(2026年4月29日付掲載)

下関市議会・文教厚生委員会に詰めかけた保育関係者たち(27日)
下関市議会文教厚生委員会(林昂史委員長)は4月27日、旧第一幼稚園跡地に整備が計画されている交流型子育て総合支援施設について、「基本構想は全てやり直し」と執行部に宣告した。3月に提出された基本構想(案)も、構想をもとにつくられた基本計画(案)もともに議会として認めないというものだ。2007年のあるかぽーと市有地の売却議案を議会が否決し注目を集めたが、それ以来議会が執行部の提案を突き返すことは下関市政において異例のできごとだ。この事業をめぐっては3月16日の予算審議から執行部の説明が二転三転し、その姿が特定の事業者ありきの「市長案件」として話題になり波紋を広げてきた。下関市で保育・教育を担う関係者をないがしろにしたうえ、行政手続き上も問題がある同事業を市議会が認めなかったことについては、「市民の代表として当然の態度だ」「これで通すほうがおかしい」「市長が好き勝手しすぎだ」との声が集まっている。
前田市長は姿あらわさず
交流型子育て総合支援施設の整備事業は、旧第一幼稚園の跡地利用と老朽化した2カ所の市立園(名池、幸町)の閉園・統合にともなうものだ。旧第一幼稚園が地域とのかかわりが深かったこともあり、そうした良さを継承してほしいといった地域の声を受けたことなどから、「多世代交流型複合施設」として提案がなされた経緯がある。
議会に対し事業として初めて出てきたのが、2025年(令和7)年の市長選後の6月補正予算(市長選後の肉付け予算)で、そのさいも「民設民営を前提とした幼保連携型認定こども園を中心に、多世代交流型複合施設を整備する」と説明された。そして2025年は新施設の基本構想・基本計画策定が進んできた。この構想・計画策定業務を委託業務として請け負ったのが「株式会社紬(つむぎ)」で、500万円の予定価格に対し297万円(落札率59・4%)で落札した。業務内容は、①基本構想(素案)のブラッシュアップ、②基本計画(案)の作成で、これに連なってサウンディング型市場調査の実施、新施設に導入する機能及び規模の検討、事業手法及び運営方式の検討となっていた。
今年3月議会に「紬」が作成した構想(案)(ブラッシュアップ中)が示されたが、驚かれたのはその中身で、「紬」が運営する保育園や料理教室などの写真が何枚も使われ、事業の内容も「紬」がおこなっている事業と似通ったものが掲載されていた。今後事業者を募集していくための基本構想がこのようなものでいいのかと議会でも問題視され、指摘された執行部も差し替えを示唆する発言をしている。また、「門戸を広げるため」として、昨年6月段階で説明していた新施設の核となる幼児教育・保育施設を「幼保連携型認定こども園」から「認定こども園」に変えたこともわかり、さらに、事業者募集のための公募資料を作成するための予算額1400万円も「紬」から見積もりをとっていたことが分かった。こうした一つ一つの事実が「特定の事業者ありきではないのか」という疑念をひろげてきた。
そのほかにも、基本構想と基本計画の位置づけが不明確なことや、その進め方も問題視され、3月議会の最終本会議では、「委員長報告」としてこの事業についての執行部の説明が不十分であることから、「今後も説明を求めていく」と報告される事態となっていた。
「関係者と協議せず」 17日の文教厚生委

4月17日、保育・教育関係者が見守るなかで1回目の調査のための委員会が開催された。前日に文教厚生委員会に所属する議員には基本構想が配布されたが、構想(案)で問題になった「紬」関連の写真は「誤解を与えかねない」として差し替えられている。また、文中に「民設民営を前提とした」という文言が2カ所に加わったほか、基本構想の内容は構想(案)と大きく変わりはなかった。
この日、もっとも重大な問題となったのは、新施設の核となる「幼保連携型認定こども園」から「認定こども園」に変更した件についてで、3月議会では幼稚園協会や保育連盟に対して説明しているかのような答弁だったものが、実際はこれらの団体と「協議をおこなえていなかった」として謝罪がなされたことだ。これは認識違いでは済まされない問題だ。そのほか、
・事業者公募資料作成支援業務(1400万円)の見積り依頼先は「紬」→「実際は三者だった」
・サウンディング型市場調査にかけたのは構想(案)→「構想(素案)だった」
など、3月議会での答弁の変更が複数あった。こうした回答に接し、この日の委員会は半ば突き返すような形で閉会している。
手続きの杜撰さ浮彫り 27日の文教厚生委
27日開催の委員会には、前回を大きく上回る約30人の保育園、幼稚園関係者などが傍聴につめかけた。17日にはスペインに海外出張中だった前田市長だが、27日の委員会にも姿をあらわさず、「副市長やこども未来部長に責任を押し付けた」と傍聴者のなかでも話題になっていた。
この日、こども未来部側は「経緯」「民設民営を前提とした理由」「多機能とした理由」「各機能の必要性」「『幼保連携型認定こども園』から『認定こども園』に変更した理由」などをまとめた資料を配布し説明に挑んだが、この日も、資料に不備が発覚したり、不明確な答弁がいくつもなされる結果となり、本来厳格であるべき市の事務手続きのデタラメさが浮き彫りになった。
まず、こども未来部が配布した資料では、基本構想(素案)を作成したのは「11月」となっていた。しかし前回17日の委員会でこども未来部長が「(素案は)10月の初めごろにできたと思う」と発言している。また、委員からの質疑のなかで素案作成後に決裁をとったのは10月21日(課長決裁)であり、入札公告日は10月22日ということも明らかになった。そうした事実からも、「素案作成は11月ではなく10月ではないのか」と問われた執行部が「資料に誤植がございまして」と答え、会場がざわついた。決裁日が明らかになっていない段階では、「入札公告時点でブラッシュアップをお願いするための素案ができているべきだとは思うが、もし間に合っていないのであれば、業者が決まる前であれば必ずしも入札公告時点で素案ができあがっていなくてもいいかなとは思う」などと答弁し、委員から「その答弁はいけない」と指摘された。聞いていた市役所関係者も仰天している。
また、新施設に入れる機能について、こども未来部が保健部、福祉部、教育部などと協議をしてきたと説明したが、協議の記録が公文書としてあるかを委員に問われたさいに、「協議録として残っては、もしかしたら、いないかもしれない」「どういった協議をしたかという細かい記録についてはちょっと確認をしないと(分からない)」という答弁をくり返していた。結局、部局間にまたがる協議の記録の有無については明確な回答はないままとなった。回を重ねるたびに不備が発覚するのも毎度のことで、現段階でなにが本当なのかも分からない状態になっている。
さらにこの日、「幼保連携型認定こども園」から「認定こども園」に変更になった経緯が再度説明された。これまでの説明では、今年2月におこなったサウンディング型市場調査に参加した六者に意見を聞いたうえで、「幼保連携型認定こども園」から「認定こども園」にしたという説明をしていた。しかし実際は、11月17日に市と契約締結した「紬」が、その4日後の11月21日、市との協議で「類型を幼保連携型認定こども園とすると、保育士免許と幼稚園免許の両方を持つ保育教諭の確保の難しさ、園庭の十分な面積の確保が難しいといった観点から、保育所型認定こども園にしてはどうか」という提案をしたという。2回目の協議では市側が、議会などへ当初から「幼保連携型認定こども園」と説明してきたこともあり「幼保連携型認定こども園を基本とする考えである」と説明。12月24日の3回目の協議では「認定こども園としたほうが事業者が参入しやすいとの認識を共有」し、サウンディング型市場調査の実施要領に「幼保連携型を基本とするが、保育所型も検討可」としたという。そしてサウンディング型市場調査を経て、市が「紬」に対し構想(案)の記載を「認定こども園」に修正するよう指示したのだという。「市の責任で」と強調しているようにも見えるが、単純に考えればこの説明では、契約締結の直後から「認定こども園」(保育所型)にするために動いたのは「紬」であり、保育連盟や幼稚園協会と協議もせずそれを市が受け入れたということになる。
そのほか質疑では、「基本構想・基本計画の策定に関わった業者が、公募資料作成支援業務を受託しなければ事業公募へ応募ができるというのは公平性・透明性の観点から説明がつかない」といった指摘や、新施設に入れる機能(子育て支援機能、保健・福祉機能、多世代交流機能)の必要性について、この施設だけを「いいもの」にすることにこだわるよりも、市全体の課題解決のための必要性に立って考えなければならないという意見も出された。
疑問点すべてが明らかになったわけではないが、委員会として質疑を切り上げて内部協議に移り、その結果、委員会の結論として、今出ている基本構想は「すべてやり直し」を求めた。同時に、現在実施中の計画(案)に対するパブリックコメントに提出された約100件の意見については委員会に資料提出することと、老朽化している名池保育園、幸町保育園への対応を求めた。
文教厚生委員会の決定を受け、こども未来部は、「方向性は未定だが、委員会の意見を真摯に受け止める」「基本計画案のパブコメに寄せられた意見、保育連盟、幼稚園協会などの意見も聞きながら構想の再検討をおこなう」としている。
下関の子どもたちのために 関係者の喜びの声

委員会の決定を聞く下関市執行部(27日)
林委員長より、すべてやり直すよう求める委員会の決定がいい渡されたとき、傍聴席で審議を見守っていた保育園、幼稚園関係者たちからは「異議なし」の声も上がった。
関係者の一人は、文教厚生委員会の決定を受けて、「私たちの願いは、下関が子育てしやすい町、子どもを生み育てやすい町にすること。そのためには、だれかが進めるのではなく、みんなで話しあいながら進めることが、下関の子どもたちにとって、保育環境の充実にとって大事なことだと思う」と話し、このたび市議会でいったん立ち止まり、構想から再検討をおこなう方向になってよかったと話した。
また委員会を傍聴した関係者のなかでは、執行部答弁に曖昧な答弁や食い違いが多数あったことに驚きも語られている。
ある関係者は、「いつも監査で、書類がそろっているか、決まりを守っているかと厳しく監督する市役所が、“記録があるかどうかわからない”“誤植だった”などと発言しているのを聞いて驚いた」と話した。
別の関係者は、基本構想のブラッシュアップ・基本計画案の策定を受託した株式会社「紬」が、同社のホームページ上に掲載した見解で、選定プロセスについて「提案内容およびこれまでの実績が適正に評価された結果」としているのに対し、こども未来部長は「価格が安い方がとっただけ」「そういう認識が企業さんの方にあるのだろうか。私もちょっと疑問だ」と答弁したことにふれ、「食い違いが明らかだった」と話し、ストップがかかってよかったと話した。
別の関係者は、「たとえば発達障害を持った子どもの保育は相談する先がなく、各園が医師に相談したり、保育士を配置して対応するなど、個別の対応にゆだねられ苦心している。新しい子育て施設で“発達障害の子どもの支援”といっているが、新施設のことだけで、今苦心している現場の保育施設に手を差し伸べる体制はないままだ。休日の保育もいくつかの園が担ってくれているなど、保育の現場には課題が山積している。今、現場に携わっている関係者に意見を聞くこともせずに、目新しい施設だけつくってもうまくいくはずがないし、課題を解決することにもならない」と話した。
ある関係者は今回の問題について、「保育連盟や幼稚園協会などにまったく相談しないまま進んだという一点だけでも、このまま進めてはいけない事業だったと思う」と話した。「幼保連携型こども園」から「認定こども園」へとハードルを下げたことで、「またどこか入れたい事業者があるのだろう」と感じていたという。「『幼保連携型認定こども園』が社会福祉法人と学校法人しか運営できないと規定されているのは、教育は金もうけをするところではないという大前提があるからだ。だから社会福祉法人には、容易に撤退しない、金もうけをしないなど厳しい規制があり、行政の監査も入るようになっている」と話した。今年3月、大阪市などで障害者福祉事業を展開する企業が障害者就労支援加算金を約150億円も不正請求していた事件が発覚し、全国的に福祉分野の市場化をめぐる議論も改めて浮上しているところでもあるという。前田市政の下で、特定の事業者のために市の事業が切り売りされていく現状に憤りを語った。
関係者のなかでは、「市長や議員とつながった一部の人たちが進めるような状況を変えなければいけないと思う」という思いが語られると同時に、今回の一件が、さまざまな経営形態の保育・教育施設関係者がつながる機会にもなり、「下関の関係者が子どもたちのためにまとまっていけたら嬉しい」という思いも語られている。





















