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書店と図書館の連携―書店の減少と経産省「書店振興プロジェクト」について 日本図書館協会図書館の自由委員会前委員長・西河内靖泰

各地に本を届ける移動図書館車

私たちの目指すものは「まちの図書館化」ということ

 

 書店の減少や出版市場の減退が深刻ななかで、経済産業省が「書店振興プロジェクト」をうち出した。書店や出版社は本を市場に送ることで著者と読者をつなぎ、図書館は人びとと書架に並ぶ実物の「未知の本」との出会いを創出する文化の拠点だ。その意味で本と人をつなぐ書店や図書館の未来像をどう描いていくのか、公益社団法人日本図書館協会・図書館の自由委員会の前委員長である西河内泰氏(現・広島女学院大学非常勤講師、元・滋賀県多賀町立図書館長、元・下関市立中央図書館長)に聞いた。

 

地方の書店が減っていく

 

西河内靖泰氏

 ネット通販や電子書籍の普及などの影響で、全国的に書店が減少しています。特に地方では減少が続き、書店や出版社などでつくる「出版文化産業振興財団」によると、書店が一つもない自治体は全国のおよそ4分の1にのぼっているといいます。

 

 かつては、地方の小規模の本屋では、読書家からの本の購入以上に、雑誌を定期購読してくれる個人の顧客によって成り立っていたところが多かったといいます。ですが、今日では情報発信のスピードはデジタル化によって急速に早まり、情報の価値が変化してきたことによって、雑誌どころか新聞すら購読しない人が増えてきました。そうしたなかで、地方の小規模な本屋の経営が厳しくなるのは、当然といえば当然のことといえましょう。新聞社や出版社が自らの生き残り戦略としてデジタル化にとりくみ、それと紙媒体を組み合わせていくことも必然であるかと思います。堅実な経営をしてきた書店や地方出版社であっても、廃業するところが出ているのは、本好きとしては悲しいことですが、現実なのです。

 

 その一方で、自らが出したいものを出すという一人出版社が結構増えてきたり、店主の求めるラインナップで店頭をディスプレーするという中小規模の独立系書店が増えてきていると聞くと、まだまだ期待を持ちたい気持ちも出てきます。

 

本は“力”―魅力にれた“本の世界”

 

 本は、それぞれに“そこにあるだけで、威力を発揮する”ものだと思っています。本はそれ自体が底知れない“魅力”を持っているものだと思っているのです。そして、本たちは魅力に溢れた“本の世界”をつくっています。書店も、図書館も、この“本の世界”が持つ魅力を人びとに伝えるところだと、私はずっと思ってきています。

 

 本から、人びとは未知なるものに出会うことができます。本は、人を知的な世界へ引き込んでくれる簡便な“ツール(道具、手段)”なのです。そのための媒介者としての役割を、公的に担っている機関が図書館だといえます。そのためには、図書館の本が“つまらなく見えてしまって”はいけません。図書館の本は“魅力的に見えなければならない”のです。本自らが発しているはずの“魅力”を引き出すという、図書館の書架の棚を工夫していくことが必要なのです。私は、図書館員として、そこにこだわってきました。

 

 図書館や書店は、水道事業や病院と同じように地域の住民にとって大事なインフラだと思っています。特に、地域の抱える課題を学び解決していくための資料や情報を提供する役割を担っている、大切な知的インフラ機関です。だからこそ、民主的な市民社会を支えていくためには欠かせませんし、社会的に支えていく必要がある機関なのです。社会を支えるためなのに、「儲からない」からといって切り捨てられていいものではないのです。市民社会を支えていくために欠かせない「公共性」を持っているからです。「儲からない」からこそ、社会的に支えなければならないのだと思います。

 

あなたのまちを図書館に―“まちの図書館化”の提案

 

 私が現役図書館員時代の30年近く前からずっと提唱してきたスローガンは「あなたのまちを図書館に」(「あなたのまちに図書館を」ではないですよ)でした。これを、私は「まちの図書館化」といってきました。そのことについて、以前、長周新聞さんでも書かせてもらいました。以下に紹介します。

 

 1990年代の終わりごろから、私は仕事の名刺に「あなたのまちを図書館に」というスローガンを刷っていた。自分たちが住んでいる“まち”(行政区分の町ではなく、生活の場という意味の“まち”)で図書館が持つ機能を地域全体で有効に使おうという提案だ。そのことを、私は「まちの図書館化」と呼んでいた。ノンフィクション作家の佐野眞一さんと私とのラジオでのトーク(NHKラジオ深夜便~サンデートーク「図書館の新しい波」2001年10月7日放送)で、私は次のように話している。

 

 「“まち”の図書館化と私はいっているんです」「図書館というものを一つの固定されたものというふうに考えない」「いろんな地域の場所に端末を置いて、その端末で蔵書の情報を検索する。あるいは自分の家からアクセスできるように、インターネット上で公開するというサービスが始まった。それで、届け先も、単に図書館に取りに来いというのではなくて、さまざまな地域の施設、公共施設はいっぱいありますから、そういう公共施設で受け取れる。あるいは普通の商店だとかコンビニだとか、銭湯や郵便局だとか、そういうとこでも扱えるようにする」(佐野眞一著『だれが「本」を殺すのか 延長戦PART-2』プレジデント社、2002年4月、P222~223)

 

 私は、東京都荒川区立図書館に約18年間、勤務した。このトークは、荒川の図書館員の時のことだ。ここで、公共施設だけではなく、カフェでも郵便局でもコンビニや銭湯などの民間施設にも図書館機能を広げていくことを提案していた。ふらっと行けば、そこで本が借りられることを。まちのなかにある、既存にある公共や民間を問わずさまざまな施設を使って、図書館機能をまち全体に拡大していく。それを目指していた。(長周新聞2022年10月1日号より)

 

 本にかかわる場所は、“まち”(生活空間としての“まち”)のいたるところにあった方がいいのです。公民館やコミュニティセンターなどの図書室の充実や、商店街の空き店舗に図書館の分室をつくったり(荒川にいたとき、それにかかわりました)、保育園・幼稚園・こども園の読書コーナーの充実(学校図書館と違い必置ではないが)にとりくんでほしいですね。公共施設だけではなく、さまざまな民間施設と連携・協力しながら、本や読書にかかわる機関を増やしていきたいといってきました。

 

本にいつでも接することができる環境の大切さ

 

山口県内の公立図書館

 「子ども読書推進法(子どもの読書活動の推進に関する法律)」の主眼は、「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」(同法第二条基本理念)にあるように、読書にかかわる環境整備なのです。いくら大人が「本を読め」と子どもにいったところで読むようにはなりません。普段から身のまわりに自由に本が手にとれる環境があれば、子どもは自然と本に興味を持つようになってくるものです。大人も同じなのです。いたるところで豊富で多様な本たちに接する環境があれば、手にとって読んでみて、気に入ったら書店で本を買ってみる、そんな動きがもっと増えるのではと思うのです。

 

 まずは、今はそういった環境を整えていくことに積極的であってほしいです。具体的にその環境をイメージしてみると、その自治体にどれだけ立派で大きな図書館があったとしても、そこへは自動車を使わなければ利用できないのであったら、どうでしょうかね。そこの環境は果たして、読書の環境を十分に整えているといい切れるのでしょうか。例えば、自動車を持たない子どもたち、自動車を運転できないお年寄りや障害者が、そう気軽にその図書館に行けないとしたら、どうあればいいと思いますか。

 

 そんな人たちがより身近で本に接することができるような環境が、普通に身近にあることが大切だと思います。大規模集約型の図書館や大型書店ではなく(もちろん、それもあってもいいとは思いますが)、分散型の地域館・分館・分室レベルの図書館や小規模な書店がたくさんあることが望ましいのです。

 

 私は子どものときから、書店が本だけを売っていればいいとは思っていませんでした。本屋さんに本や雑誌を買いに行ったとき、本屋のおじさん、おばさんと本のことや学校のことなどでお話することも多かったのです。そのとき、飲み物が出ることもありました(これタダですが)。これ今風にみれば、“ブック・カフェ”になりますね。また、昔から児童書の専門書店では、絵本の登場キャラクターの人形や関連グッズなどを売っていました。別に書店は本だけを売る制約があったわけではないから、雑貨を置いたり、児童書や小説のそばにその作品とコラボしたグッズやお菓子など、もっといろいろなものを置いて販売することに不都合はないはずです。このような形態の変化は書店が生き残るための戦略ではなく、文化を支える機関としての幅を広げていくものとしてみていっていいのではないかと思っています。そういう街の小さな書店を、“知的インフラ機関”としての意義を全うさせるために必要な整備として、国が支援していくことは当然のことだと思います。

 

書店と図書館は同志―この国の文化を支えるために発想を変えよう

 

 書店と図書館は、ともにこの国の文化を支える同志であって、敵対するものではなく共存共栄していく存在です。私は、そのような観点から、公共図書館への併設を提唱してきました。私は、書店と図書館はもっと連携・協力しあっていくべきだと思っていますが、それに否定的な声も図書館の世界では少なくありません。荒川にいたとき、「書店さんの店頭で図書館員が出前のお話会をする」との企画を立てたことがあります(上司に提案したら却下されましたが)。「読書へのすそ野を広く」し、地域文化の発展にともにとりくんでいくのだからといったのですが、相手は“民業”で“商売に協力することになる”とのことでした。

 

 今どきは、図書館で作家を呼んで文化講演会などを開催したとき、書店さんにその方の著作を持ち込んでもらい販売しサイン会をすることなどは、普通のこととなっています。書店と図書館の連携・協力といっても、書店は“商売”であるから、「公平、公正」であることを旨とする公立図書館との連携は“難しい”という声がこれまで必ず出てきていましたが、現状ではそんな悠長なことをいっているときではないことをもっと認識すべきです。

 

 今回、経産省が出した「書店振興プロジェクト」(全国で減少する街の書店を支援するのが目的で、地域文化を振興する重要拠点と位置づけ、支援する方針でとりくむための大臣直属の「書店振興プロジェクトチーム」を設置)は、悪いことではないと思います。全国の市町村の約4分の1に書店がない状況になっています。このまま、地域文化の担い手でもある地方の書店(大きな都市でも小規模な書店がなくなっています)がどんどんなくなっていくのを放っておいては、文化そのものの基盤が弱くなっていきます。それでいいのでしょうか。その危機感からの「プロジェクト」だと思います。

 

 どんな形での振興策になるかわかりませんが(頑張っている個々のとりくみを紹介して、他も頑張れというだけにならないようにしてください。きちんと継続して続けられるように具体的な支援策の実行が要です)、小さな書店が地域で力を発揮できるように積極的に支援していってほしいです。かつてのように“民業”だから、“行政は知らない”“公立図書館は知らない”といわせてはなりません。

 

 書店さんに加えて、書き手も出版社も、同時に地域やこの国が支えていかなければなりません。文化を支えるのは地域住民であり、地域行政や国家行政であるからです。「この国の文化を守る」という言葉を建前で否定する人はいませんね。文化をつくっていくというのは、そもそもちまちました“儲かる”“儲からない”といった目先の損得ではなくて、国家や社会を見据えた大きな度量が必要なのです。

 

 “ツタヤ図書館”第一号の佐賀県武雄市の武雄市図書館ですが、問題点が多々あるもののここでは指摘しません。ただ図書館として見たとき、この図書館はどうかと思います。併設のツタヤ書店の方は別にして、この図書館が“本の魅力を伝える”という役割を果たしているとはとても思えません。本との素敵な出会いをつくるのは、図書館でも書店でもよいのですが、ここではそれぞれの本と読者を出会わせることではなく、本を買わせることが目的ではないかと勘繰ってしまうほど、図書館側の本そのものに魅力を持たせていないように感じたのです。この図書館は、人はたくさん来ているようですが、どうでしょうかね。

 

 よくこのごろの公共図書館の位置付けを、人を集めて「賑わい創出」を実現するということを目的にした考え方が行政当局からうち出されることがあります。図書館は、多くの人が利用する施設ではありますが、図書館の役割は人びとに資料や情報を提供するのが役割であり、まちの「賑わい」を「創出」させるのは第一義ではありません。本という存在そのものに“魅力(さまざまなものにつながっていく力)”があるから、“まちづくり”につながっていくのであって、施設をつくることが“まちづくり”という建築主導の考え方は、図書館の立場からは転倒しているように、私は思います。図書館の役割と力を理解していただきたいのです。そのためには、本の力を信じ、本の可能性を知っているプロの人材(司書)を図書館でしっかり育てるということがより一層大切になっていると思います。

 

書店と図書館の連携をすすめよう

 

 私は、何もとり立てて新しいことをいっているのではありません。江戸時代に、日本の知的文化を支えてきたのは貸本屋でした。江戸では、貸本屋が800店舗以上もあったそうです。外国の人がそれを見て驚愕したというのですから、日本の文化・知的基盤を支えてきたのは、本屋さんですよね。貸本屋さんは、今日の図書館にもつながっています。

 

 本屋さんをいろいろな施設と一緒にという考えも新しいものではありません。歴史を遡れば、古代ローマ時代のギリシャの公衆浴場には小規模な図書館や書店が併設されていたと聞きます。

 

 私は、図書館と書店は手をとりあって、この難局に立ち向かわなければならないと思っています。経産省の「書店振興プロジェクト」には、図書館の現場でも積極的にかかわっていくべきでしょう。さまざまな施設や機関に、書店や図書館機能を付け加えていくことを、積極的にすすめていることは、何ら不思議なことではないと思います。そう考えれば、書店が減っているといっても、そう悲観することでもないように思います。この状況を書店や図書館への認識を高め、むしろ書店と図書館の状況を転換していくことにつなげていくべきでしょう。経産省の危機感と熱意を共有し、文科省も積極的に連携・協力してほしいものです。書店と図書館の垣根をもっと大胆にとり払って連携するなどの思い切ったアイデアを実現するときではないでしょうか。もっとも、それは“ツタヤ図書館”モデルではないことは確かですが。

 

蔦屋書店と一体化した公立図書館

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