いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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米中覇権争いに巻き込むな 南西諸島要塞化計画の背景 海を挟んで高まる緊張

 バイデン大統領と菅首相が日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した共同声明を発表し、米国が日本を「台湾有事」に動員する方針を明らかにした。「台湾問題」を巡っては、これまで「台湾は中国の一地域」との見方が国際的な基本評価であり、国連も「中国の内政問題」と見なし、外からの介入は避けてきた。だが米国は中国と国交を結びつつ、台湾にも軍事支援をおこなう二重外交を続け、ことあるごとにアジア地域で軍事介入する機会をうかがってきた。その延長線上で米国は米中間の覇権争奪のただ中に日本を「火付け役」として引きずり込み、「台湾有事」の矢面に立たせようとしている。かつての戦争の惨禍をまた米国の尻馬に乗ってくり返させるのか、厳正な判断が迫られている。

 

 米国のバイデン政府は登場後、異常なほど日本を「厚遇」した。初となる外務・防衛閣僚の外国訪問先に日本を選び、大統領初となる対面会談相手にも菅首相を選んだ。それは米国の世界覇権を脅かす中国牽制に日本をどこまで引きずり込むかが米国にとって最重要問題だったからだ。

 

 そのため新政府発足からわずか2カ月後という異例の早さで開催した日米外務・防衛担当閣僚会合(2+2)の共同声明で、中国を名指しで非難した。そして「中国による既存の国際秩序と合致しない行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起している」「ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対する」とのべ、中国の海警部隊に武器使用を認める海警法について「深刻な懸念」を表明した。さらに「日米は現状変更を試みる、あるいは尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとする、いかなる一方的な行動にも引き続き反対する」とし、「日本防衛」のために米国が「核を含むあらゆる種類の能力」を動員することにも言及した。この2+2を受けて日米両政府は、年内にも「尖閣諸島に外国の武装勢力が上陸・占領する」と想定した日米共同訓練を尖閣周辺で実施する準備に着手した。国内メディアも連日、尖閣問題や海警法問題を煽った。

 

 だが日米首脳会談が近づくにつれて尖閣問題や海警法の報道は減り、共同声明で台湾をどう扱うかに焦点が変わっていった。そして今月16日の日米首脳会談で発表した共同声明では「国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した」「日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する」とのべ、再度中国を名指しで非難したうえ、「抑止」力の行使に言及した。さらに「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と主張し「台湾有事」に日米が軍事介入する意図を明確にした。

 

 台湾問題をめぐっては1945年に、当時台湾を占領・統治していた大日本帝国が第二次世界大戦で無条件降伏して以後、一貫して「中国の問題」として扱われてきた経緯がある。中国革命をへて1949年に中華人民共和国が成立した後、旧中華民国政府が米国の後押しを受けて台湾に立てこもり「こちらが本当の中国だ」と主張したため、何度も中台間で軍事緊張の危機に至った経緯はある。だが中国側の主張、台湾側の主張の違いは当事者間で解決する以外になく、中国の内政問題であることは明白だ。

 

 国際的には1971年の国連総会で「中国招請・台湾追放」を可決し、中華人民共和国を中国として認め、国連復帰を決定している。日本も1972年に中国と国交を正常化し台湾とは断交している。米国もベトナム侵略戦争に敗北するなか、中国封じ込めから「関与政策」に転じ、1979年には「一つの中国」を承認し中国と国交を正常化している。

 

 こうした事情もあり、日本が1972年に中国と国交を正常化して以後の日米首脳間文書では、台湾問題に言及していない。2005年の日米安全保障協議委員会による共同発表で「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」と記述したが、このときも「対話」による解決を促すという表現にとどめ「抑止」力の行使には言及しなかった。

 

 ところが今回の日米首脳会談共同声明はこうした歴史的経緯やこれまでの対応を転換し、日米が共同で台湾問題に介入する意図を明確にした。これは尖閣諸島、竹島、北方四島等の領土問題で日本政府が主張してきた「国防」の建前すら投げ捨て、「台湾有事」や「対中国有事」に踏み込んでいくことを意味する。同時にそれは「国防」とは無縁の「他国を侵略する戦争」に自衛隊を動員し、日本に対中戦争の「火付け役」を担わせる方向である。

 

島嶼部にミサイル部隊

 

 こうした動きに先駆けて中国も米国も日本を挟んで主要軍事基地を置いてきた【米軍と中国軍の主要基地配置図参照】。中国は北から旅順、青島、寧波、福州、湛江、楡林等海岸線の都市に軍事拠点を配置している。米軍は最前線の第一列島線上に岩国、佐世保、沖縄等の軍事拠点を配置し、第二列島線上には三沢、横須賀、厚木、座間、グアム等の軍事拠点を配備している。

 

 

 しかし米軍の地上戦要員はたび重なる戦争で犠牲があいつぎ、人員は不足している。さらに米国の国家財政は戦費がかさみ、火の車になっている。そのため海外の米軍基地再編に着手し、約30年前に217万人(1987年)いた米軍の総兵力を85万人減らしている。したがって現在の米軍の総兵力は約132万人(陸軍=47・3万人、海軍=33・4万人、空軍=32・8万人、海兵隊=18・6万人、2019年末)で、このうちアジア太平洋方面に配備している米軍兵力は13・2万人(陸軍=3・6万人、海軍=3・9万人、空軍=2・8万人、海兵隊=2・9万人)にとどまっている。

 

 米軍は戦闘機を1万3000機保有し、核兵器も5800発(2020年1月)保有しているため、空軍の爆撃能力やミサイル攻撃力では中国を凌ぐと見られている。しかし地上戦要員が圧倒的に不足しており、地上戦をたたかう力はない。また空爆で国家機関を破壊しても、その後、統治する力はない。それはアフガニスタンやイラクに仕掛けた侵略戦争後の結末を見れば明らかである。

 

 他方、中国の軍事予算は年々増えており、総兵力は約204万人(このうち陸上兵力は98万人)に及んでいる。陸上戦力(戦車=6200両)、海上戦力(艦艇=750隻、空母や駆逐艦=90隻、潜水艦=70隻)、航空戦力(作戦機=3020機、近代戦闘機=1080機)の装備増強は著しく、核兵器の数は320発に達している。人口が約14億人おり、兵役も2年あるため兵役経験者も多い。中国の軍事力の特徴は、最終的な勝敗を決する地上戦要員が米軍より圧倒的に多いことである。

 

 こうしたなかで米国が着手したのは、同盟国の兵員を総動員できるようにし、中国に対峙させるという軍事戦略だった。日本に対しては約23万人規模の自衛隊を米軍が直接指揮するため、自衛隊と米軍の司令部を一体化した。米軍再編計画で首都圏に陸・海・空軍の米軍司令部を配置し、そこに自衛隊の陸・海・空部隊司令部も移転させた。

 

 そして2015年の「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)改定で、「切れ目ない日米協力」や「地球規模での日米協力」を可能にし、自衛隊がいつでもどこでも米軍と共同作戦を実施する態勢を整えた。同時に「日本に対する武力攻撃への対処行動」について自衛隊と米軍の役割を定め、①空域防衛作戦、②弾道ミサイル攻撃対処作戦、③海域防衛作戦、④陸上攻撃対処作戦、については自衛隊が「主体的」に軍事作戦を担い、米軍が「支援及び補完する作戦」を担うことを規定した。それは自衛隊を軍事衝突の前面に押し出して陸・海・空・弾道ミサイル対処作戦を担わせ、米軍はミサイル攻撃や空爆で「自衛隊の作戦を支援・補完する」という内容だった。この日米ガイドラインに基づき、「尖閣有事」や「台湾有事」にむけた軍事配置を本格化させた。

 

 そして真っ先に手を付けたのが第一列島線上の米軍岩国基地~沖縄基地間に位置する九州地域と、沖縄から台湾を結ぶ南西諸島だった。2016年以後の主な自衛隊新編の動きは次のような流れになっている。

 

【2016年】
▼空自第九航空団新編(那覇)
▼陸自与那国沿岸監視隊新編(与那国)
【2017年】
▼空自南西航空方面隊新編(那覇)
▼空自南西航空警戒管制団新編(那覇)
【2018年】
▼陸自水陸機動団新編(長崎・相浦)
【2019年】
▼陸自奄美警備隊新編等(奄美)
▼陸自宮古警備隊新編(宮古島)
【2020年】
▼空自警戒航空団新編(浜松)
▼陸自第七高射特科群移駐(宮古島)
▼陸自第三〇二地対艦ミサイル中隊新編(宮古島)

 

 

 その結果、台湾や尖閣諸島のすぐそばにある与那国島(沖縄県)では2016年から陸自沿岸監視隊約160人と空自移動警戒隊を配備し、戦闘機も艦船も捕捉できるレーダーで監視する態勢になった。さらに陸自ミサイル部隊を宮古島(沖縄県)に約800人、石垣島(沖縄県)に約600人、奄美大島(鹿児島県)に550人配備し戦闘態勢をとっている。南西諸島近辺は米国の思惑通りに自衛隊ミサイル部隊の拠点と化しており、それが軍事緊張を高める一因にもなっている。

 

殴り込み要員に自衛隊

 

 同時に米軍岩国基地の攻撃力強化と連動して、九州地域の軍備増強に拍車がかかっている。
 米軍岩国基地は2010年に「沖合移設」と称して増設した滑走路(2440㍍)の運用が始まり、滑走路二本体制へ移行している。さらに普天間基地からの空中給油機15機移転(2014年)、厚木基地からの空母艦載機59機移駐(2018年)を経て、現在は垂直離着陸可能なステルス戦闘機F35Bを追加配備する計画も動いている。岩国基地は現在、米軍関係者約1万200人、軍用機約120機と2500㍍級滑走路二本を擁する巨大基地となり、原子力空母、大型強襲揚陸艦、ヘリ空母などを本格展開する拠点に変貌している。

 

 この岩国基地増強と連動して米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)基地を馬毛島(鹿児島県西之表市)に建設する計画が動き出し、地元自治体や住民との攻防が激化している。

 

 FCLPは空母艦載機が陸上滑走路を空母甲板に見立てて離着陸を繰り返す出撃前訓練で、馬毛島に計画する基地は米軍パイロットの出撃基地である。現在のFCLPは東京から約1200㌔㍍離れた硫黄島で実施していたが、馬毛島に変わると岩国から約400㌔㍍になり、台湾方面へも出撃しやすくなる。そのために日米政府は地元住民の意志を無視して建設を強行しようとしている。

 

 さらに空自築城基地(福岡県築上町)と空自新田原基地(宮崎県新富町)を「普天間基地並み」に増強する計画も動いている。築城基地は現滑走路(2400㍍)の海側を約25㌶埋め立て、普天間基地の滑走路と同じ2700㍍(約300㍍延伸)にし、駐機場、燃料タンク、火薬庫、庁舎、宿舎、倉庫も新設する計画だ。すでに2700㍍の滑走路がある新田原基地には弾薬庫等を新設しF35B部隊の配備を検討している。築城も新田原も「いずも」等国産空母との連携を見込んだ基地増強が進行している。

 

 同時に自衛隊の地上戦要員を投入する態勢作りも動いている。2018年には、陸自相浦駐屯地(佐世保市)に地上戦専門部隊である水陸機動団(日本版海兵隊)を発足させ、今年3月には熊本県の陸自健軍基地に電子戦部隊(80人規模)を新設した。この電子戦部隊は水陸機動団とともに前線へ緊急展開し、レーダーや情報・通信を妨害する部隊である。この水陸機動団や電子戦専門部隊を迅速に戦地へ送り込む輸送機として、佐賀空港へのオスプレイ配備計画も動いている。九州地域では空母艦載機や地上戦要員の戦地投入を見込んだ自衛隊基地増強に拍車がかかっている。

 

 歴代政府は「北朝鮮のミサイルが飛んでくる!」「中国船が不法侵入した」と煽って「防衛態勢」と称する軍備増強を続けてきた。しかし実際につくられたのは「日本の国防」どころか、地上戦要員不足の米国に成り代わって、中国に戦争を仕掛ける無謀な軍事配置だったことが露わになっている。

 

経済的にも依存関係の深い日中

 

 そもそも冷静に判断すれば、中国と日本が戦争をしなければならない理由は何もない。日本と中国との関係は経済的にも深く、コロナ感染で物販が影響を受けたなかでも中国との貿易総額(2020年)は44兆4180億円(輸出=23兆円、輸入=21・4兆円。台湾、香港含む)にのぼっている。これは米国との貿易総額23兆8950億円(輸出=15・2兆円、輸入=8・6兆円)の約2倍に達している。

 

 電気機器に限っていえば、中国との貿易総額は12兆1470億円(輸出=5・5兆円、輸入=6・6兆円)で、米国との貿易総額3・1兆円(輸出=2兆円、輸入=1・1兆円)の約4倍に達していた。人の往来をみても中国との関係の深さはよくわかる。2020年の訪日外客数は中国も米国も前年比で8割減となった。それでも中国(台湾、香港含む)の訪日外客数は210万9752人で米国の21万9307人の約10倍に達している。中国の都市と友好・姉妹都市の契約を結んでいる日本の自治体は38都道府県、341市区町村に上っている。

 

 にもかかわらず、日本が中国と対立し、挙げ句の果ては軍事衝突まで辞さない方向へ突き進んでいるのは、米ソ二極構造が崩壊し、それに続く米国の一極支配も崩れるなかで、中国やインド等が台頭し多極化が進んだことと無関係ではない。

 

 米国は米中国交正常化以後、基本的に封じ込めではなく緊張緩和を軸にした「関与政策」を続けてきたが、オバマ政府の時に二つの地域で戦争に対応するという二正面作戦を転換し、「アジア重視」に舵を切った。それは米国が二カ所で戦争を続ける力量を失ったという側面と、中国対応を重視し反転攻勢に出るという側面を含んでいた。

 

 それがトランプ政府になると、ニクソン訪中、一つの中国承認、米中国交正常化など1970年代以後の「関与政策」は失敗であり、米国を中心とする「自由社会」が中国共産党の脅威にさらされている(2020年7月ポンペオ国務長官演説)と主張し、中国の「全体主義支配」転覆を目指す新たな同盟構築を呼びかける動きへつながった。そして対中貿易赤字を口実に、中国制裁の関税措置に踏み切り、さらには「米国の情報が中国政府に流れる恐れがある」という理由でファーウェイとファーウェイ関連企業の排除に乗り出した。こうした流れを一気に加速させるために、バイデン政府が突きつけたのが、日本を台湾有事に動員するという方向だった。だがこの米国の要求を「厚遇された」と喜んで受け入れ、民間レベル、地方自治体間レベルで構築してきた中国との経済連携や友好関係をみな投げ捨て、米国のために対中国の鉄砲玉となることを約束して帰ってきたのが菅政府である。

 

 米中の覇権争いがますます先鋭化しているもとで、これは中国側につくか、米国側につくかというような問題ではない。同時に台湾問題をめぐって中国を支持するか、米国を支持するかという問題でもない。さまざまな民族、制度がある世界各国と外交関係を結び、互いを理解しながら歩んでいく多様性が求められる時代において、なぜ米国の要求のみに唯々諾々と従い、日本が中国と戦争をしないといけないのか? という日本の国益がかかる問題である。日本列島が盾にされてミサイルを向けるという事は、同時にミサイル攻撃の標的として晒されることを意味しており、海を挟んでこの軍事的緊張が高まることは、極めて危険な道といわなければならない。

 

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