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全額補償させたナホトカ号事件の例 

ナホトカ号の原油流出事故で、原油回収作業をおこなうボランティア(1997年)

 ドイツの海運会社が所有する貨物船「エルナ・オルデンドルフ」が山口県の大島大橋に衝突して広域水道の送水管を切断し、周防大島町はいまだに全島断水が続いている。この問題をめぐり、下関市の船舶関係者のなかで、1997年のナホトカ号事件の例をあげて、行政が難儀している住民を代表して損害賠償請求に動くべきだとする意見が上がっている。

 

 ナホトカ号事件とは次のようなものだった。

 

 ロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」(1万3157総㌧)は1997年1月2日、中国の上海で原油を満載しロシアのペドロパブロフスクまで航行する途中、島根県沖で暴風にあい、船体が真っ二つに折れ、船首は半没状態になった。そして周囲に原油をまき散らしながら漂流を続け、5日目に福井県三国町(現・坂井市)の海岸に漂着した。海上に流出した原油は6200㌔㍑以上にもなり、島根県から秋田県に至る一府八県の海岸がのべ1000㌔にわたって汚染され、漁業や観光業に大打撃を与えた。

 

 この漂流原油の回収には、一般の船舶や大学の練習船、自衛隊や海上保安庁の船など4700隻が投入されるとともに、のべ27万人をこえるボランティアが全国から集まり、海岸に漂着した原油をひしゃくとバケツで回収した。この回収作業は4カ月間にも及んだ。

 

 この原油回収作業や船の原油抜きとり作業、また漁業者や観光業者の損害・減収など、原油流出被害によるクレームは458件にのぼり、被害総額は358億円(漁業者50億円、観光業者28億円、地方自治体71億円など)にのぼった。民事責任条約によると、被害の発生から3年以内に訴訟を起こすことが必要なため、地元の漁業者や観光業者、地方自治体は1999年11月、ナホトカ号の船主ブリスコ・トラフィック・リミテッド(ロシア)と船主責任保険組合を相手どって、福井地裁に損害賠償請求訴訟を提起した。続いて翌12月、国(海上保安庁、防衛庁〈当時〉、国交省)および海上災害防止センターが、同じ相手に対する損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。

 

 裁判所の最終査定は261億円で、その後和解が成立。一次的には船舶所有者である海運会社が責任を負い、責任限度額をこえる場合、二次・三次的に石油業者への課税を原資として各国が拠出している基金から出すというとりきめによって、船主のブリスコが110億円を、基金が151億円を負担することになった。当時、油濁補償二条約による補償上限額は225億円だったが、それを上回る最終査定全額が補償された。

 

 今回の大島大橋の事故についてある関係者は、「今回のように外国船の事故で日本のインフラを傷つけた例を知らないが、何よりもありえない事故を起こし、それによって周防大島町民が困っている。毎日の水もなければ、農産物の出荷も滞っているという。国や県がただちに動いて支援体制をつくらねばならないし、事故を起こした相手にきちんと補償させる必要がある」とのべていた。

 

 別の関係者は、「日本には海の安全を守るために海難審判制度があり、海難事故が起こった場合、だれにどれだけの過失責任があるかを最初に判定する。その判決内容がその後の民事裁判や刑事裁判の基礎になる場合が多い。ところが外国船だと、海難審判にかけることができない」と現状の問題点を指摘した。

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