いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

大島大橋に巨大貨物船が衝突 船舶関係者らを唖然とさせた前代未聞の事故

切断され橋から垂れ下がったままの送水管(23日)

 山口県周防大島町と大畠町とを結ぶ大島大橋がかかる大畠瀬戸で22日午前0時30分ごろ、ドイツの海運会社が所有する貨物船「エルナ・オルデンドルフ」(総重量2万5431㌧)が大島大橋の橋梁に衝突し、水道管と光ファイバーケーブルなどを切断する事故が発生した。切断された水道管は周防大島町への唯一の送水ルートであり、同町では同日午前8時ごろからほぼ全域の約9050世帯で断水し、約1万4600人の生活が麻痺している。海運関係者の間では前代未聞の事故であり、なぜこのような事故が起きたのか? と唖然とした表情で語られている。

 

内航船も通らぬ大畠瀬戸を航行

 

 事故を起こした貨物船「エルナ・オルデンドルフ」(マルタ船籍)を所有・運航するオルデンドルフ・キャリアーズは、ドイツ最大のバルク(バラ積み貨物)運搬会社で、約4000万㌧の運搬能力を持つ約500もの船舶を運航しており、特に鉄鋼貨物では世界最大規模の運搬量を誇っている。

 

 船には、船長(インドネシア国籍)を含む船員21人が乗船し、6300㌧のアルミナ(酸化アルミニウム)を積み、韓国オンサン港から広島県呉港沖を経由(検疫)し、江田島港を目指す予定だった。高さ約40㍍のレーダーマスト、さらに35~36㍍のクレーン4基を搭載した船体で、大島大橋(海面からの高さ31.9㍍)の下を通過しようとして衝突。その後も船を止めることも通報もすることなく、クレーンが破損し、マストが折れた状態で呉港沖まで向かっていた。事故時は船長が操船指揮していた。

 

                

 瀬戸内海は、潮汐の干満差が大きく、水道も狭く地形が複雑なため、全国で最も潮流が速い海域として知られている。とくに事故現場となった大畠瀬戸は、大島大橋の下を通過しなければならないうえに海峡の幅も狭く、漁船も含め1日あたり124隻が行きかうが、最大でも4000㌧クラス(平成26年度)。3000㌧クラスの内航船タンカーでも自主規制を敷いて「航行不可」とし、周防大島の東側にある諸島水道(情島と津和地島の間)のルートを使うといわれる。2万㌧をこえる大型船の場合は、さらに東側のクダコ水道(愛媛県の中島と怒和島の間)を主要な航路としている。2万5000㌧をこえる大型貨物船が通れる海域ではないことは、海運業に携わる人人の間では常識であり、「ありえない」「前代未聞の事故」と驚きをもって語られている。

 

 外国船籍が瀬戸内海に入るときは、入域する24時間前までに管轄する海上保安署に船舶保安情報を通報しなければならず、通航する海域によっては経験豊富なパイロット(水先人)を乗船させることが強制・任意のいずれかで求められている。大畠瀬戸は任意の海域であり、パイロットは乗船していなかったとみられている。

 

 また、入港する港には積み荷の受け入れ先となる代理店が存在し、この代理店が船側と連絡を取り合って航路などの情報を共有するのが常識とされている。橋や岩礁などの障害物の情報はすべて海図(最近は船に電子海図を搭載)に書き込まれており、航海ルートはその海図をもとに決めるため、パイロットがいなくても必要な情報をもとに計画が立てられていれば起こりようのない事故だった。代理店について、事故を調査する第六管区海上保安本部は「本人の同意が得られないため」として公表していない。

 

大島大橋に衝突した貨物船「エルナ・オルデンドルフ」(22日)

橋と接触したマストが折れて傾いている(同上)

「常識では考えられぬ事故」船舶関係者らは唖然

 

 長年、外国航路の機関長をしていた下関市在住の男性は、「大畠瀬戸を通過するのは、小さい船でなければ無理だ。海峡の幅も狭いし潮流も複雑。たまに船を見るような外海とは違って船の量も多い。関門海峡ならば5万㌧の船でも橋の高さを気にせずに通過できるが、低い橋の下を通るときは、満潮時に海面からマストまでの高さがどれくらいあるかを知っていれば通らないはずだ。もしパイロットが乗っていたら“この船では通過不可能”と指示するからこんな事故は起きない。きちんと海図を確認し、代理店からも情報の提供があったのなら、この船長は自分が乗っている船の高さを認識していなかったことになる。当たり前の手順を踏んでいれば起きない事故であり、偶然のものではなく、人為的なミスによる必然的な事故だ。船長と海運会社は責任を免れないだろう」と指摘した。

 

 さらに「大型船の場合は、むしろ船底のことが心配されるので瀬戸内海を通るときはパイロットを乗せるのが適切だ。海面からは見えない海底に砂が堆積した場所に行けば座礁する危険性がある。だから砂の溜まりやすい関門海峡では定期的に海底の砂を浚渫(しゅんせつ)する。目に見える頭上の橋にぶつかるというのは、通常では考えられない」

 

 「外国船籍で船長も機関長も乗組員も全員外国人であったなら、瀬戸内海の状況について認識はほとんどないだろう。日本人パイロットを乗せていなければいけないはずだったが、コスト削減などの理由でそれをやっていなかったことが考えられる。パイロットは、外国航路で10年以上船長をやって無事故だった人にしか資格が与えられない。外国で日本船が事故をすれば、ものすごい賠償金が課されるので慎重にやるが、日本の場合は規制が甘い。事故をしても航行禁止などにはならない。そのためコスト優先で安全は二の次がはびこり、事故が増えているのではないか」と語った。

 

 同じく大手商船会社で長年船長を務めた男性は、「映像を見る限り、事故を起こした貨物船は、荷をほとんど積んでおらず、バラスト(空船)に近い状態だったのではないか。水面から出る船の高さが満載時に比べると高くなっていたと思われる。それにしてもマストがぶつかるというのはありえない。基本情報となる海図には、水深は最低潮時、橋は最高潮時の高さが書かれており、それを見れば自船が航行可能かどうかは一目瞭然だ。とくに橋の下を通るときは緊張するもので、大畠瀬戸は狭く、時速10ノット(約19㌔)もの潮流があるため航行が非常に難しい。相当に急がなければいけない理由があったか、情報も確認せず近道をしようとしていたのではないか」と指摘した。

 

 また、「日本船籍の場合は船長や航海士は基本的に常雇いだ。四等~一等航海士を経て船長(1~3級)の免状までとってから、いろんな船の船長を任せられる。だが、フィリピンやインドネシアなど外国船籍の場合は、マンニング(船員配乗)業者が船員を手配することがよくある。日本でも20年前から船員の担い手が不足し、船長・機関長以外の船員を確保するために外国人を多く雇い入れている。人件費を抑える目的もあり、日本の海運会社が東南アジアに船員養成学校をつくって優秀な外国人船員を主力として雇用する大手もある」と指摘した。

 

 マンニング業者とは、船舶所有者のために船員を確保する人材派遣業者で、船舶所有者からのマンニング料と派遣した船員の人件費の差額を儲けとしているのが通例だ。船員の需給バランスを見ながら船員コストを恣意的に上下させて用船料価格を崩してきたことが指摘されてきた。また、コストのかかる常勤船員を減らし、マンニング業者に船員配乗を任せている船舶所有者が増えることで安全運航にとって必要な適正価格が崩れていることが問題視されてきた。わざわざパナマやマルタなど法規制の緩い国に船籍を置く大手海運会社ほどその傾向が顕著で、近年大型船の事故が多発していることも無関係ではないといわれる。

 

 元大型タンカー機関長の男性は、「折れているのはレーダーマストで、大きい船ほど(雑音が入りにくい)高いレーダーマストを搭載する。海図を見て、橋とマストの高さを認識していれば起こりようがない事故だ」とのべ、「日本の船舶免状はかなり厳正だが、途上国はその規制が緩い。船舶エンジニアをやっていたころ、自分以外全員外国人ということもあったが、分数の足し算や少数の計算もできない人もいて、仕事合間に算数を教えたりもした。一部ではエンジニアの免状の売買すらあり、そのようにして人件費を削って安全が二の次になっていることが問題だ」と指摘した。

 

 元一等航海士の男性は「海上交通安全法の規定を逸脱した言語道断の事故。海図さえ見ればわかるのに、船長が自分の船の高さを理解していないということだ。船長の責任は重たいが、まったく通ったことがない外国人に船長をやらせる海運会社、そのような会社に何百億円もの荷物を任せる荷主も考えなければいけない」と語った。

関連する記事

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterEmail this to someone

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。