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イスラエルがハマスの停戦交渉担当者狙いカタール空爆 現代イスラム研究センター理事長・宮田律

イスラエルがハマスの交渉担当者を標的とした空爆をおこない、黒煙が立ちのぼるカタールの首都ドーハ(9日)

カタール・ドーハでのイスラエルの暗殺作戦と、イスラエルに強い制裁を科すスペイン

 

宮田律氏

 9日、カタールの首都ドーハで爆発が複数回起こった。イスラエルがハマスの幹部を殺害するための攻撃だったと見られている。外国でテロ事件を起こすのは国際法にむろん違反するし、カタールはガザの和平交渉が行われてきたところだ。和平交渉が停滞することが危惧されるどころか、交渉相手を殺害するということはイスラエルが和平交渉を放棄したことを意味する。外国でパレスチナの武装集団の指導者や、イラクやイランの核物理学者を殺害するというのはイスラエルの常套手段ともいえる暴挙となってきた。ドーハはテロとは無縁の都市であり続けたが、イスラエルがそれを踏みにじった。

 

 イスラエルのカッツ国防相は8日、ハマスが降伏してイスラエル人の人質をすべて解放しなければ「今日、強力なハリケーンがガザ市の空を襲い、テロリストたちの塔の屋根を破壊するだろう」とXに投稿した。イスラエルが自衛の権利を主張するように、ハマスをはじめパレスチナの人々にも自衛の権利があり、ハマスが武器を即座に置くとは考えられない。イスラエルはハマスに不可能な要求を行って、さらに多くのガザの人々を殺戮しようとしているように見える。強力なハリケーンによらなくても、ガザにはもう破壊するものもほとんどない状態で、住民たちは粗末なテントの中での生活を余儀なくされているが、それでも人々はガザでの生活を放棄していない。

 

 イスラエルのジェノサイドに対して最も強い批判の声を上げているのはスペインだ。8日、サンチェス首相はガザにおけるジェノサイドを最も強い調子で批判し、イスラエルに対する強力な制裁措置を発表した。

 

 サンチェス首相は「スペイン政府は自国や社会を守ることと、意図的に病院を爆撃したり、無垢な子どもたちを飢餓に追いやったりすることには明確な相違があると理解しています。ネタニヤフ首相が2023年10月にハマスの残虐な攻撃への対応として『軍事作戦』と呼んだものは、まったく別な実体に変化しました。イスラエルは新たな不法占領を繰り返し、パレスチナの民間人に対する弁護の余地のない攻撃を行っています。これは国連特別報告者や大多数の専門家がすでにジェノサイドと認識している攻撃です。これは自衛ではありません。戦争ですらありません。無防備な人々の抹殺であり、人権のあらゆる原則の破壊です」と厳しい調子で訴えた。

 

パレスチナを国家承認し、イスラエルへの制裁を宣言したスペインのサンチェス首相

 そしてサンチェス首相はイスラエルに対する多岐にわたる制裁を発表した。

 

 ▼武器禁輸 イスラエルへのあらゆる種類の武器の販売禁止。
 ▼海上制限 イスラエル軍向け燃料を積載する船舶のスペインの港湾利用の禁止。
 ▼空域制限 イスラエルへの軍需物資を輸送する航空機のスペイン領空の通過禁止。
 ▼入国禁止 ジェノサイドおよび戦争犯罪に直接関与したイスラエル人のスペイン領土への入国拒否。
 ▼入植地産品の輸入禁止 ガザ地区およびヨルダン川西岸地区のイスラエル入植地で生産された物品の輸入禁止。
 ▼スペイン領事館サービスの制限 違法なイスラエル入植地に居住するイスラエル国民に対するスペイン領事館によるサービスの停止。
 ▼パレスチナ自治政府への支援 パレスチナ自治政府に対するスペインの外交・財政支援の強化。
 ▼UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金の増額 UNRWAの活動に対するスペインの財政・ロジスティクス支援の拡大。
 ▼ガザ地区への人道支援の強化 ガザ地区を対象とした人道支援・協力プログラムの強化。

 

 日本政府もこのくらい明確な非難声明とイスラエルへの制裁措置、パレスチナ・ガザへの支援措置を世界に向けて訴えてほしいものだ。イスラエルへの制裁措置やガザへの支援策を明らかにするスペインは国際社会で大いに評価されることだろう。日本も国連の常任理事国入りを目指すならば、アラブ・イスラム世界など国際社会の多くの人々の心の琴線に触れるような政策を行ってほしいものだ。

 

 スペイン内戦(1936~39年)で頻繁に人々の口から発せられた「奴らを通すな!(ノー、パサラン!)」という言葉は、1936年にファシストのフランコ軍の包囲を受けながらも、マドリードを守り続けた人民戦線の人々のいわば合言葉だった。現在のガザと同様に、燃料や食料が不足する中でマドリード市民は戦い続け、彼らには世界中から同情と支援の声が起こり、国際義勇兵たちもこの防衛戦に数多く参加するようになった。1936年11月に、フランコ軍は総勢2万人の兵力で総攻撃を開始し、ファシストのドイツ、イタリア軍による空爆の支援を受けたが、マドリードの人民戦線は2年半もちこたえた。イスラエルの空爆や飢餓作戦に耐える現在のガザの人々を彷彿させるようだ。

 

 スペインとパレスチナは言語こそ違え、「奴らを通すな!」は現在、パレスチナ市民の共通の意識になっている。ガザやヨルダン川西岸ではイスラエル軍がパレスチナ人の土地を侵食し、入植地を拡大し続けている。パレスチナ人の主権を踏みにじるイスラエル軍に対して発せられるパレスチナ人の「ノー、パサラン」の訴えや行動には国際法上の正当性があるが、国際社会はスペインに倣ってイスラエルに強い制裁を科し、ガザやヨルダン川西岸の人々の生命を助け、彼らの財産を保護していくべきだ。(9月10日)

 

イスラエルのカタール空爆はアメリカとの「合作」――カタールに仁義のないトランプ大統領

 

 イスラエルのネタニヤフ政権は9日、カタールの首都ドーハでハマスの文民メンバーが使用していたビルを空爆した。カタールではイスラエルとハマスの停戦交渉が行われていたが、イスラエルはハマスのメンバー5人とカタール人の警備員1人を殺害した。交渉代表団のメンバーたちは無事だったが、カタールのムハンマド首相は9日、イスラエルの攻撃は国家テロとしか解釈できないとのべた。イスラエルと米国は6月にやはり核問題で交渉中のイランを空爆したことがあり、外交交渉中のイランを攻撃したことに日本の石破首相も到底許容できないとイスラエルを強く非難した。

 

 カタールには米兵1万2000人が駐留する中東最大の米空軍基地アル・ウデイド基地があり、ウデイド基地に事前通告がないままイスラエル軍機がカタールの領空に侵入し、攻撃したとは考えられない。イスラエルが空爆した建物から30㌔ぐらいのところに米軍基地があり、米軍は休む間もなくレーダーを監視し続けている。

 

ドーハ南西にある中東最大の米軍基地アル・ウデイド空軍基地

 イスラエルの極右閣僚らは大イスラエル主義を掲げ、現在よりも広い地域、あるいは空域でのイスラエルの中東支配をもくろんでいるが、トランプ政権がカタールにイスラエルの攻撃を事前に通告しなかったことは、トランプ大統領が「大イスラエル主義」を容認しているからとも考えられる。

 

 ウデイド基地があるように、カタールは湾岸地域における米国の重要な同盟国で、対テロ戦争では米軍機がウデイド基地からイラクやアフガニスタンに向けて発進していった。5月にトランプ大統領はカタールを含めた湾岸3カ国を訪問したが、トランプ・ファミリーの中核企業である「トランプ・オーガニゼーション」はカタールでは同国初の高級ゴルフリゾートを建設する計画を発表した。また、カタールはトランプ大統領訪問の際に1000億㌦のボーイング機購入を含めて数千億㌦の投資を米国に行う約束をした。

 

 米国はオバマ政権時代に、ハマスがシリアから撤退した後の2011年にカタールにハマスの交渉担当者を受け入れるように要請し、この役割を担ったカタールは米国務省から評価されていた。

 

 今回のカタールでのイスラエル軍機による空爆は、ハマスを停戦交渉のテーブルから外すことを目的としている。交渉担当者を殺害しようとすることは交渉そのものを無意味にするものだ。イスラエルの極右閣僚たちは、ガザのハマスの軍事部門であるアル・カッサーム旅団のメンバーたち全員の「抹殺」を考え、ガザからパレスチナ人を追放するつもりでいる。

 

 イスラエルの極右閣僚たちはハマスとの交渉に反対しているが、イスラエルでは大多数の人が、ガザで囚われている人質の帰還を望み、イスラエル経済に打撃を与えている戦争を終わらせたいと考えている。イスラエルでは停戦や人質帰還を求める人々が街頭に繰り出してネタニヤフ政権の方針に反対しているが、ハマスの交渉担当者を殺害することはイスラエル国内の抗議デモを無意味にするという目的もある。

 

 イスラエルは、トランプ政権がシリアの新しいイスラム主義政府を承認し、対シリア制裁を解除したにもかかわらず、日常的にシリアを爆撃している。イスラエルは、24年11月にレバノンとの停戦合意が成立したにもかかわらず、レバノンを爆撃し続け、イエメンでも8月末に空爆によってフーシ派政権の首相を殺害、さらにイランについても政府要人の殺害を考えている。国際法を蹂躙して支配地域を拡大しようとするイスラエルは、まさに「ごろつき国家(rogue state)」という形容がふさわしい。

 

 こうしたイスラエルの動きに中東諸国も懸念や不信を抱いている。イスラエルが六月にイランを攻撃した時に、米国はサウジアラビアに迎撃用ミサイルをイスラエルへ譲渡するよう要請したが、サウジアラビアはこれを拒否し、シリア軍の展開地域をイスラエルが決定することに反対する米国へのロビー活動を行った。イスラエルに最も近いアラブの国UAEもヨルダン川西岸の入植地拡大には越えてはならない一線があるとのべた。

 

 国際法を踏みにじるイスラエルが不処罰のままであってよいはずがない。イスラエルの姿勢を変えるためには厳格な処罰が必要で、イギリスではパレスチナ支援団体「アル・アクサーの友(FOA)」が10日にイギリスを訪問予定のイスラエルのヘルツォーク大統領について「民間人や民間施設への直接的かつ無差別攻撃を幇助、教唆、または扇動した」容疑で逮捕状発行を申請するように弁護団に指示した。また、「パレスチナ人のための国際司法センター(ICJP)」は8日、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)の戦争犯罪課に書簡を送り、イスラエル大統領がイギリスに到着次第、戦争犯罪の容疑で捜査を受けることを要求した。

 

 戦争犯罪による逮捕、国際法廷での裁判、あるいはスペインのような制裁措置、さらに個人レベルではBDS運動への参加などでイスラエルの国際法違反の行為を国際社会は正していかなければならない。(9月11日)

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