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下関で“桜を見る会疑惑”&“下関市立大学私物化”シンポジウム 「桜」と同じ私物化構図

 「緊急集会! 下関版モリカケ問題を考える! “桜を見る会疑惑”&“下関市立大学私物化”シンポジウム」(主催/同実行委員会)が1日、下関市民会館中ホールで開かれた。安倍首相が地元支援者800人を招いた「桜を見る会」問題と、下関市立大学で前田市長が推薦する教員ら3人の採用ありきで専攻科設置を強行している二つの問題について、「私物化の構図が似ている」として弁護士の郷原信郎氏が講演した。

 

 

 郷原氏は冒頭で、「安倍政権にかかわる森友・加計問題、桜を見る会問題について厳しく批判をしてきた。安倍首相の最終的な言い訳は“違法なことはしていない”“犯罪行為はやっていない”だ。法令さえ違反していなければいいという考え方が、組織を法令に違反しない範囲で私物化してしまうことにつながっている」と指摘した。

 

 また安倍首相の地元から有権者がバス17台で参加しており、公費を使った有権者のもてなしではないかと指摘し、「桜を見る会」前日にホテルで開かれた前夜祭の問題点について説明した。会費5000円に対して、後援会や安倍事務所が会費の不足分を補填していれば、有権者への寄付にあたり、ホテル側が主催者の後援会に値引きしたとすれば、後援会の収支報告書不記載や企業団体献金として違法になると説明した。

 

 そして、「ほとんど同じような構図の問題が下関市立大学でも起きている。設置者である下関市の前田市長が主導して、推薦する教員を採用するよう大学側に要請した。本来なら学内での資格審査を経なければならないが、それをすっ飛ばして3人の採用を決めた。当時の学内規定に違反するため、市議会に定款変更の議案を提出して可決された。何でもありだ。自由闊達な学問研究によって社会にとって役に立つ教育がおこなわれるのが大学だ。ところが実際には大学の目的とは反対の方向に、破壊する方向に向かっているとしか思えない」と指摘した。

 

 後半は、下関市立大学私物化問題をめぐって、郷原氏と元文部官僚の寺脇研氏、東京大学准教授の伊東乾氏によるパネルディスカッションがおこなわれた。その要旨を紹介する。

 

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郷原信郎氏

 郷原 下関市立大学で起きていることが、桜を見る会の私物化の構図とかなり似ている、という観点から問題を捉え議論していく。市議会で議論されたこと、大学が公表したことを前提に、この問題をどう捉えるかを議論していきたい。

 

 寺脇 下関市立大学は下関市が設置したもので、下関市民の大学という大前提がある。その大学をどういう大学にするのかという問題だ。大学と大学以外の学校の違いは何か。公立の小・中・高等学校に対しては、例えば「道徳の授業をせよ」と国が決めれば日本中がやらなければいけない。だが大学には「学問の自由」が憲法23条で保障されている。下関市立大学は経済学を学ぶ場として機能してきた。そこで新しい事を始めようとするならば、そこで学問を担う人たちの議論をもとに決められなければならない。その大原則に照らして一連のあり方がどうなのかをみなさんに考えていただきたい。

 

伊東乾氏

 伊東 先ほど「学問の自由」が決定的に重要だという話があった。私はそれに対して「学問の自律・専門性」が非常に重要だと考える。大学で研究、教育をする。そこで守らなければならない水準は、大学自身が襟を正して守らなければいけない。節度を持って学術の信頼の水準を守るのが、例えば教授会である。それは大学や専門人は自己チェック、自己点検が決定的であり絶対にしなければならないと思う。それがなければただの寄り合いであって大学とはいえない。今下関で起きているものは、わかりやすくいうと大学の狂牛病状態だ。脳がスポンジ化して中身がない状態ではないか。学術も研究も専門も関係なく、設置者=経営側の意向でどうにでもなってしまうということでは大学ではなくなってしまう。法律云々という法理の限界の先を私たちは倫理と呼ぶが、コンプライアンスの問題は倫理の問題だと思っている。下関市立大学で起きている大学破壊問題は、学術の倫理に照らして重大な問題だと思っている。

 

 郷原 設置者(下関市側)は市立大学を総合大学化するといい、前田市長はそれを公約に掲げて当選した。市長は「その一環として経済学部と別の学問をやっていくことを積極的に進めていくことは市としてなんら問題がない」といっている。市長が大学オーナーなのだからなんでもやらせていいのか。常識的に考えて下関市立大学で研究、教育をおこなってきた教授会の人たちによる慎重な審議をおこなっていくのがベターだと思う。それがすべて無視されたような教員人事、専攻科設置が適切なのかどうかについては相当な疑問を持つ。大学のあり方と民主主義と学問の自由、大学の自治の関係はどう考えるか。

 

寺脇研氏

 寺脇 私は京都造形芸術大学の理事をしている。私立大学は経営者が私財でつくっているものだ。それでも学問の自由を侵すことはできないし、大学の中身については学長以下、教育者、研究者に任せている。かつ新しい学科をつくるというときは、理事長が勝手に決められない。理事会のなかには学長はじめとする教員側の代表が一定数入り、そこで議論をする。今は理事会をチェックする役割としての評議委員会がおかれ、そこには必ず卒業生代表が入っており、ワンマンができない体制になっている。私立大学でもそのようになっている。

 

 伊東 経営の面から考えると、少子高齢化社会のなかで「短大を4年大学にする」「単科大学は総合大学にした方が時代の要請に応えられる」というのはわかる。では、専門の観点から見るとどうだろうか。失敗の事例を紹介する。東京大学で最近、ヘイト発信をした31歳の特任准教授が懲戒免職となった。なぜそれが起きたか。その一つの理由に、学際的な新しいテーマにかかわろうとするときに1人の教員が責任を持つというのではなく、何人かが寄り合って「○○先生がいいというから……」というような形で安易な人事をやったことがある。その結果、そのような人が採用され初任者研修もされなかった。

 

 もう一つの例をあげる。東アジアの留学生が東京大学に来て修士、博士号をとった。そして有名私立大学に助手として就職し、博士論文を出版しようとした。だがその論文がある教授の丸写し論文であることがわかり学位剥奪になった。東京大学の指導教員もいい加減な審査で通したということだ。その私立大学から東京大学に対して厳密な抗議がきている。

 

 なぜそういうことが起きたのか。それは教授会が機能していないからだ。専門性のガバナンスに関してはきちんと水準を守るための仕掛けが必要不可欠だ。現状では教授会は法的には軽いものになっている。しかし、教授会をないがしろにしてしまうと大学は本当に大学ではなくなる。

 

問われる市当局の常識

 

 郷原 大学で培われてきた知的な水準が適用されず、専門的な観点からのチェックがなされないと、東京大学でもそういうことが起きてしまうということだ。

 

 もう一つの問題として大学の場合は、学生が授業料を払っており、大学は学費の収入と、国からの運営費交付金が財源になっている。公表されている市立大学の財政状況を見ると、下関市立大学は学生による学費で多くをまかなえており、運営交付金はくりこしている状態で、極めて健全な財政状況にある。昨年12月に下関市立大学の中で開かれたシンポジウムのなかで、ある学生がいかにパソコンの立ち上げに時間がかかるかという話をした。環境整備にお金が使われていないのに、十分な論議もされず専攻科を設置し予算を割くことに対しての意見だったようだ。学生がよりよい教育を受ける研究の場であるためには環境整備が必要であり、そのためにはお金が必要である。この大学のお金の使い方に関してどう考えるだろうか。

 

 伊東 学生が払うものは入学金と授業料の二つに分けられる。授業料は学生が学ぶために納付するものだ。入学金は、大学という器を保持しつづけるためのお金として捉えられるだろう。原理原則でいえば、学生の授業料は学生に還元する。研究、教育環境の整備のためには運営費交付金を使うべきである。そういうモラルが守られなければならない。また大学は社会の公共財としての側面を持っている。大学のトップに立つ人が、守られてきた伝統や大学のレベルをきちんと守って次世代にバトンタッチするという観点が大事だと思う。

 

 今回、専攻科の教授として4月以降の採用が決まっている人が、人事にかかわる側の理事に就任したと聞いて仰天した。自分が執筆した論文を自分で査読することと同じくらいあり得ないことだ。コンプライアンスの観点で絶対にやってはいけない。

 

 郷原 4月以降に採用が決まっている人が、自分自身の適格性を自分自身で評価するような立場になることは、利益相反にあたるのではないか。なぜそうなったのか大学内部の事情はわからないが、少なくとも大学の外側からも見てもやっぱりおかしい。大学で大切にされるべき「学問の自由」とそれを保障するための「大学の自治」。この大原則と大学の設置者である市の関係を考えたとき、適切な判断をするための知的な蓄積をないがしろにして、市が思いつきのように大学の研究や教育の内容を決めていくのは、大学のあり方としては疑問がある。下関市立大学で起きていることは、桜を見る会問題の大学版という捉え方をするとわかりやすいのかなと思う。

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