(2025年10月20日付掲載)

学費の値上げ問題で揺れる山口大学(山口市吉田)
山口大学(谷澤幸生学長)が9月25日に、突如ホームページ内で来年4月からの授業料値上げの方針を示したことが、大きな問題となっている。学生にも教授にも知らされないままうち出された値上げの方針は、まともな議論もないまま30日には値上げ決定の公表がおこなわれようとしている。これに対し、学生が「山口大学学費値上げに反対する有志の会」を立ち上げて値上げの決定プロセスの見直しを求めたり、17日には教員有志によって授業料改定のスケジュールを白紙に戻し、関係者との「対話と合意」を求める声明【全文別掲】が出されるなど、執行部の独断による授業料値上げの動きに対して、「こんな横暴がまかり通れば、大学の自治は崩壊する」と抗議が巻き起こっている。
山口大学の授業料値上げについては、昨年と今年8月末におこなわれた学部長の懇談会において「値上げの検討に入りたい」旨が執行部から伝えられていたものの、それ以外は9月9日の教育研究評議会と同月24日の経営協議会で2回議題に上がったのみで、議論はされていないに等しい。教授会においては、一切諮られていない。それにもかかわらず、9月25日に突如として山口大学のホームページに「令和8年4月以降に入学を希望される皆様及び保護者の皆様」というタイトルで授業料改定についての方針が掲載された。学生にとっても教授たちにとってもまったくの寝耳に水の状態であり、事務方である各学部の事務長、入試課長すらホームページの掲載によって値上げの方針を知るというでたらめの状態であった。教員たちのなかでは、この問題について「学生から聞いて知った」「外部の人から聞いた」という人が少なくない。
しかし、9月24日の経営協議会においては、10月30日に学長が授業料値上げの記者会見をおこなうことがすでに決まっていたことも明らかになっている。10月27日まで値上げ方針を掲載したホームページにおいて「ご意見受付フォーム」で意見を募集しているにもかかわらず、その3日後には記者会見で値上げを公表するというスケジュールは、寄せられた意見を精査する気も検討する気もないことを如実にあらわしている。
今月8日におこなわれた学生を対象とした説明会は、多くの学生が通う山口市の吉田キャンパスではなく、遠く離れた工学部しかない宇部市の常盤キャンパスでおこなわれた。それもわずか40分という短さで、参加できるのは学生のみで教員すら会場に入れなかったという。そして教員に対しては、いまだに説明は一度もおこなわれておらず、おこなわれる予定もない。
10月7日におこなわれた部局長会議において、値上げ額、対象者、時期、決定までの日程等の全体像がようやく示された。値上げ額は現行の年間53万5800円から、省令で定めた上限(20%増)となる10万7160円引き上げて64万2960円となることが示されている。
山口大学の男性教員は、「4年間で40万円以上の値上げだ。学生は約1万人いるから約40億円の金が動くことになる。現在の財務状況の詳細な説明もなし、値上げした分の学費を何にどれだけ使うのかのシミュレーションもないなかで、執行部の一存でこれほどの金額を動かすというのはありえない。ほんの20人ばかりの経営協議会のなかだけで決定し動かしている」と指摘する。
また9月25日の値上げ方針が公表されたのは、総合型選抜の第1次選抜が終わったあとであり、第2次選抜も出願期間は過ぎていた。総合型選抜は合格すれば絶対に入学しなければならない。しかし、募集要項において「前期分26万7900円(予定額)、後期分26万7900円(予定額)」としているにもかかわらず、注釈においてこっそりと「本学生募集要項公表後、令和8年度入学者に係る入学料、授業料の改定を本学として決定した場合は、改定後の額となります。また、既に納入されていた場合は改定額との差額を納入していただくことになります」とあるだけだ。あまりにも不誠実なやり方に対して「こんなことがまかり通るのか」と怒りの声が上がっている。
西日本の国立大では初 「問答無用は許されぬ」
山口大学の経営が苦しいのは誰もが知るところであり、コピー機が更新してもらえない、プロジェクターが壊れたまま、図書館のパソコンはWindows7で立ち上がるまでにかなり時間がかかる、教育学部の研究費が年間5万円で一度東京に出張すればなくなってしまう、図書館で扱う専門雑誌がどんどん減らされている…などあげればきりがない。
ある教員は「大学経営が苦しいのはみながわかっていることだ。だから今年4月くらいから丁寧に学費値上げの議論や説明を重ねて、“年間5万円ほど上げたい”というのなら強硬に反対はできないとも思っている。しかし、一度も説明も議論もないままに値上げを強行するなんて安倍内閣の閣議決定と同じではないか。民主主義ではなく独裁政治だ。これは“大学の自治としてどうなのか”というガバナンスの問題であり、このまま開けて通せば大学の自治が崩壊する。こんな横暴を“仕方がない…”と傍観するのは、独裁政治に加担しているのと一緒だ」と厳しく批判している。
隣県の広島大学では、昨年授業料値上げの検討がされていることが明らかにされたが、学生や教員の猛反対によって「事実上の値上げ検討撤回」となっている。同教員は「文科省は大学への運営費交付金をこれ以上増やしたくないから、大学側が学費を上げるのを待っている。東京大学が今年から値上げに踏み切ったが、反発は強く後に続く国立大学は思ったよりも少ない。西日本の大学はまだどこも値上げに踏み切っていないし、広島大学で失敗したから突破口として山口大学が目を付けられて狙われているのだろう。山口大学が値上げをすればドミノ式に地方の国立大学で値上げがおこなわれる」と指摘した。
経営協議会のなかに、財務施設を担当する理事・副学長として、文科省から出向し筑波大学の人事や財務にかかわっていた溝部康雄氏が就任していることも指摘されている。
別の教員は「ホームページに掲載されたタイトルも“授業料改定”という文字がないため、気がつかない人も多い。手口が汚すぎるのではないだろうか。谷口学長はそれほど汚いことをするような印象もなかったのだが、こんなやり方で来年度以降、山口大学への入学を検討している高校生たちにどんな説明をするのだろうか。印象が悪すぎる。地方の国立大学は東京大学など首都圏の国立大学とは違い、“地元の公立大学なら進学できる”という家庭環境の厳しい学生も多く入学してくる。その学生たちの受け皿という役割も担っているのに、山口大学が地方国立大学の値上げの先陣を切ることになる。どこの大学も教授会が形骸化されていることが問題になっているが、これほど独裁的なのは山口大学だけではないか」と話した。
また今回の授業料値上げという大きな問題を山口大学の学生が記者クラブにプレスリリースに行くなど行動しているにもかかわらず、県内のメディアがこの問題をまったく報道しないこととかかわって、値上げを強行しようとしている経営協議会に学外委員として山口放送相談役の岩田幸雄氏、テレビ山口代表取締役会長の齋藤宗房氏が入っていることが指摘されている。





















