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トリチウム水の危険性 通常排水にない11核種も 「飲んでも何ということはない」水か?

 菅政府は13日、福島第1原発の炉心溶融(メルトダウン)事故で溶けた核燃料デブリを冷却した後に溜まり続ける放射能汚染水の海洋放出を決めたが、その閣議後の会見で麻生副総理は「あの水を飲んでも何ということはない」と発言した。国内の漁業者を先頭に国内外で汚染水の海洋放出に抗議や反発が広がっている。トリチウム水ははたして「飲んでも何ということはない」ほど安全なのか。

 

 福島第1原発の敷地内のタンクに溜まり続けているのは、2011年の東日本大震災での地震や津波によって全電源を喪失した福島第1原発1~3号機(4号機は定期点検で停止中)で溶け落ちた核燃料を冷却し続けている汚染水だ。また、流入した地下水が核燃料デブリに触れて汚染水となっている。現在では1日に140㌧が発生しているとされている。

 

 政府や東京電力は、この汚染水を多核種除去設備(ALPS)で処理しているため、海洋放出される処理水にはトリチウム以外は含まれていないので安全だとしている。また、トリチウムは海外の原発や国内の原発からも海洋放出しているので安全だといっている。

 

 だが、通常運転している原発から放出される排水とメルトダウンを起こした福島原発から放出されるALPS処理水はまったく性質が異なる。ALPS処理で除去できないのはトリチウムだけではない。セシウム137やセシウム135、ストロンチウム90、ヨウ素131やヨウ素129など12の核種は除去できていない。ALPSでも処理できない核種のうち、11核種は通常の原発排水には含まれていない核種だ。

 

 通常の原発では、燃料棒は被膜管に覆われており、冷却水が直接核燃料に触れることはない。だが、福島第1原発では、溶け落ちて固まったむき出しの核燃料デブリに直接触れることで放射能汚染水が発生しており、その汚染度は通常の原発排水どころではない。2018年にはALPSで処理したにもかかわらずセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131などトリチウム以外の放射性核種が検出限界値をこえて発見された。

 

 「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」では処分方法として最終的に5つの方法を提示した。その処分方法別の費用は34億~3976億円の幅があったが、結局もっとも安い費用で済む海洋放出(費用34億円)に決定した。科学的な安全性より「安さ」を選択したのだ。

 

 同小委員会の資料では「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」と安全性を強調している。だが実際に、世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では、事故が起きなくても稼働させるだけで周辺住民や子どもたちを中心に健康被害が報告されており、その原因の一つとしてトリチウムもあげられている。トリチウムは水素の同位体で、三重水素とも呼ばれ、化学的性質は普通の水素と同一だが、β線を放出する放射性物質だ。半減期は12・3年。トリチウムは宇宙線と大気の反応により自然界にもごく微量で存在し、雨水やその他の天然水の中にも入っているが、戦後の核実験や原発稼働によって急増した。

 

 トリチウム水の分子構造は水とほとんど変わらないため、人体にそれほど重大な影響は及ぼさないと政府はいうが、分子生物学者はむしろそれは逆だと指摘する。

 

 人の体重の約61%は水が占めている。トリチウムは水とほとんど変わらない分子構造をしているため、人体はトリチウムを水と区別できず容易に体内の組織にとり込みやすい。トリチウムを体内にとり込むと、体内では主要な化合物であるタンパク質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、有機結合型トリチウム(OBT)となり、トリチウム水とは異なる影響を人体に与える。長いものでは15年間も体内にとどまり、その間、人体を内部被曝にさらし続ける場合がある。

 

 トリチウムが染色体異常を起こすことや、母乳を通じて子どもに残留することが動物実験で報告されている。動物実験では、トリチウムの被曝にあった動物の子孫の卵巣に腫瘍が発生する確率が5倍増加し、精巣萎縮や卵巣の縮みなどの生殖器の異常が観察されている。日本の放射性物質の海洋放出の基準は1㍑当り6万ベクレルで、これはICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に則ったものだ。しかし、分子生物学者らは、ICRP勧告はトリチウムのOBTとしての作用を明らかに過小評価していると指摘している。

 

 内部被曝による人体への影響はアメリカのマンハッタン計画以来、軍事機密とされ隠ぺいされ続けてきた。トリチウムがほとんど無害とされてきた根拠は、ICRPの線量係数の設定によるものであり、政治的意図によるものだ。

 

 政府の有識者会議は、トリチウムの生体への影響としてマウスやラットで発がん性や催奇形性が確認されたデータの存在を認めながら、ヒトに対する疫学的データが存在しないことを理由に、トリチウムが人体に影響を及ぼすことを裏付けるエビデンスはないと主張し、海洋放出を正当化している。しかし実際にはトリチウムの人体への影響はこれまでもくり返し指摘されてきた。

 

 ドイツでは1992年と98年の二度、原発周辺のがんと白血病の増加を調査した。その結果原発周辺5㌔㍍以内の5歳以下の子どもに明らかに影響があり、白血病の相対危険度が5㌔㍍以遠に比べて2・19、ほかの固形がん発病の相対危険度は1・61と報告された。

 

 カナダでは、重水炉というトリチウムを多く出すタイプの原子炉が稼働後、しばらくして住民のあいだで健康被害の増加が問題にされた。調査の結果原発周辺都市では小児白血病や新生児死亡率が増加し、ダウン症候群が80%も増加した。またイギリスのセラフィールド再処理工場周辺地域の子どもたちの小児白血病増加に関して、サダンプト大学の教授は原因核種としてトリチウムとプルトニウムの関与を報告している。

 

 日本国内でもトリチウム放出量が多い加圧水型原発周辺で、白血病やがんでの死亡率が高いとの調査結果も出ている。

 

 またノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊氏とマックスウェル賞受賞者の長谷川晃氏が2003年に連名で、「良識ある専門知識を持つ物理学者として、トリチウムを燃料とする核融合は極めて危険で、中止してほしい」との「嘆願書」を当時の小泉純一郎総理大臣あてに提出している。そのなかでは、トリチウムはわずか1㍉㌘で致死量となり、約2㌔㌘で200万人の殺傷能力があると訴えている。

 

 トリチウムは通常の原発からも海洋放出しているから安全といえるものではなく、実際に被害報告や危険性が指摘されている以上、人体にとって危険なトリチウムを排出する通常の原発稼働も止めるべきである。さらに福島第1原発から発生している汚染水は、直接核燃料に触れることにより、通常原発排水に含まれない多くの核種が含まれており、他の原発排水と同列に考えることもできない。東電と政府は、史上最悪の福島原発事故を引き起こし、周辺住民に耐えがたい犠牲を強いた反省に立ち、真実をウソで覆い隠すのではなく、住民の安全や世界の信頼を損なわない真摯な対応が求められている。

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この記事へのコメント

  1. オグラタカコ says:

    テレビで、今、トリチウムを、何倍に薄めて、海に流したら、まったく問題ないと言っていましたが、ノーベル化学賞を受賞した、小柴さんは、まったく反対で、影響あると発言しています。やはり、健康被害もあり、白血病、癌、人体、動物など影響があると~政府関係者なのか?いよいよ、海に流す為、国民にアピールしたのでは?

  2. そもそも核開発自体、何らかの影響があるのは間違いない。しかし、その中でトリチウムは人体にはほぼ問題ないというのは科学的見解として間違いない。ただ大量に垂れ流し続けるのは言語道断。

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