いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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TPP体制へ誘導する米価暴落  1俵16,000円→8,000円に

 新米の収穫時期となったが、下関の農家はコメの仮渡し金が1俵=60㌔で1万円を割り込み8000円と昨年の1万1000円よりも3000円も安い。下関ばかりでなく、全国的に米価の暴落が農家を直撃し、自殺者が出る悲劇も生まれている。コメ1俵の再生産費は農水省の調査でも約1万6000円といわれ、その半値以下で買い叩かれたのでは、どんなに身を粉にして頑張っても稲作を続けていくことはできない。この間、「コメは過剰」と宣伝してきたのが安倍政府で、スーパーや量販店、大手商社・大手コメ卸などがコメを買い叩いてきた。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、アメリカは日本に対してコメの関税撤廃圧力を加え、それがだめなら米国産米を主食用として特別枠で関税ゼロで輸入拡大せよと迫っている。こうした動きに照応して、TPPを先取りするかのように意図的な米価暴落と国内生産者の淘汰が実行され始めている。国内でコメ生産をできなくさせたうえで、最終的に米国産に依存しなければならない関係へ誘導するものとなっている。
 
 農業淘汰し市場開放する手口

 下関市内の農家では、農協に出荷したコメの仮渡し金は8000円台で、昨年の1万1000円に比べ3000円も安い。しかもコシヒカリ以外のコメはたとえ1等米でも8000円台、等級が低いものでは7000円台もある。仮渡し金の推移を見ると、1等米では2012年はコシヒカリが1万3400円、ひとめぼれ、きぬむすめ、ヒノヒカリが1万3200円。2013年は、それぞれ1万1600円、1万1100円。2014年になるとそれが9000円、8100円に下がってきている。また、今年産米は2等米では6900円、3等米では5800円とさらに安い。「もう来年は自分の食べるコメしかつくらない」「コメをつくる者の苦労をばかにしている」と農家の憤りは高まっている。
 1㌶前後の水田の場合、1俵1万2000~1万3000円で売れたときでも、1㌶80俵とれたとして、96万円の収入になる。それに対して、生産費がかかるため、最終的には約30万~35万円の赤字が出るといわれている。
 コメづくりには田植え機、トラクター、コンバイン、乾燥機、精米機、貯蔵用の低温冷蔵庫などの機械や設備が必要だが、コンバインが500万円、トラクターが500万円、田植え機が100万円、加えて乾燥機や籾摺り機、一式揃えると1000万円は軽くこえるといわれる。しかも農機具は10年ごとに買い換えなければならない。それに加えて肥料代や農薬代、燃料油代、などなどの経費がかかる。また、今年は円安の影響で燃料油や輸入資材が上がり、加えて消費税も上がった。その分もばかにならない。
 こうした必要経費を差し引くと1㌶で赤字が30万~34万円近く出る構造になっている。1俵8000円で計算すると、赤字がさらに32万円増え、67万円になる。コメの収入だけでは経営できず、コメをつくればつくるほど赤字を抱えるような状況が強いられている。「100万円稼ごうと思ったら150万円かかる」状況のなかで、それでも水田を耕し、日本人の主食であるコメの生産に励んできた農家がほとんどである。
 ちなみに農水省の調査で、玄米1俵の再生産費は平均1万6000円必要としている。1俵8000円はその半分にすぎず、農家のただ働きは他産業の比較にならない。
 しかも安倍政府になって、減反廃止を打ち出した。減反目標達成に協力した農家に出していた補助金を打ち切ることに眼目を置いたものだった。当面は、民主党時代の戸別所得補償の10㌃につき1万5000円(1㌶15万円)を5年以内にゼロにする方向で、今年はまず半額の7500円(1㌶7万5000円)に削減した。1㌶で30万~35万円の赤字が出るのに対して、所得補償として15万円が支給されたところで赤字には変わりないが、仮渡し金が8000円になったもとで、1㌶で67万円の赤字が出るのに対して、政府からの所得補償は減って7万5000円しか入ってこない。
 戸別所得補償制度の廃止は、政府の方針にそって規模を拡大した農業法人や営農集団に大きな打撃となる。下関市内で中規模の約40㌶の水田を耕作する法人の一つでは、10㌃当りの経費を約5万円とみている。機械代や肥料・農薬代、労務費などを含んでいるが、機械の消耗費は入っていない。コメは直接大口業者と取引し、残りを農協に出している。
 戸別所得補償の10㌃反当り1万5000円を計算に入れて、これまでは1俵1万円なら10㌃で8俵とれたとして3万円の利益とみていた。40㌶あるので、戸別所得補償は単純計算で、600万円になる。それが2018年からはゼロになる。米価がこれ以上下がり、戸別所得補償もなくなれば、農業法人としての経営すら難しくなる。
 コメどころの東北地方でも同様で、福島県での仮渡し金は、コシヒカリが7200円にとどまり、前年比3900円安と大暴落した。東北農政局によると、コメ60㌔(1俵)当りの生産費調査(12年産、地代などを含む)は平均1万4094円、耕作面積5㌶以上の大規模農家で1万1432円である。いかに生産費の償わぬコメ生産になっているかを示している。秋田県産あきたこまちは8500円で、前年比3000円の減少で、再生産できる額ではなく、大規模農家ほど打撃が大きい。
 千葉県でもコシヒカリが1等米で1俵9000円で、前年から3000円下落。茨城県のあきたこまちが7800円で2200円下落している。

 実際には不足なのに… 暴落仕組んだのは誰か

 コメ市場での今年度産米の暴落の口実となっているのは「コメの過剰」である。
 農水省は6月末の民間在庫を222万㌧と公表し、さらに今年産米が「作況103ならば来年6月末の在庫は247万㌧に達する」と先頭に立って「コメ過剰」を煽った。さらに米穀データバンクが8月6日、「全国の作況指数は102」で、「北海道は105、東北・北陸は103」であるとしてコメ過剰を印象付けた。さらに農水省は今年産主食用等の生産目標数量を765万㌧(作付面積換算144万6000㌶)と計画していたが、実際の作付面積は約37万㌧分の増と発表して、「コメ過剰」の世論に拍車をかけた。
 こうした数字をもとに、米穀機構(米穀安定供給確保支援機構)が米取引関係者へのアンケート結果を発表し、米価水準が調査開始以来の最低水準を更新したと米価暴落に誘導した。コメ先物市場を試験上場した大阪堂島商品取引所では昨年4月には1俵1万4000円をこえていたコメ相場が、今年10月に1俵8000円を割っている。農水省や穀物データバンク、コメの先物市場関係者やマスコミを使い、TPP交渉で米国産をはじめとする外米の輸入を増大させることで利益を得ようとする、日米の独占大資本がかかわった米価暴落の仕掛けが背後に動いている。
 農水省やマスコミが先頭に立って「コメ過剰」を煽り、商社や大手コメ卸が買い叩きに走っているが、コメの生産量は増えているわけではない。ここ5年では、2011年の東日本大震災・福島原発事故の前年が772万㌧で、大震災の年にやや減少して764万㌧となり、その後復興の努力で今年は770万㌧と予想されている。
 コメの年間消費量は近年は約780万㌧である。ちなみに最高時は1963年の1341万㌧。政府の生産調整(減反)政策で、生産量と消費量はほぼトントンで、むしろ生産量の方が少なめである。しかも、各国は不測の事態にそなえて穀物備蓄政策をとっているが、日本は備蓄米保有も世界で最下位の水準である。「過剰」なのではなく、国内の供給能力だけでは足りていないのが現実である。
 中国などは年間穀物消費量の40%を備蓄する政策をとっている。スイスも6カ月分、ノルウェーも6カ月分、フィンランドは1年分、それに比べて日本はわずか1・9カ月分のコメ150万㌧である。コメに比べて食料用小麦は2・6カ月分を備蓄している。
 日本は世界一の食料輸入国であり、投機マネーの流入による穀物の高騰や大干ばつなど自然災害の多発、国際情勢の緊張などで食料輸入依存の危険性はきわめて高くなっているが、不測の事態に備えての備蓄政策はお粗末極まりない。何かことあれば各国に泣きついていかなければならず、各国が自国を優先して食料争奪戦に敗北するなら、1億2000万人の胃袋は2カ月も保たない。仮に6カ月分のコメを備蓄に回すならば、390万㌧の備蓄米が必要である。1年分ならば780万㌧が必要で、「コメは過剰」というのがいかにデタラメなデマであるかを暴露している。
 なにより、「コメ過剰」というのであれば年間77万㌧も海外から輸入しているミニマムアクセス米の輸入を中止すればよいだけである。民間在庫が220万㌧あるから「コメは過剰」という宣伝はまったく根拠のないものであり、国民への主食の安定供給をおこなう責任からではなく、米価を暴落させるための意図的な世論操作といっておかしくない。

 「仕方ないから輸入」 救世主面で米穀物大手

 今年の米価暴落は、米価の決定が市場原理に則っておこなわれることの弊害も浮き彫りにしている。戦後は食糧管理法(食管法)にもとづき、国が主食のコメについて責任をもって生産し、販売するという制度をとってきた。生産者からは再生産費をまかなう生産者米価で買い上げ、消費者にはそれより安い米価で販売するという二重米価制度をとってきた。米価決定の基準はコメの生産費であった。政府は財政負担を削減するためにあの手この手で生産者米価の引き下げに奔走し、1俵=2万円台から1俵=1万8000円台にまで切り下げられた。
 米価決定に市場原理が導入されたのは、1995年のガット・ウルグアイラウンドでコメの輸入自由化を認めて以後である。食管法を廃止し、政府が全量を買い上げる制度を廃止。農協が農家のコメを集荷し、業者に販売する制度にかわった。米価はスーパーの店頭価格や量販店や外食産業との相対取引価格が基準となった。またたく間に米価は下落し、1俵=1万5000円になり、1万円台に下落した。
 東日本大震災や福島原発事故で、福島はじめコメどころの東北各県のコメ生産が大打撃を受け、「スーパーからコメが消えた」などと煽られ、大手業者や商社などはチャンスとばかりに全国でコメの買い占めに走った。そのためコメの中小卸業者や米穀店は「卸に注文してもいつ入るかわからない」状態となるほどだった。そして今年は一転して「コメ過剰」を宣伝し買い叩きに走っている。
 1995年のコメの輸入自由化、コメ市場への市場原理導入で、それまではコメは米穀店で買うものであったが、今や80%はスーパーや量販店で購入するようになり、米穀店はなぎ倒された。
 また、農家を見ると明治以来100年間ほとんど変わらなかった農業就業人口1200万人、農地面積600万㌶、農家戸数600万戸という数字がガタガタと崩れた。今では、農業就業人口260万人、農地面積460万㌶、農家戸数は第1種と第2種の兼業農家も含め156万戸にまで減った。コメ生産は日本農業の根幹でありその破壊は日本農業全体を破壊する作用をおよぼす。
 食料自給率は輸入自由化に道を開いた結果39%にまで落ち込み、穀物は28%と先進国中最低の国になっている。トヨタなどが海外でクルマを売るために輸入自由化を受け入れ、おかげで国内第1次産業が壊滅的な状況に追い込まれてきた。食料の国内生産を破壊し、輸入に依存するという危険な道を突き進んでおり、食料自給率の向上、国内生産の再建は国民的な課題になっている。農家が食べていけるかどうか以上に、全国民の生命に関わる問題であり、食料安保の問題として見なければならない。
 「コメは過剰」と宣伝し、米価暴落を煽る政府や大独占資本の意図は、日本のコメ農家を経済的に成り立たなくさせ、廃業に追いやり、コメ生産を全滅させたうえで、「仕方ないから輸入しよう」というものである。そこへ救世主面してあらわれるのがカーギルやモンサントといった米穀物大手で、1億2000万人の胃袋をわしづかみしていくプログラムと見ても不思議ではない。TPP交渉ではまさにそうした対日要求が突きつけられ、コメや乳製品、牛・豚肉など重要品目を含む農産物の関税を撤廃し、農産物市場をすべて明け渡そうとしている。国内ではすでにバターなど乳製品の不足も問題になっているが、米国産を輸入拡大するために国内産の破壊が進んでいるからである。それはかつて米国産のオレンジや牛肉を輸入自由化するために国内のミカン農家や畜産農家を国の政策でなぎ倒していった経験とも重なるものである。
 国民の主食であるコメも例外ではない。一九九五年のコメ輸入自由化に向けて、自民党政府は1970年代から計画的に減反政策をとり、コメ不足状態をつくり出すために周到に準備した。そして93年の冷夏のコメ不作につけこんでコメの緊急輸入、コメ輸入自由化を強行した。その後、備蓄米も200万㌧台から150万㌧に削減した。自然災害や港湾ストによる輸入中止など一旦なんらかの変化があれば、国民はいつでも飢餓に直面せざるをえない危険な状態におかれている。
 米国資本に日本人の胃袋を売り渡し、その生命を保障する命綱・食料を外国資本に委ねていくのだから、これほど売国的な行為はない。食料をアメリカに依存することは、国家としての主権をアメリカに売り渡すことに等しい。食料を自給できない独立国は世界中に韓国と日本を除いて一国もない。TPP交渉で安倍政府は次から次にアメリカに屈服し、国益を売り飛ばしており、主食であるコメや牛・豚肉、乳製品、砂糖、など重要品目の市場開放もずるずると譲歩させられている。真に日本の国益を守るためには、国内の食料増産に全力を上げ、食料自給体制を確立することが迫られている。選挙で「TPP断固反対」などと大嘘をいって与党ポストを握り、国益を売り飛ばしている安倍政府に対して、団結できるすべての人人と連帯して農業者が下から行動を起こすことが待ったなしの情勢になっている。

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