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山口県はまるで私物化争い 解散総選挙めぐる県内選挙区の情勢

 10月22日の投開票に向けて、解散総選挙を巡る動きが連日のように報道されている。各選挙区では突然候補者が「希望の党」に鞍替えしたり、「野党共闘」が崩れたり、あるいは候補者が定まらないなど、直前になって大騒動しているところも少なくない。このなかで、「保守王国」などといわれてきた山口県はどうなっているのか、各選挙区の現時点での情勢を記者座談会で論議した。

 

天下国家などどこ吹く風 「敵なし」で自民党内は抗争 


  この解散総選挙の争点は何か、どう迎え撃つのかは前回の記者座談会で論点整理してみた。今回は山口県内の各選挙区の状況を具体的に分析してみたい。山口県では山口市や防府市、周南市などを地盤にした1区を高村正彦(自民党副総裁)、岩国市から柳井市、光市、周防大島町、熊毛郡(田布施町、平生町、上関町)などにかけた岸・佐藤の地盤でもある2区を岸信夫(安倍晋三の実弟)、萩市、美祢市、宇部市、山陽小野田市にまたがる3区を河村建夫、下関市と長門市を含む4区を安倍晋三(首相)が地盤にしてきた。2000年代に2区で民主党候補が佐藤信二(佐藤栄作の息子)を叩き落として風穴を開けたことがあったが、その後は自民党が勝ち続けている。全国から見ると、「山口県民はどうなっているのか?」という疑問もあるようだ。

 

高村正彦(1区)

  まず今回の解散総選挙では1区で変化があった。高村正彦が直前になって引退表明し、息子の正大(まさひろ)に地盤を譲ることになった。3代目への世襲だ。引退する理由について、「病気でもう長くないのだ」と後援会の人人は健康面を挙げている。ただ、直前まで本人は出馬するつもりでポスターも準備していたとかで、事務所は大慌てになっているようだ。もともと、年内に解散すれば正彦、年明けなら正大に代わるといわれていた。それで、最近は周南市議会元議長の兼重がその息子を連れて挨拶回りをしていることが話題になっていた。


  ただ、息子の評判がある意味凄い。市議会議員クラスまでが周知の事実なのだそうだが、これらがブツブツ言っているところによると、酒を飲んだ後のあんなことやこんなこととか、家庭内での女性への振る舞いを巡る問題について、「当選したとして週刊誌の餌食になって終わるのでは…」「身体検査をしなくていいのか?」という意見も少なくない。自民党関係者自身が不安がって心配している。父親の正彦(末永法律事務所所属)とか、それを支えてきた県弁護士会のボスである末永汎本(元東京地検特捜部、元山口県公安委員長)、徳機製作所の岡田幹矢(後援会長)、遠石八幡宮の黒神公直であるとか、ボス連中が「正大でいく」といっても反発が強い。支持者たちも頭を抱えているのが実態だ。


  はっきり言ってしまうと「酒乱でDV(家庭内暴力)」という言葉が標語みたいに飛び交っている現実がある。あっちでもこっちでもその話ばかりで、こちらがうんざりするくらいだ。これが敵陣営や野党から流されているなら新聞社としては悪質なデマだと判断もできる。しかし、仲間内というか1区の自民党員や議員が、選挙のはるか前から悩ましい顔をして吐露していた話だ。仮にデマであるなら高村陣営は全力で「事実と異なる!」と方方で説明して回らないといけない。そして、悪口を言っている自民党員や自分の支持者を洗い出して、なぜそのような評判を流布しているのか考えないといけない。事実でないのに「酒乱でDV」などと風評が立てられるなど、通常であれば我慢ならないものだ。仲間内から選挙妨害を仕掛けられている可能性を疑わなければならないような話だ。少なくとも公人になる以上、払拭しなければならない問題を含んでいる。


  「高村正彦の支援者がそのように人物評価している」というのは事実なのだから、今後の後援会の組織運営にもかかわってくる問題として対応するのが当たり前だろう。もし取材意欲のある週刊誌がいるなら、ぜひ東京で話をあててもらいたいものだ。たかだか高村の息子のために本紙が東京まで深追いする余裕はない。それで「そのような事実はありませんよ」ということであれば、「DV」の汚名は晴れる。事実なら公職にふさわしい男なのか否か、有権者が下す判断材料の一つになる。それだけのことだ。基本的に、息子がどっちを向くかなど知ったことかと思うわけだが、こんな話ばかりが飛び交っていること自体、選挙を貶めているのではないかと腹立たしいものがある。


  天下国家の行方を論じなければならないはずの国会議員選挙で、なにが「息子」かと思う。選挙の中心争点とずれたところで過熱している印象だ。あと、1区において自民党内が一筋縄ではないことをあらわしている。解散総選挙の一週間後に投開票を迎える山口市長選では、現職の渡辺と高村グループが対立している。前回の市長選からもめていることは知られていたが、今回渡辺の対抗馬として出てきたのが高村事務所秘書の兄弟(市議)だ。1年半後に予定されている周南市長選にも現職の木村を退かせて、高村事務所元秘書の県議を擁立するという噂が立っている。正大の同世代で脇を固めていく布陣なのだと話題だ。こうして1区を高村グループが総なめにしていく勢いだ。これに対して、高村直系でない自民党関係者との矛盾がある。そんな事情を知っているのか知らないのか、林芳正(文科相、参議院議員)が3区をあきらめて1区からの出馬にも手を挙げていたという。

 

河村建夫(3区)

  3区は前前から林芳正河村建夫のバトルが続いている。元は河村建夫が地盤にしている選挙区なのだが、万年参議院議員で芽の出ない林芳正が、4区で安倍派と対抗する度胸はないまま衆議院への鞍替えをしたがっている。大臣ポストに就くことはできるが、参議院では首相になれない。つまりあの男にとって、首相を目指すために衆議院議員になることが悲願なのだ。以前、佐藤信二が落選した後の2区からの出馬に色気を見せたことがあった。しかし、最終的に日和って尻込みしたために芽がなくなった。そうこうするうちに民主党政府が裏切っていく過程で平岡秀夫(2区選出の民主党議員)が落選し、2区は岸信夫に握られ、鞍替えは先を越された。その後、林事務所は郷土の下関よりも宇部市や萩市といった3区に力を割き始め、萩市では河村建夫事務所の目の前に事務所を開設したり、相当に挑戦的な国盗りゲームを仕掛けてきた。今回も自民党県連のなかでは県議たちが「林さんを候補に!」と主張していたが、自民党本部は河村を推した。最終的には林芳正みずからが手を引っ込めたのだといわれている。

 

岸信夫(2区)

  3区も河村建夫が自分の息子に継がせたがっていると以前から語られていた。萩市では直近の市長選で林派の新人が当選したりもした。「河村息子を参議院に回して、3区を林芳正に与えたらどうか」という話も飛び交っているが、どうなるものかわかったものではない。河村からすると、「どうして林派の地盤である4区を避けて、隣のうちに踏み込んでくるんだよ!」という思いだろうが、林派は安倍派との全面対決を恐れて河村打倒に必死になっている。おかしな話だが、そこに性根が出ている。安倍自民党のもとではいつまで経っても衆議院ポストを分けてもらえず、林は貧乏くじばかり引いている。林派には惨めな雰囲気が漂っている。中選挙区から小選挙区に切り替わる過程で、林義郎が比例に回ったばっかりに居場所を失った。

 

揺らぐ首相の集票基盤     全国注目の山口4区

 

 

  最大の関心は首相お膝元の4区だろう。過去の選挙を振り返ると、投開票の集計も始まらない午後8時段階で当確が出るような選挙をくり返してきた。しかし、選挙の度に得票を減らしてきたのが安倍陣営だ。前回選挙では前前回選挙よりも1万8000票以上減らした。今回はそれ以上に減らすのではないか? と大話題になっている。選挙構図としては「敵なし」というか対抗勢力がいないに等しい状態だ。「民進党」から「希望の党」に鞍替えした候補者と日共候補者の乱立で、もともと選挙運動も準備も何もしていないポッと出が相手だ。従って、当選することは疑いなしとみられている。ただ、モリ&カケなどについて激怒している支援者も少なくない。自宅に挨拶に来た秘書に「今度はやらない」と断言している人も出てきている。


 E 安倍事務所の現役秘書だけでなく引退した秘書たちも含めて必死に歩き回っている。そこに昭恵も出没して、モリ&カケの言い訳をしている。企業にどっさり後援会名簿の資料を持ってきて、前回名簿の支持者に連絡しろと号令をかけている。「敵なし」に見えるが、これまでになく必死になっている印象だ。そうなる根拠があるからだ。地盤の下関でどうかというと、この春の市長選で珍しく林派と安倍派が全面対決をくり広げた。「代理戦争」などといわれていたが、最終的には安倍派には首相本人や昭恵が直接参戦して、本人の戦いになっていた。その結果、安倍事務所の秘書をしていた前田晋太郎が市長選に辛勝し、林派の現職市長を叩き潰した。まず第一に林派とのシコリが癒えていないなかでの選挙ということになる。林派も実利派なので、その後文部科学大臣のポストをあてがわれて手打ちしたと見なす人もいる。しかし、支援者の感情はスッキリしないし面白くない。「安倍派だけでやれや」と投げている人もいる。明らかにはぶてている。


  市長選でご開帳となった双方の支持基盤は、公明党のプラスアルファを引いたら互いに4万票程度であることが浮き彫りになった。従って、林派の対応如何によっては大崩れしかねないのが現実だ。盆に安倍晋三が帰省した際、創価学会下関支部の偉いさんのところへ真っ先に挨拶回りしていたことから、「これは衆院選が近いぞ」と話題になっていた。市長選のシコリを整理しに行ったのだと。某保育園の園長なのだが、下関の創価学会の会合等では上座に座るような人物だ。学会ボスと目されているTとは別だ。公明党・創価学会の1万8000票がなければ下関では林派に勝つこともできない。「選挙区で圧倒している安倍晋三」といわれているが、よくよく得票を分析したら見えてくるものがある。10万票の内訳は安倍派4万+林派4万+公明党1万8000+連合安倍派+宗教関係+アルファででき上がっている。中選挙区時代に林義郎や安倍晋太郎が叩き出していた得票からすると、いかに支持基盤が崩壊しているかがわかる。これらの組織票も確実にみな入っているわけではない。


  市長選では自民党同士で仲違いしたが、安倍派と林派は相互依存によって支配的地位を保ってきた関係だ。林派でいえば山口合同ガスとかサンデン交通、大津屋をはじめとしたファミリー企業を抱え、これがフル稼働すると選挙では一定の得票が動く。しかし、市長ポストを強引にもぎ取られ、なおかつ林芳正は生殺し状態にされて面白くない。このあたりの事情がどう反映するのかも見所だ。林芳正がどうなろうが知ったことではないが、このまま林派が安倍応援で走り回り始めたら「本当にへっぴり腰な連中だ」と笑う有権者も多いだろう。


  あと、他の選挙区と異なるのは、歴史的に連合とか自治労をはじめとした労働組合が安倍・林に隷属していることだろう。三菱、神戸製鋼、サンデンなどみな労使一体型で連合安倍派・林派が形成されている。こうした隠れ安倍派が連合内部から自民党と協力関係を結んで暗躍する。そして、市政与党の日共が言い訳程度に候補者を立てて消化試合をお膳立てしてきた。前回衆議院選では市議選に落選した男を候補者に担いでいたくらいだ。民主党といっても「民主党安倍派」などと呼称される始末で、安倍事務所や林事務所に頭が上がらないことをみんなが知っている。要するに飼い慣らされているわけだ。国会よりも一歩先を行く総翼賛体制ができあがっている。
 従って、有権者としてはどうこの翼賛体制を乗り越えていくかが課題になる。批判票の受け皿として民主党という選択をしてきた人も多いが、それが「希望の党」になって、「どうしたものか…」とみなが考えている。投票行動としては限られるなかで、どう懲らしめるかという意識が動いている。

 

最も恐いのは有権者の審判       野党頼みの「保守王国」

 

  今回、2区以外では「民進党から希望の党」という形で自民現職に対抗馬が出るが、まるで選挙の準備もないまま落下傘のように降りてきただけだ。日頃からの政治運動の蓄積や選挙区での活動があればまだしも、何の存在感もなく「1カ月選挙」みたいなことばかりしている。有権者にとっては「あの人、誰?」な状態で、当たり前に見て勝てる選挙ではないのが特徴だ。相当な風が吹いて押し上げられなければ、候補者や陣営だけの力では自民現職を上回る得票にはならない。


  この野党の側のいい加減さや限界性を有権者の多くが感じている。下関だけでなく山口県の全選挙区で勝つ気がない。正直言うと、自民党支配のもとに安住して飯を食っている連中ばかりなのだ。そして市民運動が盛り上がれば、「日共」議員などは運動潰しを使命感のようにしており、「我が党が」をやって一般人の嫌気を誘って自民党を喜ばせる。この野党のインチキが「保守王国」を担保しているともいえる。「こうなったら反自民という思いだけで他に入れるか」「棄権はしたくないので白票を入れるか」と悩んでいる有権者も見かける。ほんとうに持って行き場がない。


  1区から4区まで自民現職に対してほぼ「敵なし」といっていいほど有力な対抗勢力が存在しない。そのなかで、「息子騒ぎ」「国盗り」「安倍林」とかの自民党内部のもめ事ばかりが盛り上がっている。選挙である以上、国政を論じて政策を争うべきなのに舐めきっている。「オレが衆議院議員になりたい」「オレの選挙区」といって、自分のポストを守り、世襲を守るために必死なのだ。まさに私物化といっていい。この「保守王国」で育まれた私物化体質がモリ&カケだろうに…と思っている人も少なくない。山口県で当たり前の感覚でやっていることを国政に持ち込んだものだから、官僚たちも驚いているのだろう。


  この選挙は野党殲滅のための仕組まれた選挙であるといっていい。安倍自民党と小池新党で議席を総なめにして、この二大保守政党が大連立することもあり得る。公明党も維新もそこに合流して、みんなで改憲と増税、戦争の道に踏み込んでいく体制だ。民進党は小池新党にカネも組織も差し出しながらふるいにかけられ、見られたザマではない。解党を打ち出す前原に対して、議員総会で一言の反論も出ないというのも異常だ。あっけなく21年の歴史に終止符が打たれた。それは対米従属に従って与党ポストさえ得られればよしとする政党の哀れな末路でもある。こんなものが殲滅するなら、どうぞ勝手にしておくれと思う。中途半端に国民を欺瞞するよりもスッキリしてよい。いまや野党は国民自身そのものなのだという状況を自覚して、新しい政治運動をつくっていくほかない。議員や政党頼みでは世の中は変わらない。大衆的な行動によって突き上げていくしかない。


  山口県では「敵なし」の選挙構図があからさまだが、このなかでどうしようもないわけではない。自民現職に厳しい審判を下すことが第一に優先される。野党がボロであるか否かに関係ない。野党はいつでもボロばかりだ。「敵なし」なのに自民党が必死になっているのを見ないといけない。そんなボロ野党に脅かされるほど、実は有権者の審判を恐れている。一選挙区でも「保守王国」の牙城を崩せば面白いことになる。「国盗り」とか「息子」などといっておれなくなる。

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この記事へのコメント

  1. まるーべり says:

    山口県の衆議院議員選挙情勢の勉強になります。

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