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外来資本への優遇策列挙した「復興特区」

 3月11日の東日本大震災からもうじき8カ月が経過しようとしているのに、被災地では7万人もの人人が仮設住宅に押し込められたまま復興の足取りがストップし、難民のような状態を強いられている。国のサボタージュが続いている。野田政府は10月28日、被災地を「復興特区」に認定し、対象となる11道県222市町村で規制緩和や税制、財政、金融など全分野にわたって特別措置をおこなうための復興特区法案を閣議決定し、衆院に提出した。津波に襲われた住宅地や農地、海を資本力のある大企業や外資に開放し、そこでは税金免除や土地利用規制の緩和などさまざまな優遇措置を施すものになっている。震災を機に、東北地方の産業、経済の復興と住民の生活は置き去りにし、外来資本の大収奪地に作り替える方向が持ち込まれている。
 
 TPP先どりのモデル地域

 国会に提出された法案の中身を見てみると、規制緩和では15項目を列記している。その第1に漁業権を漁協だけでなく民間企業にも与えることをあげている。地元漁民を7割以上含む法人か、地元漁民を七人以上含む法人に対して、漁業法第18条の規定(優先順位の規定)の適用を除外し、特定区画漁業権(養殖業を営める)の免許を認めるというものだ。波の穏やかなリアス式海岸に目をつけていたイオンや水産大手が、地元漁民の頭数さえ揃えれば容易にクリアできると見なされている。
 従来なら、企業が養殖事業に参入しようと思えば、漁業権を管理している漁協に利用料を支払っていた。ところが直接免許を受ければその必要はなくなり、「テナント料のいらない商売」ができるようになる。許認可を持っている県知事のさじ加減次第で、地元漁民から漁業権が剥奪されかねない内容になっている。
 その他の規制緩和では、被災市町村が「復興推進計画」を策定し、国の認定を受けたなら、建築基準法の用途制限を緩和して、建築が禁止されている建築物であっても建築することができるという緩和策。津波浸水地域であっても、バイオマスエネルギー製造施設や6次産業化の方向に沿った食料供給施設(加工・販売施設)ならば、農地転用や林地開発許可を認める。工場立地や企業立地促進法で定められた緑地規制を緩和して、市町村が独自に条例で基準を定めることができる緩和策。鉄道ルートや駅の位置、名称などを変更する手続きの緩和などがある。
 さらに、「東北地方で革新的医療機器の創出をはかる」と医療改革を掲げ、医療機器の製造販売業に対する許可基準のうち現場責任者の実務経験年数を緩和するというものも含まれている。
 また、被災自治体が政令や省令で定められた規制を条例で変更できる「上書き権」まで盛り込んでいるのが重要な特徴になっている。地方自治体がその権限を行使することによって、例えば他地域ではあり得ない規制緩和が実行されたり「なんでもあり」の状況すらうまれかねず、「法律も地方自治体が変えられる」というものになっている。
 税制面では、「新規立地企業」にのみ5年間の法人税免除を実施することが盛り込まれた。本来もっとも支援しなければならない地元企業は対象から外し、「立ち直らなくてもよい」扱いになっている。被災した地元企業をいかに立ち直らせ、水産業を中心とした三陸沿岸の基幹産業を復興するかという方策がないかわりに、「オールクリアでいこう!」の線が貫かれ、まるで別物の街作り、産業誘致を意図している。財産が流出して二重ローンを抱え、なおかつ技術を蓄積してきた従業員の多くを失い、スタートラインからハンデを抱えているのが地元企業だが、同列に置くどころか外来資本にテコ入れする露骨な政策となっている。
 復興特区法案によってとりわけ自由度が増すのは土地利用で、新規の企業立地や工場立地にとっては、税制面の優遇措置と法律面の規制緩和がセットになって、日本国内とは思えないような「特区」が作り出される。例えばビルのような大きな建物を建てようと思った場合も、「津波避難ビル」ということで、建築基準法の特例によって容積率が緩和されるために可能となる。
 土地の用途規制が緩和されるため、工場立地や企業立地が容易になり、しかも新規立地・新設企業は前述のように法人税が無税。そして設備など新規投資に対する特別償却、税額控除がおこなわれ、被災者雇用にかかる法人税額も控除。事業税、固定資産税、不動産取得税も減免。銀行などから借り入れた調達資金への利子補給も国が肩代わりする、となっている。
 その他、自然エネルギーに力を入れているのも特徴で、復興特区のとりくみイメージとして、メガソーラーや野菜工場の整備、洋上風力発電、スマートコミュニティなどを列記。研究開発用資産の特別償却や税額控除が実施され、参入事業者に対する出資者、つまり株式投資者には所得控除も実行する。メガソーラーやバイオマスエネルギーの拠点整備をする場合、農地法も緩和される。
 まちづくりの基本方針を定めた「復興整備計画」を策定すれば、市街化調整区域についても開発行為に対して特例措置が施される。被災市町村が指定した区域内での建築行為については、届け出や勧告の対象にすることも盛り込んでいる。震災直後から建築規制が敷かれ、被災地では家屋の再建すら手をつけられなかったが、こうした規制を加えたり、緩和する権限の自由度が増す。土地区画整理などをおこなう場合も、従来の環境影響評価法に基づく手続きではなく、簡略化することが認められている。
 こうした復興特区法案に盛られた事業を実施していくのが復興庁といわれる組織で、新たに省庁を設置するための法案も閣議決定し、各省庁よりも一段高い位置付けにして、企画立案や復興特区の認定、交付金や予算配分の調整といった業務を一任させる仕組みになっている。
 
 産業復活と別目的 漁業、農業、住宅再建させず棄民政治実行

 震災によって2万人近い犠牲者を出し、避難者数は7万3000人にも及んでいる。多くの被災者がいまだに仮設住宅や借り上げアパートに避難し、職も家も失っているなかで、政府対応が8カ月間もまともに機能しない異常事態が続いてきた。
 ようやく出てきた「復興特区法案」は規制緩和、自由競争のオンパレードで、外来資本のパラダイスにする勝手極まりないものになっている。被災者の生活や三陸沿岸にもともとあった産業の復興を置き去りにして、まるで住民生活の心配などしていない政府の有り様に、被災地の怒りが高まっている。人人が故郷で再び働き、家族を養い、暮らしていく足がかりをどうつくっていくか、そこに政府がどう機能して責任ある支援を実行していくかではなく、もっぱら財界や金融機関、外資ファンドなど復興ビジネスに色めき立っている連中に奉仕し、彼らにとっていかに有利な進出条件を提供するかに奔走する国や行政機構の姿である。
 東北地方を構造改革路線を推し進める「復興特区」に指定することを求め、「単に震災前の状態に戻すのではなく、我が国の産業を牽引できるよう新たな視点で復興策を考えていくことが不可欠」と提言してきたのは経団連を筆頭にした財界だった。
 そのもとで、大手商業メディアなどが「オールクリアで復興にあたるべきだ」「従来の規制や制度にとらわれていては復旧も復興も進まない」「日本の土地利用は都市計画法や農業振興地域整備法、漁港漁場整備法など様々な法律で規制されている。個別法の枠を超えた仕組みが要る」「現在の漁業法を見直さない限り、漁業権の開放も幅広く民間資金を集めることもできない」などと煽ってきた。
 被災地では瓦礫撤去すらまともに終わっていない。やっと動き始めたと思った地域では、鹿島建設などのゼネコンが地元企業を押しのけて復興特需のつかみ取りを始め、各自治体の「復興計画」は大手コンサルタント会社が総なめにして、「バイオマス」「エコ」を叫び始めた。東北で人人が暮らしていくために、生活を立て直すこと、そのために産業の復活が一刻も早く求められているのに、別目的が働いて棄民政治が実行され、中心産業である漁業にしても、農業にしても、住宅再建一つとっても復興が遅れている。
 被災地に建築規制をかけて住む場所すら与えない、地盤沈下した漁港や市場の復旧について監督官庁が査定すら実施せず放置する、煩雑な「補助金」制度にして被災者が利用できない状態であったり、被災地への国の残酷な対応の背景に、震災を突破口にして規制緩和・新自由主義市場拡大のモデル地域にしようとする狙いがあることを問題にしないわけにはいかない。「円高対策」などといって、欧米市場には1日で10兆円近く資金提供する政府が、東北の被災地には出し渋り、「増税しないと金はない」などというのである。
 東北現地が資本力を失っているのをチャンスと見なして、土地や農地、漁業権を取り上げて企業化し、ファンドの投機市場にすること、大量の低賃金労働者をつくりだして外来資本がビジネスチャンスにする方向があらわれている。これは決して復興特区に認定され、先駆けとなる222市町村に限った話ではない。TPPの先取り政治に対して、日本社会の構造、将来とかかわって譲れない問題になっている。東北の被災地で猛烈な反発と行動が始まることは必至となっている。

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