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五輪開幕とともにコロナ第五波が本格化 専門家「来月には都内感染者1万人超も」 デルタ株で若者の重症化リスク高まる

 新型コロナウイルスパンデミックによる緊急事態宣言下の東京都で23日、1年延期した東京2020五輪・パラリンピックが開幕した。開幕後はまるでコロナ禍などなかったかのように、メディアは連日、五輪競技の結果にアスリートの悲喜こもごもの物語を添えて報じ、非日常の熱狂を茶の間に提供している。だが、足元の東京都内では4度目の緊急事態宣言のもとでも感染の急拡大に歯止めがかからず、開幕前日から新規感染者数は2000人近くにのぼった。来月上旬には過去最多だった第三波のピーク(1月)を大きく上回る3000~1万人に到達するとの専門家の試算も出ている。「我々は犠牲を払わなければいけない」(バッハ会長)と豪語するIOC、五輪開催でコロナ失政からの起死回生を目指す自民党政府によって、文字通り「歴史的」となった東京五輪開幕とともに、コロナ禍は本格的な「第五波」に突入した。

 

 6 月半ばから増加を見せていた東京都内の新規感染者数は、五輪開会式前日の22日には1979人に達した。1900人をこえるのは1月15日(2044人)以来。23日現在の直近7日間の平均は1386人となり、前週比で146・5%となった【グラフ①参照】。24日現在の入院患者数は2638人で、重症者は74人。病床使用率は中等症病床で44%、重症病床で19%。ホテルを活用した宿泊療養施設も不足しており、陽性者のうち自宅療養者は5460人、入院・療養等調整中(自宅隔離)は2031人に膨れあがっている。

 

 感染者の年齢別割合【表②参照】を見ると、3月の集計では全体の26%だった60歳以上が、ワクチン接種の効果もあって7月には7%まで減少している一方、10~20歳代が3月の31%から7月には44%へ、30~40代も29%から38%へとそれぞれ拡大している。40代以下の若年層が感染者全体の8割以上を占めているのが、これまでにない特徴だ。

 

 若い世代へのワクチン接種が滞っていることに加え、これまで主流だったアルファ株(英国型)変異ウイルスから、より感染力が強く、若い世代でも重症化しやすいデルタ株(インド型)へと置き換わりが進んでいることが背景にある。

 

 国立感染症研究所は21日、民間検査機関6社による変異株スクリーニング検査の結果を発表し、デルタ株に見られる「L452R変異」の特徴を持ったウイルスが、東京都ではすでに64%にのぼり、7月末には80%、8月下旬にはほぼすべて置き換わるとの見通しを示した。首都圏に含まれる神奈川、埼玉、千葉の3県でも同様の変異株が61%を占めており、8月初めには80%、8月下旬にはほぼすべて置き換わると推測している。

 

 また、東京都でのワクチン接種状況は、65歳以上(24日時点)では1回目接種が81・92%、2回目接種が65・55%で、高齢者への接種はある程度進んでいる。高齢者の感染や重症化例が減少している状況から見ると、ワクチンの発症予防効果が保たれていることがわかる。だが、東京都の人口全体(18日時点)で見ると1回目接種は30・21%、2回目接種は18・14%にとどまっており、国のワクチン確保量が当初予定を下回り、若い世代への接種が進んでいないことが「第五波」を押しとどめられなかった要因と見られる。

 

 入院患者の年代別割合(19日時点)では、3月時点では全体の15%程度に過ぎなかった40代以下の入院患者が、7月には55%を占めており、これまでは無症状が大半といわれた若い世代に高熱や肺炎など重い症状があらわれるケースが増している。

 

 東京都の重症者数(東京都統計)の年代別割合を見ても、1月時点では60代以上が8割を占めていたが、7月には重症者全体の数は大きく減ったものの、患者の内訳では50代以下と60代以上の割合は拮抗している。

 

 デルタ株は、従来株よりも重症化しやすいアルファ株に比べて、より感染力が強く、重症化リスクが高くなるとされている。デルタ株で感染者が再拡大したイギリスでは6月下旬の政府統計で新規感染者の約7割を35歳未満が占め、アメリカでも若い世代の入院率が上がり、6月の死者の9割がワクチン未接種者だった。世界で最もワクチン接種が先行したイスラエルでは、6月下旬からデルタ株による感染が急増したが、ワクチン接種が3割にとどまる10代以下の感染者が全体の4割を占めている。

 

 すでにデルタ株がまん延しているスコットランドでも、デルタ株はアルファ株よりも重症化リスクが2倍にのぼることが報告されており、ワクチン接種の進捗状況によって感染状況にも差が生まれている。

 

ワクチン未接種者の入院増 医療機関は危機感

 

 菅首相は21日、感染拡大中に五輪を開催することで「国民の生命を守れるのか?」と記者に問われ、「それは守れる。重症化の一番多いといわれる高齢者の感染者は4%を切っている。ワクチンの効果が出ている」と開き直ったが、若者は高齢者に比べて重症化しにくいというだけで、依然として重症化や後遺症のリスクは残り、「安全・安心」といえる状態ではない。

 

 東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授らの若手研究チームは、デルタ株特有の「P681R」変異が、従来型よりも感染細胞がくっつきやすい性質があるため、重症化しやすく、肺機能を低下させる力が高いという実験結果を発表している。

 

 米国科学誌『Cell Host & Microbe』オンライン版(6月14日)に発表された研究結果では、「L452R変異は、日本人に多いHLA-A24による細胞免疫から逃避するだけでなく、ウイルスの感染力を増強しうる変異であることから、この変異を持つインド株(デルタ株)は、日本人あるいは日本社会にとって、他の変異株よりも危険な変異株である可能性が示唆される」と結論づけた。

 

 東京都医師会の猪口正孝副会長は15日の都モニタリング会議で、「若年・中年層でも中等症患者が一定割合いて、重症化することもある。重症者の増加は医療提供体制の逼迫を招くため厳重に警戒する必要がある」と指摘した。また20日には「中等症の患者をみている医師と重症患者をみている医師は重なっているため、重症患者も増えると非常に厳しくなる。医療側は、第三波の前の去年12月半ばをイメージするくらいの恐怖感を持っている」と危機感を示した。

 

 東京都内では、基礎疾患がない中年層でも短期間で容態が悪化し、人工呼吸器が必要になるほど重症化する例があいついでおり、医療関係者は「若いから重症化しない、発症しないというのは従来株での認識であり、過去の話だ」と警鐘を鳴らしている。

 

 国立国際医療研究センター(東京都新宿区)では、7月上旬から入院依頼が急増し、20日時点で確保病床の7割が埋まり、30~50代が入院患者全体の7割を占めた。センターの医師は「若い人でも特に肥満の人などが重症化しているケースが見られる」とのべており、「ワクチン未接種の人や接種直後の(免疫ができていない)人たちが入院患者の多数となっている。『ワクチンは信用できない』『マスクや手洗いは意味がない』『会食しても大丈夫』といったことをSNSで見聞きし、実際に行動に移してしまって感染する人が後を絶たない」と現状を訴えている。

 

 感染症専門医の忽那賢志氏(大阪大学医学部附属病院)によると、新型コロナ感染症は、発症してから1週間ほどは風邪のような軽微な症状が続き、約8割の人はそのまま治癒するが、約2割弱と考えられる重症化例では、1週間を前後して徐々に肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が悪化して入院に至る。デルタ株では治療にかかる時間が従来より長引くため、感染が広がると急速度で医療逼迫に陥る可能性がある。

 

 特に倦怠感や呼吸苦、関節痛、胸痛などの症状が続く例が多くみられ、その他にも、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢などさまざまな症状が報告されている。

 

 また同医師は、感染後遺症として、急性期にはみられなかった脱毛、記憶障害、睡眠障害、集中力低下といった症状が後から出てくることにも触れ、「今のところこの後遺症に対する治療法はなく、新型コロナに罹らないことが最大の予防法」と注意を喚起している。

 

 長崎大学大学院教授の森内浩幸氏(小児科学、日本ワクチン学会理事)も日本学術会議シンポジウムで、ノルウェーからの報告として、自宅隔離された(軽症の)新型コロナ患者のうち、16~30歳までの若年層の52%で、味覚障害と嗅覚障害の両方かいずれか一方、または倦怠感、集中力低下、記憶障害などの後遺症が見られたことを紹介。「新型コロナウイルス感染者の脳では、味覚・嗅覚にかかわる部位の灰白質が破壊されるため、これらの後遺症が長期に及ぶ恐れがある」と警戒を呼びかけた。

 

 また、米国医師会が発行する『JAMA Cardiology』誌オンライン版(5月27日付)では、新型コロナに罹患したすべての米国アスリートを対象にした心臓MRI検査(CMR)の結果として、37例(2・3%)が臨床症状を有する心筋炎または無症候性心筋炎と診断されたと報告している。アスリートの突然死の主な原因とされている心筋炎が、新型コロナ感染によって発症することが実証されており、パンデミック中の五輪開催がいかに無謀なものであるかを示唆している。

 

地方にも広がる恐れ  ワクチン供給は滞り

 

 政府分科会の尾身茂会長は20日、東京都の新規感染者数が、8月の第1週には過去最多の「第三波」のピーク(1月7日、2520人)を大きく上回り、1日当り3000人近くまで増加するとの見通しを示した。ワクチン接種が進んだとしても「このままのスピードで感染が広がると、医療の逼迫がまた起きてくる可能性が極めて高い」と警鐘を鳴らしている。

 

 21日に開かれた厚労省の感染症対策専門家会合では、京都大学の西浦博教授が東京都の感染予測について試算結果を発表。現状では1日当りの感染者の増え方が、前週比1・5倍だが、試算ではそれより少ない1・3倍で推移したと仮定して、8月7日には3000人をこえ、同月21日には5235人にのぼる結果となった。前週比1・5倍の状況が続けば、8月中旬以降は1万人前後となる。

 

 実際に7月以降の東京都の感染状況は、専門家たちが早くから予測した通りに推移している【グラフ③参照】。厚労省クラスター対策班メンバーでもある京都大学の古瀬祐気准教授(ウイルス学)による感染シミュレーション(7月1日時点)でも、デルタ株の影響が大きく、緊急事態宣言を出したと仮定して、7月末までには新規感染者は2000人をこえ、8月中旬には4000人を上回るとしている。

 

 ワクチンの接種スピードが上がったとしても十分な免疫ができるまで2週間~1カ月かかるため、接触機会や人流が増すことを考慮すれば必然的に感染者数は増えていく。五輪開催強行によってお祭り騒ぎを醸成し、緊張の糸が切れることが、「第五波」の引き金になることは早くから専門家が指摘してきたことでもある。

 

 人や物の出入りが多い東京で感染者が増えれば、その影響が時間差で地方に広がることはすでに経験済みであり、ワクチン供給が滞る現状が解消されなければ、「東京の現在は明日の地方」ということになりかねない。

 

 菅首相は17日、希望する人へのワクチン接種を「10~11月の早い時期」までに終えるとの見通しを示したが、9日にワクチン担当の河野太郎大臣が1日当り140万回程度となったファイザー製ワクチンの接種スピードを120万回程度に抑制するように各自治体に要請したばかりだ。

 

 大規模接種や職域接種で使っているモデルナ製ワクチンも、当初は6月までに4000万回分が供給できるとしていたが、各国の需要逼迫で5月上旬には輸入量が1370万回分に激減。それでも五輪開催を政治目標とする政府は「1日100万回接種を」と各自治体の尻を叩いていた。

 

 政府はワクチンの需給が逼迫した原因は「市中に4000万回分の在庫が眠っている」(河野大臣)ことにあるとして、「ワクチン記録システム(VRS)」で在庫が余っている市町村の配分量を1割削減する方針を示した。これにより一部の自治体では、2回目の接種用として保管していた在庫が「余剰分」とみなされて供給を絞られるなど、各地で混乱が起きている。

 

 県庁所在地などの主要都市の7割が予約や接種の停止、制限に追い込まれており、50代以下に至っては予約開始の見通しさえ示されていない自治体もある。

 

 政府は九月末までにファイザーから1億7000万回分、モデルナから5000万回分の供給を受けると発表しているが、世界的な需要逼迫が続いているうえに、政府の交渉窓口はワクチンメーカーではなく代理店ともいわれており、先行きの不透明感は拭えない。

 

選手やスタッフ感染150人超  世界に広げるリスクも

 

 東京五輪・パラリンピックでは、選手や関係者の行動範囲を限定する「バブル方式」が早期に崩れており、選手や関係者の新型コロナ陽性者もすでに150人をこえた。海外選手は14日間の隔離を経て、競技直前のPCR検査で新型コロナ陽性となって出場ができなくなったり、濃厚接触者として感染の疑いが拭えないまま競技に出場するケースも出ており、ワクチン接種など各国事情の差が出る形となり、「アスリートファースト」「フェアプレー精神」といった五輪の原則は霞む。

 

 五輪などの大規模イベント開催は、集団災害医学会では「マスギャザリング」(一定期間に特定の場所に多数の人々が集まること)と呼ばれ、感染症のアウトブレイクを引き起こしやすいためパンデミック下ではタブーとされる。世界200カ国から選手だけで1万5000人が集まる東京五輪の開催は、世界中の変異株を東京に持ち込むことになり、五輪を契機にして変異株を世界に広げるリスクもつきまとっている。「スポーツの力で世界に感動を与える」「トンネルの先の光を示す」(バッハ)というよりも、見ている側が選手の感染を心配しなければならない現状だ。

 

 これまで感染防止の観点から、「密を避けろ」「大勢で集まるな」「不要不急の外出を控えろ」「酒を出すな」といっていた政府や東京都、メディアも、IOCやスポンサー企業の営利や、みずからの政治生命がかかわる五輪が開幕すると、部活動や修学旅行まで制限している子どもまで動員して非日常のお祭り騒ぎを演出し、父母や教育関係者、医療従事者を唖然とさせている。

 

 「多様性と調和」をテーマにしながら、医療関係者や専門家の意見を封殺し、大多数の生命を危険に晒して突入した東京2020が、世界にどんなメッセージを発し、1カ月後の閉幕までにどんな置き土産を残すのか――。多くの人々にとっては、金メダルでは解消されない深刻な事態が続いている。

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