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「維新よ、国よ、“いのち”を奪うな」 大阪で万博工事未払い問題追及全国集会 大阪府・市、万博協会は「寄り添う」詐欺やめろ

(2025年8月25日付掲載)

大阪市で開かれた万博工事未払い追及全国集会(23日)

 「維新よ、国よ、“いのち”を奪うな」を掲げて23日、「万博工事未払い追及全国集会」が大阪市浪速区民センターホールで開催された(主催・万博工事未払い追及全国集会実行委員会)。現段階では、大阪・関西万博のために建設された10の海外パビリオンで工事代金の未払いが発覚しており、昼夜を問わず過労死レベルの工事を担い完成にこぎつけた中小の下請事業者が数千万円、数億円の未払いを抱えて日々の生活すら困難な状況に置かれている。被害者たちは5月末に被害者の会を結成し、記者会見などで実態を明らかにすると同時に、大阪府・市や万博協会、国に対して問題の解決に向けた方策をとることを訴えてきたが、万博協会副会長でもある吉村大阪府知事は「被害者に寄り添う」といいながら、「民民の問題」として立て替え払いや緊急融資も否定し、何らの対応策もとらない姿勢を続けている。こうしたなかで開かれた全国集会には関西圏を中心に300人をこえる人が参加し、当事者とともに世論を広げ、問題解決に向けて行動する熱い思いがあふれるものとなった。

 

10パビリオンで億単位の未払い 3000人が路頭に迷う

 

未払い問題が発生している海外パビリオンの一つ。セルビア館(大阪万博会場)

 集会では未払い被害者の会から代表して2人の事業者が実情を訴えた。

 

 アンゴラ館で未払い被害にあったA氏は、父親として子どもたちに誇れる仕事をしたいという思いで国家プロジェクトである大阪関西万博工事にかかわり、未払いに直面したことを語り、「今まで民民の問題だといわれ続けてきたが、一つの国家プロジェクトでこれほど未払いが起きたことはあるだろうか。建設業界に約15年かかわっているが、これだけ未払いが起きたプロジェクトは初めてだ」と語り、大阪府・市や万博協会が公式に協力要請を出した事業にもかかわらず、いざ未払いが起きると「関係ない」といわれている状況に憤りを語った。

 

 「自分の生活も苦しいし、仲間たちから毎日のように、“いつ金を払ってくれるのか”“子どもが生まれたばかりなのにどうしてくれるのか”“マンションから追い出されるから助けてほしい”といわれ、それを聞くだけで胃が痛くなる状況だ。なかには脅迫を受ける場合もある。みんな未払いを受けてもう約4カ月たち、生活ができない状態になっている。私も支払えていない事実はあるので、少しでもみんなを助けたい。苛酷ななかを一生懸命やってきた人たちがこれほど追い詰められるのは理不尽だ。苦しいのはみんな同じなので、少しでも多くの人を救済したいという思いで日々活動をしている。多くの賛同者、支持者、ご理解いただけるみなさんの力を借りて、一日も早く救済したい」と挨拶した。

 

 別の海外パビリオンで未払いにあったB氏も、これまで取材を通じて自分たちの思いを訴えてきたが、「どうしても限られた時間で断片的に報道されるだけで、本当に伝えたいことが100%伝わらない状態が続いてきた」と語り、そのなかで「仕事を請けた企業の自己責任だ」といった心ない言葉が寄せられることも多くあったことにふれた。

 

 「確かに、契約については民間同士、会社同士の問題かもしれない。ただ、未払いを含めたさまざまなトラブルは民間同士の問題ではない。国家をあげたプロジェクトでこれだけの未払いが発生し、これだけの被害者がいるというのは、あってはならないことが実際に起きているということだ。もっと社会的に、国際的に大きな問題として捉えてほしい」と訴えた。いつ会社が倒産するかわからないような状況が長期化し、日々の生活のために車も、売れる物はすべて売り、「最終的に残っているのは自分の命しかない」状況に陥っている。たたかい続ける力も気力も次第になくなってくるなかで、「よからぬことを日々考えるが、支えてくれている方、応援してくれている方々がいるので、ここで絶対に負けてはいけないという気持ちで今、ここに立たせていただいている」と謝辞をのべた。

 

 さまざまな団体・組織や議員などの協力を得て問題に対する注目は高まっているが、万博閉幕まで残りわずかとなっている。B氏は「この問題をなかったことにするのではなく、工事を請け負ってよかったと最後に思えるよう、一刻も早い解決をみなさんとともに協力しながら進めていきたい」と語った。

 

未払い問題の実態報告 ジャーナリストの西谷文和氏

 

報告するジャーナリストの西谷文和氏

 続いて、万博問題について取材を続けているフリージャーナリストの西谷文和氏が、未払い被害の実態について報告した。

 

 西谷氏は初めに、8月13日に大阪メトロ(地下鉄)が停止して帰宅困難者が出た問題にふれ、「驚くのは3万人が足止めされ、1万人以上が野宿をしたという話だったが、昨日、実は4万9000人だったことがわかった」と、人数も誤魔化していたことを明らかにした。万博協会がこうした事態を想定せず、なんの対策もしていなかったことは未払い問題に通底していると指摘。「想定していれば、たとえばアメリカ館、ドイツ館、イタリア館を開けるなど、マニュアルをつくっているはずだ。この日、夜でも気温は29度あり、熱中症で危険な状態だったが、水を配布したのは午前4時だった」とのべた。

 

 70代、80代の高齢者は生死にかかわる問題であり、2歳、3歳の子どもを連れた家族もいるにもかかわらず、大学生がダンスをしているところを映して「オールナイト万博」などと報じた大手メディアへの憤りも語り、「成功だ」「黒字だ」と持ち上げるばかりの万博報道に疑問を呈した。

 

 こうした問題だらけの万博のなかでも大きなのが未払い問題だ。西谷氏は、8月20日時点で判明しているのはアンゴラ館、マルタ館、中国館、ルーマニア館、セルビア館、ドイツ館、ネパール館、アメリカ館、インド館、ポーランド館の10館にのぼることを明らかにし、愛地球博(愛知万博、2005年)では未払いはゼロであり、東京オリンピックでも発生しなかった未払いが、大阪・関西万博では多発していることを指摘した。

 

 未払いは2パターンあるという。1つはアンゴラ館のパターンだ。参加国のアンゴラは工事費を支払っているが、3次下請に「一六八(いろは)建設」という業者が入り、工事費を持ち逃げしている(元請など施工体系がいまだに不明な状態)。アメリカ館の場合は、2次下請業者の「ネオスペース」が倒産した。「万博工事でお金をもらっているのに、なぜ倒産するのかと思わないだろうか。あらかじめ倒産するつもりだったのかと思うくらいのところだ」と指摘した。

 

 西谷氏は大阪・鶴見区の一六八建設にインタビューに出向いたが、作業員も建設用の車両もなく、近隣住民に聞くと、「なんの会社か不思議だった」「たまにスーツを着た人がフェラーリに乗って来ていた」といっており、普段はだれもいない状態だったと話していたという。「一六八建設は名古屋からわざわざ大阪に移ってきた。ほぼ間違いなく中抜きに行ったということだ。そのおかげで一六八建設から下の業者が泣いている。こんな業者が入ること自体が万博協会の詰めの甘さ、ガバナンスのなさをあらわしている」とのべた。

 

 2つ目のパターンが「GLイベンツジャパン」社に代表されるように、工事の結果にいちゃもんをつけて支払わない手法だ。「ルーマニア館の場合、4億円で下請に出し、最初に半額の2億円を払って安心させておいて、4月13日の開幕まで時間がないから早くやれといい、できあがったら壁の色が気に食わないとか、調度品がいけないなどといって支払わない。同じやり口で4つ被害が出ている」とのべた。

 

無人となっているGLイベンツ大阪支社のオフィス(西谷氏提供)

 西谷氏らフリージャーナリストや市民団体は、未払い問題発覚後、咲洲にあるATC(アジア太平洋トレードセンター)に入居しているGLイベンツ大阪支社に2度の直撃をおこなっている。7月10日に2回目の直撃をしたところ社員は逃げていき、8月1日以降、この事務所は夜逃げ状態になっているという。「GLイベンツは元請なのでドイツ館、マルタ館、ルーマニア館、セルビア館でなにかあれば社員が行ってメンテナンスをしなければならないから、近くに事務所を構えている。にもかかわらず逃げている」と無責任な対応を指摘。「閉幕まであと2カ月なので、10月13日まで知らぬ存ぜぬで通せば逃げられるということではないかと思う。だから勝負はあと2カ月。GLイベンツも含めて絶対に逃がしてはいけない」と力を込めた。

 

 同社は未払いを放置しながら、来年の名古屋アジア競技大会についても53会場の設営などの業務を630億円で受注しており、大村知事は問題ないとして契約を続行する姿勢を示している。しかし、西谷氏は下請に入る業者がいない可能性も大きいとし、GL社に支払いをさせるうえで、「ここが攻めどきではないか」と提起した。

 

過労死レベルの労働 「開幕までに」の大合唱

 

 西谷氏は、大屋根リングや日本館、大阪ヘルスケアパビリオンなど、日本の税金で支払う安全な案件はゼネコンが受注したが、リング内側の海外パビリオンからは逃げたため、吉村府知事と万博協会が昨秋に、中小企業に協力を要請した経緯にふれ、「お願いしたのだから感謝しないといけないのに、恩を仇で返している。アメリカ館の被害者も、万博協会になんとかしてほしいと電話をしたが、“民民の問題だ”といって電話を切られた。吉村府知事も万博協会も“寄り添っている”といっているが、そうであれば、被害者の名前や、どこのパビリオンで未払いが発生しているのか、未払い額などを聞くのが普通だ。万博協会はそれも聞かずに電話を切った」と話した。万博協会の対応にも「あと2カ月」という本音が垣間見えること、事実、咲洲庁舎の45~47階にあった万博協会は、現在みんな逃げて受付のみになっていることを明らかにした。

 

 「開幕に間に合わせろ」の大合唱のなかで、未払いだけでなく、工事中に労働者が指を切った、高所から転落した、肺炎になったなど、さまざまな問題を耳にしているという。夢洲はゴミの埋立場なので有害物質が出てくるのは当然だが、そうした対応もなされていなかった。また、着工が遅れ、昨年11月から今年3月までの約半年という短期工期であり、最後に着工したマルタ館などは12月からのわずか3カ月だ。そのなかで労働者は泊まり込みで24時間働いた。アンゴラ館の業者は3月の日勤が27日、夜勤が24日だったことなど、労働基準法違反がまかり通っていた実態と、その労働者が逃げないよう監視カメラを設置していたことも明らかにし、「現代の奴隷労働ではないか。どこが“いのち輝く”だろうか。どこが“SDGs”か」と投げかけた。

 

 記者会見の場で吉村府知事は、GLイベンツ社の問題を指摘しているにもかかわらず、「横領した会社の未払いを税金で払うのか」といったように、アンゴラ館しか事例に出さずに印象操作をしたり、記者に逆質問して脅すという手口を使うなどしていることも指摘し、「吉村府知事が“民民の問題だ”というから、全体が“民民の問題だ”となっている。おそらく10月13日に万博が終わると、“万博は成功した”というと思う。そして何事もなかったかのように、次は大阪都構想の住民投票だなどといっている。ユスリカが出たら対策し、レジオネラ菌が出たら塩素で対策するのに、人が死にかけているのに何もしない。維新は今だけ金だけ自分だけの人たちだ。それを私たちは変えていかないといけないと思う」と語った。

 

 西谷氏によると、大阪・関西万博の会場横でカジノの工事がおこなわれており、そこに麻生セメントの文字が見えるという。夢洲はゴミの島で地盤が緩いため、半年で終了する万博については浮き工法を採用しているが、カジノは長年月にわたるため地盤を固める必要があるという。そこでセメント業者や生コン業者などがもうける構造があると指摘した。地元の生コン業者が、大阪ヘルスケアパビリオンに2億円寄付するなど、維新に対して寄付しているという。

 

万博会場に隣接するカジノ用地の工事現場では麻生セメントが入っている(西谷氏提供)

 15年、維新政治が続いてきて万博に至ったことにふれ、「万博も酒の席で安倍、菅、松井、橋下の4人で決め、私たちの税金が注ぎ込まれている。大阪都構想では、大阪府はあまりお金がないので、大阪市の財政に手を突っ込もうとしている。大阪都構想で大阪市がなくなれば、地続きの堺市や豊中市は住民投票なしで財布に手を突っ込まれることになる。万博後、間違いなく3度目の住民投票をいい始めるので、ここでもう一度だまされないようにしなければならない。世論を広げ、なにより未払い被害を受けている業者を助けなければいけないという政治判断をさせなければならない。9月が勝負と思うので力を合わせて救済したい」と語った。

 

取引先含めた社会問題 会場での意見交換

 

 未払い被害者と西谷氏の報告を受けて、会場では参加した国会議員や府議会議員、周辺自治体の市議や市長などもまじえて活発な意見交換がおこなわれた。

 

 保護者として「万博への遠足をやめてほしい」という署名活動をしたという豊中市の男性は、「万博や大阪府市の不誠実な対応、いい加減な対応に翻弄された一年半だった。私は保護者としてやったが、未払い被害者の方は私たち以上につらい思いをしていると思う」と連帯の気持ちを込めた。

 

 署名活動をするなかで、「一部のおかしい人が声を上げている」と矮小化されてきたことを語り、「ここに参加された人は熱い思いを持っていると思うが、ぜひ若い世代や子どもたちに、万博に行って楽しかったかもしれないが、その裏でこんなことが起きているということを伝えてほしい」と呼びかけた。

 

 神戸から参加した男性は、「議員の力も大事だが、われわれ一人一人が納税者だ。税金を舞台にしてこんなひどいことがおこなわれていいのかと、被害者のみなさんを支える気持ちでやることが大事だと思う」と発言した。吉村府知事が未払い分の立て替え払いや融資について「税金の使い方としてどうなのか」と発言していたことにふれ、「それは納税者が決めることであり、知事が決めることではない。それを自分の金のようにいっていることに大変腹が立った。まわりの友人は万博反対だが、そういう人たちにも未払いにあっている被害者を放置していいのかということを率直に訴えて署名とカンパを集めたい。被害にあった人を全員守り、万博の問題に光を入れていく糧にしていきたいと思う」と語った。

 

 万博会場で働くアルバイトを中心に労働組合をつくっているという男性は、アルバイトをめぐっても、初日の研修費分の賃金の未払いや、文句をいうとシフトカットをする、交通費など入職時期によって待遇格差があるなど、建設工事費と金額の桁は違うものの、共通する問題が多数発生していることを明らかにした。交通費の支給などについて団体交渉をおこなうと、中小国の海外パビリオンでは「財政が厳しいから建設代金に還元するために予算がない」などといわれているという。また、万博は午前9時から午後9時までで、休憩を入れてもおおよそ10時間のシフトになるほか、就業規則や雇用契約などを1カ月たっても見せてもらえない事例も発生しているという。男性は、「民民の契約だ」ということと同じように、万博協会がこうした問題が発生することを想定していないことを指摘した。

 

 原因の一つとして、人材派遣の経験のないPR会社が海外パビリオンの運営を請け負っている問題があることを指摘し、「それらも含めて協会が黙認したり、あるいはそれありきの状態でやっているから、万博協会や行政の責任は非常に大きいと思う」と話し、「みんな万博が好きでアルバイトに行っているはずなのに、愚痴がこぼれる状況になっている。建設段階で中小事業者に対して無責任な対応をするのは、運営のなかで労働者に対する権利がおろそかになることと非常につながった問題だと思っている」とのべた。

 

 奈良県から参加した男性は、「なぜ未払いがいけないかというと、かわいそうだからではない。生活できないというのは本人や家族だけの問題ではなく、社員や取引先もあり、仕入れをしている業者から見ると、未払い被害者の業者さんたちが加害者のように見えてしまうこともある。それも含めて連鎖倒産のようなことになるので、純粋な社会問題であり、経済問題として未払いはあってはいけないし、それに向けた方策を立てていかなければいけないと思う」と発言。未払いが長期化するなかで、たたかい続けている被害者に心を寄せた。

 

 周辺自治体の市議や大阪府議、国会議員なども参加し、それぞれの場で解決に向けて尽力するとの発言もなされた。

 

 会場からの意見を受けて、未払い被害者のA氏は「今回の未払い問題を受けて、人の温かみを感じている」と温かい言葉に謝辞をのべた。改めて吉村府知事の発言にふれ、「僕たちは税金で払ってくれとは一言もいっていない。吉村さんは印象操作をしている」と指摘した。未払いというワードが発生するとどこも融資してくれず、「今僕たちはずっとゼロの状態だ。少しお金ができるとみんなに配り、みんなが倒れないようにという形で、2月から今に至るまでの間、4日も休んでいないくらい、ひたすら働き続けても返済が追いつかない。10パビリオンあれば、かかわった職人は700~1000人くらいおり、家族を含めると2000~3000人になる。毎日悲惨な話を聞いていると気がおかしくなるが、それでもたたかって救済する活動をしないといけないと思い、日々活動している。ありがたい言葉をいただいた以上、くじけることなく頑張っていきたい」と語った。

 

 B氏も「苛酷な労働環境のなかで開幕に間に合わせるために不眠不休で働き続け、1カ月で7㌔体重が落ちた。ほぼ食事も睡眠もとれず、瞬きするとその瞬間に夢を見てしまうくらい精神的にもつらい状況のなかで、なんとか開幕に間に合うよう全力を尽くした。工事が終われば自分たちは必ず支払ってもらえる、報われると思いながら最後まで頑張ったが、いまだに苦しい状況から抜け出せずにいる。私たちは決して、税金で助けてほしいという思いではない。ただ、自分たちの力だけではもう乗りこえられないところにきている。今を乗りこえるための力を貸していただきたい。ここを乗りこえられると、私たちはこれから先、自分たちの仕事で必ずもっと大きな社会貢献をして、みなさんに返していく覚悟だ」と語り、協力を呼びかけた。この日、会場でも多くのカンパが寄せられ、被害者の会に手渡された。

 

マルタ館でも未払いが発生している

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