いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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下関市・安岡沖洋上風力 国策との全面対決の様相

 東京のゼネコン準大手・前田建設工業が下関市の安岡沖に持ち込んだ国内最大規模の洋上風力発電建設計画に対して、今年1年、住民各層が結束して立ち上がって大きな運動に発展している。反対署名は7万3000人をこえ、9月には1200人もの大デモ行進がおこなわれ、その後も継続して運動が続けられている。しかし、前田建設工業は建設をあきらめようとはしない。この一年をふり返り、運動発展の教訓と、国策として持ち込まれている洋上風力発電を最終的に頓挫させる展望はどこにあるのかを探ってみたい。
 
 全市・全県で住民の力結集へ

 下関市横野町の国道191号線沿いで20日、「安岡(横野)沖洋上風力発電建設に反対する会」による、風力発電建設反対のアピール行動がおこなわれた。3度目のとりくみとなった今回の行動は、午前中は冷たい雨の降りしきるなかとなったが、参加者は主催者の予想をはるかにこえた。来年3月頃には前田建設工業からの準備書の提出も予想され、「前田建設もそう簡単には引き下がらない。計画をやめるというまで毎月行動を続ける」と意気込みが語られた。
 毎回参加しているという50代の男性は、「住民みんなで、目に見える形での反対行動を重視してやっていきたい。初めはお年寄りのなかに“風力発電の何が悪いの?”という人が多かったが、みんな風力発電が建つといいことはないとわかってきたので、反対行動にも気合いが入っている」と語った。60代の男性は「豊浦町にも洋上風力の建設計画がある。響灘は狙われていると思う。安岡で建設を許してしまえば、たて続けに建設されてしまう。今日も他の地域からの参加があったが、安岡中、下関全体に反対の世論を広めていきたい」と力強く語った。
 横野の会の役員の男性も、「ずっと前から、他の町内の風力発電に反対している人たちも一緒になって行動を起こしていけたらいいと思っていた。安岡全体、長安線や綾羅木の方まで大勢でやるとすごく効果があると思う」と期待をのべた。
 参加者はカッパに長靴、「風力反対」のはちまきといういでたちで、プラカードや幟、横断幕や大漁旗などを使って、通行する市民に強固な風力反対の意志表示をした。信号待ちの車の窓を開け声をかける人、クラクションを鳴らす人、手を振る人等アピールに応える通行人の姿も目立った。
 地域をこえた今後の反対世論の広がりを確信し、来年からいっそう活動を広げていく気合いに満ちた行動となった。

 住民の団結が最大の力

 前田建設工業が計画を発表したのは1昨年10月だった。水面下では5年前の2009年から風況調査やボーリング調査をおこない、そのさい県漁協幹部や連合自治会とも接触していたがそのことは内密にされていた。それが昨年4月と6月の住民説明会で表面化し、安岡連合自治会の動きが鈍かったために、地元の住民有志によって反対の会が立ち上げられ、署名運動が開始された。
 今年に入り、署名運動が爆発的に進み始める牽引役になったのは、地元の医師たちだった。全国の風力発電立地点で住民が吐き気や頭痛、不眠を訴えているにもかかわらず、医学的・科学的な解明はされず、低周波に規制基準はもうけられていない。それを逆手にとって、企業側が再生可能エネルギー・ビジネスに突き進む構図になってきた。彼らにとっては解明しない方が都合がいいのだ。しかし医師たちの熱心な訴えで風力発電がもたらす低周波音の影響が広く暴露され、住民が立ち上がっていった。低周波について工学系の知識人も発言を始め、それを掲載した本紙を下関市民の会が「学者は語る」「医師は語る」というチラシにして配ると、たちまち全市的な反響を呼んだ。
 ある医師は「患者さんが健康になって退院するさい、本人や家族からお礼をいわれるときが一番の喜び。地域住民に被害を与えながら、自分だけよければいいという社会的責任のない企業には出ていってもらいたい」と語っていた。経済的利害としても譲れないが、それ以上に住民の健康と生命を預かる医師としての社会的使命から休みも返上して精力的に行動していった。
 2月には安岡・綾羅木・吉見の5つの医療機関と反対する会が、3万2000筆の署名を添えて市議会に風力反対の請願を提出。3月議会は全会一致でこの請願を可決した。来年1月に市議選が迫るなか、議会としても高まる市民世論を無視できず、市民の運動が議会を縛ることになった。
 3月に安岡、4月に川中で開かれた住民集会は熱気にあふれた。6月、三重県の医師・武田恵世氏を招いた風力発電の講演会には会場に入りきれない人があふれ、650人の初めてのデモ行進へと発展していった。
 この時期、火花を散らした攻防として住民の注目を集めたのが、安岡連合自治会の住民アンケートをめぐる問題だった。3月から4月にかけて、同連合会は風力に賛成か反対かを問う住民アンケートを実施。安岡地区の5293世帯を対象に実施した結果、回収率は73%で、賛成257、反対2802、どちらともいえない803となり、圧倒的多数が反対という住民の意志が示された。
 ところが、「アンケートの中身を精査しなくてはならない」(香川副会長)といって結果を公表せず、「前田建設の環境調査が終わり、その報告を待ってから態度を決める。それまでは行動を控えたい」(谷口会長)と、数千人にもおよぶ住民の意志を一手に握ってそれを隠したいという行動が、同連合会を主導する一部の人たちのなかからあらわれた。また住民には知らせないが、環境部と前田建設にだけは結果が報告されていたこと、香川氏の手から前田建設にアンケート(住所・氏名を含む)が渡り、全部コピーされていたことも明らかになった。
 さらに連合会は6月の会議で、アンケートにあらわされた住民の意志とは別に、31人の自治会長に改めて賛否を表明する決議書を上げさせることを決めた。その後の過程では、富任町自治会(森下自治会長)が、「4月のアンケートは未回収が多く、判断材料にならない」として、前田建設を招いた説明会の後にその会場で改めてアンケートをとった。会場に来た住民のなかでは反対が多かったが、同自治会に寄せられた委任状を役員判断で「すべて賛成にする」と決め「賛成が過半数になったので富任町自治会は賛成」というインチキがやられた。
 建設予定地を抱える安岡連合自治会の態度は、「地元同意」とかかわった意味合いを持つ。この時期、推進勢力は「反対する自治会は3つにすぎない」といったが、それはどんな手段を使っても地元同意を得たい背後勢力の動きをうかがわせた。
 しかしこれに対して、本紙も3度にわたって号外を配布し、どんな事態が進んでいるのか事実を安岡地区の全住民に知らせていった。各地でアンケート問題が大話題となり、住民がそれぞれの自治会長に「アンケートはみんな反対なのに、なぜ反対がいえないのか」と問いただす行動が起こっていった。富任町自治会では、住民有志が「アンケートの再実施を求める署名」を作成し、1日の仕事を終えてから1軒1軒訴えて回った。
 その結果、自治会長の決議書は反対29、賛成2となり、圧倒的多数で安岡連合自治会は風力発電反対を決議。下関市と前田建設に反対の申し入れをおこなった。自治会長のなかでは、「最初、自治会として市長に反対の陳情に行こうとしたとき、連合会執行部は“大変なことになる”“覚悟がいる”といった。だが住民の意志を代表するのが自治会長だ」「私たちは住民の風力反対の強い意志を付託されて、はっきりと意見がいえるようになった。もっと結束して堂堂とした行動を起こしていきたい」と語られた。住民がバラバラなら弱いが、一つに結びついた行動になるなら連合自治会を突き動かし、勝手な暴走などさせない力になることが、みなの確信になった。民意を否定して一部幹部だけとり込んでいく推進勢力の工作活動は粉砕された。

 相互に激励し次次決起

 環境調査について前田建設は「住民に説明するための調査をするだけ」とごまかしたものの、事業者が建設にお墨付きをもらう儀式にすぎず、「影響はない」と結論づけて着工に持っていくに違いないことは、多くの専門家が指摘している。住民たちは「住民が建設を認めていないのだからアセスも必要ない」として、春と夏の調査を阻止する行動を起こした。
 前田建設は8月末、夕暮れ時の夜陰に乗じてこっそりと夏の調査を実施しようとしたが、それを見つけた住民40~50人が急きょ集合して抗議。夜中2時までかけて安岡・綾羅木・吉見・垢田の11カ所で調査を中止させ、測定機器を持ち帰らせた。九月にも前田建設が再度実施を試みたが、今度は80人の住民が集まり、測定機器を落とし物として前田建設に返し、再度中止させた。
 それに励まされ、風車建設予定地に漁業権を持ち、生活の糧を得ている漁師たちが立ち上がった。9月、安岡の漁師たちはひびき支店の正組合員のうち9割にあたる42人の署名・捺印を添え、中尾市長に対して風力反対の陳情書を提出した。
 当初漁師の同意をとりつけたやり方も、だましの手口だった。昨年7月、ひびき支店の総会で「風車のために20年間海を貸す」「20年後は元通りにするのだから、埋め立てと違い漁業権の喪失にならない」といい、「もし反対すれば人工島2期工事の補償金はもらえず、他の漁協から孤立する」と脅して、詐欺にかけるようなやり方で「3分の2同意」をとりつけた。しかし、そのインチキが暴露され、陸(おか)の運動にも励まされながら、若手を中心に行動に立ち上がっていった。その過程では、県漁協副組合長の廣田氏ら幹部が、前田建設から手付金の1000万円を勝手に受けとっていたことも発覚し、こうした県漁協幹部の圧力を蹴っての行動となった。安岡の漁師たちの決起は、同じ響灘沖で操業する近隣の漁師たちを激励した。
 同時期、建設予定地から一番近い横野町の住民が「反対する会・横野町」を立ち上げ、120人で決起集会を開催。「今立ち上がらなければ先祖にも申し訳なく、子子孫孫まで迷惑をかけることになる」と決意が語られ、地域ぐるみの会として、組織的な活動を開始した。年輩の農業婦人のなかでは、「横野町は戦前は野菜の先進地として栄えたが、最近は農業が廃れ後継者がいない。そこに風車が建てば、ここに住むことができなくなる」と積年の思いが語られている。
 住民各層が縦に横に励ましあいながら相互に影響を与え、9月23日の1200人のデモ行進に大合流していった。デモの先頭には安岡の漁師の大漁旗がはためき、横野町は横断幕を、医療関係者は工夫を凝らしたプラカードを掲げた。高齢の婦人たちは「生まれて初めてデモに参加したが、楽しくてやれない」「今度は市役所をとり囲むデモをやりたい」と、心を一つにして「前田建設は下関から撤退せよ」「市長は市民の声を聞け」と訴え、最後までたたかいぬく決意を固めた。

 首相の一声で解決可能

 今年に入ってから風力反対運動は住民自身が立ち上がって大きな運動に発展した。しかし、前田建設工業はあきらめていない。来年3月頃には環境調査不備のまま準備書を作成し、住民への縦覧を開始。国・県・市の同意を得て、4月には着工の届け出をすることも予想されている。よそ者がいきなり乗り込んできて、もともと住んでいた人人を蹴散らすようにして、あくまで洋上風力発電をつくろうとしているのである。この挑発的で横暴なやり方が、余計に住民の怒りに火をつける関係となっている。聞く耳のない暴走であるが、同時に火に油を注ぐようなものでむしろ住民運動がさらに強烈なものになることは必至とみられている。1200人デモで効かないなら2000人デモというように、全市的な連帯を強めて、その世論と運動を拡大する趨勢となっている。
 洋上風力発電は国が国策として強力に推進しているものであり、前線に立たされている前田建設工業がへこたれないのはそのためにほかならない。安岡沖が全国の商業用発電の突破口と位置づけられ、安倍首相のお膝元に経済産業省の肝いりで持ち込まれている。安倍政府が洋上風力の固定買取価格を1㌔㍗当り36円に引き上げたもとで安岡沖で20年間稼働させたとして670億円もの純利益が見込まれ、下手に商売するよりもはるかに利益率の高い利権事業である。というか補助金たかり事業といっていい。仮に市長や代議士に億単位のカネを配ったとしても、事業者はまったく腹など痛まない。
 この間、風力発電反対の運動を担っている人人のなかでは、一私企業のもうけのために住民生活がどうなってもよいという横暴なやり方に共通して怒りが語られている。同時に、黒幕の存在こそみなが問題にし始めている。これほど反対運動が盛り上がっても聞く耳を持たない人物、暴走が得意な人物は誰か? 現役首相のお膝元なのだから首相の一声で経産相はおとなしく引き下がるはずなのに、なぜなのか? 安倍政府になって洋上風力の買い取り価格が跳ね上がり、その対象になるのは下関だけ。「一私企業のもうけ」以上に政治家が袖の下を固定収入にしようとしているのではないか? 等等、様様な憶測が飛びかっている。
 そして、「自分は先が見えているが、子や孫のために安心して暮らせる故郷を残さないといけない」「安岡がやられたら川棚もやられる。全国の人のためにも頑張る」「みんなのためにたたかおう!」という意識が強まっている。この1年の運動を通じた大きな確信は、政党政派や宗教的信条をこえ、住民が一致団結して署名運動やデモ行進に立ち上がることが一番強いということである。このような運動を安岡周辺にとどまらず全市・全県に広げ、国策をはねのける各層の住民の力を大結集し、30年前に豊北原発を阻止したような大運動にしていけるかどうかが勝負どころとなっている。

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