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40年超の老朽原発も再稼働 「脱炭素」掲げ新増設も図る自民党政府 わずか10年で覆る福島の教訓

 福島第一原発の炉心溶融という重大事故から10年目を迎えた今年、菅政府は「2050年までに温暖化ガス排出量ゼロ」「脱炭素」などを掲げて、実際にはさらなる原発再稼働、老朽原発の運転延長など原発最大限活用の方向に突き進んでいる。世界的には福島原発事故後、原発からの撤退がすう勢になるなかで、事故直後の2012年12月に第2次安倍政府が「原発再稼働」「原発輸出」を成長戦略の柱に据えるなど、福島原発事故の反省もなく、国民の圧倒的な原発撤退の世論や世界の流れに逆らって原発推進政策を強行してきたが、破たんも著しい。福島事故後の10年間で日本の原発の現状はどうなっているのかを見てみた。

 

衆議院総選挙における重要な争点

 

事故直後の福島第1原発(2011年3月)

 2011年3月11日の福島原発事故からわずか2年後の2013年2月28日の衆議院本会議で、当時の安倍首相は、施政方針演説で「安全が確認された原発は再稼働する」と明言した。さらに同年6月14日に閣議決定した成長戦略に「原子力発電の活用」を明記し、原発の再稼働と海外輸出の推進を盛り込んだ。安倍首相みずからトルコやアラブ首長国連邦、サウジアラビアなどを訪問し、各国で「日本の原発技術は世界一安全」などと宣伝して原発を売り込み、インドとは原子力協定を2016年に締結した。なお当時、安倍政府は2020年までに海外受注を2兆円にするとの目標を掲げていたが各国が撤退したため失敗に終わり、2019年に世耕経産相が「実績はゼロ」だと認めた。

 

 2013年当時は、福島原発事故により15万人以上の住民が避難生活を続けており、事故の収束のめどもたたず、事故原因の究明もおこなえていない状況下であった。政府がおこなった2030年のエネルギーに占める原発比率に関するパブリックコメントには約8万9000件の意見が出され、そのうち87%が原発ゼロを求めていた。

 

各地で相次ぐ住民訴訟  司法も無視できぬ世論

 

 福島原発事故前に日本の原発は54基あった。事故後2013年9月に関西電力の大飯原発3、4号機が停止して以来、ほぼ2年間全国の原発が停止した。現在までに再稼働した原発は10基あるが、そのうち四国電力の伊方原発3号機は停止中であり、稼働している原発は9基だ。

 

 福島原発事故の教訓を受けて2012年9月に原子力規制委員会が発足し、2013年7月に新規制基準が制定され、電力会社は原発を再稼働させる場合、新規制基準にもとづく規制委の審査を受けることになった。その後の再稼働への流れは以下のようになっている。

 

 まず2015年8月12日に川内原発2号機、同年10月15日に川内1号機が再稼働した。翌16年1月29日にはプルサーマル発電の高浜原発3号機が再稼働した。同2月26日には同じくプルサーマル発電の高浜四号機が再稼働したが、同29日にトラブルにより緊急停止した。

 

 同年3月には、高浜原発3、4号機をめぐり滋賀県内の住民29人が運転の差し止めを求めた仮処分申請をおこない、大津地裁(山本善彦裁判長)は住民側の申し立てを認める決定を出した。地裁の仮処分決定を受けて関電はフル稼働中の3号機の停止作業に入り、翌日夜に停止した。これによりこの時点で国内で稼働する原発は川内原発の2基のみとなった。

 

 

四国電力・伊方原発(愛媛県)

 さらに2016年8月12日にプルサーマル発電の伊方3号機が再稼働。翌17年3月に大阪高裁が仮処分決定をとり消したことで、5月17日には高浜原発4号機、6月6日には同3号機が再稼働し、川内の2基と合わせて5基が稼働した。2018年3月14日には大飯原発3号機、3月23日には玄海原発3号機、5月9日は大飯原発4号機、6月16日に玄海原発4号機が再稼働した。2021年6月23日には建設後40年超の美浜3号機が10年余りの停止期間を経て再稼働し、現在のところ再稼働した原発は10基となる。
 ただし、伊方原発3号機は2017年と今年1月に広島高裁が2度運転停止を命じる決定を出した。2017年の決定はその後とり消されたが、今年1月の決定については広島高裁の別の部で審理され、運転できない状態が続いている。

 

 伊方原発以外も、司法の判断で運転停止をよぎなくされたケースがあいついでいる。
 大飯原発3、4号機をめぐっては2014年5月に福井地裁が「地震の揺れの想定が楽観的だ」と指摘して、当時運転を停止していた原発の再稼働を認めない判決を出した。これは福島原発事故後に全国各地で起こった裁判のなかで最初の運転を認めない判決だった。ただ仮処分ではないため、すぐに効力が生じることはなく、関電が控訴しておこなわれた二審で2018年7月に名古屋高裁金沢支部が福井地裁の判決をとり消した。

 

 高浜原発3、4号機についても、運転を停止していた2015年4月に福井地裁が「国の新しい規制基準は緩やかすぎて、原発の安全性は確保されていない」との判断を示し、再稼働を認めない仮処分決定を出した。その後、福井地裁の別の裁判長が決定をとり消したことから翌年1月に3号機が再稼働した。

 

 だがその2カ月後、今度は大津地裁が「事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として運転停止を命じる仮処分決定を出した。この決定により3号機は運転中の原発で初めて司法の判断によって停止した。

 

 2020年12月には大飯原発3、4号機の国の設置許可をとり消す判決を大阪地裁が出した。これは関西や福井県に住む約130人の住民らが「大地震への耐震性が不十分だ」と主張して訴えを起こしたもので、設置を許可した規制委の決定をとり消すよう求めた。この裁判では、関電が設定した基準地震動の数値を妥当だとした規制委の審査の是非が争われた。

 

 大阪地裁の森鍵一裁判長は「関電は過去に起きた地震の平均値を用いて、将来起こりうる地震の規模を想定した。しかし、新しい規制基準は平均値をこえる規模の地震が発生しうることを想定しなければならないとしており、基準地震動を設定するさいには、数値を上乗せすべきかどうか検討する必要があった。原子力規制委はこうした検討をしておらず、審査すべき点を審査していないので違法だ」との判断を示し、原発の設置許可をとり消した。

 

 福島事故を教訓にした新たな規制基準がもうけられて以来、原発の設置許可をとり消す司法判断は初めてであった。

 

 原発の運転停止や、設置許可のとり消しを求める訴えは1965年以降から各地の裁判所で起こされてきたが、これまではおおむね退けられてきた。2003年に福井県の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる裁判で名古屋高裁金沢支部が国の設置許可を無効とする判決を出した。これが住民側の訴えを認めた初めての判決だったが、最高裁でとり消されている。2006年には金沢地裁が石川県の志賀原発2号機の運転停止を命じる判決を出したが、これも高裁でとり消された。

 

 2011年の福島原発事故の教訓から、あらためて原発の安全性を問う運動が広がり、住民側の訴えを認める司法判断が増えている。国民のなかで原発依存からの撤退世論が圧倒していることを反映したものだ。安倍政府は2018年に決定した第5次エネルギー基本計画のなかで、電源構成に占める原発の比率を福島原発事故前とほぼかわらない20~22%とし、原発再稼働推進の旗を振ってきた。だが、現状では原発の比率は電源構成の6%程度にとどまっている。

 

 この流れのなかで日本の原発の現状は地図の通りになっている(資源エネルギー庁発表2021年7月5日現在)。

 

 

安倍前首相顧問に  自民党は原発推進議連

 

 今年は第6次エネルギー基本計画策定の年にあたり、10月ごろに閣議決定されるとみられる。

 菅首相が今年4月の気候サミットで「2030年度温室効果ガスの13年度比46%削減」などをうち出したことで、第六次基本計画に「原発最大限活用」や「原発新増設」などを盛り込むよう求める原発推進の論調が財界や自民党内で高まっている。

 

 自民党の国会議員有志は原発新増設推進の議員連盟を設立し、顧問に安倍晋三前首相が名を連ねている。4月の設立総会では、第6次エネルギー基本計画に原発の新増設やリプレース(建て替え)推進を明記することや、福島事故後「可能な限り原発依存度を低減する」としてきた政府の方針転換を求め、「原発を最大限活用する」とし「原発比率20~22%をさらに引き上げるべきだ」と政府に要請した。

 

 資源エネルギー庁が示した第6次計画の素案では、2030年度の電源構成における原発の比率を20~22%としている。現状で6%の原発の電源構成比率を20~20に%に引き上げるには、「稼働中の炉だけでなく、規制委の許可を得たものの稼働に至っていない炉、および規制委で審議中の炉のすべてを含めた27基が80%の設備利用率で稼働すれば実現可能」との見解を示している。

 

 27基の原発のなかには、福島事故の教訓から原則40年としている運転期間をこえた美浜3号機(44年)や高浜1号機(46年)、同2号機(45年)、東海第二(42年)などの老朽原発も含まれる。

 

 今年6月23日、運転開始から44年が経過した美浜3号機が再稼働した。福島事故後40年をこえた原発が再稼働するのは全国初だ。福島事故後、国内の原発は法律で運転期間が原則40年に制限されているが、国の審査を通ると例外的に最長60年までの運転延長を可能とする抜け穴をつくっている。

 

 資源エネルギー庁は、建設中を含む国内の36基の原発について、運転期間が40年と60年の場合で発電電力量に占める割合の推計をまとめている。

 

 すでに運転延期の認可を受けている4基を除く32基すべてが運転開始から40年で運転をやめたと仮定した場合、2050年の時点で稼働している原発は3基のみになり、総発電量に占める割合は2%にとどまる。 仮にすべての原発が60年まで延長して運転するとした場合、2050年の時点で動いているのは23基で総発電量の10%と見込んでいる。2050年までの脱炭素社会の実現という目標設定のなかで、無謀な老朽原発の最大限利用を図ろうとしている。

 

 美浜原発3号機は2004年8月、二次冷却系の大きな配管が突然破裂して高温の蒸気が噴出し、11人が死傷する事故を起こしている。関電の協力会社の社員5人が死亡した。福島事故後、美浜1、2号機は廃炉になり、地元住民のあいだでは3号機の再稼働も難しいと見られていた。だが、2015年、関電は運転期間の20年延長を申請し、国も認可した。

 

 地震大国の日本で、10年間も停止していた老朽原発の再稼働は、事故を引き起こす危険性が高い。関電は美浜3号機の起動にあたって現場の要員を通常の倍に増やしている。

 

 また福井県や地元自治体も職員を派遣して監視態勢を強化しているが、住民は今後運転60年までの16年間にわたって事故の危険性と隣あわせの厳しい状況が続くことになる。

 

 「2050年までのカーボンニュートラル」をめざす資源エネルギー庁の計画は、現在あるすべての原発を再稼働し、しかもすべてを60年間運転するという無謀な見通しを根拠にしている。

 

 福島原発事故は、地震列島、火山列島である日本での原発の運転は他国に比べても危険性が高いことを再認識させるものとなった。日本列島で地震活動、火山活動は活発化へ向かっており、これまでの経験の範囲では想定できない規模の災害が起こる可能性は十分に想定できる。

 

 福島原発事故は10年を経過してもまだ、溶け落ちた核燃料デブリの実態さえつかめず、事故そのものの収束のめどさえたっていない。また、周辺住民や漁業、農業、商工業など地元の産業への打撃もはかり知れず、復興への道のりも遠く厳しい。政府は世界的にも最大級の原発事故を起こしながら、原因究明や収束への道筋、放射能汚染水の処理、住民の生活復興支援など最優先で進めなければならない問題をなおざりにして、原発再稼働に熱をあげている。だが原発再稼働も国民の同意なしには不可能であることはこの間の推移からも明らかである。

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