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裏技で漁業権剥奪謀る経産省 安岡沖洋上風力が突破口  “20年貸与”のインチキ

 準ゼネコンの前田建設工業が下関市安岡沖に巨大な洋上風力発電を建設しようとしている問題とかかわって、背後でネジを巻いている経済産業省やその下請機関にあたる山口県当局などが、極めてインチキな形で安岡の海を奪っていこうとしていることが問題になっている。地元安岡の漁師たちは組合員の九割の署名を携えて市長に反対表明を求めるなど、「同意」は成立していない。ところが山口県漁協幹部が20年間の海面使用に対して八億円を使用料として納めるという契約を結び、既に手付け金として1000万円を受けとっていた事実も発覚した。響灘では歴史的に海域の親分衆が砂とりを利権にしてきた結果、海底には巨大なクレーターがたくさんできて漁場が荒れ、90年代には垢田沖の人工島建設によってさらに環境は様変わりした。海の切り売りをくり返す漁協上層部への批判が高まっていると同時に、こうした漁業をないがしろにする政治と、風力によって住民生活を破壊していく政治の根っこは同じで、これとの対決が迫られていることが浮き彫りになっている。
 
 合意の実態なく無効明らか

 今回の洋上風力は全国でも前例がない規模のもので1基の出力が4000㌔㍗とされている。羽の動く直径であるロータ径は180㍍で唐戸のあるかぽーとにある観覧車(直径57㍍)の3倍にもなる。さらに海面から羽の先端までの高さが230㍍。海峡ゆめタワーの高さが143㍍なので、高さにしてその1・5倍、あるかぽーとにある観覧車の4倍という巨大なものである。
 これほど巨大な構造物を海底に設置するために、水深10~25㍍のところに洗掘防止用ブロックを幾段にも積み上げ、そこに直径5㍍以上のタワーを埋め込むには頑丈な基礎であることが要求される。風速60㍍の台風や激しい海流にも耐えなければならない。砂地に突き刺しただけというわけにはいかず、海底の岩盤に深く根をはるような大がかりな工事になることは疑いない。
 海底敷設工事などに詳しい関係者の説明によると、「それほど巨大なタワーを設置しようと思えば、岩盤に当たるまでパイルを打ち、その周辺をゴッソリ掘って表面にコンクリートをはり、ボルトで締めるのがもっともコストのかからない方法ではないか。しかしそれは埋め立てと同じことだ」といわれている。海底ケーブルを水深1㍍の深さで15基の風車から陸上の変電所まで敷設する作業も大変なものになる。
 1基につき約25~30平方㍍の海面を占有するとして、計15基で約350~450平方㍍の広大な海面が20年間にわたって占有される。ところが1基あたりの小さな面積であれば公有水面埋立法に定められた埋め立てにはあたらないといい、漁業権消滅など必要ないという「法解釈」によって進められている。浮き桟橋などの海面使用と同じ扱いで、しかも「20年経ったら元に戻すのだから漁業権消滅ではない」というのが経済産業省、山口県、事業者の前田建設、山口県漁協の共通の見解となっている。そして「埋め立てではない」から漁業者の3分の2同意(漁協総会の特別議決)に拘束されず、過半数の同意で手続きを進めることができるともいっている。
 都合の良い「法解釈」の合わせ技のようなもので、「(憲法解釈の)最高責任者は私だ!」の地元で率先して「解釈」を弄んでいる姿が暴露されている。

 できる訳ない恫喝 頓珍漢な損害賠償請求

 洋上風力が計画されている海域は安岡、伊崎、南風泊、彦島(海士郷)、吉見、吉母、六連の7つの浜が共同漁業権を持っている。昨年7月に漁業者に対しては総会で同意を求め、20年間海面を貸与することが「賛成多数」で可決されたというのが既成事実になっている。ところが、浜では組合員に自覚がないのも特徴だ。内容がわからないまま組合に印鑑の提出を求められたとか様様で、何のことかさっぱりわからないうちに「同意」したことになった。
 そして最近になって明らかになったのは、8億円の海面使用料に対する「手付け金」として下関外海共励会が1000万円を前田建設工業から受領していた事実だった。安岡の漁師たちが市長に陳情に行こうとするのに対して、海域のボスに出世した廣田氏(県漁協副組合長)が直接乗り込み、支店の責任者と共に「仮に風力が建たなかったら1000万円の2~3倍の違約金を求められて、前田に訴えられる!」「その場合、負担は組合員になる!」「環境調査にもカネはかかっているんだ。損害賠償を請求される」と大騒ぎして止めに入った。前田建設工業と関係を密にしている男が「前田に訴えられる!」と困ってみせるのも説得力がない話で、誰もが「仲良しのくせに何いってるんだ?」と感じたが、要するに計画は何も進んでいない現在の段階でコッソリ「手付け金」をもらっていたことだけははっきりした。
 この「手付け金」はいったい何のカネなのか?という疑問になっている。違約金を払わなければならないような契約を勝手に結んでいたなら、それは事情を知らされていない組合員に責任はなく、廣田氏をはじめとした海域の役員たちの責任問題に発展する以外にない。そもそも「風車が建たなければ手付け金の2~3倍の違約金を払わなければならない」契約など聞いたことがないもので、計画がご破算になったらなぜ漁師が損害賠償を請求されるのかも頓珍漢である。それが事実なら組合員に契約書を回覧するなり、説明責任を果たさなければならない。廣田氏が漁師を恫喝するために口走ったハッタリであるなら是正すれば良いだけであるが、組合員に負担を迫るという以上、どのような契約を結んだのか、関係した役員はどう責任をとるのかが問われることになる。

 明らかな漁業権侵害 占有海面15基で300㎡超

 それにしても嘘やハッタリ、飴と鞭、ずるい「解釈変更」のオンパレードである。まず第1に漁業者の同意については、既に効力を失っているといわなければならない。昨年とり付けたと主張している「同意」は、3000㌔㍗×20基を沖合500㍍の場所に設置するというものであった。今年に入って前田建設工業はさらに1・5㌔沖合に予定地をずらし、4000㌔㍗×15基に変更した。場所も規模も異なる計画の「同意」など通用するわけがなく、再度総会にはかって組合員に同意を求めなければならない。
 さらにずるいのは「1基ごとの計算では埋め立てにあたらない」「漁業権侵害にはならず貸与でOK」という解釈である。
 旗を振っているのが原発を所管している経済産業省で、祝島のような漁業権放棄を巡る攻防を避ける為、E難度に近い裏技を披露している。15基でのべ350~450平方㍍もの海面が20年間にわたって占有される状態について、浮き桟橋と同じ扱いをする事がいかにインチキであるかは言を俟たない。全国でも初めての事例で、下関での漁業権処理を実績にして、よそでも「漁業権消滅にはあたらない」と推進していく関係にほかならない。安岡における攻防は決して曖昧なまま開けて通せないものになっている。巨大風車が林立して海流を妨げたり、海底に巨大な基礎を築くだけでも漁業に大きな影響が出ることは必至である。漁業権侵害にあたることは明白で、漁師が操業を妨害する者について排除を求めて提訴するなら、これも全国初の司法判断が下されるような位置にある。
 山口県では祝島が漁業権を巡って粘り強くたたかってきた。経済産業省および中電、山口県当局は3分の2同意などとり付けていないのに、共同漁業権管理委員会の多数決で漁業権放棄が決まったように振る舞って、知事が公有水面埋立許可(本来なら関係漁協すべての同意が前提)まで出してしまった。ところが祝島が補償金を受けとらないことから漁業権が消滅したとはいえず、三分の二同意も得られないので埋め立てには着手できず今日まできている。祝島の経験を見ても国策はいつも嘘やずるい「法解釈」に彩られていた。
 安岡の場合、「貸与」を良しとする漁協幹部というのが、いかに安売りの専門家であるかも暴露している。漁業権を主張するのではなく、逆におとなしく協力しているから不思議な光景となっている。「“賄賂”を疑う人も多いが、それ以外に説明がつかないほど積極的な協力者になっている」といわれている。祝島では県漁協組合長の森友信(室津漁協出身、潜りの密漁専門家として知られる)が中電の下請になって海を売り飛ばし、響灘では副組合長が先頭に立ってゼネコンの準社員のように海を売り飛ばす。組合員の生活がどうなろうがお構いなしに突っ走る異常さについて、みなが怒りを口にしている。
 山口県の水産業を巡っては、信漁連問題が大きな影を落としてきた。90年代に桝田市太郎・黒井漁協組合長(マリンピア黒井社長、林派県議団長)や信漁連幹部が焦げ付かせた信漁連の203億円もの負債を解消するとして、その支援の見返りに上関原発の埋立同意や岩国基地拡張、下関沖合人工島の建設を容認するよう漁協側は迫られ抵抗力を削がれた経緯がある。自民党林派の悪事によって沿岸を奪い、漁師には出資金増資や負担金を覆い被せて信漁連の負債を尻拭いさせ、おまけに県一漁協合併で浜の扶助組織を剥奪して今日に至っている。民主主義が浜から奪われた、というのが漁業者の強い実感となっている。
 漁業権は沿岸開発や企業参入の障壁のように扱われ、震災後は宮城県を突破口にして「開放」していく流れが台頭している。しかし山口県は上関の例を見るまでもなく、早くから民間開放している。今後TPPに加われば、法律までアメリカ基準に染められ、「漁業権」などあってないようなものにもなりかねない。そうしたなかで、TPP体制に移行するよりも先んじて首相のお膝元から「開放」実践に励んでいる。
 信漁連問題に端を発した漁協組織の弱体化、水産業の苦境が仇になって、とりわけ崩壊著しい響灘海域が狙い撃ちにあっている。瀬戸内海の上関海域にせよ、響灘海域にせよ、山口県の沿岸漁業をつぶすことは一万人の漁民家族だけの問題ではない。市場の仲買、小売、料理屋や消費者、さらに水産加工業者、漁業資材、鉄工、造船などの業者をはじめ、水産関連で生活する人人にとっての重大な損失である。そして原発なり洋上風力は漁師だけの問題ではなく、山口県民、下関市民全体の住環境、経済活動、その生命や安全とかかわった抜き差しならない問題である。
 響灘のバーゲンセールに待ったをかける世論と行動を広げること、安岡の漁師たちの決起に呼応して豊浦町や豊北町、長門北浦の漁師たちが下から連帯行動を強めること、1000人デモをくり広げた住民たちとともに固く力を合わせて、さらに支持者、協力者を広げて盤石な運動を展開することが勝利の展望となっている。

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