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世界情勢と逆行するTPP強行

 アメリカのオバマ政府が推進してきた環太平洋経済連携協定(TPP)だったが、8日投票のアメリカ大統領選挙で「TPP反対」「就任初日にTPPを離脱する」を掲げたトランプが当選し、オバマ政府も11日には現政府下でのTPP批准を断念することを表明し、TPP発効の見通しは立たなくなった。ところが安倍政府は大統領選挙後の10日にTPP承認案と関連法案を衆院で強行採決し、現在も参議院でTPP批准に向けて審議を続け「トランプの豹変を願い、日本主導でTPP発効にもちこむ」と放言している。世界的に反グローバリズムのうねりが起こり、多国籍企業や金融資本に対する反撃機運が高まっているなかにあって、多極化する世界情勢や各国を突き動かす階級矛盾を捉えることができず、対米従属一辺倒が浮き上がっている姿を暴露している。

 世界は反グローバリズムが席巻

 ヒラリー当選を前提としてきた安倍政府は、11月8日のアメリカの大統領選挙前にTPP批准にもちこみ、アメリカ議会にTPP批准を促すとしていた。4日に衆院特別委員会で強行採決したものの、国会で議員数が多数を占めるという奢りが抑えきれずに失言や失態があいついで、8日までの採決はできなかった。だが大統領選挙でトランプ当選という番狂わせになったが、10日にTPPを衆院本会議で強行採決した。11日にオバマ政府がTPP批准断念を表明してもなお、安倍首相は「君子は豹変する」といってトランプのてのひら返しに期待を寄せ、「日本主導でTPP早期発効にもちこむ」と参議院でのTPP強行採決をはかろうとしている。
 TPP参加の12カ国のうちで「TPP離脱」を掲げたトランプがアメリカ大統領選挙で当選したあともTPP承認を急いでいるのは日本ともう1カ国だけであり、世界的にも孤立状況にある。イギリスのEU離脱や今回の大統領選でもグローバル化の破たんが顕在化しているもとで、打倒されている多国籍企業及び金融資本にどこまでも追随し、媚びていく姿をさらしている。

 警鐘を鳴らす専門家ら

 専門家はこうした事態についてどう見ているのか。
 東京大学教授の鈴木宣弘氏は「トランプ大統領が決まった翌10日に、世界の笑いものになりながらも、TPPが衆議院本会議で“強行採決”された」とし、「どうしてそこまでしたのか」の答えとして「“2020年東京五輪まで続けたい”という意向に象徴されるように、“米国に追従することでみずからの地位を守る”ことを至上命令としてきたのが安倍首相である」と指摘している。さらに「強行採決の裏には、トランプ大統領に向けたメッセージがこめられている」として「TPPレベルの日本の国益差し出しは決めた。次はトランプ大統領の要請に応じて、もっと日本の国益を差し出しますから見捨てないでください」というものであり、「米国の要求にこたえ続ける姿勢から脱却し、真に国民の将来を見据えない限り、問題は永続することを忘れてはならない」と警鐘を鳴らしている。
 経済評論家の斎藤満氏は、「安倍首相は“3本の矢”によって景気を回復させると宣言していた。1本目の矢である“金融緩和”は息切れし、副作用の方が目立つ。2本目の矢である“財政出動”も国の借金が過去最悪に膨れ上がった。3本目の矢であった“成長戦略”もTPPが消滅したことで潰れてしまった。アベノミクスが絶望的なのはTPPしか成長戦略がなかったことだ。女性活躍も、地方創生も、1億総活躍も経済成長につながらなかった。3本の矢がすべて折れてしまった安倍政権に期待しても景気回復は難しい」と指摘している。
 そもそもTPPを「成長戦略」に位置づけたことが間違いだったという指摘も出ている。専門家の一人は「グローバル化の権化のようなTPPに参加しても、国民が豊かにならないことは、すでに証明されている。アメリカ国民がトランプを大統領に押し上げたのも、イギリスがEUから離脱したのも、行き過ぎたグローバリズムは大衆を豊かにしないと国民が気づいたからだ」とのべている。「トランプを熱狂的に支持したのは、グローバリズムからとり残された人たちだった。オハイオ州やペンシルベニア州は、かつて鉄鋼業や製造業で栄えたが、グローバリズムの激しい価格競争に巻き込まれた結果、大企業が次次に労賃の安い海外に移転してしまい、残された住民は職を失ってしまった。もともとは民主党の牙城だったが、住民は寝返るように“反グローバリズム”を掲げるトランプに票を投じた。グローバリズムに対する怒りと絶望が、トランプ大統領を誕生させたのだ」としている。
 斎藤満氏は、「グローバリズムは、大衆を犠牲にし、大企業だけをもうけさせるシステム。1%と99%に格差が広がる。もし例外なき関税撤廃、自由貿易が大前提のTPPに参加したら、日本国民の圧倒的多数も“負け組”に転落してしまう。安倍政権は、大企業がもうかれば貧困層まで恩恵が広がる“トリクルダウン”が起きると説明しているが、大嘘だ。グローバル化を進めたアメリカは、大企業は巨大になったが、国民は疲弊し、労働者の実質所得は40年間上がっていない」と批判している。それにもかかわらずオバマ政府も断念したTPPを参院で審議し、トランプを説得するなどと大手メディアが報じていることに「この国はどうかしている」と嘆いている。
 さらに別の専門家は「この先、グローバリズムに疲れきった先進国は、アメリカのように保護主義を強めていく可能性が高い。なのに、グローバリズムの象徴であるTPPに執着するなどマンガだ」「世界のパラダイム(規範的な考え方)は変わった。国際社会が保護主義を強めれば、貿易が滞って景気が悪化し、失業者が増加する悪循環に陥ってしまうだろう。しかし、グローバル資本主義の限界が露呈したのは紛れもない事実だ」とし、「今すぐ日本は、新しいパラダイムを見極め、対応する必要があるが、時代を読めない安倍に任せても取り残されるだけだ」と断定している。
 政治評論家の本澤二郎氏は「日本は戦後、アメリカに追従していればよかった。オバマ政権と一緒になってTPPを推し進めた安倍首相は典型だ。しかし、その時代は終わりつつある。これから日本は舵取りが難しくなる。経済政策も、行き過ぎたグローバリズムでも、保護主義でもない、新しい処方箋が必要になるだろう。アメリカに追随してきた単純な安倍首相では、答えを見つけるのは不可能。一日も早く、激動の時代に対応できる政治家と交代させるべきだ」とのべている。
 京都大学准教授の柴山桂太氏は2012年に「日本企業は迫り来る反グローバリズムの時代に備えよ」と主張してきた。アメリカのリーマンショック以後の経済状況下で、「世界は今後、確実に“グローバル化への揺り戻しの時代”に突入する」と警告している。また「国内市場の縮小とグローバル化に対応すべく海外事業の強化・拡大に力を入れてきた日本企業だが、時代の大きな転換点を迎えるにあたり、日本企業は歴史的大局観をもって、グローバル化はいつまでも続くなどという幻想は捨て去り、基本的認識をあらためるべきだ」とのべている。
 同氏はリーマンショック後の一連の危機は従来の不況とはまったく違い、本質的には戦前の大恐慌に匹敵する危機の水準にあると考えるべきだと指摘している。そしてこの危機を招いた要因はグローバル化という動きを抜きには語れないとしている。

 米英の事態が示す未来

 リーマンショック以降、多国籍企業は新自由主義によるグローバル化を段階を画して進めてきた。そのことによってしか資本主義の延命措置がなかったからにほかならない。2012年から4年たった今年、イギリスのEU離脱、アメリカ大統領選挙でのトランプ勝利というグローバルの破たんを象徴するできごとがあいついで起こった。世界的にも大転換期に直面しており、専門家は経済であれ外交であれ、国内政策であれ、時代の動きを読んで国家を導く政治家が必要になっていることを強調している。
 いまや霞ヶ関の官僚機構がホワイトハウスの出先機関のように成り下がってしまい、今回の大統領選についても外務省はヒラリー当選を確信して情勢をまったく見誤った。メディアについても同じで、アメリカ支配層の願望を鵜呑みにして世界情勢を眺め、大恥をさらすこととなった。反グローバリズム、新自由主義打倒の力が国境を越えて動いていること、その階級矛盾が世界を突き動かす最大の原動力になっていることを否定して、「トランプの豹変」等等、為政者の好きにできる世界があると思い込んでいることは愚かである。それは、国会の議席数だけにしか目がいかず、国内における階級矛盾についても無頓着であること、同じ状態や支配体制がいつまでも続くと思い込み、物事を静止的にしか捉えられない観念世界を自己暴露している。
 多極化する世界情勢の変化から置き去りにされる日本の為政者なり統治機構の姿は、対米従属一辺倒の成れの果てをあらわしている。彼らが行き場を求めて必死になっている多国籍企業なり金融資本のなすがままに操られ、さらに強欲なる力で日本社会が抱きつかれた場合、イギリスやアメリカと同じように国内矛盾が激化して、最終的には爆発する情勢が近づいていることを教えている。

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