耕し、家庭農園や市民農園を拡大することは、安全・安心な食料の確保、食料危機に耐えられる日本を創るのに一つの鍵となりうる。そのようなとりくみが全国各地で始まっている。

 

 そのようにして地域からうねりを作り、政治行政を動かし、地方から国政の流れを変えていこう。

 

 国レベルでも早急に農家の赤字補填をすべきであり、コメ一俵当りの赤字を主食米700万㌧に補填するのに3500億円、全酪農家に生乳㌔当り10円補填する費用は750億円あればよい。全国の小中学校の給食無償化には約4800億円だ【表参照】。

 

 43兆円でトマホークなどを買うくらいなら食料に金をかけることこそ真の安全保障であり、「食料安全保障推進法」を超党派の議員立法で早急に制定し、財務省の農水予算枠の縛りを打破して、数兆円規模の予算措置を農林水産業に発動すべきときにきている。そのとりくみにもぜひ注目し、参画してもらいたい。

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