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フランスでゼネスト突入 全土で350万人が街頭デモ 年金改革法案の撤回求め無期限ストも “社会支えているのは労働者だ”

70万人が街頭にくり出したパリの抗議デモ(7日)

ボルドーのデモ参加者たち(7日)

 フランス国内で7日、マクロン政府の年金改革案への国民的な怒りを背景に、「フランスを停止させる」として全国各地の労働現場で大規模ストライキに突入するとともに、約350万人(CGT初表)が街頭で抗議デモをおこなった。鉄道、地下鉄、バスなどの交通機関、道路、輸送、医療、消防、港湾、燃料、電気・ガス、清掃、公務員、学校、商業、サービス業……あらゆる産業分野の労働者たちが一斉にストライキに突入し、老若男女が街頭にくり出して政府の年金改革に異議を唱えた。国内300の地域で抗議デモがおこなわれ、「政府は国民の声に耳を傾けろ」「生存の権利を守れ」「われわれは労働の囚人ではない」と声を上げた。ストを呼びかけた主要労組は「勝利(年金改革法案の撤回)」まで更新可能(無期限)のスト実施を宣言しており、一握りの金融資本や既得権者の代理人として年金削減を進める政府との攻防が本格化している。

 

 マクロン政府が進める年金改革法案は、年金支給年齢を現行の62歳から64歳に引き上げるとともに、満額支給を受けるための社会保険料支払い期間を42年から43年に引き延ばすこと、さらに職種ごとに分かれている定年年齢を一本化することなどが主な中身だ。これにフランス人の7~8割が反対の意を示しており、日ごとに反対世論が増幅している。

 

 今回の年金改革案に対する抗議デモや一斉ストライキは、マクロン政府が年金改革法案を発表した1月中旬から始まり、7日で6回目となる。今回は、産業別の主要労働組合であるCGT(労働総同盟)、CFDT(民主労働総同盟)、FO(労働者の力)、CFTC(キリスト教労働者同盟)、Unsa(独立組合全国連合)、FSU(統一労働組合連合)、CFE-CGC(管理職総同盟)、Solidaires(連帯組合連盟)などが、「前例のない大規模な行動」と位置づけ、各産業の下部組合にもゼネストへの参加を呼びかけた。これまでストが1日限りの散発的なものであったのに対して、今回は期限をもうけず、1日ごとに組合員投票をおこなって、「勝利するまで」継続することを可能にしている。

 

 最大労組のCGTによると、7日にフランス全土でおこなわれたデモへの参加者は350万人にのぼり、これまで最多だった1月31日(250万人)の記録を100万人上回り、2010年10月12日に展開されたサルコジ政府の年金改革に反対するデモに匹敵する規模となった。

 

 首都パリでのデモ行進は過去最多の70万人に達した。またリヨンで4万5000人、マルセイユで24万人、リールで10万人、ナントで7万5000人、トゥールーズで12万人、ボルドーで10万人、ルーアンでは2万6000人、レンヌで4万人、モンペリエで4万2000人など、地方都市でおこなわれたデモも軒並み過去最多を大幅に更新。カレー(6000人)やペリグー(1万人)などの小さな町でも同様の動きとなった。

 

港を埋め尽くすデモの群衆(マルセイユ、7日)

推定10万人が参加したボルドーのデモ隊(7日)

 ストライキ決行中の労働者に加えて女性たち、公務員、ソーシャルワーカー、消防士、医療者、教師、子どもを連れた家族、年配者、学生など、性別・年齢・人種をこえた幅広い人々が、自作のプラカードや旗などの表現物を持ち寄ってデモに参加し、楽器の演奏や歌、ダンスを披露しながら歩く人たちも見られた。封鎖した道路や施設前は焚き火やバーベキューをしながら、昼夜を問わず交代で役割を担っている。孤立感や悲壮感が見られないのが特徴で、働くみんなのために力を合わせて社会的利益を守る使命感を互いに共有する場ともなっている。

 

 全国的な一斉行動を受けて、主要労組によるインターユニオン(連合労組)は、共同で次のような声明を発した。

 

*       *

 

 1月19日以来、私たち国民は年金改革に反対して大規模デモをおこなってきた。すべての労働組合と青年組織が呼びかけたあらゆる日には、何百万人もの労働者、若者、退職者が街頭に集まった。

 

 2月16日、政府と共和国大統領の無反応に直面し、私たち連合労組は3月7日にフランスを停止させるよう呼びかけた。それは、法定退職年齢を64歳に引き上げ、社会保険料支払い期間を延長することを拒否する、全国民の4分の3、労働者の94%の支持によって支えられている。

 

 今日もまた、官民の労働者、若者、年金受給者など300万人以上が、ストライキやデモを通じて抗議に参加した。ストライキや動員の規模として歴史的な日だ。数千もの学校と教育機関が閉鎖され、民間企業、行政、都市が停止した。そして年金改革法案の撤回を求める数百のデモや行動が全国でおこなわれた。

 

 ところが今日に至るまで、統一された労組を中心としたこれらの大規模な運動は、政府から何らの回答も得ていない。(政府が)このような硬直した態度を続けることは不可能だ。大統領の沈黙は深刻な民主主義の問題を提起しており、必然的に国民の爆発的な運動に火を付けるものになりかねない。われわれは緊急に大統領が改革案の撤回を受け入れるよう、彼にメッセージを送る。

 

 今日表明されたこの決意の強さにもとづき、全産業労組はすべての職業部門がこの運動を継続、拡大することを支持し、奨励する。全国民に対し、この不当で残忍な改革にノーというために、動員と行動を継続するよう呼びかける。

 

*       *

 

ストで政府ねじ伏せる 運輸・鉄道・空港

 

 年金改革案を葬るために「フランスを停止させる」という明確な目的を掲げて呼びかけられた一斉ストは、国内のあらゆる産業分野に波及した。

 

 各労組は「聞く耳を持たない政府をねじ伏せる力があるのは、継続可能なストライキだけ」であり、「(今回の行動を)大規模で、前例のない、忘れられない」ものにすることを呼びかけた。

 

 ストの主軸となったのは交通・運輸、製油、電気・ガスなどの基幹産業部門で、例外なく施設の閉鎖に踏み切り、「労働者を蔑ろにすれば、フランス経済は止まる」という労働者の強力な意志を政府や資本側に示した。

 

 いち早く動いた交通・運輸部門では、輸送トラック運転手たちが6日からストを開始し、主要都市周辺の物流プラットホーム、工業地帯、港湾道路、高速道路などを封鎖。「カタツムリ作戦」と称して大型トラックが列を成して道路を封鎖し、国内の物流を麻痺させた。労組側は「われわれの目的は一般車両をブロックすることではなく、経済(株式)のブロックだ」(全国運輸物流連盟)と強調している。

 

 道路封鎖に参加した元建設作業員の男性は、「私はすでに年金受給者だが、息子たちのためにたたかっている。それは夜勤の看護師や建築現場で働く人たちも同じだ。60歳をこえてセメント袋を運び、スコップで回すことは大変なことだ。それを64歳まで強いる権利は政府にはない。この道路封鎖は正当なものであり、私たちの声を政府に聞かせなければならない。国民は暴走する権力に対して声を上げる権利を持っている」と胸を張ってのべている。

 

 道路封鎖のために立ち往生したトラック運転手(38歳)も、「(ストによる渋滞で)疲れているが怒ってはいない。(中小零細で働く)私は月収1300ユーロで、家には2人の幼い子どもがいるため、(ストに参加して)1日分の給料を受けとらないわけにはいかない。でも、私は保険料水準が低いために受けとる年金が低いことも知っている。64歳まで働かせるマクロンの年金改革には大反対だし、労働者がストライキ権を行使することは非常に重要だ。だから私は彼ら(スト中の労働者たち)とともにいる」と連帯の意を示した。

 

 鉄道分野では、SNCF(フランス国鉄)とRATP(パリ交通公団)で7日から全面的なストに突入し、国内の鉄道、地下鉄バス、トラム、郊外列車(RER)のほとんどがストップした。

 

 TGV(高速列車)とTER(快速列車)は運行便は3分の1に激減。地方でも各駅入り口を鉄道労働者たちがピケライン(人垣によるバリケード)を張って塞いでいるため、鉄道網全体の麻痺状況は今後も継続される見通しだ。

 

 また管制官や空港労働者もストに入ったため、民間航空局(DGAC)は、7日と8日の主要空港のフライト便を3割削減するように各航空会社に要請。2月上旬の大規模ストでは、航空管制官組合はストへの参加を呼びかけていなかったが、今回のストではダイヤが大幅に乱れた。

 

 今後も管制官によるストは継続されるため、政府は9、10日にも各航空会社にフライトの20~30%削減を求めた。

 

 地元紙のインタビューで、ストに遭遇した通勤者たちの多くは「(交通網が麻痺して)少し神経質になっているが、ストライキは継続する必要がある」と答えている。「フランス共和国市民」としての主権者意識や、労働者のストライキ、市民による政治活動が文化として歴史的に根付いているフランスならではの反応ともいえる。

 

製油所や電力部門でも 貧困層には無償提供

 

パリの抗議者たち(7日)

 経済の要であるエネルギー部門の労働者も6日から一斉ストに入り、国内石油大手トータルエナジーズ、エクソンモービル、ペトロナスの国内すべての製油所で、燃料の出荷をブロックした。

 

 フランス最大のノルマンディー製油所があるルアーブル工業地帯は、労働者のピケによりアクセス不能となった。航空機への燃料供給を担当する給油業者もストに合流し、製薬部門を含む石油・化学部門全体が、「フランス経済をブロックする」という呼びかけに応えた自動車・鉄鋼・金属労働者(約150万人)とともにストに突入した。

 

 CGTによると、トータルエナジーズでのスト参加率は70%をこえ、5つの製油所でストライキの延長が採択された。エクソンモービルでもスト参加率は80%以上となり、労働者の投票によって7日以降もストの継続が決まっている。

 

 CGTエネルギー労組のメネスプリエ事務局長は、電力部門のスト期限を「最大で勝つまで」とし、労働者たちは、労働大臣や上院議長などが本拠地とする地域など戦略的に重要な場所を狙って計画停電をおこなった。

 

 フランス電力(EDF)では、全従業員の約半分(48%)が仕事をボイコットし、原発の減産によって1万5000㍋㍗に達する電力供給が削減され、液化天然ガス(LNG)を輸入する国内4つのターミナルのうち3つが閉鎖された。そのため海外から届く液化天然ガスは船から降ろすことができていない。

 

 労働者たちはスト期間中、大企業などへの停電をおこなう一方、「ロビンフッド作戦」と称して、全国の学校、大学、病院、低所得者世帯などには無料でガスと電気を提供している。昨年からフランスの全世帯の4分の1で光熱費の支払いが滞っているといわれ、今年からはガス・電気価格がさらに15%上昇するなど国民の負担は増している。

 

 労組代表は「お金がないためにエネルギーを享受できない人々にエネルギーを返すことは公共部門の役割だ。政府が年金改革案を撤回しなければ、われわれはストを継続し、公的機関であろうと企業であろうと、規制された料金で利用できないすべての人にエネルギーを無料で提供する」と宣言している。

 

 パリではゴミ収集労働者もストに入り、労働者たちはゴミ回収を拒否して、欧州最大のイヴリー焼却炉をはじめ国内3つの拠点焼却炉の入り口を封鎖した。

 

 上下水道や清掃労働者たちもストに参加しており、彼らは年金改革の撤回だけでなく、労働者の社会的利益の回復を求めて行動している。

 

 廃棄物処理・清掃・上下水道・衛生部門のCGT副事務局長(50歳)は、「(スト実行日は)通常なら4000㌧のゴミが回収される最大のゴミ収集日」にあたるとのべ、「私が入社した頃は定年60歳で37年勤務だった。それが62歳に延長され、保険料支払いが43年に引き延ばされた。ゴミ収集労働者は貨物車の後ろで毎日排気ガスを吸い重い荷物を運び、交代勤務であるため、座りっぱなしの労働者に比べて平均寿命が12年短い。有毒ガスを吸う下水道作業員は、さらに17年も短いのだ。多くの同僚がガンや心臓発作、脳卒中などで勤務中に亡くなっている。この法案が私たちの命の問題であることを知らしめるべきだ」と訴えている。

 

 別の収集労働者は「エマニュエル・マクロンは、私たちを六四歳まで働かせ、(年金を受けとらず)早く死ぬことを望んでいる。私たちは午前3時に起床して一日中働いているのだ。64歳まで仕事を続けることは率直にいって長すぎる。私たちは囚人ではない」と怒りをぶつけた。

 

小学校教師6割がスト 学生や高校生も参加

 

ペリグーの行進に参加した高校生は「私たちの未来の問題。それ以上でも以下でもない」と語る( 7日)

 教育部門でも大規模ストライキが実施された。フランス小学校労働組合(SNUipp-FSU)によると、全国で小学校教師の60%以上がストライキに参加した。教育省によると、教師のストライキ率が過去に最も高かったのは1月19日(初等教育で42・35%、中等教育で34・66%)であり、今回が過去最多の参加率となっている。

 

 ストの予告が不要な中学校でも、7つの主要教員労組が「学校、大学、図書館、サービス機関の全面停止」を呼びかけ、ストで閉鎖された学校が80%に達した地域も出た。高校や大学でも散発的なストが実施され、大学生と高校生で構成する組織は3月9日に大規模デモを予定している。

 

 学校の閉鎖によって、子どもたちも親たちや大人に混じって抗議デモに加わり、ペリグーの高校生たちは「これは私たちの未来の問題だ。それ以上でも以下でもない」とのべ、集団でデモに参加した。

 

 その他、食品製造業、建設業、商業施設などでもストがおこなわれ、商店主たちも店を閉めて抗議デモに参加した。

 

 公共部門でも、約200万人の公共サービス従事者のうちの25%、病院(120万人)のうち14・6%がストをおこなったとされる。パリでは図書館や美術館も閉鎖され、警察官、医師、消防隊員、郵便局員、弁護士なども抗議の輪に加わった。地方では主要新聞社の印刷所も共同ストライキに入ったため、朝刊の発行が妨げられた。

 

 CGT会長は、「この闘争が始まって以来、最も強力な行動の日だ」と断言し、「政府の力による法案採択はこの火種に風を送ることにしかならないだろう」と警告した。

 

 またCFDT書記長も「政府がデモ参加者の主張に耳を傾けないままでいるなら、労働者の世界に広がる感情はさらに巨大で深いものになるだろう」とのべている。政府との交渉窓口は労組になっているものの、交渉の行方がどう推移するかにかかわりなく、政府の年金改革案に対する国民的な怒りが収まる気配はない。

 

 抗議の波が全国的に広がるなかで、パリなどの都市部の一部では「ブラック・ブロック(全身黒づくめの集団)」のような過激派をデモに潜入させて秩序を乱し、それを口実にして政府が治安部隊を出動させ、催涙ガスや警棒でデモ隊の沈静化を図ろうとする場面も見受けられるが、これまでのところ抗議デモは整然とおこなわれており、政府やメディアに「過激派」のレッテルを貼らせるような攪乱を許していない。それだけ切実な要求を根底にした幅広い裾野をもつ国民運動となっている。

 

 運動を主導する連合労組は、年金改革法案撤回を求めるメッセージに対するマクロン大統領の返答を待ったうえで、3月11日と3月15日に次なるゼネストの呼びかけをおこなっており、政府との長期戦を見据えて国民的圧力を強めていく構えを見せている。

 

人種や性別を超えた老若男女が参加したパリのデモ隊(7日)

「労働の囚人は老骨をつくらない(若くして死んでしまう)」のプラカードも(7日、パリ)

「私たちはストライキに突入します」(7日、ラ・ロシェル)

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    映像で見ると迫力があります。https://www.youtube.com/watch?v=J_xAj1CpnBQ

    生きる権利は与えられるものではなく自らの力で確保するものであると実感できます

    日本人は,オカミが与えてくれるもの..と
    日本では市民による革命がおこらない権力に従順な国民性なのでしょう。

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