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原発再稼働21基で審査進行

 衆院選が終わった直後から、全国の原発で安全申請や再稼働に向けた手続きが進められている。16日には、青森県大間町で建設中の大間原発について、電源開発(Jパワー)が原子力規制委員会に「新基準」適合性審査を申請。17日には、原子力規制委員会が再稼働に向けた審査を進めている関西電力高浜原発3、4号機(福井県)について、「新規制基準に適合している」とした「審査書案」を了承した。11月に鹿児島県知事が再稼働に同意した九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を皮切りに、その他にも九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)、中国電力島根原発2号機(島根県松江市)など、全国各地の14原発21基で再稼働に向けた審査が進行している。前代未聞のメルトダウンを引き起こした福島第1原発は収束すらできない状況のもとで、また全国で地震や火山活動が活発化しさらなる事故の危険性が高まっているなかで、安倍政府の大暴走が始まっている。
 
 第2、第3の福島にする暴挙

 衆院選から2日後、建設中の大間原発について電源開発が「新規制基準」をクリアするかどうかの審査を申請した。「審査合格」をとりつけるために、「新基準」に対応する耐震設計に関して「基準地震動を450ガルから650ガルに引き上げた」「想定する津波の高さを海抜4・4㍍から6・3㍍に見直した」「電源車、注水ポンプを設置した」といっている。しかし「新基準」は、基準策定の段階で「原発に対して慎重な意見を持つ専門家は加わっていない」「意見は電力会社から聞くだけで、立地地域住民、福島原発事故の被災者の意見は聞いていない」「外部事象の事故想定など、ごく一部の意見が取り入れられたが、ほとんどが無視されている」「福島原発事故の検証は未解明」「格納容器の欠陥的構造に目をつぶり可搬設備を多用する」など、3・11以前の基準となんら変わっていないことが多くの検証から明らかになっている。
 2008年5月に建設が始まった大間原発は、出力138万3000㌔㍗と国内最大級のものになる。世界で初めて使用済み核燃料からとり出したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を全炉心で使う「フルMOX」を実施する計画だ。東京電力福島第1原発と基本的な構造は同じ「改良型沸騰水型軽水炉」でありながら、燃料はMOX燃料を使用。さらに一般の軽水炉でMOX燃料を使う場合(プルサーマル)、原子炉に入れる燃料のうち3分の1までをMOX燃料とし残りをウラン燃料にするが、大間の場合「フルMOX」となり、原子炉に入れる燃料をすべてMOX燃料にできるとされている。余っている使用済み核燃料からとり出したプルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」政策で、「重要な役割を果たす」と位置づけられている。
 しかし核燃料サイクルの中心とされてきた高速増殖原型炉「もんじゅ」は、事故やトラブルがあいつぎ、完全に破たんしているのが現実だ。2012年には約1万個もの点検漏れが発覚し、翌年には原子力規制委員会の立ち入り・保安検査によって、非常用発電機などの重要機器で13の点検漏れ、虚偽報告が発覚。同年5月には、原子力規制委員会から無期限の運転禁止を命じられた。そして今年2月には、実用化に向けた目標が白紙となり、これまで掲げてきた開発計画や期限を、新たなエネルギー基本計画に入れないことが発表されるなど、実用化のメドが立たない状況である。
 今回の申請で規制委員会の田中委員長は、「世界でも実例がなく、相当慎重に評価する」とのべ、電源開発側は「プルトニウム利用は重要。しっかり準備して、しっかり説明したい」といっている。
 大間町と津軽海峡を隔てて対岸に位置する函館市では、今年4月に市が国と事業者の電源開発を相手取り、原発の建設中止を求める訴訟を起こした。訴状では、事故が起きた場合、フルMOXでは炉心に大量のプルトニウムが内蔵されており、福島原発事故と比較にならないほど深刻な被害が出ること、札幌方面に抜ける片側一車線の避難路に30万人以上が集中すれば逃げることもできないこと、付近に巨大な活断層がある可能性が高く、地震が起こる可能性がきわめて高いことなど、建設の無謀さを指摘し、原子炉設置許可の無効、建設・運転の差し止めを求め、深刻な災害の発生を未然に防がなければならないとしている。
 函館市は大間原発から半径30㌔圏内に入り、一番近いところで23㌔しか離れていない。市民の反対の声が強まるなかで、衆院選後の15日からは、函館市の町会連合会が「大間原発の建設に反対する市民の声を国に届けよう」と署名活動を開始。20万人を目標に来月いっぱいおこない、経済産業省に提出するとしている。

 周辺自治体排除し強行 川内原発皮切りに

 大間原発の審査申請の翌日には、原子力規制委員会が関西電力高浜原発3、4号機について、再稼働の前提となる審査に「事実上合格した」とする、審査書の案を全会一致でとりまとめた。九州電力川内原発1、2号機と同様、「再稼働前提」で審査が進められている。
 福島原発事故後、事故に備えた防災計画をつくるよう義務づけられる自治体の範囲は、10㌔圏から30㌔圏に拡大された。高浜原発では、30㌔圏の範囲が京都府や滋賀県にも及んでいる。京都府舞鶴市は、大半が高浜原発から30㌔圏内にあり一部は5㌔圏内に入っている。しかし京都府内や滋賀県内の自治体は、福島事故以前と同じく「立地自治体」とはされず、「地元首長と議会の同意」のみで再稼働が進められている。
 高浜原発の「合格」にあたっても「基準地震動」について「当初550ガルで申請したが、その後若狭湾や東側の陸域にある3つの断層が連動した場合を考慮して700ガルに引き上げた」とか、最大規模の津波について「当初は海抜2・6㍍だったが、最高6・5㍍に見直した」といい、見直しに伴って、「海抜六㍍としていた津波対策の防潮堤は八㍍に引き上げた」ことが強調され、「新規制基準に適合している」と結論づけられている。
 この間の一連の原発再稼働の動きでは、九州電力川内原発1、2号機をめぐって鹿児島県・伊藤祐一郎知事が11月、再稼働に同意する考えを表明してその端緒を開いた。「新規制基準の審査を通った原発で初めて地元同意の手続きが終了」と大きく報道された。伊藤知事は「立地自治体の薩摩川内市と市議会、県議会の同意が得られた」といい、安倍政府は地元同意の範囲を立地自治体に限った川内原発の同意手続きを今後のモデルとし、再稼働の動きを加速させてきた。
 また中国電力の島根原発2号機では19日、原子力規制委員会が初めて現地調査をおこない、更田委員長代理、原子力規制庁の職員などが計100カ所を調査。審査を加速させる可能性を示唆し、「審査合格までにあと1回は現地調査をおこなう」と表明した。さらに四国電力伊方原発についても、九州電力玄海、川内両原発に続いて、「二番手」といわれており、審査が継続されている。

 火山学者ら次次に反論 予知できぬ巨大噴火

 川内原発の再稼働をめぐって専門家の間では、「川内原発は巨大噴火を起こす火山地帯の上に建っている。巨大噴火が原発を襲ったら大惨事になる」ことが指摘されてきた。原発は火山噴火にすぐには対応できず、対応するには数年かかることが明らかにされ、原子力規制委員会が「巨大噴火を数年単位で予知し、予知された時点で原子炉を止めて燃料棒をとりだす」といっていることに対して、専門家から「噴火予知は無理」という声が次次に上がっている。
 原子力規制委員会の原発周辺の火山活動の監視に関する検討チームの会合では、川内原発1、2号機の審査書案で、大規模な噴火の前兆を把握し、対応できるとした規制委や九電の見解に対し、専門家から異論が噴出した。
 石原和弘京都大学名誉教授は「GPS(全地球測位システム)と地震観測、監視カメラで噴火予知はできるというのは思い込み、俗説、誤解」と批判。火山噴火予知連絡会会長の藤井敏嗣東京大学名誉教授は、川内原発の適合性審査において、巨大噴火によって同原発に「影響を及ぼす可能性は十分小さい」とするなどの根拠の一つになった論文について、「(この論文だけに)頼るのは非常に危険だ」と強調。論文は、カルデラ噴火一般についてのべたものではなく、監視で巨大噴火を検知できるとするのは、全ての例に当てはまらない可能性があると指摘し、「前兆現象を数年前に把握できた例は世界にない」とした。
 また中田節也東京大学教授は核燃料の搬出に間にあう「数年、あるいは10年という単位では、とてもこの(前兆)現象は見えるものではない」とした。
 原発の「新規制基準」が昨年7月に施行されたなかで、電力会社に対して「原子力発電所の火山影響評価ガイド(案)」にそった火山影響評価が新たに求められている。「火山影響評価ガイド(案)」は、「活動する可能性が否定できない火山」が原発から半径160㌔㍍以内にある場合、火山事象(火砕流や火山灰、火山ガスなど)の影響を評価し、必要に応じて具体的な対策などを求めている。この基準によれば、全国の原発17カ所のすべてが再評価の対象となり、多いところでは10以上の火山を圏内に擁しているといわれる。
 対象となる火山は、約1万年前以降に活動している火山(気象庁定義の「活火山」で、現在全国に110ある)と、活動履歴は古くても将来に活動する可能性がある火山を「活動可能性を否定できない火山」としている。影響が及ぶ範囲は、日本で起こった最大級とされる9万年前の阿蘇山(熊本県)の巨大噴火での火砕物密度流の最大到達距離160㌔㍍圏に設定。全ての原発の同圏内に一つは火山がある。九電は「破局的な噴火の可能性は小さい」としているが、川内原発周辺には巨大噴火の痕跡が残っており、火山学者の間では最も巨大噴火リスクが高い原発とされている。
 専門家からは「これまでの火山噴火予知はあくまで経験に基づく。巨大カルデラ噴火は被害が甚大すぎ、経験してからでは間に合わない」「火山の影響を考えることなく日本に原発が導入された。噴出量10立方㌔㍍以上の噴火が、1000年みておけば起こりうる」と指摘されている。
 守屋以智雄・金沢大学名誉教授は、各地の火山の噴火特質・噴火様式を分析したうえで、「北海道・東北・九州のカルデラ火山が巨大噴火を起こせば、その被害は人命・資産とも東日本大震災とは桁違いの規模に達し、国家としての存続すら危ぶまれる」と警鐘を鳴らしている。
 「九州6カルデラ火山中の1個が巨大噴火すれば伊方・玄海・川内の3原発は完全に破壊」され、「八甲田・十和田カルデラ火山のいずれかの巨大噴火で、北海道の泊原発、下北半島の東通原発・六ヶ所村核物質貯蔵施設、女川原発などが破壊される」「支笏・洞爺カルデラ火山の巨大噴火でも泊・東通原発と六ヶ所村貯蔵施設が危険にさらされる」とし、「日本国民全員が日本列島を退去、いずれかの受入れ国に避難という事態」もありうるとのべている。
 今年に限っても、御嶽山の水蒸気噴火での死亡事故、阿蘇山の噴火などが問題となり、昨年には小笠原諸島の海底火山が噴火し新しい島が出現するなど、日本列島やその付近での火山活動は活発化している。さらに日本列島いたるところで地震が頻発し、今年11月には長野県神城断層地震(M6・7)が発生。白馬村と小谷村を縦断する神城断層が震源断層とされた。また近年では、世界的にも各地で地震が起こり、スマトラ島沖地震や四川大地震、今年には中国南西部・雲南省で地震が発生するなど各地で被害をもたらしている。
 衆院選の最中にはいっさい「原発」を口にしなかった安倍政府が、選挙に「勝った」と思って暴走している。福島の大惨事に反省がなく、その収束すらさせられない者が第2、第3の福島事故が起きてもかまわないとして無謀なる再稼働に奔走している。集団的自衛権の行使容認で地球の裏側まで自衛隊が出撃する体制をつくり、米国の対中国覇権争いの矢面に立たされ、ミサイル攻撃の標的にされるような戦争態勢を強めながら、一方で国土には原発が林立して、その再稼働を進めている。後は野となれで、いい加減な「新基準」を盾にゴリ押しする犯罪性を暴露している。調子付いた政治に対して、全国で反撃の斗争を強めることが求められている。

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