いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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TPP批准阻止の大運動を 国を乗っ取る多国籍企業

 安倍政府は26日召集予定の臨時国会で、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案の承認・成立を最優先に位置付け、TPP批准を強行する構えを見せている。日本が他の国に先駆けて、11月8日のアメリカの大統領選挙より前に衆院を通過させることで、難航しているアメリカ国内での批准を援護射撃すると公言している。
 
 東京都政巡る大騒ぎの裏で

 TPPをめぐっては参加12カ国のあいだで昨年10月に大筋合意、今年2月に署名式がおこなわれたが、交渉は徹底した「秘密主義」で内容は一切明らかにされなかった。3月の通常国会でも政府は真っ黒に塗りつぶした資料を提出し、国民には内容を隠したまま、まともな審議もなしに批准を強行しようとした。今度の臨時国会でも「11月のアメリカ大統領選挙前までの衆院通過」とあらかじめ日程を区切っており、十分な説明もせずに最初から批准ありきで頭数を頼りに強行突破をはかろうとしている。それは内容を国民の前に明らかにすれば反対世論が噴き上がることを恐れているからである。
 TPP参加の12カ国の実情を見ても、本家本元のアメリカで批准は難航している。大統領選挙では民主党のクリントン、共和党のトランプのいずれの候補も「TPP反対」を掲げており、国民世論の圧倒的多数がTPPに反対していることを物語っている。クリントンは反対の理由として「貧富の格差を拡大する」ことをあげている。大統領選挙と同時に下院議員選挙もあるが、労働組合センターも消費者団体もTPPに賛成する議員は支持しないことを表明しており、議会での承認も難航することは必至である。
 2018年2月3日までにアメリカが批准できなければTPP協定の発効はできず、法的に流れてしまう。TPP協定は原則として、全参加国が2年以内に議会承認など国内手続きをすませることが必要である。それができない場合は、国内総生産(GDP)の合計が85%以上を占める6カ国以上が合意すれば発効することになっている。このこと自体、経済大国優先のルールであることを示しているが、TPP参加国のなかではアメリカと日本がGDPの8割近くを占めており、日米両国ともが批准しなければ発効しない。日本がTPPを批准しなければアメリカでの結果如何にかかわらずTPPは破棄となるし、アメリカが批准しなくても破棄となる。
 現在のところ参加12カ国は、アメリカの動向を見守り審議を棚上げしている状況である。マレーシアだけが今年1月に国会でTPPを批准した。だが、批准のために審議を進めた与党・統一マレー国民組織では、マハティール元首相が離党し、TPP反対の倒閣運動をとりくむ事態に至り、マレーシアでも関連法案の国会通過は難航している。
 そうしたなかで日本だけが真っ先にTPP批准を強行し、アメリカを援護射撃してTPP協定発効のためになりふり構わず突き進んでいる。
 TPP協定全文は英文で6300㌻という膨大なもので、しかも原文は英語やフランス語で書かれており日本語の原文はない。交渉段階で日本政府はアメリカの植民地的な扱いに甘んじていたことをうかがわせる。
 元農林水産大臣の山田正彦や弁護士、学者でつくるチームが最近TPP協定の全文を分析して、小冊子にして紹介している内容をもとに、TPP協定が日本の国民生活にどのような影響を及ぼすのかを見てみたい。
 項目としては①医療への影響、②遺伝子組み換え食品、③食品の表示– 『国産』『産地』  –④農作物への影響、⑤水産分への影響、⑥雇用への影響、⑦公共事業への影響、⑧知的財産への影響、⑨ISD条項をあげている。
 ①医療への影響
 医療は金持ちでないと受けられなくなる。
 従来は医薬品の価格は日本独自で決められていたが、TPP協定では外資製薬会社が価格決定に介入してくる。その結果、医薬品の価格が3倍にも高騰するとの見方も出ている。
 独立機関をもうけて外資製薬会社が価格決定に介入し、その意見を考慮することになるとし、「価格決定に外資の製薬会社も参加することができ、不服であれば異議申し立てができる」とある。
 また、ジェネリック医薬品がつくれなくなる。従来は特許期限切れの医薬品は届け出をすれば自由につくれた。TPP協定では、政府は医薬品を開発した製薬会社に「通知」しなければならず、外資製薬会社の承諾がいる。外資製薬会社は日本の行政不服審査法(改定)による異議・不服申立(裁判)をし、その後も高価格のまま販売を継続することができる。
 政府は「国民皆保険制度は守られた」と説明している。だが、第11章(金融サービスの章)では「政府が認める金融機関については例外」となっている。金融機関には保険会社も該当し、いずれアフラックなど民間医療保険も参入してくるのは必至である。
 医療に関する付属文書では、政府は公的医療保険の見直しを約束している。すでに日本でも108種類の先端医療が、保険商品として民間医療保険を認められている。
 すでに医療国家戦略特区がTPPを先取りしており、神奈川県の国家戦略特区では、株式会社の医療機関を認めている。また韓国では医療法人が株式会社に衣替えしている。
 ②遺伝子組み換え食品
 遺伝子組み換え食品である鮭や小麦などが輸入され、その「表示」もできなくなる。 
 日本の現行法では、遺伝子組み換え食品の輸入は「原則禁止」で、「表示義務」が課せられている。TPP協定では、「現代のバイオテクノロジーによる農産物、魚、加工品」と定義し、「遺伝子組み換え農産物の貿易の中断を回避し、新規承認を促進すること」としている。
 TPP協定での遺伝子組み換え食品の扱いは、中央政府による「強制規格」に該当するとし、「“強制規格”はモンサントなど利害関係者の意見を聴取し、それを考慮」しなければならず、日本独自の「表示」を決められなくなる。
 ③食品の表示– 「国産」「産地」– 
 牛肉、豚肉などの「国産」表示もできなくなる。
 アメリカは「国産」表示が貿易障壁に該当し、不必要な表示だとして、「国産」表示をとりやめている。日本で牛肉や豚肉に国産表示をすれば、外資食肉企業(タイソン社など)から日本政府はISD条項を武器に損害賠償を求め訴えられる。
 野菜、果物などの「産地」表示もできなくなる。
 知的財産の章によると「地理的表示は原則認められる」ことになっているが、従来のように自由な産地表示はできなくなり、「甲州産ぶどう」のような表示はできなくなる可能性が高い。アメリカは「パルメザンチーズ」と「産地」表示している包装が不当表示だとして貿易障害を主張している。
 また米韓FTAの例では、韓国国内の産地業者と米国業者を学校給食でも差別できなくなり、「地産地消」をベースとした学校給食の条例も制定できない。
 ④農作物への影響
 日本のすべての農産物は7年後の再交渉で関税が撤廃される。
 TPP協定の英語の原文では「関税の撤廃」とあるものを農水省は「関税の措置」と訳してごまかしている。そこでは日本だけが七年後に米国、カナダ、オーストラリアなどの5カ国と関税撤廃について再交渉することが義務づけられている。
 従来の通商条約ではコメなど重要農産物については必ず「除外」と明記されてきたが、TPP協定では「除外されていない」ことを日本政府も認めている。
 すでにベトナム産コシヒカリが5㌔㌘50円でインターネット販売され初めており、近い将来、日本のコメ農家はつぶれ水田が消えていくことになりかねない。
 ⑤水産物への影響
 日本の食卓から豊富な魚料理が消える。
 TPP協定では「過剰漁獲国での補助金制度」を禁止している。「過剰漁獲国かどうか」の基準は「ある魚類資源の最大持続生産量(総量の減少なしに毎年漁獲可能な生産量)」であり、日本のほとんどの魚種が「過剰漁獲」と判断される恐れがある。
 もし日本が過剰漁獲国と認定されると、「燃費、船の建造資金などの助成」や「港湾整備などの補助金」が禁止され、持続した漁業経営ができなくなり魚の自給率62%を維持できなくなる。漁業権も公開入札しなければならなくなる恐れがある。外資系水産会社も平等に入札可能になる。沿岸漁民による前浜漁獲もできなくなる可能性もある。

 公共サービスも金融も外資に売り飛ばし

 ⑥雇用への影響
 外国人労働者(移民)の受け入れで日本人が失業し、給料が下げられる。
 北米自由貿易協定(NAFTA)で2000万~3000万人のメキシコ移民が米国へ流入し、米国人500万人が失業し、42年前の給料水準にまで下落した。
 TPP協定では単純労働者の流入は原則認められていない。しかし日本の規制改革会議では「今後の日本の経済成長には外国人労働者は必要不可欠」と提言しており、自民党「特命委員会」でも単純労働者の受け入れを認めている。TPP日米並行協議の交換文書では、「外国投資家の意見・提言を求め、規制改革会議に付託し、日本政府は規制改革会議の提案に従って必要な措置をとる」となっている。
 ⑦公共事業への影響
 これまで国や自治体から受けてきた各種公的サービスがTPPでは民営化される。
 水道事業は「指定独占企業」に該当するとし、郵政事業のように民営化するとしている。愛媛県松山市ではフランス企業に業務委託し、水道料金が上がり続けている。
 国立病院(全国143カ所)や公立病院は、5年後の再交渉で民営化し、株式会社に衣替えし外資企業に売却される。採算のとれない離島などの公立病院は閉鎖される。
 公共事業と入札については政府調達の章が該当する。国、自治体、政府機関による建設、土木工事なども原則として外資も含めて公開入札になる(3年後の再交渉で小さな自治体にも及ぶ可能性がある)。
 そのさい、自治体は英語と自国語で手続きを進めなければならない。「英語を使うように努める」「公用語以外の言語で提出することが可能な場合に限る」とあり、結局公用語は「英語」となる。
 また「過去の実績をもとにしてはならない」とあり、技術仕様についても「貿易に障害を与えるようなものではならない」と決められており、談合などは刑事罰に処される。
 日本は最大級の市場開放を約束しており、世界最大級の建設会社「ベクテル」や資源開発会社「ハリバートン」などの巨大外国企業が、政府や自治体がおこなう公共事業などを落札していく可能性が高まる。海外資本による淘汰で地域の建設業者や中小企業の倒産の増大も必至となる。
 また、日本の地方自治体では地域経済の振興のために「中小企業振興基本条例」や「公契約条例」を制定し、地元の中小企業への発注を積極的におこなうところが増えている。だが、TPP協定では地元から雇用や物品、サービスの調達を求める「現地調達の要求」を禁止しており、こうした条例の制定ができなくなり、地域経済の振興策の障害になる。
 ⑧知的財産への影響
 著作権が従来の親告罪(著作権者が刑事告訴しない限りOK)から非親告罪(刑事告訴されなくても逮捕される)になる。
 また、TPP協定では、中央政府が法律を制定し、ネットの管理ができる。政府が認める方法、方針、命令に逆らえば、従来のようにインターネットでの自由な「情報発信」「拡散行為」ができなくなり、サーバー運用も制限される恐れがある。
 アメリカの映画やアニメ、キャラクタービジネス巨大IT企業は特許・著作権料で一五・六兆円もの外資を稼ぐ輸出企業である。当初から著作権強化と厳しい罰則規定を求めてきた。日本では著作権の保護期間は作者の死後50年だが、TPPで70年に延長される。
 ⑨ISD条項
 TPP協定の6300ページに多国籍企業600社の顧問弁護士が仕掛けたあらゆる罠がある。
 投資の章では締約国の義務として「内国民待遇、国際慣習法に基づいて公正・衡平でなければならない」とする。
 エジプトでは、政府が最低賃金を引き上げたことで、フランス企業が期待した利益が得られなかったとしてISD条項による損害賠償請求を受けている。またリビアではクウェート企業の観光施設建設が契約後も三年間着工されず、債務不履行を理由に契約解除したところ、リビア政府はISD条項で訴えられ、損害賠償として90年間運営したと仮定し期待できた利益(約1000億円)の支払いを命じられた。
 日本で考えられる危険性としては、地方自治体が固定資産税を引き上げると、間接収容として外資企業から訴えられる。
 またTPPの根本には金融も国境の壁をとり払うことがある。シティバンクやゴールドマンサックスといったウォール街のメガ金融グループが主導しており、こうした勢力が日本のゆうちょ銀行(205兆円)・かんぽ生命(85兆円)やJA共済(52兆円)、年金基金(GPIF、140兆円)、日銀マネーや企業の内部留保(350兆円)などを狙っている。 アメリカはTPP協定の第11章「金融サービス」をとくに重視し、各国が金融危機に陥ったさいに自国の金融システムを守る規制をとり払うことを義務づけている。
 こうした概要をなすTPP協定についてはアメリカ国内でも「TPPは多国籍企業が利益を増大させるためのシステム」「TPPは特定集団のために“管理”された貿易協定」などの批判が広がっている。
 アメリカでは大統領選を控えクリントンもトランプも「TPP反対」を唱えているが、その中身は「巨大多国籍企業の利益を守るためには現状の内容ではまだ足りない」というもので、日本に対して一層の譲歩を迫ってくる可能性が高い。
 安倍政府がTPP批准強行を急ぐのも、一握りの多国籍企業の利益を守るためである。そのために日本の農漁業を破壊し、中小企業をなぎ倒し、皆保険制度をはじめとする医療制度を破壊し、労働や金融、公共サービスなど国民生活の全般にかかわる分野にわたって、国益を売り飛ばそうというものである。臨時国会の目玉となるTPP批准に大きく光を当て、国の根幹を揺るがす暴挙に対して全国的斗争を強めることが求められている。

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