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住民の抗議は刑事罰になるのか 安岡沖洋上風力巡る刑事裁判 住民3人が証言に立つ

10万人の署名賛同者が重大な関心寄せる

 

 下関市の安岡沖洋上風力発電建設をめぐり、前田建設工業(東京)が実施しようとした2014年9月14日の環境調査が妨害されたとして、反対する会の有光哲也氏ら3人の住民が「威力業務妨害」で刑事告訴されている。18日には有光氏ら3人の住民の証人尋問が山口市の山口地方裁判所1号法廷であり、安岡・横野・川中地区住民ら約20人が傍聴に詰めかけた。この刑事裁判は、安岡地区の住民が生活を守るためにおこなった抗議行動は正当な行為であるか、それとも違法かを争点にするもので、全国的な意義を持つものとして注目されている。

 

 安岡沖洋上風力をめぐっては現在3つの裁判が進行中である。この刑事裁判は次のような経過のなかで起こされた。

 

 前田建設工業が安岡沖に持ち込んだ全国最大規模の洋上風力発電建設計画に対して、2014年の年頭から、自治会や医師会、商工会、宅建協会などが市長へ反対の陳情に行き、9月には初の1000人デモ行進がおこなわれ、山口県漁協下関ひびき支店の漁師たちが組合員の9割以上の署名・捺印を持って市長へ反対陳情に行くなど、運動は全市的に大きな盛り上がりを見せた。これに対して前田建設工業は2015年4月になって、前年9月の調査が妨害されたといって裁判所に「威力業務妨害」「器物損壊」の被害届けを出し、これを受けて山口県警が住民4人に対し早朝の家宅捜索や尋問をおこなった。

 

 その後、前田建設工業は同年10月、住民4人に対して1000万円以上の損害賠償を請求する民事訴訟を起こした。それは訴えられた住民側にとっては恫喝的な意味あいを持つものとなった。一方、検察もうち3人の刑事告訴を決め、今年3月には刑事裁判の初公判が開かれ、その後前田建設工業下関プロジェクト準備室の3人の社員の証人尋問がおこなわれて、この日の被告人尋問を迎えた。

 

 検察の起訴状の趣旨は「住民3人は共謀して、前田建設工業が横野町に設置した測定機器をトラックの荷台に積み込み、安岡本町の同社従業員宿舎前に運んで環境調査をできなくさせた。これは威力業務妨害罪に当たる」というもの。これに対して住民側弁護士は無罪を主張している。民事訴訟では前田建設工業は調査地点10カ所すべての測定機器の損害賠償を請求しているが、検察はそのうち9カ所は証拠不十分として、1カ所(横野地区・損害賠償請求金額17万円)のみを起訴対象とした。

 

 この日、最初に証人尋問に立った有光氏は、風力発電に反対する理由を次のようにのべた。

 

 「風力発電は現時点ではほとんど役に立たない発電装置だ。それは第一に、今日のように日本全体を高気圧が覆った風のない状態では、全国に何基建てても発電はできないし、原発や火力を1基も減らせない。第二に、風力発電は風速10㍍以上で定格出力となるが、風はいつ吹いていつ止むかはわからないので、バックアップとしての火力発電を止めることはできない。第三に、風力発電の発電量は風速の三乗に比例して変わり、電圧がそれだけ変動する。前田建設は風力ができれば下関で使う電気の3分の1をまかなうといっているが、もしそうすれば、電圧の変動で下関の電化製品は壊れるか使えないかのどちらかになってしまう」

 

 「風力発電は一般騒音を出し、うるさくて夜は眠れない。また、安岡の風車は1基が下関の海峡ゆめタワーより高く、住宅地から1・5㌔のところに15基建てば景観が悪くなる。さらに低周波の健康被害の問題がある。医師たちの話では、風車の回転による低周波の振動が三半規管のリンパ液を揺らし、船酔いのような状態になる。私は現役時代、工場のなかで機械的に低周波を発生させ、それを防ぐ装置をつくる研究をしてきたが、80以下で吐き気がし、心臓が圧迫されて止まるような感じを受けた経験がある。今全国各地の風力発電のそばで同様の症状を発症している人たちがいる。低周波ははるかかなたまで届くし、二重サッシにしても、コンクリートブロックで覆っても防ぐことはできない。5㌔から10㌔以上離れたところまで影響が出る」

 

 検事は有光氏に「署名を集めたり届け出をしてデモ行進をするなど、反対運動自体は問題ない。しかしそれをこえて測定機器を実力で撤去することは違法である。法的な手段で解決するという方法をなぜとらなかったのか?」「前田建設は“データをとって住民に説明するために調査する”といっているのだから、なぜそれを待とうとしなかったのか」と質問した。

 

 有光氏は、「調査をさせないことは違法だと思っていない。環境アセス自体、金もうけをしようとする事業者が、自分で調査し、自分で結論を出すのであって、音はいくらでもごまかせるし、それを待っていれば風車は建ってしまう。前田建設は、各地で風車による健康被害を発症している人たちがなぜそうなっているのか、安岡はなぜ大丈夫なのか、丁寧に説明すべきだったが、そうしてこなかった。環境アセスに対する県知事意見で“住民の理解を得て”という部分があるのに、前田建設はなぜ調査をごり押しするのか。この調査の時点で、安岡新町自治会は環境調査拒否を通知していたし、安岡自治連合会は1万5000人の全住民にアンケートをとり、風力反対決議をあげていた。前田建設のやり方が違法だと思っている。あの日集まった数十人の住民の行動は正当な行為だと思っている」とのべた。

 

 また、「前田建設が評価書(準備書が経産大臣の勧告を受けた後、工事着工のために出す文書)を出せていないのは、裁判をやっているからというより、漁業権の問題が解決していないからだ。祝島のおばちゃんたちがバリケードを築き、身体をはって原発を阻止しているが、ああいった住民の力でないと阻止できない。測定機器については、壊したり手荒な持ち運びはしておらず、丁寧に返しただけだ」とのべた。

 

 有光氏は最後に、「安岡に行けば、風力反対の旗が至るところに立っているし、横野地区やその他の地区の人たちは暑い日も寒い日も、毎月朝と夕方の1時間、風力反対のアピール行動を続けている。市長も風力に反対している。早くこの計画を断念して、地域の人が安心して暮らせるようにしてほしい」とのべた。

 

被害こうむるのは住民 風力NOの意志示す

 

 次に証人尋問に立った男性は、風力発電に反対する理由を問われ、「一番は低周波による健康被害の問題だ。自分には小さい子どもが3人おり、昨年安岡に家を建てた。風力計画が出て迷ったが…。病院の医師たちの話を聞いて、風車が回ることで頭痛やめまい、不眠が起こることがわかり、子どもたちがそういう状態になるのはどうしても避けたいと思った。前田建設の説明も聞いたが、“大丈夫”というだけで、納得できる説明はなかった」とのべた。

 

 検事が「署名やデモは問題ないが、それをこえて自分たちの力で撤去したことは悪かったと思っていないか?」と聞くと、男性は「まったく思っていません」とのべ、「風力反対署名は10万をこえている。毎月第1土曜日の街頭活動もずっと続けて、参加者は1万人をこえた。最近、前田市長が“風力は絶対に推進すべきでない”といったが、それもこのようにみんなが地道に反対を続け、市長にも県にも国にもずっといい続けてきた結果だと思う。この活動は前田建設に東京へ帰ってもらうまでずっと続ける。そういう思いの人が10万人いるということを前田建設はよく理解して、下関から出て行ってほしい」とのべた。

 

 最後に証人尋問に立った男性は、風力発電に反対する理由について、「風力の健康被害について聞き、妻や3人の子どもに何かあってはいけないと調べてみると、ウィンドタービン・シンドローム(風車症候群)が国内外で報告されており、世界で研究中であることがわかった」「不動産関係の仕事をしているが、各不動産会社にアンケートをとると、安岡の風力計画が持ち上がって土地の契約がダメになったり、建築契約を解約した例が出ていることがわかり、宅建協会が反対声明を出した。風車の健康被害に対する不安から、地価が下がり、住む人が減り、地域が衰退していくと思った」とのべた。

 

 検事が「署名やデモはいい。しかし測定機器の撤去は、ちょっとやりすぎたかなという気持ちはまったくないか?」と問うと、男性は「ありません」と答えた。そして「前田建設の業務が正当なものとは思えない。前田建設は(裁判所の証人尋問のなかで)“それなりの罰を受けてほしい”といっているが、本当に迷惑を被っているのは住民の方だ。企業の金もうけのために、なぜわれわれの人生がメチャクチャにされないといけないのか。健康被害についての住民の不安を解決しないまま、測定機器をロッカーに入れてどんどん堅固にして調査を強引にやっていくし、住民を告訴することまでやっている。各団体の反対陳情や安岡自治連合会の決議、市議会決議、10万人署名にあらわれているように、地元の意志はノーだ。それを無視して強引に進めることに対する抗議活動は、住民側の正当防衛だと思っている」とのべた。

 

 これで証人尋問が終わり、井町憲治裁判長は8月29日午前11時から、論告求刑・最終弁論をおこなうと宣言した。裁判所は、弁護人の「今回の調査は地元の理解を得ないまま違法、不当に強行された」「前田建設が刑事告訴や民事訴訟の提起を狙ったもの」「測定機器の撤去は、憲法21条(表現の自由)で認められた正当な住民運動である」との主張を踏まえてもなお、威力業務妨害罪が成立するか否かが争点だとしている。今後の裁判所の判断を全国が注目している。

 

 なお、住民4人に1000万円以上の損害賠償を請求した民事訴訟の一審判決(4月17日)は、住民に約524万円の支払いを命じる不当判決となり、住民側が広島高裁に控訴している。山口県漁協下関ひびき支店の3人の漁業者が工事差し止めを求めた裁判は、今月31日午後1時30分に弁論終結、判決期日決定となる。裁判を支える運動と支援の輪をよりいっそう広げることが求められている。

 

写真で振り返る5年間の記録

 

下関駅前での初の1000人デモ(2015年9月)

毎月第1土曜に継続している街頭活動。4人の家宅捜索直後には最大の人数に(2015年5月)

風力発電について学ぶ講演会はそのたびに参加者が溢れる(2014年6月)

三重県の医師・武田恵世氏の風力発電についての講演会に詰めかけた500人近い聴衆(2014年6月、下関市)

10万人突破を目指して取り組んだ署名活動(豊北町、2016年4月)

 

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