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映画『手に魂を込め、歩いてみれば』 セピデ・ファルシ監督

 本作は、2025年のカンヌ国際映画祭で上映され、ガザ地区の現状を世界に告発したドキュメンタリー映画で、廃虚のガザで撮影を続けるフォトジャーナリストと、彼女を見守るイラン人監督との1年にわたるビデオ通話で紡がれたドキュメンタリーだ。「人類史上もっとも記録されながら進むジェノサイド」といわれるイスラエルによるガザ侵攻。にもかかわらず、300人近いジャーナリストがイスラエル軍によって意図的に殺害され、世界のジャーナリストがガザ地区に入ることは許されない。

 

 ファルシ監督は、2023年10月7日にイスラエルによるガザ侵攻が始まってからガザへの取材を試みたが断念。そこで知人を通して知り合ったガザ地区に住む24歳のフォトグラファー、ファトマ・ハッスーナとの画面越しでのコミュニケーションが始まった。

 

 ファトマが空爆、飢餓の不安にさらされながらも力強く生きる市民の姿や、街の僅かな輝きを写真に収め、スマホ越しにガザの様子を伝え続けた。ときに「チョコが食べたい」「世界を旅してみたい」という無邪気な笑顔とともに、がれきとなった街のなかを「手に魂を込めて歩くのよ」「死の世界に魂を見いだしたい」という。「今こそ、この戦争を撮って世界に見てもらわなければならない。苦しみをすべて記録するの。他に誰がやるの?」「撮り続けなきゃいけないの。そうしてこそ、私自身でいられるし、子どもたちに伝えられるから」。常に尊厳を保ち、被害者としてではない彼女の力強い言葉は胸をうつ。

 

 監督が「彼女は太陽のような存在」というように、ファトマはいつも笑顔で明るかったが、くり返される爆撃で家族や友人が殺されていくにつれ、表情を暗くしていく。通話中もミサイルや爆撃の音が鳴り響き、ファトマが、スマホのカメラを窓の外に向けると、そこには想像を絶するがれきに覆われたガザの街があった。通話の最中のネット障害や停電の様子もそのまま記録される。

 

 2人が交流を始めて約1年後の2025年4月15日、この作品のカンヌ映画祭上映決定を知らせた翌日に、イスラエル軍の空爆によりファトマを含む家族7人は命を奪われた。

 

 監督は「戦争の映像の向こうに、人間性を探し出してほしいのです。映し出されるのは、私たちがほとんど目にしてこなかった土地、そして忍耐強く生きる人々の姿です」とインタビューで語っている。

 

想像を絶する戦禍の中でスマホの画面越しにガザの様子を伝え続けたファトマ(映画の一場面)©Sepideh Farsi Reves d’Eau Production

小倉昭和館での舞台挨拶

 

 北九州市小倉北区の『小倉昭和館』では1月17日から本作の上映がはじまり、上映後、配給会社ユナイテッドピープル代表の関根健次氏とフォトグラファーの亀山ののこ氏が舞台挨拶をおこなった。関根氏は、大学生のころにガザ地区に行ったことがきっかけで、ユナイテッドピープルを立ち上げ映画をとおしてガザを伝え続けてきた。今作品を含めてガザの映画は5作品目となった。

 

 亀山氏は、2012年に原発反対の声をあげる母親たちの写真集『100人の母たち』を出版し、現在は水俣にも通っている。もともと広告写真やファッションを撮っていたが、2011年の東日本大震災で自分自身の写真史が大きく変わったといい、写真を通して社会にメッセージを届ける女性フォトグラファーとしての思いを語った。「この映画を2回見たが、何をいうこともはばかられる常軌を逸した恐怖のなかにガザのみなさんが生きていることが伝わってくる。その状況とファトマの笑顔とのギャップが胸に突き刺さる。ファトマは“写真は私の世界だ”といった。笑顔という尊厳を奪われなかったファトマのその真摯な姿、起きている戦争を世界に伝えるために、彼女はあの笑顔で生きたのではないか」「目を閉じて想像すると、家族がつぎつぎと殺されていくなかで、その街を手に魂を込めて歩くというのは、身体をこえて魂になって写真を撮りに行っているのではないかと思った」と思いを語った。

 

 現在、水俣に通って今も闘っている人たちと交流していることにふれ、「その方たちも尊厳を守るために戦っている。一昨年、水俣の方が一生懸命、妻の状況を国に訴えているときに(環境省が)マイクを切った。私はその現場にいた。権力側がマイクを消すという行為をもって、一人一人が大切にしている自分たちの生きてきた軌跡、存在を消そうとした。許せないと思った。一人一人に名前があり、大切なものがあり、自分の人生を生きている。誰にも踏みにじられてはならない」と、尊厳を守るために闘う人たちを撮影し社会に伝えていく思いを語った。

 

 関根氏は「ガザで亡くなる人は7万人をこえている。『We Are Not Numbers(私たちは数ではない)』というプロジェクトがある。私たちには一人一人名前があって夢があって、家族があって地域がある。映画を通して人間の存在に気づいてほしい。パレスチナ人、ガザの人ということではなく、ファトマという一人の女性のこと、彼女には父、母、弟など家族がおり、私たちと何も変わらない人間だ。そんな生身の人間がたまたまガザ地区にいるというだけで死ぬ運命になる。この2年間で1時間に1人の子どもたちが殺され続け、学校が破壊され、ガザは九割が破壊された。パレスチナにテントを届けるという活動に関わっている。軍事転用されないため骨組みのない空気で膨らむテントなのだが、それさえもイスラエルは搬入許可を出さない。ガザの人たちは住む場所さえ確保できない状況だ」といい、それでも「ファトマのようにこの絶望したくなるような世界のなかで、光を届けたい」と語った。

 

 現在、ファトマが命がけで撮影した写真を展示する写真展を全国で展開していくためのクラウドファンディングがおこなわれている。写真展を通して奇跡的に生き残ったファトマの母親を金銭的に支援するルートもできたという。関根氏は「ガザ地区に生きる人たちにとって残酷なことは忘れられること、存在しないことになってしまうことだ。映画を通して、そしてファトマの写真を通じて、一人一人が次につなげてほしい」と訴えた。

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