(2025年10月13日付掲載)

未払い問題が未解決のまま閉幕した大阪・関西万博の海外パビリオン「アンゴラ館」
大阪・関西万博が13日で閉幕した。万博来場者が2500万人をこえ、「黒字」や「万博成功」が喧伝される陰で、万博協会や大阪府の要請に応じて海外パビリオン建設を請け負いながら、工事費の未払い被害にあった中小の建設業者たちは倒産の危機に追い込まれている。「万博未払い問題被害者の会」は9月30日、経産省・国交省との交渉とともに、「大阪関西万博未払いを許さない院内集会」を衆議院第2議員会館で開催した。海外パビリオン建設工事をめぐる未払い事案は、9月時点で11カ国で発生していることが判明しており、被害総額は10数億円にのぼる。しかし、万博協会、大阪府・市、国も責任逃れをするばかりで、いまだに事態を打開する解決策は打ち出されていない。さらに会場スタッフへの賃金未払いも発覚しており、違法行為が跋扈(ばっこ)する国家プロジェクトであったことが明らかになっている。
会場スタッフ賃金も未払い…
この日、集会に先だって経済産業省・博覧会推進室と国土交通省・建設業適正取引推進室との交渉がおこなわれた。ようやく国も動くかと思われたが、この日の交渉は両省ともに官僚答弁に終始し、具体的な解決策が打ち出される様子はなかった。
途上、参加者からいらだちの声が上がる場面もあったという。交渉の内容についてジャーナリストの幸田泉氏が発信している。
経産省は、これまで当事者から話を聞くなどしてきた対応から、関係者のなかに期待する思いもあったという。しかし、マルタ館建設にかかわった業者の一人が「万博協会はパビリオン建設工事を管理する立場にありながら、それができていなかった。万博協会が失敗を認めて、被害者にお金を払ってくれればそれでいい。その先の話として、万博協会は代金を払わない悪い人に請求したらいい」と訴えると、経産省は「(A社の)経営者が判断して(元請のGLイベンツと)パビリオン建設の契約をしたわけで、責任は契約者に帰するもの」と、万博協会の管理監督責任は認めなかったという。
さらに、未払いを抱える企業は金融機関からの融資を受けられない状況にあることから、同席した国会議員や支援団体が「通常の融資の枠組みではない支援策としての融資」や「国による立て替え払い」を要望したところ、これについても「リスクを無視して新しい融資スキームをつくることはできない」「代金を支払うべき企業がいるのに、税金で立て替え払いをしたら(責任企業を)高笑いさせるだけ。税金の使い道として適切ではない」という立場を崩さなかったという。
国交省の建設業適正取引推進室も、救済を求める被害者に対して、「(パビリオン建設工事で)建設業法に抵触することがあれば、許可行政庁が対応する」という回答に終始した。
アメリカ館で未払いにあった事業者の一人は、「もう間に合わないといわれながら、開催ありきでごり押しした万博の建設スキームに欠陥があったと思う。昼夜問わず働き、時間にまったく余裕がなく、正式な契約書もつくってもらえなかった。アメリカ館の元請企業はイギリス資本の会社で、日本の建設業法を理解しているのか、おおいに疑問だった」と、万博会場の整備スケジュールの問題点を指摘し、「建設業法は著しく短い工期を禁止している。万博パビリオンで問題が起こるのを国交省は想定していなかったのか」と聞いた。
これに対する国交省の回答は「国交省は万博の計画を建設業法上見るところではない」「国交省がすべからく工期を管理するものではない。それぞれのパビリオンの発注者が管理すべき」だったという。
参加者から、「建設業法の安全性などが担保されないなかで工事をおこなった。本来国交省は開催の延期を提案するべきではなかったのか」「国交省は外資系企業に日本の建設業法を周知させなくてはいけなかったのではないか」「こんな人権侵害があって、運営側の国が協力してくれないとはどういうことか」などの意見・質問が出たものの、国交省は「われわれは建設業法に則った対応しかできない。経済産業省、地方自治体、許可行政庁とともに連絡しながらこれまで進めてきた。許可行政庁が関係企業に対して働きかけ、確認をおこなっている」とのべるのみ。「責任の所在はだれにあるのか?」という問いかけには「お答えする立場にない」と回答したという。
あり得ない工期と労働 被害者ら訴え

アメリカ館でも未払い問題が発生
院内集会で被害者の一人は、「未払い問題について開幕当初からいろんな場所で訴えてきて発信してきた。いよいよ万博も残りわずか2週間。未払い問題を解決しないまま終わりを迎えようとしている」とのべた。海外パビリオン建設から大手ゼネコンが手を引き、開幕に間に合わないことが取り沙汰されるなかで、中小の事業者たちが吉村府知事の協力要請に応え、リスクも承知で建設工事を請け負った。「あり得ない工期、あり得ない労働環境で、開幕までに間に合わせるためだけに、昼夜問わず不眠不休で、命がけで間に合わせた」にもかかわらず、「私たちはいまだに出口が見えないところでさまよっている。“今を乗りこえるために力を貸してほしい”とこの半年訴えてきたが、本日も具体的な解決に向かうような回答を得られないままだ」と話した。そして、「私たちはこの問題を決して民間同士の問題と思っていない。これだけ未払い被害が出ていることは、国際的に深刻な社会問題と捉えるべきだと思っている」と訴えた。
アメリカ館の未払い被害者も「たくさんの人が来てテレビなどで笑顔を見ることができ、そこに携われたことは嬉しく思う。ただ、裏では未払いによって苦しんでいるみんながいる。未払いが解決してこそ成功だと思う。どうか深く考え、解決に向けてご意見をいただきたい」と呼びかけた。
被害企業の一つであるJOK株式会社の高関千尋氏は、「私たちにとって、まだ万博は始まってすらいない。万国の万人のための万博であるなら、平等に、お金をもらえていない私たちに支払ってほしい」とのべた。
高関氏がマルタ館工事の打ち合わせをしたのが3月23日。その時点ではまだ何もできあがっていなかったが、4月11日に工事は完了した。短期工期のなかで、関係する人すべてが「万博のために」で一致団結し、必ず間に合わせようという思いで必死に働いたという。「わずか2週間でどれだけの労働が強いられたかわかると思う。GLイベンツの担当者も苦しかったと思う。われわれも本当に苦しかった。24時間監視カメラをつけて仕事状況を監視されているなかで食事に行くこともできず、まともな排泄設備もなく、暖をとるところもなく、まるで閉じ込められた鳥のようにただひたすら働かされた。でも、やり遂げたかった。みんな同じ思いだったと思う」と語った。
そして、代金を支払わないGLイベンツ社やそれを管理できなかった万博協会の責任にふれ、「国家プロジェクトで予見できないこともたくさん起こる。失敗を潔く認めればいいのではないかと思う。GL社、万博協会には反省していただき、支払いをしていただくということに尽きる」と語った。
院内集会では、当初からこの問題を追っているフリージャーナリストの西谷文和氏がこれまでの経緯を報告したほか、万博協会との交渉に参加してきた労働とサポートセンター大阪の弁護士2人が万博協会の対応や問題について報告した。
未払いの救済は義務 弁護士らが指摘
在間秀和弁護士は、万博協会側が「協会とは直接法的関係がある問題ではない」ことを強調し、被害当事者に対して事情聴取すらしていないことを明らかにした。省庁出向者である局長が「お気の毒」と発言するなど他人事のような姿勢であったうえ、唯一明確に回答したのが「立て替え払いはしない」ということだったと、憤りを込めて話した。万博協会の副会長でもある吉村大阪府知事も当初の「民民の問題」という姿勢からトーンダウンして「寄り添う」といい始めているが、内容は相談体制の拡充や融資先の紹介程度で、同様に立て替え払いはしないことだけは明言している。
弁護士らが提起した問題は大きく二つある。一つは労働を提供しながら対価をもらえないという非常に大きな人権問題において、「直接関係ないから立て替え払いはしない」で済むのかという問題だ。
もう一つはコンプライアンスの問題だ。万博協会は「人権方針」という立派な方針を掲げており、そのなかには「博覧会協会の役職員や博覧会事業によって人権に負の影響を引き起こす、または助長していることが明らかになった場合は適切に対応し、その救済・是正にとりくむ」と高らかに宣言している。在間弁護士は、「であるならば直接的に関係なくても具体的な救済を図らなくてはいけない」とのべた。万博協会・持続可能性局は、人権に関して盛りだくさんな方針を掲げているが、「まさに看板倒れ。持続可能性局がやったのは、こうした宣伝材料をつくるだけで、いざ問題が起こってもなにもしない。これが実態だった」と指摘した。
万博協会は「ぜんぶのいのちと、ワクワクする未来へ。」というタグライン(企業やブランドの価値観や理念などを表明する言葉で、キャッチコピーと違い長期的・一貫性が求められる)を掲げている。在間弁護士は、「“ぜんぶのいのち”に会場建設に携わった働く人たちのいのちは含まれていないのか、“ワクワクする未来”は万博運営で利潤を得た人たちだけの未来なのか?」と投げかけ、協会が直ちに実行できることは、まず工事代金の未払い状態を協会の責任において直ちに解消することであり、運営における労働関係法規をはじめ法令遵守を直ちに徹底することだとのべ、万博協会に自身が掲げた理念・方針にもとづく行動を求めた。
藤原航弁護士は、「これは単なる個別のトラブルの集合体なのかというと、決してそうではない。複数の要因が絡み合った構造的な問題だ」と指摘した。万博開幕に間に合わせるために中小企業に対して「国家プロジェクトだ」と呼びかけて、苛酷な工期・労働環境で働かせた経緯にふれ、「国家的な利益は社会全体で受ける一方、構造的なリスクが現実化すると“民間同士の問題”という法的な盾の後ろに隠れて出てこない。過程で生じた未払いのリスクは民間のもっとも弱い立場にある下請に押しつけるという構造自体が非常に問題だ」とのべた。万博協会は「持続可能性に配慮した調達コード」など、ビジネスと人権に関して非常に立派な規則を定めていることを明らかにし、「これは直接の契約関係になくても、その先の契約関係で人権侵害がおこなわれていないかチェックし、救済するということが書かれている。民間だということで逃げ切ることはできない問題だ」と訴えた。
建設業法違反の業者が跋扈し、あるいは契約を盾に違約金や遅延損害金を請求するなどして実質工事代金を支払わない企業が跋扈している状況の背景に、無理な工期設定や、海外資本のイベント会社が元請的な立場に入ったことなどがあると指摘されている。しかし、この問題を万博協会にぶつけると、「万博協会自体に法を遵守する責任があるのではなく、参加国に法遵守の義務がある。法が適正に執行されているかを監督するのは労働基準監督署や大阪府などだ」というスタンスで回答したという。
藤原弁護士は、「万博の建設ガイドラインでは、日本のあらゆる関係法令、条例を遵守しなければならないことが一丁目一番地で書いてある。それが適正に遵守されているかのチェックを万博協会がしなくていいなど一つも書いていない」「そもそも建設業法や労働関係法令など、日本独自の法規を全参加国が理解して遵守する能力があるという非現実的な前提そのものが誤っており、万博協会がきっちり監督していれば、工事費の未払い問題や労働基準法違反などは発生していない」と、万博協会の無責任な姿勢を指摘。「“ぜんぶのいのちと、ワクワクする未来へ。”が非常に空虚に思える。万博協会も政府も、国家的な利益を享受しているわけだから、未払いや労働環境で苦しんだ方々の救済を人権の方針としてする必要がある」とのべた。
弁護団は今後、「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」の日本連絡窓口・NCPに国際的な問題として提起することを検討している。
労働者ら団体交渉開始 賃金未払い問題

マルタ館
さらに、大阪関西万博では工事代金だけでなく、会場内で働くスタッフへの賃金未払いも発覚しており、労働者たちが「関西万博関連ユニオン」を結成し、団体交渉を始めている。現段階で公表されているのは、ヨルダン館、サウジアラビア館、オーストラリア館、韓国館の4カ国のパビリオンだ。同ユニオンが9月29日に記者会見を開いて明らかにした内容は以下のようなものだ。
ヨルダン館で会場案内などを担当したスタッフは、初日に約半日の研修に参加したが、後日同館の運営者モダニスアンドカンパニー(日本のPR会社)から「研修参加費は支払わない」といわれた。これに抗議した学生アルバイトたちが次々にシフトをカットされたり、「もう来なくていい」といわれるなどした。研修費の未払いを改善するよう運営側に要求してシフトをカットされた大学生は、バイト代を生活の足しにしていたため、別のバイト先に移らざるを得なかった。
サウジアラビア館のレストランで働いていたスタッフは、運営会社のTGPジャパン(イギリス)から残業代は払わないといわれ、20万円前後にあたるサービス残業をさせられた。また、健康保険料が給与から天引きされているにもかかわらず保険証はもらえず、5月にぎっくり腰になったが、保険証がないため受診できず困ったという。同館では、保険証を1カ月後にもらった人もいれば、3カ月後にもらった人もいるなど、対応がまちまちだったと証言している。
声を上げたメンバーのところには、会場内の勤務についての労働相談が多数寄せられた。オーストラリア館(運営・グローバルホスピタリティ株式会社ジャパン)では、キッチンで勤務する労働者から、9月分の給与未払いがあると訴えがあった。
この件では、管理者からシフト管理のミスがわかったため、10月と合算で払うとの回答があったという。
韓国館では、モモティーズジャパンが韓国で採用した日本人労働者に対して、採用時と違う労働をさせるなどの違法行為が発覚した。週休2日という契約だったが1日しか休めない状態だったほか、日本で住居を用意し、手当を出すという約束だったが、ほぼ最低賃金の給与から天引きされていた。
院内集会でこの問題について報告した全国商工団体連合会の竹村考史氏は、「今、一番危惧されているのが、運営会社が外資系の万博のための日本法人であり、万博が終われば解散してしまうだろうという法人が多数あることだ。そうなれば、日本の労働法などで救済されない恐れが出ている」とのべ、早期に賃金の未払いを解決することを最優先に団体交渉などをおこなっていることを報告した。「万博の成功のために働こうという学生たちなどの思いが踏みにじられようとしている」と訴え、工事費未払い問題と同時に、賃金未払い問題にも注目してほしいと呼びかけた。
電通なき後、メガイベントを仕切る能力もないまま強行された万博開催。そのもとで違法行為が横行し、中小零細の工事業者やアルバイトなど現場を支えた人々が食い物にされているにもかかわらず、万博協会も国も大阪府市もだれも責任をとらず、解決にとりくもうともしないままだ。「万博成功」を演出して幕引きすることは許されない問題となっている。





















