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フランス総選挙で与党は大敗 若年層で反グローバリズムの世論噴く 改選前から100議席減

マクロン大統領

 フランスで19日、5年に1度の国民議会選挙(下院・定数577)の決選投票がおこなわれ、2期目のマクロン大統領率いる与党連合は改選前から約100議席減らして過半数を大幅に割り込み、辛くも最大勢力を維持するにとどまった。代わりに野党勢力が大幅に議席数を伸ばした。今後与党連合は多数派工作を進める方針だが、連立相手の共和党は今回の選挙で61議席に半減したうえ、「政権への対抗」を訴えているため難航すると見られている。今回の結果はマクロン政府にとっては大きな打撃であり、議会運営を麻痺させるほどの変化が起きている。

 

 今回の総選挙で与党連合が獲得したのは245議席。前回の2017年選挙では350議席で過半数を大幅に上回っていたが、一気に100議席以上も減らす結果となった。与党が過半数を割り込むのは、2002年に大統領選の直後に総選挙がおこなわれるようになって以降初めてのことだ。

 

マリーヌ・ルペン

 先の大統領選挙でマクロン大統領に迫ったマリーヌ・ルペン氏が率いる「国民連合」は改選前の8議席から10倍以上となる89議席に伸ばした。この結果、野党第二勢力へと拡大している。さらに大統領選挙で3位だったメランション氏が率いる「不服従のフランス」を中心に結成された左派連合「人民環境社会新連合」は、議席を73から131へと約2倍に伸ばし、最大野党となった。

 

 また、前回選挙で136議席を得て最大野党だった共和党が、今回61議席と半分以下にまで議席を減らしたことも大きな特徴となっている。共和党はマクロン氏率いる与党連合の補完勢力と見なされている。

 

 マクロン政権は2017年の就任以来、「金持ちの味方」として国民の批判を集めた。富裕税を廃止し、大企業に有利な解雇規制の緩和をする一方、2018年に燃料税引き上げ方針を示すと、地方の低・中所得者層、国内の若年層を中心に、反マクロン政権の「黄色いベスト」運動が起きた。また、財政の緊縮路線を強めた結果、人員や財源不足による病院・病床の閉鎖もあいついだ。「庶民軽視・緊縮財政」に対する批判が強まり、今回の総選挙でマクロン大統領率いる与党連合は30%もの議席を減らし、過半数を大幅に割り込む結果となった。

 

 今回大幅に議席を増やした二つの野党勢力を見てみると、ルペン氏の国民連合はEU法よりもフランス法を優先させることや、フランスによるフランス国境の管理を訴えてきた。また、EU圏内で自由になされることになっている物流について、フランス独自の輸入管理の必要性を主張。さらに国内対策としては、「黄色いベスト運動」の発端となったガソリン付加価値税の軽減や、賃金の1割アップ、年金の支給開始年齢の60歳への引き下げなど、不況とインフレに苦しむ低所得者層を対象とする公約を掲げた。また、大統領選に引き続き光熱費にかかる消費税率引き下げも主張した。

 

 そしてマクロン大統領を欧州統合推進派の「グローバル化の信奉者」とみなして、政府の「冷たい政策」に対抗し、経済政策により重点を置いた主張をおこなった。その結果選挙前の八議席から、当初は50議席程度まで議席を増やすと見られていたが、その事前予想を大幅に上回る89議席を獲得した。

 

ジャン=リュック・メランション

 左派連合の中心となる「不服従のフランス」を率いるメランション氏は、主に富の再分配構造を強化し、労働基本権と福祉政策の拡大や、最低賃金の上昇を主張してきた。EUの下で経済自由主義とグローバル化に引きずられて国家主権が侵害されているとし、高額所得者に対する課税強化、金融・不動産・相続課税の強化、居住住宅の非課税枠の拡大、脱税・資本逃避の対策強化の必要性を訴えている。また、NATO軍が世界全体にとっての脅威になると同時にフランスの平和外交を阻害するものになるとして、NATOからの離脱を主張している。

 

 他にも、40年間の年金拠出による60歳からの年金支給確約や最低保障年金増額、ホームレス・ゼロ化、100万戸の公共住宅の新築などを公約に掲げている。EUに対しては、EUが要求する公共サービスの民営化の停止。EU離脱のための国民投票の実施。財政赤字がGDPの3%を上回ってはならないことを規定するEU協定への不服従を訴え、結果的に議席を73から131へと2倍に伸ばした。

 

 今回議席を急速に伸ばした二つの政党は、「極右」「急進左派」などと呼ばれ、互いに対極にあると位置づけられている。両者の共闘の可能性についてはメランションが大統領選挙の過程で「ルペンには投票するな」と呼びかけるなど、現時点では一致していない。だが、政策のなかでは共通する部分も多く、とくに反グローバリズム、EUの下での国家主権侵害や緊縮政策への反対を互いに強く訴えており、それらの訴えに強い支持が集まり議席を急伸させる結果となった。

 

 今回の選挙はフランス国民による反グローバリズム、フランスの国家主権確立の世論が急激に高まっていることを示している。投票率は46・23%で、前回2017年におこなわれた総選挙決選投票を3㌽程度上回った。マクロン大統領率いる与党連合は今後、法案ごとに補完勢力と見なされている共和党などに協力を仰ぐ必要があるが、今のところ共和党も「政権への反対」を公言しており、政策運営が麻痺する可能性が高い。総選挙期間中、野党支持者の間ではツイッター上で「#マクロンをハッキングせよ」が合い言葉となったが、その言葉通り現政権の手足を縛る強い圧力を投票行動によって示す結果となった。

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