いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「5G」「GIGAスクール構想」「スーパーシティ構想」から身を守るために ノンフィクションライター・古庄弘枝

5G基地局設定に関する条例制定を

 

・ミリ波には「催奇形性の影響による自然流産」などのリスク
 世界同時進行の第5世代移動通信システム(5G)。日本でも2020年4月に商用サービスが始まった。携帯電話は約10年ごとに進化してきたが、5Gの特徴は「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」だ。それらの機能のために、より周波数の高いミリ波を使い、アンテナは約100㍍おきに必要になる。

 

 携帯電話に使われる電磁放射線(高周波)は、「発がん性があるかもしれない」と国際がん研究機関(IARC)が2011年に認めているものである。がんの他にも、世界中で発表されてきた1万以上の査読付き論文が、「DNA損傷」「精子の数の減少・品質劣化」「認知機能障害」「学習・記憶障害」など、人間に対して悪影響を及ぼすことを実証している。

 

 特に5Gで使われるミリ波には、「催奇形性の影響による自然流産」「大部分の出生における自閉症」などのリスクがあると、生化学・基礎医学が専門のマーティン・L・ポール博士(ワシントン州立大学名誉教授)が指摘している。

 

・2つの市で条例制定の陳情
 5Gの展開・配置は人類・環境に対する実験だとして「5Gの一時停止」や「停止」を決めた国や、地方政府・自治体は世界には多い。「一時停止」の国はスイス、ナイジェリア、パプアニューギニア、ウクライナなど。

 

 地方政府・自治体では、ブリュッセル(ベルギー)(一時停止)、イタリアの600の自治体(停止)、イギリスの9つの地方議会(停止や拒否)、フランスのコルシカ島(停止)等々。アメリカでも多くの州が議会で「停止」を決議したり、5G基地局の設置を制限する条例を制定したりしている。

 

 日本でも、2020年に多摩市(東京都)と札幌市(北海道)で、5Gに関する条例制定の陳情が出された。

 

 2020年10月29日には2033筆の署名とともに、札幌市長に対して、「いのち環境ネットワーク」からの陳情「5G基地局設置に関する条例制定のお願い」が出された。同陳情は残念ながら不採択となった。理由は、「基地局開設の免許は電波法による国の事務。札幌市は設置を制限する条例を制定できない」というもの。

 

 ちなみに、陳情の内容は次の3点だった。
①情報公開と事前説明
 5G基地局を設置する際は事前に事業計画を広く周知し、説明会を開き、地域住民の声を反映してください。
②環境因子に敏感な人々の保護
 電磁波過敏症や乳幼児、妊婦、高齢者、病人など、電磁波の影響を受けやすい人を守るため、住宅地や子どもの通う施設(保育園、幼稚園、学校、遊び場など)、公共施設、病院、福祉施設周辺に5G基地局を設置することを禁止してください。
③公共交通機関での規制
 地下鉄駅構内やバス待合室などに5G基地局を設置しないでください。電磁波過敏症でもバスや地下鉄、市電を安全に利用できるよう、車内での無線通信機器使用を規制したり、電源オフ車両を設けてください。

 

・多摩市は陳情採択し、市議会議長・市長名で各通信事業者に要請文
 札幌市より約1カ月半前の2020年9月11日、「いのちと環境を考える多摩の会」が「5G基地局設置に関する条例制定に関する陳情」を多摩市市議会議長あてに出している。この陳情は採択された。陳情は、「以下の3点を盛り込んだ5G基地局設置を規制する条例を制定してください」というものだ。
①情報公開
 5G基地局を設置する際は、事前に事業計画を広く周知してください。また、設置した場合は5G基地局であることがわかるような表示をしてください。
②住民への説明会
 5G基地局を設置する前に必ず説明会を開き、地域住民の声を反映してください。
③環境因子に敏感な人々の保護について
 前出「いのち環境ネットワーク」の陳情②参照(同じ内容)

 

 多摩市の場合、同陳情の出される前の8月26日、市議会議長あてに市民のTさんからも次のような陳情が出されていた。「5Gアンテナの設置を携帯各社にやみくもに行わせないことを求める陳情」。

 

 そのため、2件の陳情はまとめて継続審議となった。その後、同年12月の定例会で引き続き審議され、2件の陳情はともに全会一致で趣旨採択となった。
 条例制定には至らなかったものの、2021年3月、多摩市は市議会議長と市長名で、陳情の内容を盛り込んだ要請文を各通信事業者に出した。

 

・電磁放射線環境の改善を常に提言
 「いのちと環境を考える多摩の会」は、これまでも多摩市に対して、以下のような働きかけをしてきた。

 

①基地局設置に関する政策提案(2014年)
 「通信事業者による、事前の地域での説明会を義務付けることにより、快適で安心して居住できる街つくりを目指すよう街つくり条例を改正すること」を議会に提案。条例改正は実現しなかったが、「携帯基地局の建設に係る要請に関する要綱」(2015年)ができた。内容は、市として通信事業者に、「周辺住民への事前周知」「市への事前報告」を要請するという内容だ。
②公共施設の無線LANについて(2016年)
 公共施設における無線LANの設置に対して、「無線LANの使用を災害時のみとすること」「市で独自に各施設の電磁波を測り公表すること」「図書館からルーターを撤去すること」などを求めた。その結果、「ルーターの場所の表示」と、「一部ルーターの場所を施設の利用者が少ないところに移動させる」ことができた。
③学校の無線LANについて(2018年)
 ICT(情報通信技術)教育を推進する教育委員会に対して、「学校内のタブレットの接続を無線ではなく、有線にしてほしい」「無線LANを使うときは、タブレット使用時のみの接続にしてほしい」などの要望書を出した。

 

 全国に先駆けた多摩市における5G規制の成功は、市民が「身近なところ」で、「何が問題なのか」「何ができるのか」を考え、「あきらめずに声をあげ続けた」ことの延長線上にあると言える。

 

「GIGAスクール構想」で進む電磁放射線汚染から子どもを守る

 

・「ソサエティ5・0」に向けた人材育成
 2021年4月から全国の公立小中学校で、児童生徒に1人1台のタブレット端末が配られた。これは国の「GIGAスクール構想」に基づくもの。GIGAとは、「Global and Innovation Gateway for All」の略で「すべての人にグローバルで革新的な入口を」という意味だ。

 

 同構想は、小中学校でのタブレットなど1人1台端末配備と、校内無線LANなどの高速ネット通信整備とを一体的に行うという政府の施策。初登場は2019年12月5日に閣議決定された「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」のなか。四年計画で、合計約4300億円が計上されている。これは、政府が目指す、5Gを基盤とする「ソサエティ5・0」(超スマート社会)に向けた財界主導の人材育成を行おうというものだ。2023年度末までの実現を目標にしていたが、コロナウィルス感染拡大のためリモート学習が取りざたされ、前倒しして実施された。

 

・不使用時にはアクセスポイントの電源停止などの配慮
 同構想によって、全国の学校で無線LAN整備が進み、子どもたちが学校で電磁放射線に被曝する環境が加速された。この状況に対して、電磁放射線被曝から少しでも子どもたちを守ろうとする取り組みがなされている。

 

 東京都新宿区では、よだかれん区議が一般質問(2020年9月定例議会)で「使用時以外は無線LANのアクセスポイントの電源を切るように」「ブルーライトから目を守るために、配る全ての端末にブルーライトカット・フィルムを貼るように」と、求めた。その結果、新宿区は、配るすべての端末にブルーライトカット・フィルムを貼ることを決めた。

 

 埼玉県日高市では、松尾まよか市議が一般質問(2020年9月定例議会)で、「教室のWi-Fiアクセスポイントと子どもとの間の距離をなるべく長くとるよう工夫すべきこと」「Wi-Fi通信を使用しない時間はアクセスポイントのスイッチを切ること」を求めた。これに対し市教育部は、「電磁波の影響が極力抑えられるよう、アクセスポイントの位置や、使用していないときはアクセスポイントを停止するなど配慮していきたい」と答弁した。

 

・健康被害の予防策を求める陳情書を教育長に
 前出の「いのちと環境を考える多摩の会」は2021年3月、多摩市の教育長宛てに次の陳情書を出した。「GIGAスクール構想実施に伴う健康被害の予防策を求めます」
 内容は次の7点だ。
①原則として、校内には有線LANのみを設置してください。
②①が困難な場合、無線LANを使わないときは、アクセスポイントの電源を切ってください。また、使わないときは切るように児童生徒に指導してください。
③アクセスポイントをできるだけ児童生徒から離れた場所に設置してください。
④無線LANの電磁波による影響がないエリアを校内に設置してください。
⑤無線LANのアクセスポイントがある教室とない教室、また児童生徒がタブレットを使用しているときと使用してないときで、電磁波の測定をしてください。
⑥児童生徒の電磁波過敏症に関する健康質問調査を、1人1台タブレットを使用する前後に実施してください。
⑦子どもの姿勢や視力など、成長の負担にならないようタブレットの使用方法を指導してください。

 

 この陳情は教育委員会で4回審議されたが、採択には至らなかった。しかし、「電磁放射線に敏感な子どもについては個別に対応する」などを付帯事項として獲得した。
 フランスでは、学校内の通信ネットワークは有線で、無線が必要なときは短時間だけオンにし、使用後はオフにすることなどが決められている。その他、イスラエル、オーストラリア、アメリカなど多くの国と地域で、学校の無線LANは禁止・制限されている。日本でも、子どもたちを電磁放射線汚染から守るため、早急に対策が求められている。

 

実家がある地域のスーパーシティ化を阻止したい

 

・実家のある地域がスーパーシティ構想に立候補
 2020年5月27日、「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案(スーパーシティ法案)」が成立した。この法案は、「スーパーシティ構想」の実現を目指すためのもの。
 同構想は、「人工知能やビッグデータ、情報通信技術を活用して、最先端の『丸ごと未来都市』を、複数の規制を同時に緩和して実現しよう」というものだ。全国で5カ所程度の地域を特区に指定する方針で、決定は今年10月以降の予定だ。

 

 応募申請が締め切られた4月16日までに、31の地方公共団体が応募している。
 スーパーシティに関しては、個人情報の流失、超監視社会の到来などが懸念されているが、ここで問題にしたいのは5Gを整備基盤とすることによる電磁放射線量の増加だ。
 電磁波過敏症の人にとっては、生存に係る問題となる。

 

 今年5月、大阪府に住む東麻衣子さんは、実家のある大阪府河内長野市南花台がスーパーシティ構想に立候補していることを知った。その提案書には、5G通信技術を活用することが明記されていた。

 

・「5G基地局設置条例を望む会」を結成し、市に要望書提出
 彼女は化学物質過敏症と電磁波過敏症を発症しており、自宅にスマートメーターが無断で設置されたときや、近隣で工事や農薬散布があるときは、実家のある南花台に子どもを連れて避難してきた。南花台は自宅に比べて電磁放射線の量が少なく、安心して身体を休めることのできる場所だ。

 

 しかし、提案書にあるように5Gが推進されれば、実家のあるエリアは著しく電磁放射線量が増える。東さんは実家に帰ることはできなくなり、両親も健康被害を受けることに。

 

 そのため、彼女は「5G基地局設置条例を望む会 大阪支部」を結成し、河内長野市の市長、河内長野総合政策部長など四名に対して、「5G基地局設置に関する要望書」を出した。その内容は、次の5点だ。
①当会代表の実家、周囲300㍍以内に5G基地局を設置しないこと。
②携帯基地局の設置を望まない住民へ配慮すること。
③5G基地局を設置する前に必ず説明会を開き、住民に周知すること。
④地域住民の声を反映し、設置した場合は5G基地局であることがわかるような表示をすること。
⑤市が上記の対策ができるよう、必要な条例等を定めること。

 

 東さんは河内長野市の市議Mさんの協力を得て、なんとしても実家のあるエリアのスーパーシティ化を阻止したいと活動している。自宅や実家、かかわりのある地域がスーパーシティ構想に立候補していないか確認し、目を光らせておく必要がある。

 

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