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ふざけた公金つかみ取り五輪 電通と組織委がグルの犯罪 特捜部は森喜朗を逮捕せよ

 東京オリンピック・パラリンピック開催をめぐって、昨年末、大会組織委員会や広告最大手・電通、その他広告大手やイベント会社が絡んだ談合事件が発覚した。この問題が明るみに出て以降、東京地検特捜部や公正取引委員会が珍しく捜査を展開してきた。そして2月末には談合を主導した電通をはじめ関係企業6社と、組織委元次長を含む関係者7人が独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで刑事告発され、その後起訴された。独禁法違反で広告業界が刑事処分を受けるのは初めてのことだ。東京オリンピックをめぐっては、大会が開催されて1年半以上が経過してもなお、不正が次々と明るみに出て、日本は世界に恥をさらし続けている。それでもなお性懲りもなく2030年の札幌オリンピック招致を進めている。「平和の祭典」や「選手ファースト」など忘れ去られ、巨額の公費に一部企業が群がる「汚れたちの祭典」と化した現実が浮き彫りとなっている。

 

入札は形だけで利権の山分け

 

 今回の談合事件が明るみに出たのは昨年11月、広告会社大手の「ADKマーケティング・ソリューションズ」(旧アサツーディ・ケイ)が、同大会のテスト大会をめぐる入札で不正があったことを公取委に自己申告したことがきっかけだった。入札談合やカルテルの違反について一番最初に自己申告した場合、「課徴金減免(リーニエンシー)制度」によって課徴金や刑事告発を免れることができる。ADKが処罰を免れるために「抜け駆け」したような格好でこの問題が発覚し、本格的な捜査が始まった。

 

 この談合事件は、組織委が2018年5月以降に発注した各競技のテスト大会や本大会の運営業務について、競争入札がおこなわれるよりも前に受注予定業者を談合によって決定していたことが問題になっている【図①参照】。この事業の受注をめぐり、組織委の窓口となる「マーケティング専任代理店」だった電通が、組織委と連携して受注各社の応札意向を確認し、受注候補をまとめた一覧表を作成。各社の受注意向も伝達するなど、談合を主導していた。

 

 この問題で、まず2月8日に4 人の逮捕者が出た。テスト大会の計画立案支援業務について、発注をとり仕切る立場だった組織委大会運営局元次長の森泰夫容疑者と、電通で入札関連業務を担当していた同社元幹部の逸見(へんみ)晃治容疑者、さらにイベント制作会社セレスポ専務の鎌田義次容疑者、同じくイベント制作会社フジクリエイティブコーポレーション専務の藤野昌彦容疑者の4人だ。

 

 この逮捕によって、組織委と電通がグルになって談合を主導し、そこへ事業受注企業も身を乗り出していた構図が確かなものとなった。森元次長が組織委内で発注方式などを議論するさい、電通からの出向者が度々同席しており、電通側の逸見氏は、出向者を通じて事業者側から聞きとった応札に関する意向を把握・共有していた。

 

 さらに公取委は2月28日、この談合に関わっていた広告最大手の電通グループ、業界2位の博報堂、東急エージェンシー、イベント制作会社のセレスポ、フジクリエイティブコーポレーション、セイムトゥーの6社を法人として刑事告発した。また、各社の幹部に加え組織委の森元次長、電通幹部の逸見氏など計7人も刑事告発した(いずれも独占禁止法違反の疑い)。これを受けて特捜部は同日、6社7人を起訴した。

 

 東京地裁は今月1日、起訴された組織委の森元次長と電通幹部の逸見晃治について、保釈を認めた。2月28日に起訴されていた両被告はいずれも起訴内要を認めている。保釈保証金は森被告が1000万円、逸見被告が700万円で、いずれも即日納付された。だが、同じく逮捕・起訴されているセレスポとフジクリエイティブコーポレーション側は、関与を否定している。

 

電通と組織委が談合画策 発注者と受注者が一体

 

 捜査が進展するなか、テスト大会計画立案業務をめぐる入札が、実際には大会組織委と電通が主導した「出来レース」であったことが改めて浮き彫りになった。具体的な談合の内容は以下のようになっている。

 

 談合がおこなわれたとされるのは2018年だが、その2年前の2016年にはすでに、組織委に出向中だった電通幹部職員が、大会運営業務の発注見通しなどについて情報共有するための会議を電通社内でおこなっていた。その会議のプレゼン資料には、「入札を有名無実化して電通の利益の最大化を図る」などと記されていたことも明らかになった。入札の有名無実化――つまり、名目上「入札」という形が存在するだけで、実際にはなんの意味もない見せかけのものであり、最初から裏で話をつけて出来レースをおこなうつもりだったということだ。こうして電通は組織委と手を組み、談合を画策していった。

 

 その後さらに電通は組織委内部に食い込んでいく。2017年に電通は組織委の上層部から、マーケティング専任代理店としての報酬を、経費削減のために50億円ほど削減したいとの提案を受けた。しかし電通は「マーケティング専任代理店契約をほごにする屈辱的要求だ」として自社への報酬削減を断っている。そのかわりに大会運営業務の委託で経費削減が可能とし、電通社員によって構成された「対策事務局」を組織内に設置し、「競技ごとに運営実績のある業者に効率良く割り振って委託費を安く抑える」という旨の提案書を提出している。

 

 結局組織委は対策事務局の設置は断ったが引き続き電通にサポートを求め、この時期から電通と組織委は各社の希望を探り、割り振った一覧表の作成に着手している。組織委内には、電通が集めてくるスポンサーとの契約業務や、ライセンスの管理などを担当するマーケティング局があり、306人が在籍していた。この部署には東京都や企業からの出向者もいたが、なんと3人に1人に当たる110人が電通からの出向者だった。さらに、局長や部長などの幹部も電通からの出向者がほとんどだった。

 

 その後2018年に問題の「テスト大会実施計画立案業務」についての業務発注がおこなわれ、同年5~8月に計26件の一般競争入札が実施された。だがそれは表向きの名目にすぎず、このときすでに一覧表が作成・共有され、これにもとづいてそれぞれの事業が落札された。同年3月には、森元次長が組織委の上司に一覧表を見せたさい、「電通が多い」「電通びいきの入札条件だと批判される」といわれ、電通の受注予定件数が減らされたともいわれている。それでも最終的に電通は最多タイの5件を落札している。このように電通は、テスト大会実施計画業務の受注者という立場でありながら、発注者である組織委に多くの出向者を送り込んだうえで、平然と「電通の利益最大化」のために暗躍していたのだ。

 

 この間の談合事件をめぐる調査のなかでは、電通と組織委双方に了承を得なければ入札に参加できなかったことや、談合に向けた調整がおこなわれていたことが明らかになっている。例えば2018年4月に入札の実施が公表された「東京国際フォーラム」など4件について、広告大手「東急エージェンシー」など4社を落札予定企業とするよう調整していた。電通と組織委はその後も案件が公表されるたびに各社の合意をとり付けていき、同年8月までに実施された入札計26件の大半が競争なき「一社応札」だった。

 

 受注企業のなかで電通と並んで最多タイの5件を受注したセレスポは、当初の予定になかった会場を希望するさい、そのことを組織委の森元次長に伝達していた。さらに電通側の逸見氏にも面談して希望を伝え、その結果を森元次長にメールで報告していた。

 

 また別の企業の担当幹部は特捜部などに「組織委と電通の双方に了承を得ないと入札には参加できなかった」と供述している。こうして組織委と電通が各社から事前に報告を受け、了承する形で受注調整がおこなわれていた。

 

企業側の言い値が横行 増える随意契約

 

 さらに、談合があったとされる2018年度から2021年度までに組織委が結んだ契約のうち、「特命随意契約」の件数が競争契約の約1・5倍に及んでいた。特命随意契約では、1社のみからの見積額を基準に金額を決める。つまり受注企業側の「言い値」が強くなり、落札額が相場より高くなる。このように談合に加わった企業は、競争入札とは名ばかりの「公金つかみどり談合」によって特命随意契約を勝ちとり、まったく競争なく受注額を好き放題につり上げて暴利を貪っていたのである。その証に、全体の落札結果は事前に作成されていた一覧表とほぼ一致していたという。

 

 今回問題になっている談合事件は、9社と共同企業体1社が26件の案件を分け合い、総額約5億3800万円の「テスト大会計画立案などの業務」を不正に受注しただけの話ではない。これらの企業は計画立案業務以降におこなわれるテスト大会の実施業務や、本大会の運営業務まですべてを「特命随意契約」という形でまとめて請け負っていた。1社のみの見積もりによって発注するため、企業側の言い値でいくらでも受注価格がつり上げられる状態にあった。今回の談合事件をめぐり、公取委はその規模を約437億円と認定している。当初、本大会の運営まで含めた業務の総額は192億円と公表されていたが、捜査の結果その規模は2倍に膨れあがった。

 

 今回の談合事件だけに限らず、東京オリンピックをめぐって組織委が結んだ契約には、随意契約が多すぎることも問題になっている。談合があったとされている2018年度から大会が閉幕した2021年度までの契約では、特命随意契約の件数が競争契約の1・5倍に及んでいた。本来会計法では、国などが結ぶ契約は競争契約が原則で、例外として随意契約をおこなうとされている。こうした組織委のずさんな予算執行、財政管理のもとで、入札において不正が横行し、特命随意契約を頻発させたことで五輪経費全体が膨らんでいったこともおおいに問題にしなければならない。そして、これらの契約のなかに、いくつもの不正な談合や汚職などの汚れたカネの動きがあった形跡が潜んでいてもおかしくはない。

 

電通絡みの贈収賄事件 スポンサー契約巡り

 

 今回の談合事件についての捜査よりも早く、公取委は昨年夏からオリンピックのスポンサー契約をめぐる贈収賄問題について捜査を進めてきた【図②参照】。ここでも、大会組織委と電通がズブズブの関係で繋がっていたことが明らかになった。そのパイプ役として暗躍していたのが、大会組織委元理事であり、電通OBの高橋治之容疑者だ。高橋元理事には、いくつもの企業が大会スポンサー契約に有利なとり計らいを受けるために多額の賄賂を渡し、高橋元理事は贈賄企業にスポンサー契約が決まるよう、組織委に働きかける役目を負っていた。

 

 こうした一連の贈収賄事件をめぐり、高橋元理事は計4回逮捕されている。最終的にこの汚職事件では、収賄側3人、贈賄側12人が起訴されることとなった。

 

 また、AOKI ホールディングスの青木前会長は、当時大会組織委会長だった森喜朗氏にも「がん治療の見舞金」として200万円を手渡している。スポンサー選定などをめぐる権限は森喜朗氏に集中しており、本人も「スポンサー決定は、理事会の決議により会長の私に一任されていた」とのべている。スポンサー探しや交渉、電通とのやりとりなどは、高橋元理事や組織委職員がおこない、森喜朗氏が了承する関係だった。

 

森喜朗

 電通OBの高橋元理事が贈収賄をめぐる中心人物であったことは間違いないが、こうした汚れたカネの動きを、当時組織委会長だった森喜朗がまったく知らなかったというのは無理がある。青木前会長から受けとった200万円についても、会長の職務に対する便宜への対価として受けとったとなると、収賄罪、受託収賄罪に該当する可能性もある。昨年末から、公取委や特捜部が本腰を入れた捜査を展開しているなかで、界隈では「狙いは電通や森喜朗」だともいわれていたという。今回、電通は談合事件をめぐって幹部が逮捕・起訴され、法人としても刑事告発・起訴されている。特捜部が今後「本丸」の森喜朗まで切り込むかどうかも注目されている。

 

被害者面する国や都 大会開催の資格あるか

 

 オリンピック談合事件をめぐり、岸田首相は1日、文部科学省など14府省庁が電通、セレスポ、フジクリエイティブコーポレーションの3社に対して入札参加資格を停止する措置をとったと説明した。指名停止期間は先月15日から9カ月間としている。

 

 また、文部科学省は3日、談合や汚職事件に絡み、博報堂、東急エージェンシー、セイムトゥー、KADOKAWA、ADKマーケティング・ソリューションズ、サン・アロー、大広の7社に対し、指名停止措置をとると決めた。指名停止期間は今月6日から9カ月間で、大広のみ6カ月間。

 

 東京都も2月28日付で、広告会社の博報堂、東急エージェンシーとイベント制作会社のセイムトゥーを指名停止とした。都はすでに電通、フジクリエイティブコーポレーション、セレスポの3社は指名停止としているため、今回の談合事件で起訴された6社すべてが指名停止となった。

 

 東京オリンピックをめぐる談合や汚職に対して、国も都もJOCもまるで被害者、他人事のようなスタンスだ。もちろん談合をおこない、不正に巨額の公金を手にした広告大手やイベント会社に対しては、徹底的に今後も追及が必要だ。組織委会長の森喜朗まで汚れきったオリンピック絡みの疑惑は、このさい膿を出し切ることが求められる。

 

 だが、電通をはじめとした一部企業の好き放題を罰するだけで良いのか。談合や汚職に関わった企業に対し一定期間入札停止するだけの罰則を課せば許されるのか。電通社長はこのたび、役員報酬3割を6カ月返上すると公表したが、これで幕引きとなるのか。談合や汚職などを許した組織委、ひいては招致した国の責任も問われてしかるべきだろう。

 

 そもそも2013年に、IOC総会で安倍元首相が福島原発事故の影響について「アンダーコントロール」といって世界を欺き五輪招致を強行したのに始まり、エンブレム盗作問題や、国立競技場デザイン変更、ブラックボランティア問題など開催前から問題続きだった。コロナ禍で1年延長してまで開催した本大会は、汚職と談合によって汚れまくった「公金つかみどり大会」と化し、大会から1年半以上が経過してもいまだに日本は世界に恥をさらし続けている。

 

 大会組織委とは名ばかりで、大会運営のノウハウなどなにもなく、裏を返せば「電通頼み」でしか実務が前に進まなかったことも指摘されている。こうしたなかでなし崩し的に電通の好き放題が横行したともいえる。そもそも日本に大会を招致し開催する資格があったのか、改めて問われなければならない。

 

 東京オリンピックは、2013年の招致段階には「世界一コンパクトなオリンピック」と銘打ち、当初の関連予算は7340億円だった。しかし、終わってみれば、昨年12月の会計検査院による報告では1兆6989億円。さらに首都高速道路の整備費など関連経費が約2兆円かかっており、これらを含めれば約3兆7000億円と、当初の約5倍にまで膨れあがっている。打ち出の小槌を振るがごとく公金をジャブジャブ投入したあげく、その金は電通を頭とする一部の大手広告代理店やイベント会社へと集中していった。

 

 リオデジャネイロオリンピックの閉会式で東京大会をPRするため、安倍晋三元首相がスーパーマリオの格好をして土管の中からサプライズ登場したあのシーン。わずか8分間のセレモニーにかかった費用は11億2000万円にものぼるが、このうち8億円は東京都が支出している。

 

 これらはあくまで大会開催にかかった費用の話だが、これから先も競技場などの維持費は別にかかる。国立競技場は、昨年度だけで維持管理費などで約13億円の赤字、さらに、土地の賃借料は約11億円だ。この先もすべて、このような「負の遺産」に税金が費やされていくことになる。

 

 オリンピックをめぐって、想像を遙かにこえる腐敗が横行しており、巨額の公費に群がる一部企業が暴利を貪る構図が浮き彫りとなっている。膿を出し切るまで徹底的な捜査が求められるが、同時に「そこまでしてオリンピックが必要なのか?」という疑問は尚更深まるばかりである。

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