いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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世論扇動の武器

 ドイツやオーストリアの60以上の大学や研究機関が共同声明でX(旧ツイッター)の利用を中止すると表明した。その理由として、Xが右派ポピュリスト的なコンテンツの拡散を強化していることをあげ、「多様性や自由、科学を促進する価値観はX上にもはや存在しない」と指摘。科学や事実に基づく民主的な議論を求める大学や研究機関の価値観と相いれないという主張である。

 

 ドイツでは、Xを買収したイーロン・マスクが排外主義を煽る右派政党「ドイツのための選択肢」を支持し、2月の総選挙で同党に投票するよう呼びかけるなど、SNS戦略を駆使して首を突っ込んでいる最中である。昨年の米大統領選でトランプに180億円ともいわれる金額を献金し、選挙後には最高経営責任者をつとめる米電気自動車・テスラの株価高騰(次期政権でマスクが行政改革を実行する要職に起用され、規制緩和の恩恵を受けることを織り込んだ市場の反応)によって個人の総資産が48兆円にも達したと報じられたマスクであるが、その所有するソーシャルメディアによって世論を扇動し、いまやアメリカ国内のみならず世界を揺さぶるかのような振る舞いをして、各国の政治指導者たちをピリつかせている。場合によっては政権転覆すら引き起こしかねないような、世論扇動の武器としてXが認識されているからである。

 

 SNSはいまやインターネット利用者にとって情報獲得ツールとして欠かせないほどの存在になった。そうして人々はXやインスタ、フェイスブック、LINE等々のアカウントをいくつも作り、常にスマホの画面を眺めて、時には感情をかき立てられるようなコンテンツも飛び込んできて悲憤慷慨(こうがい)したり、アッと驚かされたり、巧妙に作られたフェイク情報に誘われて「真実に気づいた」り、SNSに精神的にも釘付けにされる。それは常習性がともなうもので、ある種の依存状態に陥っている人も少なくないのが現実である。そして、時に感情を高ぶらせたネットリンチのような炎上や誹謗中傷がくり返される有様である。

 

 扇動し、誘導し、企業であれば購買意欲につなげるのが常套手段で、不特定多数の人々に見てもらい、知ってもらうために、日々どれだけの人々がコンテンツ作りに熱を上げているというのだろうか。そんなSNSが、何気ない情報獲得ツールというだけでなく、ある時には拡散力を駆使して熱狂的な世論を作り上げ、選挙をもひっくり返していく道具になるというのは、米大統領選に限らず国内では兵庫県知事選を見てもわかることである。既存のオールドメディアが信頼を失っているもとで、まるでそれとの対比のような格好をしながらSNSで世論を染め上げていくというのが、まさに今風である。よくよく見ると既存メディアとの二刀流であり、SNSはさながら二本目の刀のようにも思える。

 

 混沌とした世の中をかき回す武器としてのSNS――。これをある種の団体、組織が世論を意識的に扇動しようと企んだ時、それこそ統一教会のような宗教団体が仮に信者たちをフル動員して事にあたったらどうなるかである。自民党がXのネトウヨアカウント・DAPPIに資金提供して世論誘導していたように、宣伝扇動のプロによって組織的な力を加え、その拡散力によって世論を席巻し、同調圧力を強めたり、批判世論を煽ったり、まるでみんなが思っているような雰囲気を醸成したり、不特定多数を洗脳していく道具にもなり得るのである。そのためなら人工知能によってこしらえたフェイク(偽)動画も平然と垂れ流すし、現にウクライナ情勢を巡ってもこれでもかと残酷なフェイク動画が発信されていたのが現実である。戦争もSNS戦略が駆使される時代なのである。

 

 世界各国のなかでは未成年のSNS規制を実施するところも出てきているが、利便性の裏に潜む危険性についても認識しなければ、色んな意味でコロッとやられてしまう時代なのかもしれない。熟考し、世の中の真実を見極めていく力が試されている。 

      

 武蔵坊五郎

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