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「沖縄化」する本土――米軍基地被害の全国拡大 沖縄国際大学教授・前泊博盛

 まえどまり・ひろもり 1960年宮古島生まれ。沖縄国際大学大学院教授(沖縄経済論、軍事経済論、日米安保論、地位協定論)。元琉球新報論説委員長。『沖縄と米軍基地』(角川新書)、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)、『沖縄が問う日本の安全保障』(岩波書店)など著書・共著書多数。

 

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 日米安保の重圧が、コロナ禍の日本に重くのしかかる新年の幕開けを迎える。2021年は在日米軍基地問題が新日米安保締結60年の節目となった2020年以上に、負担増にあえぐ年となる。

 

バイデン米新政権で安保負担増

 

 同盟軽視で軍事・安保に無知とも批判されたトランプ大統領は、秋の大統領選挙の結果、一期4年で退場となった。新年1月には共和党から民主党・バイデン大統領へと政権交代となる。だが、日米関係はトランプ政権と変わらず、在日米軍駐留経費の日本側負担増の流れに歯止めはかからず、在日米軍の軍事演習・訓練の激化など、むしろバイデン政権下でインド太平洋地域における米軍能力の増強が加速し、沖縄はもちろん在日米軍基地全体の機能強化、日本国民の日米安保のさらなる負担増に拍車がかけられることになる。

 

 日米開戦の記念日となる2020年12月8日、米下院は2021会計年度(20年10月~21年9月)の国防予算の大枠を定める国防権限法案を賛成多数(335対78)で可決した。法案にはインド太平洋地域での米軍能力の増強に向けた特別予算22億㌦(約2300億円)が計上されている。

 

 同予算は「太平洋抑止イニシアチブ」と呼ばれる構想で、対中抑止を念頭にインド太平洋地域の米軍プレゼンスの近代化、防衛態勢強化や前線整備などを米国防長官に議会が命じるもの。2021年2月15日までに現状調査報告と今後の展開について議会報告を求めている。

 米国防予算は前年比0・3%増ながらも約7410億㌦(約77兆円)と、日本の国家予算全体の77%におよぶほどの巨額の軍事費を投じ、アジア太平洋地域のミサイル防衛強化と弾薬庫の貯蔵施設、遠征前方展開に向けた分散用飛行場と港湾の整備、同盟国との共同訓練強化に力を入れてくるという。

 

 沖縄で進む「普天間飛行場移設」を名目とする港湾機能付きの辺野古新基地建設や既存の嘉手納飛行場、普天間飛行場、伊江島訓練飛行場への配備・機能強化などが、その狙いにピタリとはまる。

 

本土の「沖縄化」

 

米軍岩国基地のF35B(山口県)

 2020年は、宮崎県での自衛隊基地を使用した米空軍の移動訓練、大分県の日出生台訓練場での米軍訓練回数の増加、山口県岩国基地への配備強化をはじめ、2019年11月には青森県の三沢基地所属米軍機の重大演習事故(演習地外への模擬爆弾投下)なども起きている。

 

 在日米海兵隊の航空機拠点となっている岩国基地は、すでに極東最大といわれた嘉手納飛行場を超えたともいわれるほど、近年、急速な機能強化が進められている。米軍は「中央・東南アジアに十分近い場所」として米中関係悪化の中で「戦略上、重要性が高まっている」と強調している。ここ数年内で新たな部隊の配備をはじめ最新の垂直離着陸機F35Bステルス戦闘機の配備拠点化を進めている。まさに「岩国(山口県)の沖縄化」である。

 

 首都東京にあって首都圏の広大な米軍支配空域(横田ラプコン)を持つ在日米軍司令部のある米軍横田基地も、ここ数年で機能強化が加速している。

 

 福生市議会では2020年7月27日の第1回市議会臨時会で「横田基地の基地機能強化に関する決議」を全会一致で可決している。

 

 同決議は7月2日と7日に立て続けに起きた米軍パラシュート・足ヒレ落下事故を受けたもので、落下原因究明と安全確保を要請し、再発防止策を講ずるまでは同様の訓練は行わないよう要請している。度重なる事故は、市民生活の安寧を損ない「これまで築き上げてきた当市との信頼関係を水泡に帰すもの」と批判しているが、市議会の要請や抗議は「聞き届けられていない無念さを感じる」と抗議文の中で訴えている。

 

 横田基地は2006年の「再編実施のための日米のロードマップ」で在日米軍及び関連する自衛隊の再編に向けた計画が示され、2012年から航空自衛隊横田基地の運用が開始されている。米軍司令部機能と輸送中継機能を有する基地から、航空自衛隊航空総隊司令部と在日米軍司令部、第五空軍司令部の併置で日米共同統合運用調整所が設置され、日米双方の司令部組織の連携や相互運用性の向上が図られている。

 

 2015年5月には空軍仕様のCV-22オスプレイの横田基地への配備が突如発表され、市民の配備反対の抗議の中、2018年には5機の配備が強行されている。2021年には10機体制となる見通しだ。

 横田基地は「日本の防空及びミサイル防衛の機能を併せ持つ、日米共同の最重要施設へと態様が変化」し、市民の不安は増している。

 

 住民が反対する中でのオスプレイの強行配備、パラシュート落下事故など米軍演習事故の多発など「首都圏の沖縄化」が顕著となっている。

 

米軍にモノ言えぬ日本政府

 

 2020年、沖縄では新型コロナ感染拡大の中で、米軍基地がらみの事件事故が多発した。世界最大のコロナ感染地米国から出入国が禁止される中、日米地位協定で日本側の出入国管理を免除されている米軍が数千人規模の人事異動を実施し、一気に国内基地でのコロナ感染拡大を招き、物議を醸した。

 

 米国から異動してきた数千人の米兵らは出国前・入国時のPCR検査を実施することなく、日本に入国。米軍のコロナ基地内感染防止策として義務付けられた異動米兵らの2週間の待機期間を、基地外の民間ホテルを使用するという暴挙に、県民から猛烈な反発と糾弾の声が上がった。

 

 沖縄県民の猛烈な抗議に、米軍は基地外ホテルの使用中止を余儀なくされた。また米国防総省通達による米軍基地内のコロナ感染情報の「非開示」措置にも県民からの抗議が集中。開示請求に消極的な日本政府(防衛省、外務省)の対応をしり目に、在沖米軍司令官(四軍調整官)による開示決定を引き出した。沖縄の動きが、その後の在日米軍基地全体のコロナ感染情報開示への道筋をつける効果を上げた。これは「沖縄の基地対応の全国化」という数少ないプラス効果であった。

 

 一方で、2020年も沖縄の基地負担は増加した。辺野古新基地建設の埋め立て工事促進を筆頭に、伊江島、普天間、嘉手納飛行場の機能強化、飛行訓練の強化・増加による米軍機爆音被害の激化、環境汚染、水道水汚染など深刻度を増した。

 

 特に米軍泡消火剤に含まれる有機フッ素化合物(PFOS、PFAS)による地下水や水道水の汚染は、基地を抱える周辺自治体の住民のみならず、沖縄の主要市街地住民の水道水汚染という深刻な事態を招いている。

 

米軍普天間基地から流れ出した泡消化剤の撤去に追われる消防職員(2020年4月、宜野湾市)

 普天間飛行場を抱える宜野湾市では、基準値の50倍を超える有機フッ素化合物による血中濃度汚染の実態が京都大学などの調査により明らかになった。しかし、防衛省は「米軍基地との因果関係は不明」として、米軍基地内への立ち入り調査に消極的な対応に終始。

 

 2020年4月、河野太郎防衛大臣は2019年に行った普天間飛行場からの泡消火剤流出事故の際の記者会見の内容(米軍はPFOSを含む泡消火剤の使用をやめている)が誤りだったと釈明。「米軍の発表を鵜呑みにした」と謝罪した。

 

 河野大臣は、7月の米軍異動時のコロナ感染対応でも「入国時のPCR検査を受けず民間機で米兵らが国内を移動した」と発表し謝罪に追われた。
 米軍がらみの一連の事故や騒動を通して、米軍に物言えぬ日本政府の実態が浮き彫りになった一年となった。

 

無知と無関心からの脱却

 

 沖縄では2020年の年末にかけて米兵事件・事故が多発した。11月には2週間で16件の傷害、強盗、飲酒運転など米兵事件が集中発生し、12月にも飲酒運転での米兵の摘発が多発する中、米軍当局が「飲酒禁止令」を出すほどの混乱状態となった。

 

 戦後75年を超え、米軍と常に最前線で対峙を余儀なくされる沖縄では、選挙や県民投票などで示された民意は安倍・菅政権に無視され、「普天間基地の5年内閉鎖」の約束を信じ「環境アセス」を受け入れた県知事は、約束を反故にされ、騒音防止協定や環境補足協定は名ばかりで、米軍由来の環境・水道汚染の実態調査も行われず、爆音被害は拡大を続けてきた。

 

 政府による米軍基地がらみの沖縄での民意無視、約束反故、政権の抜き打ち、だまし討ちという屈辱的な対応が、いま、米軍基地を抱える全国の自治体に広がっている。「全国の沖縄化」は、この国の民主主義の劣化と崩壊を意味している。「日米安保」優先によるこの国の主権侵害と主権放棄、人権侵害と民主主義の否定を許すことがないよう、日米安保に対する国民の無知と無視と無関心からの脱却を新しい年の目標としたい。

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