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オスプレイ配備と騒音・低周波被害 沖縄の米軍MV22を調査 渡嘉敷健・琉球大学准教授が新たな配備地佐賀で講演

(2025年9月15日付掲載)

渡嘉敷准教授による講演会「オスプレイと騒音問題」(9月11日、佐賀市)

 佐賀駐屯地に陸上自衛隊V22オスプレイが配備され2カ月が経過した。現在、長崎県の相浦駐屯地をはじめ、九州各地の上空を飛び訓練をおこなっている。9月29日からは夜間訓練が開始されることもアナウンスされているが、配備が強行されたからといって黙っているわけにはいかないと、佐賀市内では今も配備撤回を求める運動が続けられている。住民のなかでは、墜落をくり返しているオスプレイの危険性とともに騒音被害に対する懸念も高まっている。11日には佐賀市のアバンセで、「オスプレイ配備と騒音問題~沖縄県における米軍MV22オスプレイ低周波音に関する調査研究~」と題して、琉球大学の渡嘉敷健准教授(環境工学)が沖縄の現状について講演をおこない、佐賀市内や周辺地域の住民約100人が参加した。主催はオスプレイ裁判支援市民の会。渡嘉敷氏の講演要旨を紹介する。
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渡嘉敷健准教授

 初めに、音の性質と人間の聴覚器官の関係について説明する。「音は縦波」といわれるように、音の粒子が飛び出すわけではなく振動が空気振動として伝わっていく。遮るものがあったとしても、その遮るものを振動させてその裏側に伝わっていくというのが音の伝搬だ。音には周波数があり、人間の聞こえる可聴周波数は20ヘルツ~20㌔ヘルツ。オスプレイが出す低周波音は20ヘルツ台だ。20ヘルツの周波数の波長は17㍍と波が大きく、1秒間に20回の振動なのでゆっくり大きく動く。音のエネルギーとしては大きい。低い周波数ほどエネルギーが大きくなる。

 

 人間が音を聞いているのは耳だ。外耳道から入った音が鼓膜で振動し、耳小骨で音を増幅して脳に伝える。蝸牛殻というカタツムリ状の器官があり、そのなかの基底膜という膜に3万個の聴細胞がある。入口の方が高い音、奥にいくほど低い音を聞く器官になっている。私たちは生まれてから死ぬまで音を聞いているが、高い音から聴覚が衰えていく。入口付近が高い音を聞く器官だから、そこが早めにダメージを受けて聞こえなくなるということだ。人間の聴覚は、本来低い音は聞こえにくいのだが、低い音はエネルギーとして大きい。家の中に入ったりすると、ある程度高い音はカットされて低い音が残る。だからオスプレイのように低い音の大きいものは、それが強調されて聞こえることになる。

 

普天間飛行場側で測定

 

 私は沖縄の基地問題について、県民をはじめ県外でも講演をし問題を共有したいと思っている。現在、沖縄には約184・96平方㌔㍍もの米軍基地が存在し、これは日本全体の70・3%を占めている。この米軍基地が都市計画に大きく影響を与えている。MV22オスプレイは、沖縄の場合CH46の代替ヘリコプターとして2012年10月に12機が配備され、今は24機態勢となっている。このことについて県民は強く反対したが、今現在も運用され、墜落や事故を起こしながら県民の生活を不安にさせている航空機だ。

 

 このオスプレイが最初に配備されるときに実施された環境レビューでは、「オスプレイが配備されると今よりも騒音が酷くなるのか?」という問いに対して「MV22の騒音は、CH46よりも概ね低くなっている。極めて速く、高い高度で飛行するため、騒音の発生地点が地上から遠くなり、継続時間は短くなる。その分騒音は低減する」とされていた。当時は日本の航空法の規定で高度300㍍以上の上空を飛ぶようになっていたが、今は100㍍もいかない高度を飛ぶような状況になっている。

 

 宜野湾市の市街地の真ん中にあり、世界一危険といわれる普天間飛行場の南端から500㍍の地点でオスプレイとCH46の音を測定した。グラフの右肩上がりの線が物的影響基準値で、振動でガタつく等の音、右肩下がりは心身に与える影響の基準値だ。オスプレイが配備される環境影響評価の最終評価で出た資料に測定値を当てはめたものだ【図1】。

 

 実際に配備されたオスプレイの騒音は環境影響評価の基準値をこえている。これに対して右側のCH46はほとんどこえていない。騒音レベルとしてもオスプレイの82・6デシベルに対してCH46は68・2デシベルであり、オスプレイの方が10デシベル以上も騒音が大きい。人間の聴覚の感覚としては、10デシベル上回ると音は2倍に聞こえるほど大きくなる。環境レビューにあったように決して騒音が軽減されるものではなかった。低周波音振動の実験でもCH46に比べてオスプレイの低周波音振動は桁違いに大きくなっている。

 

 オスプレイの低周波が認知されたのは普天間飛行場の爆音訴訟の2010年の控訴判決だ。ここで初めて低周波被害を認定した。しかし差し止めには至らず、2年後にオスプレイが配備された。

 

 このときに低周波被害を心理的側面も含め再検証しなければならないと仙谷官房長官が発言したが、現在にいたるまでこの検証はおこなわれていない。

 

教室の子どもたちへの影響

 

 現在、実際に運用されているオスプレイについて私が測定したデータがある。普天間第二小学校という普天間飛行場から200㍍ほどの場所での測定だが、物的影響、心理的影響ともに実測の結果が基準値を上回っている【図2】。日本の基準では80ヘルツ以下が低周波といわれているが、低周波は教室のなかでも防げず子どもたちの学習環境にかなり影響が及ぶ。教室の外と中であまり騒音レベルが変わらないのがオスプレイだ。CH46もKC130空中給油機も低周波が発生する機体ではあるが、オスプレイには及ばない。

 

 このオスプレイの影響により沖縄の子どもたちのなかでは「爆音でぴくっと体をびっくりさせ、火の付いたように大泣きする」「騒音がストレスの原因となり、ストレスが免疫機能を低下させるために風邪を引きやすい」「慢性的な航空機騒音暴露が学童の長期記憶力を低下させ、ひいては学習能力の低下をもたらす危険がある」(『琉球新報』より引用)などの影響が出ている。

 

 この沖縄の現状に対しハワイでは2年間かけて環境影響評価を実施し、オスプレイによって引き起こされる下降気流が遺跡保存に悪影響を及ぼすことや地元住民の反対、希少生物の生息環境破壊への懸念などに配慮して二つの空港で訓練計画をとり下げている。さらにハワイでは学校の上空ではオスプレイの飛行はさせていないという。

 

 環境庁(当時)の委託により小林理研がおこなった低周波の人体への影響調査(オスプレイなど移動体音源ではなく工場や機械など固定されたもののみ)では、頭痛や気分のイライラ、戸・障子のがたつきなどが指摘されている。低周波による被害は抵抗力の弱まっている人にあらわれやすい。気分が優れず室内にいたときほど低周波の影響を受けやすい。先ほどものべたように家がシェルターのようになって、高い音はさえぎるが、低い音はそのまま室内に入ってくるため防ぎようがない。

 

 現在の騒音の測定は、人の聴覚特性にあわせて特に200ヘルツ以下の周波数帯域の音のエネルギー量を減算して測定・算出している。100ヘルツ以下の低周波数帯域では、エネルギーのマイナス量は非常に大きくなる。これをA特性補正というが、これが国際的に認定されている測定量である。しかしWHOの「環境騒音のガイドライン」では、低周波成分を多く含む音、ヘリコプターなどの回転翼機の場合にはこのA特性補正による測定・評価は不適切であると指摘している。アルヴェス・ペレイラ博士も同様の見解を示しており、博士はA特性測定・評価では「500ヘルツ以下で起きるすべての音響エネルギーを過小評価し、20ヘルツ以下の音響エネルギーは無視することになる」とのべている。しかし今の航空機騒音の評価はA特性だ。低周波測定をしない限り、こういった低周波の問題は表に出てこない。

 

体の不調を訴える人々

 

米軍普天間基地に駐機するオスプレイMV22(沖縄県宜野湾市)

 沖縄ではオスプレイ配備以後、たくさんの人に低周波の影響が出ている。宜野座村に住む男性は心臓に金属製人工弁を入れており、「オスプレイが家の真上を飛ぶたびに不整脈が起き、苦しい思いをする。静かな環境がほしい」「CH46ヘリが飛ぶときは部屋か車に隠れればよかったが、オスプレイはどこにいてもだめ」「呼吸と脈が合わず死ぬ思いだ。これまでこんなことはなかった」(『琉球新報』)と訴えている。

 

 また低周波はパニック症にも影響を与える。中城村に住む男性はオスプレイの配備後、「パニック障害の症状が悪化し、実際の被害としてあらわれた。処方される薬や認知行動療法を続けているが、重低音が聞こえるたびに体の異変を感じる」(『沖縄タイムス』)とのべている。

 

 普天間飛行場に隣接している普天間第二小学校では、教室内でも米軍機の騒音が100デシベルをこえるものとなっている。これは電車の高架下と同じくらいの騒音だ。在日米軍基地は環境基本法の適用外であることが2012年4月13日の政府答弁において明らかにされている。アメリカの住宅地騒音規制は65デシベル未満となっているのに対し、沖縄は100デシベルだ。しかもこれをこえても問題になっていない。沖縄県内の9大学の学長が大学の敷地や隣接地上空での飛行中止を求める声明を出したり、学会でも米軍機の騒音条例などをつくるべきだという指摘をしてきたが、状況は変わっていない。

 

 佐賀でもいずれ夜間訓練がおこなわれるようになると思うが、すでに夜間訓練がおこなわれている沖縄の状況は深刻だ。オスプレイの重低音で家が揺れるという意見があるが、これが低周波音だ。

 

 また漁業者からも「水深五㍍ほどの深さまでオスプレイの振動が伝わり、音の発生源との距離がつかみにくく不安をかき立てられる。同時に魚は姿を消し、その日は漁ができなくなる」という意見もある。水中では伝搬する速度が速く、振動が伝わりやすいため、空気中よりも音が20デシベル上がる。

 

名護市小中学生に聞く

 

 現在、大浦湾に辺野古基地がつくられている名護市の教育委員会に協力していただいて市内の小中学校の児童生徒、教職員にアンケートをおこなった。名護市の上空でもオスプレイが飛行をくり返している。

 

 「学校で遊んでいるときや授業をしているときに飛行機やヘリコプターの音が気になったことはあるか」との問いに対し、「よくある・ある」と答えたのは児童生徒が61・2%、教職員では54・6%となった。「音を聞くだけでオスプレイが飛んでいると気付くことはあるか」の問いに対しては児童生徒・教職員ともに「ある」と回答した割合が半数をこえている。

 

 「オスプレイの音と他の飛行機の音ではどちらの方がうるさいと感じるか」との問いには、児童生徒の81・5%、教職員の72・7%がオスプレイと答えている。「オスプレイの音を聞いて怖いと思ったり嫌な気持ちになったことはあるか」の問いには、「よくある・ある」が児童生徒の32・6%、教職員では七五・四%となった。「オスプレイの音などの低周波音を聞いて気分がいらいらする、胸や腹が圧迫されるような感じがするなどの心理的影響を感じたことがあるか」との問いには「よくある・ある」と答えた児童生徒の割合が21・5%なのに対し、教職員では45・9%となっている。大人の方が低周波の影響を受けていることを示している。

 

 「オスプレイなどの低周波音が気になって『眠れない』『目が覚める』などの睡眠障害を感じたことがあるか」という問いでは「よくある・ある」と答えたのは児童生徒で13・2%、教職員で12・5%となった。

 

 自由記述の欄では、児童生徒たちは「鉄砲の音がこわい」「気にしないけど、とにかくうるさい来ないでほしいちょっとやっかいです」「昼間に飛ぶのはまだいいけど、夜遅くに飛んでいてとてもうるさい」「やめてほしい。落ちてきそうでそわそわする。授業に集中できない」などがある。

 

 教職員では「聞きとる活動をするときに航空機の音のせいで中断することがある。特に定期テストなど時間制限があるなかで中断せざるを得ないといけない状況になったときに運営上非常に悪影響を受ける。また、久辺中学校区は航空機のみではなく、爆弾、銃弾等の音の方が影響を受ける」「授業中、演習の音で校舎が揺れる」「校舎上空を飛んでいるのでは? と思うほどの騒音。その音に慣れてしまい、またかと思ってしまう日常になっている」「学校の上空をドアを開けたまま飛行機が低空飛行していることがある。とても低空で飛ぶためうるさい。授業が中断するほどの音がすることがあり、子どもたちの集中力の妨げになっている。また訓練の銃声音がすごく、爆発的な音がするときは窓がどーんと揺れ、いつか割れるのではないかと思う」などが記述されている。

 

 沖縄における米軍MV22オスプレイの低周波音は生活環境や子どもたちの学習環境にも悪影響があると測定データから得られていることから配備撤回を求める。さらに陸上自衛隊がMV22オスプレイを佐賀駐屯地に17機配備したことは近い将来、沖縄のような事態が予測されることから、同じく配備撤回すべきである。

 

 普天間飛行場に配備されたMV22オスプレイは、環境影響評価書で低周波音がCH53、CH46より値が大きいことを明記している。測定結果からも物的影響、心理的影響の閾(いき)値をこえている。2010年の普天間爆音訴訟の高裁判決で心身の被害との因果関係が認められている以上、配備は認められない。沖縄県は「米軍飛行場及び航空機騒音低周波音対策条例」を制定する必要がある。

 

佐賀空港に配備された陸上自衛隊のオスプレイ (9月11日)

■質疑応答から

 

 講演のあとにおこなわれた質疑応答では、佐賀市の周辺自治体で低空飛行がおこなわれている様子などが報告された。

 

 質問 柳川からきた。オスプレイの人体に与える低周波障害というのは明らかなようだが、例えばオスプレイが高度300㍍以上を飛んだ場合は低周波音の被害が少ないとかはあるのだろうか。

 

 渡嘉敷 測定していてマイクロフォンに近づくほど音源が大きくなっていることから高い高度で飛ぶと影響が少ないことはある。しかし必ずしも高度300㍍などの基準が守られているわけではない。米軍機に対してはこの規定を適用していない。そして低周波のエネルギーは大きいため、通常の高度で飛んでいても影響は大きい。しかし、人間の聴覚としては低い音は余り聞こえないため議論がなされていない。A特性での測定は低周波の影響があらわれないとWHOでもいわれている。A特性で測る航空機騒音の評価によってオスプレイの騒音の影響が過小評価されている。きちんと低周波音の測定器で測るべきだ。

 

 質問 防衛局はオスプレイが飛ぶことによって住民に低周波音の人体被害が出ているということを認めていないのか。

 

 渡嘉敷 これは認めていないといういい方になる。環境省は機械など固定音源の低周波の影響については評価を示しているが、移動体音源である航空機の低周波についてはなにもないと評価している。移動体音源であるオスプレイの低周波の影響をもっと明確に示さなければ議論にあがってこない。先ほどのアンケートが唯一の実態をとらえるものになっていると思う。だからぜひ佐賀のほうでもアンケートなど広く調査をする必要があると思う。広くアンケートをとることが一番事象をとらえる方法だと思う。地道にやっていくしかない。

 

 オスプレイの被害については、これまでいくら沖縄がいってもなかなか響かなかった。佐賀にオスプレイが配備されるのは決していいことではないが、日本全体で考えて行動していける可能性が出てきたと思っている。今日の内容がみなさんの今後の運動に繋がるきっかけになればと思っている。

 

 質問 みやき町に住んでいる。質問というより報告なのだが、8月22日にオスプレイが住宅の上の方を飛んでいるのを見かけた。今日も家の中にいたらすごい音がするので外に出てみるとかなり低いところをオスプレイが飛んでいた。佐賀駐屯地に問いあわせると、佐賀駐屯地から目達原駐屯地に行っているという。目達原駐屯地は私の家から五㌔ほどの場所にある。そこでオスプレイが離着陸をしているということを知ってびっくりした。ヘリはしょっちゅう飛んでいるが、やはりオスプレイは音が全然違う。目達原に離着陸しているということは本当に沖縄が他人事ではないと感じている。

 

 質問 オスプレイの問題は県内どこでも飛ぶことだ。しかし配備にあたって防衛省も県も佐賀市も、有明海の問題、漁業者の問題、川副町の問題にとどめている。実際に県民説明会のときの防衛省の資料は有明海側の場周経路しか描いていない。しかし現実的にはどこにでも行くため、県民全体の問題だということを改めて感じている。佐賀市内はまだ飛んでいないが、周辺自治体の方が音がするという。私たち自身が連携をとりあわないといけない。ぜひ沖縄と連帯しながらオスプレイの問題をとらえていきたい。

 

 渡嘉敷 沖縄でも基地を抱えない自治体の意見が大事だと思っている。上空を飛ぶと下にいる住民の影響が大きい。陸自のオスプレイが国内法を守って飛んでいるのかということは、みなさんの厳しい目と耳が正すことに繋がる。そういった目と耳を持ち続けてほしい。

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