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TPP阻止行動が国民的広がり

 野田首相は11月12、13日にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会に関係国に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加方針を伝達する意向を固めたことを明らかにした。そのため、APECの日程にあわせて国民には11月7日に記者会見で参加表明する段取りである。TPP交渉参加阻止の運動は農林漁業者を先頭に医療関係者や商工業者、消費者団体など国民的な広がりをもって高揚している。野田首相は国民の合意をまずとるのではなく、アメリカの要求を実行するために先に国際会議でTPP交渉参加を表明し、それを国民に押しつけようという手法である。だが、全国で巻き起こるTPP交渉参加断固阻止の運動の前に追い詰められているのは野田首相の側である。
 
 対米盲従で参加急ぐ野田政府

 TPP交渉への参加断固阻止を掲げて26日、東京都の日比谷野外音楽堂には農林漁業者団体、消費者団体、日本医師会、日本看護連盟、日本歯科医師連盟や研究者などの代表3000人が全国から結集した。全国集会で採択された特別決議要旨は「東日本大震災の影響からいまだに原状復帰すらできていないにもかかわらず、政府は11月12日からのAPEC首脳会議において、例外なき関税撤廃と各国の制度・基準の変更を強いるTPP交渉への参加表明を念頭に検討を加速化している。地域の雇用改善、農林水産業の振興、食の安全確保、医療制度の充実は、国民の生命に直結した、根本的に重要な問題であるにもかかわらず、国民各層の議論もないまま、TPP交渉への参加を判断しようとする政府の姿勢はきわめて問題である」「TPP交渉への参加反対を表明した1166万人をこえる国民の声はきわめて重い。今、最優先で政府に求められているのは、東日本大震災と原発事故からの復旧・復興に全力を尽くすことである」「これからも国民各層との連携を広げ、わが国の食と暮らし、いのちを守る運動を一層強化し、徹底的に戦っていく決意である」と表明している。
 とくに、JAグループなどが主催した全国集会に初めて日本医師会代表が連帯の挨拶をのべたことは運動の広がりを示していた。さらに同日九州大学大学院農学研究院の教授ら46人もTPP交渉参加に反対する声明を発表した。声明を出したのは、農業経済学や食料流通学のほか、森林や水産、昆虫など多分野の研究者で、TPPの問題点として、①米国やオーストラリアなど大規模農業が基本の農業と日本型農業の違いを認めない、②食品の安全基準など国民の健康に直結する問題にも米国のルールが強要される、など。事務局の佐藤教授は「農業を教える者として、国内農業を壊滅させる訳にはいかない。九州から全国の研究者に反対活動を広げていきたい」としている。

 患者の自己負担増必至 薬剤師や看護師指摘

 TPP交渉参加には、日本医師会に続き日本歯科医師会、日本薬剤師会などが反対の立場を表明し、日本看護協会なども慎重姿勢を求めている。日本の医師の6割にあたる16万6000人が加盟する日本医師会は昨年12月に「国民皆保険崩壊につながる」として日本医療の市場化・営利化や株式会社の参入につながりかねない問題点を指摘している。日本薬剤師会は「TPPで薬価制度が維持できなければ、農山村の薬局は立ちゆかなくなる」と指摘している。同会副会長は「薬価値上げ、薬価制度崩壊の可能性があり、絶対に反対。保険外の診療や医薬品が増え、患者の自己負担が増えることが想定される。米国などの巨大産業が参入すれば、日本の製薬技術はないがしろにされる」とのべ、「結果として地方の個人経営の薬局が立ちゆかなくなり、患者にしわ寄せがいく。医療や地方の格差が進むことを危惧している」とのべている。さらに現在、日本国内では薬価は厚労省が決めて定期的に見直しているが、米国では製薬企業が自由に薬価を決めることができる。TPPでこうした仕組みが導入されれば、「外資が自由に医薬品分野に入り、薬価制度が維持できなくなったり、規制緩和が進んだりすると、離島でも過疎地でも薬局が成り立つ現在のシステムが崩壊する」と強調している。
 また、日本歯科医師会も「食べることを支える歯科医師の立場からも医師会と同様に反対」を表明している。同会副会長は「おいしく食べること、楽しく会話することを医療分野で支えているのが歯科医師。命と工業製品は同じではない。安易な開国を見逃すわけにはいかない。米国のターゲットは医療や金融などを対象にする“サービス”と“農業”にある。TPPで農業と医療が危うくなれば国の形が壊れる」とのべている。

 保険や金融市場餌食に 郵政資産も食い物

 さらに、「TPPを慎重に考える会」(山田正彦会長)は「保険などの金融サービスが米国の最大のターゲットになる」との見解を示し「保険市場を奪われるだけでなく、金融資産が食い物にされかねない」と問題の重大性を強調している。日本で事業をおこなう米国有力企業でつくる米日経済協議会は「日本が日本郵政グループ各社に対する優遇措置を撤廃しなければ、TPPに参加できる可能性はない」と文書で表明。牛肉の月齢制限撤廃などの対日要求のなかで日本郵政グループの「かんぽ生命」と民間保険会社の間の対等な競争条件確保の要請に最も多くの紙面を割いている。「かんぽ生命」に払いこまれる保険料収入は年間7・3兆円にのぼり、すでに開放されている日本の農産物市場(米国の対日輸出額約1兆円)などに比べて大きい。日本の保険市場で米国系保険会社のシェアが比較的低い米国側の強い圧力となっている。また「日本の郵政株を取得して利益を上げることも米国企業の視野に入っているのではないか」と警戒する声も出ている。「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」だけで300兆円を超える日本郵政グループの資産を運用したり、価値が高まってから売却したりすれば膨大な利益を上げることができるからだ。
 さらに米国が医療の自由化を求める延長線上に、保険市場の獲得があると警戒している。米国の要求通りに保険外診療を拡大すれば、医療費が高騰して公的健康保険だけでは頼りにならなくなる。その結果、がん保険などの民間医療保険のニーズが高まれば、米国系民間保険会社の利益になるからだ。ちなみに日本にTPP参加を求める米日経済協議会の会長と副会長は医療機器メーカーと生命保険会社の役員である。

 公共事業にも外資参入 入札参加基準引下げ

 17日に宮崎市で開催された「TPP交渉参加反対みやざき県民集会」には、農業関係者のほか、建設業者、中小企業者など3500人が参加したのをはじめ、栃木県や鹿児島県での集会にも建設業界の代表が初めて参加している。現在、地方の公共事業は建設コストが23億円未満の場合は海外企業が参入できず、地域要件などで大手ゼネコンも入札に参加しにくい仕組みがある。だが、TPPに参加すれば参入の壁が六億円未満まで引き下げられ、海外企業が地方の公共事業に参入しやすくなる。
 国土交通省は25日、公共事業の一部で外国企業が入札に参加できる基準額が現行制度の30分の1程度に引き下げられ、国内企業を圧迫する可能性があることを認めた。基準額が大幅に引き下げられる可能性があるのは、地方自治体が発注する公共事業のうち測量や設計、建設コンサルタントといった技術サービスの分野。現行の基準額は2億3000万円だが、TPPに参加すれば750万円まで引き下げを求められる可能性がある。また、地方自治体も入札の有無にかかわらず発注書を英文で作る必要があるなど、過剰な事務負担が強いられる。
 日本政府が発注する同分野の公共事業でも、現行の6900万円が600万~1800万円まで引き下げられる可能性がある。
 さらに、政府はTPP参加で外国人の弁護士や医師、看護師らが日本に大量に流入する可能性があることを認めた。
 また、TPP参加で漁業への補助金を制限するルールが強要される危険性が高い。3月にシンガポールで開かれたTPP交渉会合で米国は漁業補助金の制限を提案した。米国は世界貿易機関(WTO)で漁業補助金の一律廃止を国際ルールにすべきだと主張してきた。しかし、日本、「韓国」、欧州連合などの反対で米国の提案は実現していない。このため「米国は自国の主張が通りやすいTPPで、WTOに先行して一律廃止のルールを目指す」との見方が国際的に広がっている。震災後、日本政府はWTOで、2万隻以上の船が使用不能になった津波被害の大きさと復興支援策の必要性を訴え、漁業補助金の規制についてのルール作りを先送りさせている。WTO加盟国のなかでは一律廃止の賛否の割合はほぼ同じである。だが、TPP参加国のなかには一律廃止に反対する国はみあたらない。米国、オーストラリア、ニュージーランドはWTOで一律廃止の急先鋒。チリ、ペルーも一律廃止派であり、日本の主張が通る可能性は低い。
 漁業補助金の例外なき廃止が国際ルールになれば、被災地だけでなく全国の老朽化した港湾施設の補修や更新への支援なども禁止される。

 食料自給や安全を崩す 食品関連労組も警鐘

 キッコーマン、サントリー、味の素、伊藤ハムなど大手食品メーカーの労働組合が名を連ねる日本食品関連産業労働組合総連合会(フード連合)はTPP参加に異論を唱えている。フード連合は地方の中小から大手まで食品関連企業で働く10万4000人(300組合)の労働者で組織する産業別の労働組合。江森会長は「食の安全や食料の自給・安定供給が心配」と主張している。輸入食材を多く扱っているニチレイ出身の山本事務局長は「今でも中国に買い負けて食材が手に入らないこともある。国内供給が難しければ、安易に海外産に頼ればよいという時代ではない」と危機感を示している。
 食の安全に関しては、TPPに参加すると、遺伝子組み換え(GM)作物を独自基準で評価し表示を義務づけている日本の食品安全体制が脅かされるとの懸念が強まっている。日本は現在、GM作物を使う場合などに表示を義務づけているが、米国では表示する必要がない。GM作物の輸出拡大のために米国が日本の表示制度の見直しを求めてくることは必至である。日本消費者連盟の山浦事務局長は「米国の狙いの一つがGM作物表示撤廃にある。消費者の要求に応える形でGMの表示制度ができたのに、TPP交渉で水の泡になる」と指摘、さらに「いずれは食品衛生や牛肉の検査体制にも影響が出るだろう」とのべ、日本の食品安全行政全般に及ぶ危険性を訴えている。
 酪農民も「安全・安心な畜産物の安定供給には、適切な水準の関税と検疫を維持することが大前提だ」とし、「この大前提が崩壊するTPP交渉の参加に断固反対する」と表明し、酪農界あげた運動を展開している。

 全国町村会は反対決議 東北市長会も牽制

 こうした農林漁業などの第一次産業、建設業やそれに関連する地域経済、医療・福祉など地域住民と密接な関係のある分野が壊滅的な打撃を受けるTPP交渉参加に対して、地方自治体からも反対の声が上がっている。
 全国934の町村長でつくる全国町村会は28日、TPP交渉参加に反対する緊急決議をおこなった。反対決議は昨年10月と12月にもおこなっており、3度目になる。決議は「TPPは農林漁業だけでなく、地域経済・社会全体の崩壊を招く恐れが強い」と指摘し、交渉に参加しないよう要請した。11月12、13日のAPEC首脳会議を前に、決議は「説明責任をまったく果たさない政府に猛省を求める」と迫り、反対姿勢を強調している。岩手県の達増知事も28日、TPP交渉参加の判断は時期尚早だとし、国民的論議を求める緊急提言書を首相宛に提出した。
 中国地方知事会は26日、5県知事の共同アピールを採択した。アピールは「国民への説明が十分でなく、国民的論議が進んでいるとはいい難い」とし、農林漁業者や商工業者の意見を聞く必要があるとしている。
 鹿児島県の伊藤知事は21日の定例記者会見で「日本の原点は農業。TPPによって原点が脅かされるのであれば参加すべきではない」と反対を示した。石川県農業会議も21日、常任会議員会議で「TPPへの参加反対を求める緊急要請」を決議。福島県議会は二〇日、「TPPで国内の第一次産業は壊滅的な打撃を受け、食料自給率の低下や国土の荒廃を招く」「TPP参加で地方は崩壊しかねない。復興の足かせになる」との交渉参加反対決議を可決した。
 熊本県の蒲島知事は19日、TPP交渉参加を慎重に検討するよう農相に要請。同県議会も全会一致で採択したTPP交渉参加に断固反対する意見書を提出した。
 東北6県75市長でつくる東北市長会は13日、福島原発事故や大震災の被災地復興への対応強化を求める特別決議を採択した。同時にTPP交渉参加に慎重な対応を求める緊急決議をあげた。
 こうした国民的なTPP交渉参加反対の行動や世論の広がりは、今年1月に農林漁業団体や消費者団体が呼びかけ、医療・労働関係団体など幅広い連携を得て広がった「TPP参加断固反対」の1000万人署名が、目標を大きく上回り、1166万8809人も集約されたことにも示されている。国民の約1割が交渉参加に反対する明確な意志を表明した。
 署名に掲げた要請文は「関税撤廃の例外措置を認めないTPPが締結されれば、農林水産業をはじめ、関連産業を含む地域経済・社会が崩壊することは必至」とし、金融、保険、食品安全などあらゆる分野で日本の仕組み・基準が変更され「暮らしが一変してしまう可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
 野田首相はこうした国内の圧倒的なTPP交渉参加反対の世論に真っ向から対決している。米国の落ち目のオバマ大統領や財界の圧力に屈服し、APECの首脳会議で先にTPP交渉参加を表明し、それを国内でゴリ押しする手法をとろうとしている。だが、そういった姑息な手法はTPP参加反対の国内世論をいっそう燃え立たせるばかりであり、野田政府の崩壊を近づけるだけである。

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