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仏全土で燃え上がるデモ 新自由主義への反撃 調子付いたマクロン改革の結末

『ラ・マルセイエーズ』を歌いマクロン退陣を要求(1日、ニーム)

 フランス国内で、マクロン政府の退陣を求める大規模な抗議行動が広がっている。道路作業用の蛍光色のベストをシンボルに「黄色いベスト(Gilets Jaunes)運動」と呼ばれるこの政治行動は、11月半ばからフランス全土で40万人によるデモや道路占拠によって表面化し、毎週末ごとに数十万人規模でおこなわれている。メディアは一部の過激な行動のみに焦点をあてて「暴徒」と報じているが、最新の世論調査では国民の8割以上がこの運動を支持しており、底流にはグローバル化にもとづく新自由主義改革への広範な反撃世論がある。

 

 抗議行動が始まった直接の要因は、マクロン政府による燃料税引き上げだ。フランス国内では今年、ガソリンが15%、ディーゼル燃料は25%値上がりしており、燃費の良さから運送業や低所得者層の間で普及率が高いディーゼル燃料(軽油)にも「炭素税」が導入され、1㍑あたり平均1・24ユーロ(約160円)から、今年10月には1・53ユーロ(約197円)まで上昇した。フランスでのディーゼル車の普及率は高く、小型車も含めて国内の走行可能車全体の約6割を占めている。

 

 さらに来年1月にガソリンも含めた炭素税の増税をうち出すとともに、「温暖化対策」と称した新たな課税を進めるマクロン政府に対し、燃料高騰の直撃を受けるトラックやバスなどの運送業界、公共交通機関がなく車なしでは生活できない農村部や都市周辺からゲリラ的な抗議行動が始まった。インターネット上で呼びかけられた「燃料価格の引き下げを求める」署名には、現在までに130万人が署名しており、SNSで拡散される呼びかけに応じ、毎週末ごとに全国で大規模な行動が展開されている。

 

農業者によるトラクター・デモ(1日、ニーム)

 11月初旬から始まった抗議行動は、南部や北部の工業都市からパリなど大都市へも波及し、11月17日には全国2000カ所以上でおこなわれた集会に約28万人(内務省発表)が参加した。人人は作業用の黄色いベストを着て街頭に集まり、一般道や高速道路などを封鎖するとともに、大銀行の入口や大規模燃料貯蔵庫、鉄道の駅などを占拠し、「燃料価格を値下げしろ」「マクロンは退陣しろ」などの要求を叫んだ。

 

 農村部では農業者によるトラクターデモがおこなわれ、今月3日には国会前に数百台の救急車が集結して抗議のサイレンを鳴らした。マクロン政府が、これまで個人にあった救急車の選択権を医療機関だけに与え、中小企業を淘汰することへの抗議も含んでいる。また、学生や中高校生たちも、教育改革や試験制度改革に反対する独自のデモを展開している。

 

 3回目となった今月1日の行動には、フランス全土で13万6000人が参加した。首都パリでは、凱旋門を臨むシャンゼリゼ大通りを数万人の市民が埋め尽くした。政府は大統領公邸を守るために5000人規模の機動隊を送り込み、催涙ガスや警棒などで弾圧。現在までに約600人が逮捕されている。パリ中心部では、一部の過激派が商店や市民の車両にも危害を与え、「暴徒」のレッテルを貼って弾圧を正当化するマクロン政府を助けているが、世論調査では抗議運動への支持は当初よりも多い8割以上に及び、全土に広がった運動が沈静化する気配はない。

 

マルセイユでの抗議集会(1日)

 保守や革新を含む野党勢力や既存の政治団体とは別のところから行動が始まり、下から同時多発的に行動が広がっているのが特徴で、「EU離脱」を主張して大統領選でマクロンと争ったル・ペン率いる保守政党「国民連合」も、国政に議席を持つ左翼政党も直接関与していない。「保守・革新」の政治構造に対する国民の強い不信感があらわれており、参加者たちは市民の蜂起で帝政を終焉させたフランス革命で歌われた国歌「ラ・マルセイエーズ」を合唱し、燃料課税の廃止にとどまらず、マクロン政府の退陣、政治への民主主義の実現、大企業が一手に握る富を再配分して国民の生活水準と購買力を向上させることを求めている。

 

 いわゆる「代表者」が存在しないことから、マクロン政府は買収や妥協的な条件闘争に持ち込めず、政策を抜本的に変更するか、みずから退陣するかを迫られる事態となっている。これほど大規模で長期に及ぶ政治行動は、1968年の学生らによる「5月革命」以来50年ぶりといわれ、「現代版フランス革命」とも表現されている。

 

「保守・革新」こえて 下から自発的に広がる

 

機動隊と衝突し、抗議する住民たち(1日、パリ)

 パリの行動参加者たちは、SNS上で「フランス政府は債務の利息として1979年から1兆4000億ユーロも払っているが、債務は返済されるどころか増え続けている。そのために国民は異常な税金を払わされている。私たちは市民革命によって1789年のフランス革命を終結させるべきだ。政治に民主主義を実現し、国民が権力を取り戻すために立ち上がっているのだ」「マクロン政府が政策の過ちに気づき、国民の声に耳を傾けるまでみなは行動を続けるだろう。ここには暴力的な壊し屋だけでなく、全社会階級の人人が集まっている」「月1200ユーロ(約15万円)で生活しているが、金持ちは口で励ますだけでなにもしない。国民は乳牛のように搾取されており、政府はアマゾンなどの大企業だけを優遇している」と怒りを込めて告発している。

 

 「これ以上燃料価格が上がれば、私たちはどこにも行けない」「年金が削られ毎月の食費を削っているが、これ以上削るところはない」との声もあり、組織に属さず、自発的に参加した労働者や自営業者、高齢者、主婦、若者たちが大半を占めている。

 

 この世論の底流には、昨年5月の発足以来、マクロン政府が進めてきた公共インフラの民営化やリストラなどの緊縮政策、大企業や金融資本のみを優遇するグローバリズムにもとづく新自由主義的政策よって深刻化した国民生活の窮乏化への怒りがある。燃料課税はその一環であり、直接行動を促した「導火線」に過ぎない。同じくEUによる金融寡頭支配にさらされているギリシャ、イタリア、スペイン、イギリスなどでの反グローバリズムの社会運動と連動したものといえる。

 

 社会党(左派)のオランド大統領の後継として登場したマクロン大統領は、改革派としてEUでみずからの存在感を高めるために、EUが押しつける「財政赤字をGDP(国内)の3%以下に抑制する」という財政目標の達成を公言し、国内で大規模な歳出削減を実行する一方、各種増税、労働規制の緩和、公務員のリストラ、鉄道をはじめ公共インフラの民営化などの改革を矢継ぎ早に実行に移してきた。

 

 フランス国内の失業率は、近年9~10%で高止まりしており、若年層の失業率は22~24%とEU平均を上回っている。マクロン政府は、これを解決するための労働改革として大胆な規制緩和を実行した。だがその内容は、集団解雇の手続きの簡素化、グローバル企業の経済的理由による解雇規定の緩和、雇用維持協定の緩和、不当解雇のさいの補償金額の上限設定、解雇不服申し立ての期間の短縮など、ことごとく雇用者側に有利な改革ばかりだった。

 

 さらにマクロン政府は、年金受給開始年齢を2030年までに67歳へと引き上げることや、タバコ増税で一箱あたり10ユーロ(約1300円)へ引き上げること、社会保障増税、住宅手当の削減などの緊縮財政を進め、歳出削減の目玉としてフランス国有鉄道(SNCF)の事実上の民営化にも着手し、公務員の12万人削減もうち出した。

 

 一方、企業側に対しては、基本実効税率33%の法人税率を2022年までに25%まで段階的に引き下げるとともに、支払い給与の一定割合を法人税から控除する税額控除を、2019年から雇用主の社会保障負担の軽減制度へ改めることを発表。また、投資家への負担軽減措置として、総合課税されてきた金融所得(有価証券譲渡益や利子・配当)に対する税率を下げ、富裕層の保有資産にかかっていた「富裕税」を廃止し、不動産以外(金融資産など)を課税対象から除外する制度に変えるなど、富裕層への優遇措置を図ってきた。「企業や富裕層の負担を減らすことによって国内投資を呼び込む」との理由で進めてきたこれらの改革は、日本において安倍政府が推進してきた政策とも共通する。

 

 その結果、国内に外資が流入することによりGDPが上昇し、物価が高騰する一方で、賃金は下げ止まり、貧困化と格差の拡大に拍車がかかった。フランス当局は、1人当りの月収の中央値1692ユーロの6割以下にあたる1015ユーロ(約13万円)以下で生活している人を貧困層と定義しているが、その貧困層が全人口の14%(フランス国立統計経済研究所)を占めた。かつて工業地帯として栄えた南部、北部地域には移民の流入もあって貧困が深刻化し、都市部との格差が拡大した。今回の行動がこれらの地域から始まっていることも、富と労働力を吸い上げてきた金融資本のみを優遇することへの根強い反発を物語っている。

 

8日も全国的行動 増税凍結でも終わらず

 

知事公舎前の行動に合流したバイカーたち(1日、ニーム)

 フランスでは今年4月にも、労組やCGT(労働総同盟)などの呼びかけで、3カ月にわたるストライキをおこなってきたフランス国有鉄道をはじめ、公務員、パイロット組合、エネルギー部門、公共放送、学校教職員、医療従事者、郵便局など、業種や企業の枠をこえて連帯し、全土で30万人規模の抗議行動がおこなわれた。

 

 マクロン政府が改革の目玉とする国鉄の民営化では、不採算部門や地方ローカル線の廃止をうち出しており、国鉄で働く75%の労働者が参加して国内全域でストライキによる実力闘争を展開してきた。日本における国鉄分割民営化や郵政民営化と同じように国鉄労働者の公務員待遇を「既得権」として憎悪の対象にして人員を大幅削減するとともに、貨物輸送の自由化などで市場競争を持ち込み、赤字を膨らませて民営化への地ならしを進めた。これにはフランスの労働組合のなかでも存在感の大きい国鉄労組を潰す意味合いも含んでおり、国鉄労働者に対する産業をこえた連帯意識から大規模なゼネストとなった。

 

パリの学生たちとデモ行進する鉄道労働者(4月13日)

 さらに政府が2001年に廃止した徴兵制を復活させ、18歳から21歳までの男女に約1カ月の兵役義務を課そうとしていることや、教育分野でも、これまではバカロレア(試験)に合格して高卒資格をとれば誰でも希望する大学に入れた制度を、大学側が入学者を選別する制度へと「改革」することに学生の反発が強まり、各地の大学で学生らがキャンパスを占拠する行動が広がった。

 

大学改革に反対する学生のデモ(4月19日、マルセイユ)

 燃料課税に端を発した「黄色いベスト運動」は、「貧困や格差の解消」を約束しながら国民を裏切り続ける社会党出身のマクロン政府への怒りが広範に波及し、これまで社会的な抗議活動とは縁遠い存在だった人人を行動に駆り立てている。フランス国内で渦巻く反グローバリズム、反金融寡頭政治の世論が既存の議会政治の外皮を打ち破って表面化している。

 

 マクロン退陣の世論拡大を怖れるフランス政府は4日、黄色いベスト運動から「国民の怒りのメッセージを受けとった」とし、発端となった燃料増税、来年1月に予定していた電気・ガス料金の値上げ、軽油とガソリンの均一化措置を6カ月間凍結することを発表した。

 

 だが、行動参加者たちは「われわれが求めているのは凍結ではなく廃止だ」「最低賃金や年金制度など国民の購買力向上につながる政策をせよ」「問題の先送りではなく富裕税を免除した大企業に課税するなどの抜本改革をせよ」との反発を強め、8日にも全国的な行動を呼びかけている。フランス政府は「凍結」から断念に譲歩したものの、デモは収束する気配を見せていない。

 

 マクロン政府は「非常事態宣言」の発令も視野に入れ、権力による鎮静化を図ろうとしているが、抗議行動ではマクロン体制をフランス革命を裏切って処刑されたルイ16世などと重ねて「大統領君主制」と呼んだり、バスチーユ広場にギロチンの模型が運び込まれるなど、国が弾圧を強めれば強めるほど建国の原点であるフランス革命の伝統を否定するものとして国民の怒りを掻き立てている。調査会社BVAによれば、大統領の支持率は過去最低の26%となり、退陣前のオランド前大統領を下回るほどに落ち込んだ。

 

 旧来の「保守・革新」の政治構図が干からびたものとなるなかで、それらを使い分けながら社会全体の富を独占し、公的な社会機能をも利潤の具にしてきた金融寡頭政治に対する下からの強力な反撃機運が表面化している。この趨勢は欧米各国にとどまらず、同じグローバル化によって荒廃してきた日本社会への波及も避けられない。わずか1%にも満たない富裕層の強欲な搾取と、その道具と化して社会を崩壊させる統治に対し、99%の連帯したたたかいが国境をこえて噴き上がっている。

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